異世界転生 作:魔導科学
俺達は今、ゲームセンター内にあるフードコートで珈琲を飲みつつ、話をしている。
「リョウ君、女装して歌を歌って貰う事になるが良いかな?確か、一緒に歌っていたのは、ゴモリー君かな?」
さっきのライブ中継の事か。
そう言えば、ライブ中継で、お金が貰えるんじゃなかったか?
「女装が、必要なんですか?」
「必要だとも!良いかね?この世界は、自由に性別を変える事が出来る。しかし、性別を変える事なく女装して歌う。此れこそが、私の求めている二面性、そうギャップなんだよ!!」と、熱く語るセニョール監督。
「分かりました。後は、ゴモリーさんとネアさんに交渉して下さい。所で、シュウさん?双六ゲームの世界で、ライブ中継してましたよね?アレを、許可なく流すって、どうなんですかね?この世界にだって、個人情報保護法ってあるでしょう?」
現代日本人の感覚で詰め寄る俺に対し、シュウさんは珈琲カップを静かに置くと、口角をわずかに上げた。
「フフッ。・・・娘婿は、なかなか鋭いな」
あの落ち着いた低音で、とんでもない呼び方をさらりと言ってのける。
「む、娘婿!?」
「肖像権の管理については、万全を期しているつもりだよ。それに、君という男の価値を世に知らしめるのは、悪いことではあるまい?後、ミリィは、その気になっているじゃないか。CMとして、ライブ映像を使わせて貰えるなら、その報酬も入るがどうかな?」
・・・ミリィさんの件を出されると、困るな。
「ミリィさんの話は、とりあえず置いておいて、報酬の話は後程、詳しく聞かせてください。監督も、お聞きになられているかも知れませんが、河野さんが行方不明です」
「シュウさんから、聞いている。それで、今後の配役を見直さなくてはならなくなってね・・・。しかし一体、彼はどこへ行ったのかな?」
監督は困ったように、眉根を寄せ溜息をついた。
「分かりません。施設管理者ですから、おそらく軍がもう動いているとは思いますが・・・」
俺の言葉に、隣で黙って聞いていたシュウさんが、ふっと視線を上げた。
「・・・軍、か。組織というものは、動き出せば確実だが、同時に小回りが利かなくなるものだ。特に、彼のような特殊な立場にある人間を扱う場合はね」
その声には、軍という組織を知り尽くした者、特有の冷徹な響きが混じっていた。
流石、元大佐だな。
退役して、会社の社長になってもやはり、この人は鋭い洞察力を持っている。
「シュウさん。河野さんはフラっと、どこかに行ってしまうようなことが、今まであったんですか?」
俺の問いに、シュウさんはカップを置き、わずかに目を細めた。
その視線は、遠い過去か、あるいは都市のどこかに潜む影を追っているかのようだ。
「彼は確かに忙しい人間ではあるが、黙って居なくなることは、今までなかったはずだな」
その言葉には、長年の付き合いから来る確信があった。
「つまり、自分の意志で消えたわけではない、と」
俺の呟きに、シュウさんは無言で頷く。
フードコートの騒がしいBGMが、一瞬、ひどく耳障りなものに感じられた。
「パパ〜!」
遠くからでも響く元気な声と共に、珊瑚がこちらへ走ってくる。
「パパ!私、成長して人の姿になったよ!だから、結婚して!!」
「ぶっ!?げほっ!ごほごほっ・・・!!」
騒がしいゲームセンターのフードコートに、珊瑚のあまりにも純粋で、あまりにも場違いな叫びが響き渡った。
飲んでいた珈琲が変なところに入り、俺は必死にむせ返る。
周りの客たちの視線が痛い。
「ちょっと?あの人、パパとか言われてるのに?」
「え〜?ちょっと、ヤバくない?」と、周りからヒソヒソと囁かれる。
『パパ』と呼ばれている相手に『結婚して』という禁断(?)の響き。
「主、私はいつでも、お迎え可能」
瑞が俺の袖を掴み、無表情ながらも真剣な眼差しで、とどめと言わんばかりの追撃を放つ。
「お父さん!僕もご主人も、いつでもオッケーだよ!」
天真爛漫なポポの声がフードコート中に響き渡り、周囲の客たちの「うわあ・・・」という視線が、鋭いナイフのように俺を突き刺す。
「ちょっ!?ちょっと、ポポちゃん!?確かに、私はオッケーだけど、今ここで言うことじゃ!」
慌ててフォローしようとしたユカさんまでもが、どさくさに紛れて『私はオッケー』と自白してしまった。
「さ、珊瑚、可愛い服だな!」
「うふふ!パパ、有難う!で、結婚式は、いつにする?」
「珊瑚、ちょっと、落ち着こうか?危険が危ない状態で更に、頭痛が痛い的な現状なんだけど?」
「・・・リョウ、落ち着いて。何も恐れる必要な無い」
「そうだよ〜!みんな一緒に、結婚すれば良いんだから〜!」
リリーさんとマリーさんが到着し、更に爆弾を投下する。
「リョウさん、私は合同結婚式でも、大丈夫です!」とゴモリーさんは、いつも通りだな。
「わ、私は、別に結婚式とかしなくても良いけど、でもやっぱりウェディングドレスは着たいかな〜って、思ったり」
ネアさんが、頬を染めながら発言する。
「お兄ちゃん!ボクは、ス◯ッタとミオ◯ネみたいに、仲良く過ごせれば良いよ〜?」
めぐりちゃん?
その話を、後で詳しく聞かせてね?
俺が観たのは、スレッ◯がミオミ◯を助けに行って、兵士をお菓子と同じ名前のガンダ◯の掌で『フレッシュトマト』にしたところまでなんだ。
続きが知りたくて、しょうがなかったんだよ!!
「リョウ様?周りの方々から、白い目で見られてますよ?訴えますよ?私としては、仕事を続けたいと思っていますので、子供ができるまでは家事を半々で、お願いします」
ミリィさんが可憐な笑顔で、メガネをクイッと上げながら、非常に具体的な内容で攻めてくる。
シュウさん?
娘さんの暴走を、止めて?
あれ?
何で、此方見ないの?
「リョウ、ピィちゃんが成長して、良かったわね!」
「そ、そうだなカオリ、でも色々と大変な事になっ・・・」
「私としては、みんなで住めるような家が良いけど、まずは施設で過ごして、ある程度資金が貯まったら、一戸建ての大きな住宅を買うか、建てるかでいいと思うの。どうかしら?」
「・・・うん。そうだね」
俺は珈琲の残りを飲み干し、河野さんの無事を願った。