異世界転生 作:魔導科学
「あの、お母さん?ちょっと、お聞きしたい事が・・・」
「リョウさん、さっき名前で呼んでって言ったわよね?」
哀お母さんは、串に刺さった料理を口元へ運びながら、じっとこちらを見つめてくる。
その瞳には、逃がさないという意志が宿っていた。
「い、いや、流石にそれは・・・」
「酷い! 名前で呼んでくれないの? めぐりは、ちゃんと名前で呼ぶのに。それとも、私みたいなオバさんは、名前を呼ぶ価値もないのかしら?」
「ち、違います! 決して、そんな事はないです! その、お母さんは、驚くほど若くて、お綺麗ですし!」
「あら?じゃあ、名前で呼んで?」
「このカスボケがぁ!誰のマイハニーの名前呼ぼうとしとんねん!しばくぞゴルァ!?」
「アナタ?煩いわよ?」
哀お母さんが、食べ終わった串をお父さんに向けて投擲する。
串はお父さんの足元ギリギリの地面に、突き刺さった。
「せやかて、マイハニー・・・」
お父さんの言葉を聞いて、俺は見た目は子供なのに頭脳はキレッキレな某探偵アニメの、あの西の高校生探偵を思い出す。
「アナタ?次は、当てるわよ?」
「お父さん、コレも美味しいよ?」
めぐりちゃんがすかさずお父さんに話し掛け、殺伐とした空気をフォローする。
「その、先ほど説明して頂いた、魔導キャンピングカーなんですが・・・」
「・・・」
お母さんはこちらを見ようともせず、黙々と料理を口に運んでいる。
完全に無視だ。
「あ、あの・・・お母さん?」
「・・・名前で呼んでくれるまで、返事してあげない」
お母さんはプイッと横を向いて、子供のように頬を膨らませる。
どうやら、哀さんと呼ばない限り、一歩も先に進ませてくれないらしい。
「あ・・・、哀さん?」
「なぁに?リョウさん」
名前を呼んだ瞬間、お母さんは花が咲くような満面の笑みで答えた。
「自分ッ!なに人のマイハニーの名前、呼んどんねん!シバき倒すぞワレ!ゴラ・・・ッ!」
当然、お父さんが鬼の形相で割り込んでくる。だが、その怒声が最後まで響くことはなかった。
「はい、お父さん!お兄ちゃんが作ってくれた醤油味の焼きおにぎり、とっても美味しいよ?」
「フゴッ!?」
めぐりちゃんが、網から下ろしたばかりの熱々な焼きおにぎりを、お父さんの口へ無理やり押し込む。
絶叫は、米と熱さによって即座に封殺された。
「魔導キャンピングカーのことなんですが、なぜ水上モードが『盥船』なんですか?」
「リョウさん、盥船は嫌い?」
「いえ、個人的には大好きですが・・・」
そう、俺個人の意見としては、むしろ盥船は大好きだ。
なぜ俺は、あんなにも盥船に惹かれるのか。
それは『盥』という本来は船ではないものを、強引に船として運用する機能美、そしてそこから漂う圧倒的なシュールさ。
それがたまらなく、素晴らしいと思うのだ。
正直に言えば、マイ盥船が一つ欲しいくらいである。
「なら、良いじゃない?」
「はい。まあ、俺は良いんですけど・・・。でも、もっと実用的な船の形が、他にありますよね?」
「それはね〜!開発者のボクが、答えるよ〜!」
お父さんの口を、焼きおにぎりで封じ込めためぐりちゃんが、意気揚々とこちらへやって来て説明を始める。
「普通の船って、前後が決まってるよね?」
「うん、まあ、大体の船はそうだね」
「でも、盥船は円形。もちろん、普通のなら櫂があるから進む方向は決まってるけど、ボクが開発したのは、魔導ジェット水流で進むんだ! 何より、船上の魔導バルカンが360度、全方位を即座に狙撃できる!」
めぐりちゃんは、身振りを交えて熱弁を振るう。
「さらに、円形にしたことで周囲に、魔導ロケットランチャーと、魔導小型ミサイルポッドが360度展開してる。これで、どこから攻められても敵なし! 船体下部には、追跡封じ用の魔導マインランチャーから、魔導メカ亀の魚雷や機雷をバラ撒けるから、追手から逃れるのも簡単!」
「・・・」
「そして極めつけは、あの海と陸の間に広がる異世界から来た、伝説の赤い騎士専用機が装備していた、ショット・クロー!これで陸に上がるのも、獲物を仕留めるのも自由自在!・・・あとは、見た目が可愛いからかな〜。どう? お兄ちゃん!」
「・・・めぐりちゃん?結婚しよう!」
「お、お兄ちゃん!?うん!ボク、いつでもいいよ!!」
「ちょっと待ちさらけ!このクソガキがぁ!何さらしとんねん!このドアホがボケェ!めぐりは、まだガキやぞ?それを自分は・・・!それに、めぐりと結婚や言うんやったら、まずワイをしばき倒してからにせんかい!このボケカスがぁ!」
お父さんが噴火する。
だが、火種はそれだけではなかった。
「リョウさん?母親である私を差し置いて、めぐりと結婚?それはちょっと許せないかしら。それにまだ、めぐりは子供よ?」
哀お母さんの目が、笑っていない。
というか、母親を差し置いてって、貴女は既婚者でしょうが!
