異世界転生 作:魔導科学
「ほら、肉が焼けたぞ!」
俺は串に刺した肉を取り、珊瑚に渡した。
現在、俺たちはキャンプの真っ最中だ。
「ヴァ〜!」
「ガァー!」
周囲は、徘徊するゾンビたちで実に賑やかだ。
だが、恐怖心はない。
本来なら『死の包囲網』のはずのそいつらは、俺たちの目の前を通り過ぎ、あろうことか完全に無視してくれている。
これぞ囃子原家の誇る『ゲームシステム』の恩恵だ。
システム上、俺たちはあいつらにとって『背景』か『無機物』に等しいらしい。
キャンプファイヤーを囲んで、盛大にBBQの匂いを振りまいていても、ゾンビたちは食欲をそそられる風でもなく、ただ虚空を彷徨っている。
「パパ、お肉おいしいね!」
「うん。・・・最初は気味悪かったけど、慣れてみるとこいつら、ただの動くインテリアだな」
俺はトングで肉をひっくり返しながら、すぐ横をふらふらと通り過ぎていくゾンビを一瞥した。
愛しさと、切なさと、心強さは・・・やっぱり、ここにも無いけれど。
「おい! はよ、こっちに肉よこさんかい!」
お父さんの怒鳴り声が、夜のキャンプ場に響き渡る。
「お兄ちゃん! ボクも~!」
それに続いて、めぐりちゃんの無邪気な催促。
「はい! お待ちくださいっ!?」
俺は返事を返しつつ、鉄板の上で一生懸命に調理を続ける。
今の俺の腕は、間違いなく残像が見えるスピードで動いているはずだ。
「リョウさん、私は焼きそばが食べたいです!」
「ユカさんは焼きそば、了解です!」
「リョウ~? ウインナ~、焼いて~?」
「マリーさんはウインナーですね。焦げないように、端っこで焼いてますから!」
「・・・リョウ、おにぎり焼いて?」
「リリーさんは、味噌塗った焼きおにぎりでいいですか?」
「リョウ様、私は骨付き肉を所望します」
「はいはいミリィさん、マンガ肉ばりのやつを、今じっくり焼いてますよ!」
「リョウ、お酒のストックが、もう無いんだけど?」
「カオリ、飲み過ぎるなよ? 介抱するのは俺なんだからな」
「主、私は焼き鳥、食べたい」
「瑞、ちょっと待っててな。タレと塩、両方用意するから」
「お父さん! 僕もご主人と同じ、焼きそばがいい!」
「ポポ、今ユカさんのと一緒に作ってるからな、もう少し待ってろ」
「リョウさん、私は焼きうどんを、お願いします」
「ゴモリーさん、焼きそばじゃダメですか? ・・・いや、嘘です。ちゃんと、うどんも用意してますからね。だから、そんな悲しそうな瞳で、此方を見なくて大丈夫ですよ?」
「リョウ、トウモロコシ焼いて?」
「ネアさんは、醤油の焦げた匂いが好きな焼きトウモロコシか・・・」
次から次へと、飛んでくるオーダー。
俺は肉を焼き、野菜を転がし、麺を煽り、タレを塗る。
もはやゾンビとの戦闘より、この注文の嵐の方がよっぽど、俺の生命力を削りにきている。
「リョウさん、お酒は家から持って来たのがあるから、大丈夫よ?」
ふと見ると哀お母さんが、傍らに停めた魔導キャンピングカーから、高級そうな酒瓶や追加の食材を手に悠然と現れた。
システム上、ゾンビは寄ってこない。
食材と酒は、無限に供給される。
しかし俺の休息だけが、このキャンプ場にはどこにも存在しなかった。
何故、こんな事になっているか?
それは、ミリィさんの提案。
囃子原家の『ゲームシステム』を使って、キャンプファイヤーをする!
正確には囃子原家と言うより、店員特権なんだけどね。
後、囃子原家が所有する魔導キャンピングカーを出して貰い、これが現在の状況である。
ここで、魔導キャンピングカーのスペック紹介!
所有者は、囃子原夫妻。
大きさは、あの意志を持つ変形ロボットアニメのリーダーのように、赤と青のボディが印象的なトラックヘッドと、重厚な銀色のコンテナが連結されたトレーラーって感じ?
それこそ『トランスフォーム!』の一言で、ガシャガシャと形状を変えそうな雰囲気すら漂わせています。
中は、どうなってるんでしょう?
