異世界転生 作:魔導科学
「お父さん!待って〜?」
「アナタ?めぐりがスカウトされたのに、アナタが先に行っても意味ないでしょう!?」
と、めぐりちゃんと、哀お母さんが走って来た。
「はじめまして。私は俳優兼映画監をやっているスティーブン・セニョールだ。実は、娘さんをスカウトしたく・・・」
「ええ、ええ、使うたってください!・・・せやけど、脱がすんだけは許さへんぞ?」
「そうね?流石に、ヌードは早すぎるかしら?」と、目が笑ってない哀お母さん。
「い、いや、大丈夫だ。決して、幼気な少女のヌードシーンなんて撮る気はないからね」
あの絶対無敵のセニョール監督が、少し引き気味に断言する。
「なんや、それやったら安心やわ! あんじょう頼んますわ、監督さん!」
「お嬢さん、宜しいかな?」
「はい! ボクはお兄ちゃんと共演できるなら、バッチこいです! よろしく、お願いします!」
めぐりちゃんの快諾で、一件落着かと思いきや、監督の鋭い視線は次に俺の隣の面々へと向けられた。
「では、ギャラの話は後でさせてもらうとして・・・そちらのお嬢さん方、ちょっと宜しいかな?」
「は、はい! せ、背中くらいなら・・・」
「私は、リョウさんとのベッドシーンなら、いつでもオッケーです! クランクインは今夜ですか!?」
ネアさんは赤面し、ゴモリーさんはいつもの暴走特急と化した。
「・・・リョウ君。君は一体、彼女たちにどんな『演出』を吹き込んだのかね?」
「監督?!誤解です!俺は一言も、そんな破廉恥な事は言ってませんよ!?」
俺の叫びは、フードコートの喧騒の中に虚しく響き渡った。
その後、ネアさんとゴモリーさんの出演も正式に決定し、監督からは後日改めて撮影の連絡を入れるという話でまとまった。
一仕事終えたような解放感に浸る俺の袖を、めぐりちゃんがグイと引っ張る。
「お兄ちゃん、今日・・・家に泊まっていって?」
「いや、流石にそれはちょっと・・・マズいだろ」
俺が反射的に後退りしたその時、横から逃げ場を奪う『不可避の援護』が飛んできた。
その状況たるや、逃げ場のない宇宙(そら)で無数のファンネルに囲まれたかの如くだ。
「あら? 良いじゃない。リョウさんが居てくれたら、家の中も賑やかになって楽しそうだわ」
哀お母さんが、めぐりちゃんの陣営に付いた!
この人の『良いじゃない』は、実質的な強制執行通知だ。断れば、あの微笑みのまま何をされるか分かったもんじゃない。
「ドアホッ!! 誰が泊めるかボケェ! ワレは来んな! このボケナスがッ!!」
そこへ、お父さんの猛反対が炸裂した。
俺を家に引き入れようとする『母娘連合軍』と、全力でそれを門前払いしようとする『お父さん』
その板挟みになった俺は、まるで敵味方のモビルス◯ツが入り乱れる宙域に、生身で放り出されたような気分だった。
「めぐりちゃん、ごめんね。俺は帰って、やらないとならない事があるんだ」
俺は必死に理性を保ち、丁重にお断りを入れた。だが、その言葉が地雷原への強行突破だったことに気づくのに、時間はかからなかった。
「そんなぁ~!? ボクを捨てて他の女の所に行くの!? 酷いよ、お兄ちゃん!」
めぐりちゃんが、まるでバイオのヒロインばりに悲劇的な声を上げる。その横では、さらに深刻な『異常気象』が発生していた。
「あら? うちの娘を放って、他の女の所に行くなんて・・・リョウさん?」
哀お母さんの笑顔から、絶対零度の冷気が漏れ出している。
この人の前で『他の女』という単語を出すのが、どれほどの自殺行為か。
「このガキィ!! めぐりがおるっちゅうのに、他の女のとこ行くんか!? 泊まるのもダメやが、他の女んとこ行くのはもっと許さんぞ!! 盆と正月がいっぺんに来たような血祭りにあげたるわッ!」
さっきまで『来んなボケナス!』と叫んでいたお父さんが、今度は『行かせんぞ!』と怒り狂う。
どないせえっちゅうねん。
そもそも俺は、自分の部屋に帰るだけだよ?
右を向いても左を向いても、そこには『認めたくないものだな。自分自身の、この「修羅場」ゆえの過ちというものを』と、どこぞの総帥風に自虐を呟いたところで、決して許してくれそうにない囃子原家の人々が立ち塞がっている。
「お困りのようですね、リョウ様」
不意に、涼やかな声が耳に届いた。
救いの女神か、あるいは死神か。ミリィさんが、すっと俺の隣に並んで語りかけてくる。
「はい。物凄く、地球規模で困ってます」
もうね、俺の脳内は『ハッケヨ〜イ! コマッタ、コマッタ!』と、土俵際で粘る力士のごとく混乱の極致にある。
「では・・・こんな案は、いかがでしょう?」