異世界転生 作:魔導科学
「お兄ちゃん、取り敢えず部屋に行こう?」
俺はミリィさん達の会議を背に聞きながら、めぐりちゃんに手を引かれて部屋へと向かった。
・・・案内されたそこは、部屋というより巨大なホールの様な場所だった。
「この部屋はね、この魔導キャンピングカーの中で、一番大きい部屋なんだよ! 因みに、お風呂は大浴場から個室の風呂まで、合わせて十個。それからサウナとミストシャワー、トイレは全部で二十個以上あるからね?」
「これは、部屋と言うかホールだね?」
「うん!まぁ、国際会議とかを意識して、空間魔法をちょっと多めにしたんだ!」
こ、国際会議ですか!?
随分と、インターナショナルかつグローバルで、ワールドワイドな空間ですね。
「あと、ちゃんと可動式冷蔵庫・キッチンも完備してるからね?」
「可動式?」
「うん! ほら!」
めぐりちゃんがパンッと手を叩くと、サーッと何かが急接近してくる。
なんということでしょう・・・!
そこには、とても綺麗な冷蔵庫が一体化したキッチンが、鎮座しているではないですか!
「本当は、手を叩かなくても、来るんだけどね?」
めぐりちゃんは少し照れくさそうに、はにかんだ笑顔で答える。
どうやら手を叩いたのは、ただの演出だったらしい。
主人の意志や声を読み取って動く、自律型のキッチンという事だろうか。
どこまでも至れり尽くせりな機能に、俺はただただ圧倒されるばかりだった。
「この可動式冷蔵庫・キッチンは、迎撃システムも組んであるからね?」
「げ、迎撃システム・・・?」
「うん!これ!対侵入者用で、警備もバッチリ!!」
めぐりちゃんがそう言った瞬間、可動式冷蔵庫・キッチンが音も無く姿を変えていく。
ガシャガシャと複雑な変形機構を経てそこに現れたのは、胸に金属製のライオンの顔を貼り付けた、某勇者シリーズに登場しそうなロボットだった。
「部屋の中だから、大きさは人サイズで良いかなって思って、こんなサイズにしたんだ。どうかな?」
誇らしげに言うめぐりちゃんに、俺は思わず聞き返してしまった。
「めぐりちゃん?これって・・・もしかして両手の掌を合わせて、指を互い違いに深く組み合わせて、『地獄と天国』を分かつような、あの必殺技を出したりするの?」
「えっ?ヘル・アンド・・・」
「おっと!そこまでだよ!?めぐりちゃん?で、出せるの!?」
「ごめんね、お兄ちゃん?ゲム・ギル・・・って、呪文の必殺技はないんだ。でも、合体はするよ?」
な、何だって!?
合体、変形は男のロマンだよ!!
「め、めぐりちゃん?その合体シーンを見せてくれないかな?」
「うん! いくよ、お兄ちゃん! キッチン・ファイナルフュージョン!!」
めぐりちゃんが叫ぶと同時に、ホールに激しい攪拌エネルギーの竜巻が巻き起こる。
『ガガガッ! ガガガッ!!』
宙を舞う『ドラム式洗濯乾燥機』が胴体へ貫通し、両脚には『業務用冷凍庫』が、ガチィィィン!と重厚な音を立てて連結された。
仕上げに背後から『換気扇付きレンジフード』が翼としてドッキングし、勇壮な電子音が響き渡る。
『ガッ! オッ! キッ! チン!!』
そこには、白銀に輝く『家事の王』が威風堂々と立っていた。
「ここで、このガオキッチンの武装一覧だよ!」
『ブロウクン・ミキサー』
右腕の『超高速回転ハンドミキサー』を射出!
敵を粉砕しながら、ついでに生クリームも完璧に泡立てる遠距離攻撃。
『プロテクト・レンジフード』
左腕の『換気扇ユニット』を逆回転させ、強力な排気フィールドを展開。
敵の攻撃だけでなく、調理中の煙や臭いも一切寄せ付けない。
『かき氷・ニー』
両膝の『電動かき氷機』が高速回転。
ドリル並みの貫通力で敵を削り、ついでにふわふわなかき氷を作る。
『ディバイディング・カトラリー』
巨大な『割り箸』や『スプーン』型のツール。
空間を湾曲させて戦闘用フィールドを作るが、見た目は完全に『巨大な食卓』になる。
『ヘル・アンド・オーブン』
『急速冷凍(左手)』と『超高火力(右手)』のエネルギーを一つに合わせ、敵を挟み込む必殺技。
『強火・弱火・とろ火・中火・・・』と火加減を呟きながら突撃し、敵を『完璧な焼き加減』で調理する。
『ゴルディオン・フライパン』
『みじん切りになれえええ!』の叫びと共に、あらゆる敵を具材として、光のみじん切りに変えてしまう最強の調理器具。
「・・・でもお兄ちゃん。最後は、やっぱりこれだよね?」
めぐりちゃんがそう言うと、空間からノイズと共に仮想データが実体化し、演習用の『架空の敵』がその姿を現した。
めぐりちゃんが虚空に浮かぶ『献立承認ボタン』を、思い切り叩き割った。
「ガオキッチン、セーフティデバイス解除! ファイナル・ディッシュ・プログラム、ドライブ!!」
一気に高まる魔導エネルギー。
ホール全体に警告音と高揚感のあるBGMが鳴り響く中、めぐりちゃんがトドメの一撃と言わんばかりに叫ぶ。
「調・理!! 承・認!!」
キャンピングカーの転送システムが火花を散らし、空間を切り裂いて黄金に輝く巨大なフライパンが、右腕にドッキングする。
「コネクト・ツール!ゴルディオン・フライパン!!いくよ!ヘル・アンド・オーブン!!」
黄金のフライパンを構えたまま、ガオキッチンが突撃を開始する。
『急速冷凍』と『超高火力』のエネルギーを一つに合わせ、『強火・弱火・とろ火・中火・・・』と、火加減を呟きながら、『架空の敵』をガシィッ!と、フライパンごと挟み込んだ!
「逃がさないよ!ターゲット・イン・・・みじん切りに、なれええええ!!」
そのまま黄金のフライパンを一閃すると、『架空の敵』は眩い光の粒子となって霧散していった。
爆発の余韻がキラキラとホールに舞い散る中、めぐりちゃんは最高に可愛い笑顔でこう告げる。
「・・・美味しくな〜れっ!」
「どう?お兄ちゃん!」
俺は膝をついて、めぐりちゃんと視線を合わせると、その小さな両手をそっと包み込むように握った。
「・・・めぐりちゃん。結・・・あだっ?!」
感動のプロポーズ?をキメようとした瞬間、後頭部に乾いた衝撃が走る。
「リョウ、そのネタもう三回目よ?」
いつの間にか背後に立っていたカオリが、冷ややかな視線でハリセンを構えていた。