・・・ちょっと、中を拝見!
おぉ!?
此れは、凄い!
中が思った以上に、広いじゃないですか!?
何故かって?
それは、魔導科学の恩恵、空間魔法が至る所に施されているから、なんですね〜!
部屋数が大小合わせて、50以上!更に、風呂トイレ付!?
でも、部屋数が多いから、掃除が大変そうですね〜?
・・・心配無用?
何故なら、常に清潔に保たれる浄化魔法が発動しているので、全く問題なし!
此れは、とんでもないスペックですね。
言ってしまえば、動く高級要塞ホテル?
此れさえあれば、大人数のご近所さんを誘った旅行にも、対応出来ますね〜!
でも、燃費が結構掛かるんじゃないですか?
えっ!?
大型の魔力タンクを完備していて、しかも自動魔力充填機能付き!?
だから、この世界から魔力が尽きなければ、燃料切れの心配も無し!
ふむふむ?
なるほど!?
更に驚く事に、何と此方のキャンピングカーは、武装も付いております!!
先ず、前方の障害物を排除する為に、魔導バルカンが車両前方に隠されております!
有事の際は、前方が開きバルカンが掃射されるんですね〜!
さて次に、両脇に魔導ロケットランチャーと魔導小型ミサイルポッド!
此れがあれば、どんな敵が来ても大丈夫!
大型車両だから、急勾配や崖とか登れるか心配?
それなら、此方!
普通の車なら崖なんて登れませんが、ミラージュスパイダー製のワイヤーウインチを完備している為、問題なし!
その威力たるや、海と陸の間に広がるあの異世界を駆け抜けた、巨大な昆虫を思わせる人型兵器の射出クローの如し!?」
更に、魔導バリア展開ユニット(全方位防御)があるから、どんな攻撃にも耐えれます!
拡散魔導レーザー(上空・広範囲制圧用)
車両の屋根部分から『ポップアップ式』で現れる自動砲塔。
此れで、ミサイルポッドでも対処しきれないほどの『数』で攻めてくる飛行型の魔物や、降り注ぐ矢の雨を、一本一本レーザーで撃ち落す!
匠の技が、輝いてますね!?
更に更に!!
後方用魔導マインランチャー(追跡封じ)!
車両の後部から、地面に多種多様な『魔力の罠』をバラ撒き、しつこい追っ手を文字通り一網打尽!
例えば、通過した瞬間に巨大な氷の壁を生成して進路を塞いだり、あるいは鋭いエッジを備えた『魔導メカ亀』を射出!
回転しながら背後に飛んでいく甲羅は、まるで意志を持っているかのように敵の鼻先へ・・・!
台詞としては『本日のとっておき魔導ギミック!魔導メカ亀!』
・・・こんな感じですか?
さらに、落とし穴まで一瞬で作り出すという徹底ぶり。
これで後方の安全も完璧、まさに鉄壁の防御ですね!
そして更に!
タイヤのホイール部分から、超振動魔導ドリル!
魔導の力で超高速振動回転させることで、ダイヤモンドより硬い岩石や、魔法耐性のある装甲もバターのように切り裂く、伸縮自在のリーチで普段はホイールに収まっているけど、空間魔法の応用で『えっ、そんなに長いの!?』という距離まで伸びて、離れた場所を走る敵も逃しません。
もうね、空間魔法によるリーチ延長により、『装甲の奥まで届いて、超高トルクで回転してるぅ〜!その回転で、内部構造を奥まで抉り回される〜!?』・・・って感じで、敵も岩も鉄板も粉微塵!
巻き込み防止の『斥力フィールド」』が、ドリルで破壊した破片を、高級な車体を傷つけないように、弾き飛ばすから安心安全!
そんな、素晴らしい仕様なんですね〜!
・・・さあ、命の保証と極上の安らぎを約束する、囃子原夫妻の魔導キャンピングカー。
次は、巨大盥舟モードで、ゆったりと激流を下りながら、バルカン掃射の火花を肴に晩餐会、なんていかがでしょうか?
と俺は、通販番組のナレーターか物件紹介のレポーターの様なノリで、先ほど哀お母さんから聞いた、魔導キャンピングカーのスペック紹介をしてみた。
水上では、鋼鉄の巨大な盥船になるんだと・・・。
なんで、盥船?