異世界転生   作:魔導科学

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「奥方の言う通り、私も転生者の一人だ」

 

シュウさんの堂々たる宣言が、居間に響く。

 

お父さんとお母さんが息を呑む中、俺とリリーさんは『ついに明かしたか』と顔を見合わせた。

 

俺たちはすでに知っている情報だが、この家族にとっては天変地異に等しい告白だろう。

 

「総帥が、転生者やて・・・!? ほんまでっか! そら驚きましたわ! ・・・でも、そこのガキまで転生者やっちゅうのは、どーにも気に入らんなぁ!」

 

お父さんは、シュウさんの話に感服したように頷きながら、テキパキと皆にケーキを配り始めた。

 

「総帥、それに皆さんもケーキどうぞ! ・・・自分は、湿気た『たこせん』でも食うとけ!」

 

そう言い捨てながらも、俺の前にはちゃっかり皆と同じ豪華なケーキが置かれる。

 

「何が『転生者仲間』や、このボケナス! 総帥と自分を、一緒にするな言うてるんや!」

 

お父さんは配り終えるなり、すぐに鋭い視線で俺を睨みつけてくる。

 

・・・理不尽すぎる。

 

俺、『転生者仲間』なんて、一言も言ってないよ?

 

俺は心の中でそっと溜息をつきながら、目の前のケーキを眺めた。

 

「囃子原さん、リョウ君をあまり責めないでやってくれ」

 

シュウさんが、宥めるように穏やかな声をかける。

 

「彼は君と同じで、なかなか出来る男だよ?」

 

総帥自らの『出来る男』という最大級の賛辞。

 

居間の空気が一瞬で静まり返り、全員の視線がお父さんに集中した。

 

お父さんは、差し出そうとしたフォークを空中で止めたまま、鳩が豆鉄砲を食ったような顔で固まっている。

 

「・・・そ、総帥が、そないに仰るんやったら・・・」

 

お父さんは不承不承といった様子で、消え入りそうな声で呟いた。

 

そして、俺を睨んでいた鋭い視線を無理やり逸らすと、ボソリと付け加える。

 

「・・・まぁ、ケーキぐらいは、ゆっくり食うていけや。ボケナス」

 

・・・結局、ボケナスなんだな。

 

でも、少しだけ認めてくれたのか?

 

俺はシュウさんのさりげない気遣いに感謝しながら、ようやくフォークを手にした。

 

「やっぱり、総帥もそう思います?!私も、リョウさんは凄いって思ってるんですよ! だから、ウチの娘も凄く懐いて・・・」

 

お、お母さん!?

 

せっかくシュウさんが場を収めてくれたのに、お母さんの無邪気な追撃が、またしても『要らぬ引き金』を引こうとしている。

 

案の定、俺の隣でケーキを食べていためぐりちゃんが『うんうん』と嬉しそうに頷き、対面ではお父さんのこめかみの血管が、ピクピクと音を立てて再起動を始めた。

 

・・・それ、いま一番言っちゃいけないやつなんですが!?

 

「やっぱり、自分は湿気た『たこせん』でも食うとけボケェ!」

 

「・・・なかなか、美味しいケーキだな」

 

そんな喧騒をどこ吹く風で、シュウさんは優雅にケーキを口に運び、満足げに目を細めた。

 

「そうでっしゃろう? 総帥のお口に合うて、ほんまに良うございました。アン〇レラ堂のケーキなんですわ」

 

・・・アンブ◯ラ?

 

どこぞのバイオなハザードが起きそうな、危険なカホリしかしない名前なんだけど!?

 

「・・・リョウ、隠し味にTウィ◯ス入ってる?」

 

隣でリリーさんが、フォークを止めて真顔で囁いてくる。

 

「アハハ!リリーさん、大丈夫だよ〜!店の名前はアレだけど、味は保証するよ!ボクも何回も食べてるけど、今まで『かゆ、うま』なんて状態になってないから、大丈夫!」と、めぐりちゃんが楽しげに笑う。

 

「・・・それで、ウチの主人にお願いとは?」

 

皆がケーキを食べ終え、お茶を飲み干した絶妙なタイミングで、哀お母さんがシュウさんに声を掛けた。

 

その言葉は静かだったが、居間に漂っていた『アン〇レラ」』の怪しい余韻や、お父さんの不器用な喧騒をすべて押し流し、一瞬で場を支配した。

 

お父さんは、背筋をピンと伸ばして『待ってました』と言わんばかりの緊張した面持ちで、シュウさんを見つめている。

 

「あぁ、そうだったね。・・・囃子原さん、単刀直入に言おう」

 

シュウさんは一度目を閉じ、覚悟を決めたように再び目を開くと、お父さんの目を見据えて告げた。

 

「君の『腕』を貸してほしい。河野君・・・彼は施設管理者で、現在は行方不明だ。その捜索で力を貸して貰えないだろうか?」

 

シュウさんの言葉に、居間の空気が一変した。

 

俺とリリーさん、そしてシュウさんは、その事実を既に知っている。

 

だが、初めてそれを聞かされた囃子原家の人々は、困惑したように顔を見合わせた。

 

「・・・施設管理者、ですか?」

 

お父さんが、不思議そうに繰り返す。

 

この街を管理している重要人物がいることは知っていても、その名が『河野』であることまで知る者は少ない。

 

有名人でもなければ、表舞台に出ることもない存在だからだ。

 

「一般には公表されてはいないが、彼はこの街の要なのだよ。・・・その彼が、忽然と姿を消した」

 

シュウさんは一度目を閉じ、重々しく言葉を継いだ。

 

「普通の手法では足取りがまったく掴めないのだよ。囃子原さん、君の『裏の道』に通じた勘と、あの特殊な追跡術が必要なんだ」

 

お父さんは黙って、シュウさんの目を見据えた。

 

『河野』という名には聞き覚えがなくても、『施設管理者』が行方不明という事態の深刻さは、その一言で十分に伝わったらしい。

 

お父さんの目が、職人のような鋭い光を帯びる。

 

「・・・よう分かりまへんが、その『お偉いさん』を、ワシのやり方で見つけ出せばええんですな?」

 

さっきまで俺を「ボケナス」呼ばわりしていた男とは別人のような、静かな凄みがそこにはあった。

 

「・・・ちょっと、待ってください。そのお仕事は、危険ではないのですか?」

 

静かな、けれど有無を言わさないトーンで、哀お母さんがシュウさんに問いかけた。

 

「・・・危険がないとは、言い切れないな」

 

シュウさんは嘘をつくことなく、正直に答えた。

 

その誠実さは、同時に事態の危うさを裏付けるものだった。

 

「では、お断りいたします」

 

お母さんは即座に、冷徹なまでの決断を下した。

 

「ウチの主人を、そのような危険に晒すわけにはいきません。総帥のお願いであっても、こればかりは譲れませんわ」

 

居間にいた全員が、息を呑んだ。

 

あのシュウ総帥の依頼を、正面から、しかも身内を守るために一蹴したのだ。

 

さっきまで『腕を貸す』気満々だったお父さんも、お母さんのこの断固とした態度にはぐうの音も出ないようで、バツが悪そうに視線を泳がせている。

 

 

 

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