異世界転生 作:魔導科学
「リョウ、ごめんなさい」
「・・・」
囃子原邸を出て帰って来ました、みんなの待つフードコートへ。
で、其処で俺はカオリに、謝罪を受けている。
「・・・もういい。でも今後は、気を付けろよ?」
「・・・うん!」
「リョウ様、突然居なくなったので、心配しました」
不意に声をかけてきたのは、ミリィさんだ。
「すみません。あまりにも切なくなって」
そう、愛しさと、切なさと、心強さはなかったけど、大変だったんだからな?
「リョウ〜、お帰り〜! お姉ちゃんも〜!」
マリーさんが、弾けるような笑顔で迎えてくれる。
「ただいま帰りました、マリーさん」
本当に、彼女の屈託のなさは砂漠のオアシスだ。
「心配してたんですよ?リョウさん?」
「すみません。ゴモリーさん、ちょっと平常心じゃ居られなくて」
「無事で、良かったわ!」
「はい、御心配おかけしました。ネアさん」
「パパ、もう大丈夫・・・?」
最後は、珊瑚が不安げな瞳で俺の腰に抱きついてきた。
「珊瑚、ごめんな。心配させたな。もう・・・大丈夫だからな」
時間も大分、過ぎてしまった。
「ユカさん。せっかくデートに誘ってくれたのに、こんなことになって申し訳ありませんでした」
俺が頭を下げると、ユカさんはポポと手を繋いでポッと頬を赤く染めた。
「いえ、いいんです! リョウさんのことを・・・その、色々と『知れました』から!」
・・ちょっと、待って?
その『知れた』情報って、さっきのカオリの件か?
羞恥に震える彼女の反応は、俺にとっては癒やしどころか、トラウマが再発しかねない状態だ。
思考が停止しかけたその時、魔導通信機から『祝◯』の旋律が漏れ出す。
呪いを解くような、あるいは呪いを肯定するようなあのメロディ。
某スナック菓子と同じ名を持つ機体が躍動する、あの主題歌だ。
・・・おい待て、このタイミングで鳴るこの曲は、俺への嫌がらせか何かのフラグか?
確認すると、発信者は【セニョール監督】
「はい、監督。どうされました?」
『リョウ君か? すまないね。急に呼び出してしまって。・・・実は先ほどの彼女たちに、出演依頼をしたくてね。今、其処に居るかな?』
「そう言っておられましたね。めぐりちゃん・・・あの、小さくて元気な娘以外なら、全員ここにいますよ」
『・・・ほう。あの娘はめぐりと言うのか。良い名だ。では、その娘にも出演依頼をしようと思うのだが、今はどこにいるのかな?』
「めぐりちゃんは、家に帰りましたが、他のみんなは、此処に居ますけど・・・」
俺の言葉が終わるか終わらないかのうちに、監督の決断は下された。
『そうか。ならばこれからすぐに、そちらへ向かう。少し待っていてくれ!』
「あ~、皆さん?これから映画監督のセニョールさんが来られますので、ちょっとお待ちいただけますか?」
「リョウさん? セニョール監督って、確か今撮っている映画の・・・」
「はい、ゴモリーさん。で、その監督が、ゴモリーさんとネアさん、それからめぐりちゃんをスカウトしたいそうなんです」
「えっ!?わ、私までスカウト!?」
「リョウさん、どうしましょう? 私もついに、映画デビュー・・・それを機に、一気に私達の結婚式までオールアップですか!?」
驚きで目を丸くするネアさんと、相変わらず斜め上の妄想へテイクオフするゴモリーさん。
俺は「詳しい話は監督から聞いてください」と苦笑いで受け流し、手元の魔導通信機で、さっき登録したばかりの連絡先【めぐりちゃん】を呼び出した。
『はい! お兄ちゃん!? どうしたの、もうボクが恋しくなったの? しょうがないなぁ。すぐにお父さんを言い包めて、一緒に住めるようにしてあげるからね!』
相変わらずのめぐり節に頭が痛くなるのをこらえ、俺は手短に本題を告げる。
「めぐりちゃん、ちょっといいかな。映画監督のセニョールさんが、君をスカウトしたいって言ってて。お父さんとお母さんに話をしてみてほしいんだけど・・・」
その瞬間、通信機の向こうで『爆発音』に近い怒号が響いた。
『なんやワレェ! さっき帰ったばっかりやんけ! もうウチの娘に連絡してきよってからに! 何の用やゴラァ!!』
「・・・お父さん、先ほどはどうも。実はですね、セニョール監督が娘さんをスカウトしたいと・・・」
『はぁ? セニョール? 何の監督やねん。そんな正体のわからんヤツの映画なんぞに・・・。おい、今「セニョール」言うたんか? あの世界的に有名で、安心して観てられる、絶対無敵で合気道の達人の・・・あのセニョール監督のことか!?』
お父さんの声のトーンが、音速を超えて敬意に満ちたものへと変わる。
と、その時。
「ふふ、そんなに褒められると、流石に照れてしまうな」
聞き覚えのある、重厚かつ自信に満ちた声が背後から降ってきた。
「あっ、監督!?」
振り向くと、そこにはいつの間にか『主役を食う』オーラを放ちながら、セニョール監督が悠然と立っていた。
『い、今からそっち行くわ!そこで待っとれよ!お前、今どこにおんねん?はよ答えろボケェ!』
「今、先ほどのフードコートに・・・」
『さっきのフードコートやな、わかっ・・・』
あれ?
通信が切れてる?
「ハァハァ、待たせ、たな・・・!あっ?監督さんですか!?は、初めまして!囃子原ですわ!よろしゅう、お願いします!」
・・・速すぎる。
通信が切れる音よりも、お父さんが走ってくる音の方が速かった。