異世界転生 作:魔導科学
「それで、リョウさん? この子に対しての責任は、どう取るつもりですか?」
お母さんは、相変わらずの優しい笑顔を絶やさず、さらりとそんな質問を投げかけてくる。
「ぐっ!? ゴホゴホ・・・っ!? せ、責任ですか?」
思わぬ角度からの直球に、俺は飲みかけのお茶を盛大に喉に詰まらせ、むせ返りながら問い返す。
「そうだよ〜? だって、ボクはお兄ちゃんのせいで、こんな風になっちゃったんだからね?」
めぐりちゃんは、身体をくねらせ頬を朱に染めながら、上目遣いでそんなことを言い出した。
・・・めぐりちゃん? その発言は、ちょっと宜しくないんじゃないかな!?
案の定、俺の背中には嫌な汗が流れ始める。
「おい、ゴラァ!自分、ウチの大事なめぐりに、何さらしやがったんや!もう堪忍袋の緒が切れたわ、地獄に叩き落とした・・・」
「アナタ?そろそろ、お茶が無くなりそうよ?」
お母さんの、温度の宿らない声が居間に響く。
「・・・へ、へい! ただいまッ!!」
さっきまでの猛り狂った形相はどこへやら、お父さんはいそいそと、お茶の用意をしに退場していく。
「あ、あの・・・先ほど、ユカさんからも説明があったと思いますが・・・」
「えぇ、そうですね。そのお話はキチンと伺いました。でも、娘がこれほどお慕いしているのに・・・まさか、弄ぶだけ弄んで、そのままポイっと捨てるおつもりですか?」
「い、いや、あのですね!?」
「それに、夫のある私にまでこんな気持ちにさせて・・・リョウさん、貴方は人妻キラーかしら?」
哀お母さんが、潤んだ瞳でじっと俺を見つめる。
その瞳には冗談か本気か、判別不能な魔性が宿っていた。
「リョウさん? 訴えますよ?」
隣から、ユカさんが冷徹な声でミリィさんのような宣告を放つ。
「主、人妻はマズいと思う。だから、私で我慢」
瑞がここぞとばかりに距離を詰め、体温を感じるほど身体を寄せてくる。
「・・・リョウ、やっぱり一級フラグ建築士」
リリーさんが、先ほどと同じ温度で、もはや諦めに近い呟きを漏らした。
「お父さん、ご主人と僕が居るのに、まだ駄目なの?強欲過ぎると、後が大変だよ?」
ポポ?
何か、おかしな勘違いしてないかな?
確かにポポは、俺の魔力で生まれた存在。
現在は、ユカさんと一緒だから『ご主人』呼びも分かる。
でも断じて、夫婦ではない!
元は魔導カプセルから生まれた黒い子豚(ポポ)と白い烏(瑞)だった二人を、『人の姿』に変えてくれたのはシュウさんなのだ。
この混沌とした状況も、シュウさんが『三倍の速度』と『スナイパー並みの精度』で、鮮やかに解決してくれないかな・・・?
「・・・おのれぇ! 人の家で何イチャイチャさらしとんねん! しかもワシのマイハニーまで巻き込んで!? もう許さんぞ、ボケェ! やっぱり今ここで始末したるわ!!」
お茶を持って戻ってきたお父さんの血管が、今にも弾けそうなほどブチ切れている。
・・・ど、どうしよう?
ここはやっぱり、アレか?
四面楚歌の居間で、俺の脳裏にある『脱出劇』が浮かぶ。
『ア〜バよ!とっつぁん〜!!』って、某大怪盗ルパ◯三世風に、颯爽と去れば助かるのか・・・!?
などと馬鹿なことを考えていると、ピン〜ポ〜ン〜、と間の抜けたチャイムの音が響いた。
「あら、お客様。アナタ、お願いね?」
「・・・へ、へい! ただいまッ!!」
・・・これで三度目の返事だ。
お父さん、大変だな。
まあ、おかげで助かったけど。
「はいはい、どなたさんですやろ?・・・っ、そ、総帥!ご機嫌麗しゅう。本日は、えらいええお天気で。こんな薄汚いとこに、一体何の御用でお越しになられたんです?」
玄関先から、裏返ったお父さんの声が聞こえてくる。
「やぁ、申し訳ない。実は、囃子原さんに、お願いがあってね?ちょっと、お邪魔して宜しいかな?」
「そ、そんな、総帥やったら、いつでも大歓迎ですわ! 小汚いし、ちょっと立て込んでますけど・・・どうぞどうぞ、こちらへ!」
さっきまでの殺気はどこへやら、お父さんは揉み手をせんばかりの勢いで『お客様』を居間へと案内してきた。
「お邪魔します。奥方、申し訳ない。おや?リョウ君、先程ぶりだね?」
「シュウさん?」
俺は本日、何回目になるか分からない驚愕で、シュウさんを眺める。
「ふむ?リョウ君も居るなら、話が早い。実は河野君の件で、囃子原さんにお願いをしにね?」
「いらっしゃいませ、総帥。河野さん・・・ですか?」
哀お母さんが、シュウさんに問い返す。
すると、めぐりちゃんが俺の隣にすり寄り、震えるような小さな声で囁いてきた。
「・・・お兄ちゃん。この人、シ〇アだよね?」
うん!! 非常に、分かるよ! その気持ち。
だって、俺もシュウさんに初めて会った時、「シャ〇?」って言っちゃったもんな。
「お嬢さん、はじめまして。その名は、今は封印された名前だ。私は、シュウ・アスナだよ」
シュウさんは、低音の落ち着いた『あの声』で爽やかに笑いかける。
「それにしても・・・君の声は、まるでクリスチ〇ナ・マッ〇ンジーのようだね?」
「こんにちは、総帥! ボクの隣にはバ◯ニィじゃなくて、お兄ちゃんが居ますけどね?」
めぐりちゃんは悪戯っぽく笑って、シュウさんのネタに完璧なカウンターを返す。
「フッ・・・。お嬢さん、なかなか分かっているね」
シュウさんが満足げに目を細めたところで、哀お母さんが静かに、けれど逃さぬ鋭さで問い掛けた。
「あの・・・ひょっとして総帥も、転生者なのですか?」
居間の空気が、一瞬で張り詰める。
「・・・そうか。リョウ君、話したんだね?」
シュウさんは俺に視線を向け、穏やかながらも、すべてを見通すような声で尋ねる。
「シュウさんの話はしてないです。ただ、俺とめぐりちゃん、それにリリーさんが転生者だという話を、ご両親にさせて頂きました」
「フッ・・・、いいだろう」
シュウさんは俺に視線を向け、呟いた。
シュウさんは、すべてを許容し受け入れるような余裕を見せながら、居住まいを正した。