「リョウさん、ロリコンだったんですか?それは、ちょっと通報案件ですね」と、ユカさん。
「リョウ様。流石に、訴えますよ?」と、ミリィさん。
「リョウさん、酷いです! 私と映画で、ベッドシーンの約束をしてたのに!」
ゴモリーさんの安定した、妄想『全壊』の回答。
全開じゃなくて『全壊』な?
「リョウ、ちょっと性癖が多すぎて、ついていけない・・・。でも、頑張るからね?」と、ネアさんが漏らす。
「・・・リョウ。ストライクゾーンが広いのは知ってたけど、年下すぎるのはダメ」
「そうだよ~、リョウ~?年上ならまだしも、適齢期より下はマズいと思う~?」
リリーさん、マリーさんの双子姉妹からも、釘を刺される。
「パパ? 私じゃ、ダメなの? 確かに、めぐりちゃんの方が年下だけど・・・」
珊瑚が今にも泣き出しそうな顔で、俺を見つめてくる。
「主、それは運営的にマズいと思う」
「僕もお父さんの発言は、ちょっとダメかなって思う!」
瑞とポポからも、ダメ出し。
・・・というか瑞、運営って何の話だ?
「・・・リョウ。やっぱり色々と拗らせてたのね」
カオリが酒瓶を片手に、哀れみの視線を向けてくる。
「ち、違うんです!今のは間違いです!?めぐりちゃんの趣味(兵器武装と、盥船)が、俺のどストライクだっただけで・・・!」
「めぐりが、趣味のどストライク?リョウさん、じゃあ私も魔導エステで、めぐりくらいに若返ればいいのかしら?」
不敵な笑みを浮かべる哀お母さん。
「もう堪忍袋の緒が切れたわ!タマ取ったるさかい覚悟しぃや!・・・変、身!」
お父さんが閃光と共に、闇を駆ける忍の系譜と科学の粋が融合した『鋼の戦士』へと姿を変える!
仮面ライダーXYZとなり、俺に飛び掛かった瞬間「あなた?煩い!」と、哀お母さんに関節を極められ、取り押さえられた。
「やらせへん!やらせへんぞぉ、ボケェ!!」
ド◯ル中将の様な台詞を吐く、仮面ライダーXYZ。
「リョウ様?それなら私も・・・」とミリィさんが哀お母さんに同意し、「わ、私も魔導エステで若返る!」とネアさんが続く。
「リョウさん?私の子供の頃も、結構可愛かった自覚はありますよ?」
ゴモリーさん、美人なのは知ってるけど、それを自分で言うか。
「リョウ〜?お姉ちゃんと私の見た目は〜?」
「・・・確かに二十歳だけど、見た目だけなら大丈夫なはず」
マリーさんとリリーさんが、おかしな売り文句で攻めてくる。
いや、お二人とも凄く可愛いですよ?
でも俺は、ロリコンでも危ない性癖の持ち主でもありません!
「主?私とポポは、バッチリ?」
「そうだよね!僕と瑞の見た目が、めぐりちゃんくらいだもんね?」
「パパ・・・私も、魔導エステした方がいい?」
「珊瑚、違うからな!? お前は今のままでも可愛いし、成長したらもっと美人になると思うから、今のまま成長してくれ!後、瑞とポポも勘違いだからな?」
「リョウ?そんなに私の子供の姿が見たいなら、言ってくれればいいのに。ほら、どう?」
カオリが、子供の姿に変わる。
「うん、その姿も凄く可愛いけど・・・これ以上、話をややこしくするなッ!」