異世界転生 作:魔導科学
「この部屋なら、全員で寝られるわね」
哀お母さんが広大なホールを見渡して満足げに頷くと、俺は思わず苦笑いしながら返した。
「そうですね。逆に広すぎて、迷子になりそうですけど・・・」
前世で、世界一デカい展示場と言われたハノーバー・メッセってのがあったけど、それと引けを取らないんじゃないかな?
「なんやねん!おんどれボケナス!文句あんねやったら、自分だけ外で野宿さらせや、ボケがッ!」
俺の些細な一言に、お父さんの怒号が飛んでくる。
相変わらずの沸点の低さだ。
「あなた? ・・・また、お説教が必要かしら?」
だが、背後に立つお母さんの冷徹な一言で、お父さんの勢いがピタリと止まる。
「雑魚寝どころか、この部屋の中ならテントも張れるし、ベッドや椅子にテーブルだって出せるよ?」
険悪な空気を察してか、めぐりちゃんが助け舟を出してくれた。
彼女が指をパチンと鳴らすと、何もない床からニョキニョキと、高級感のあるテーブルや椅子が生えてくる。
ビバ、魔法科学!
どこまでも、至れり尽くせりだ。
「なるほど。それは名案ですね」
一連のやり取りを静かに見ていたミリィさんが、何やら思案深げに口を開いた。
「皆さん、此処に魔導カプセルのテントがあります。好きな物を選んで使用して下さい」
ミリィさんが、ホイポイ◯プセル擬きを掌に出して、みんなに選ばせる。
「因みに、普通のテントから、超豪華なテントまでランダムです」
俺もカプセルを一つ選んで、広いホールに放り投げる。
シュンッと、カプセルが一瞬にしてちょっと大きめのテントになる。
コレは、一人用じゃ無いよね?多分、四〜五人用だと思う。
「リョウ様が選んだのは、並みの上ですね。松竹梅で言うと、竹のちょっといい感じです」
ミリィさんの解説に、俺は思わず目の前のテントを二度見した。
コレで、並みの上?
しかも、竹のちょっといい感じだって・・・?
家族四、五人は余裕で入れそうなこのサイズで「中ランク」扱いなら、最高ランクの「松」はいったいどうなってしまうんだろうか?
ふと、そう言えば木人は?と、木人の事を思い出す。
「カオリ、木人はどうした?部屋で留守番か?」
一体だけ寂しく留守番ってのも、ちょっと問題あるな。
「それが、私とピィちゃんが出掛けるって言ったら、ミリィさんのメイドロイドの手伝いがしたいって、一生懸命説明してきてね?」
「その結果、今は私のメイドロイドの所に居ます。それから、検査結果がリョウ様に届いている筈ですが?」と、ミリィさんも説明してくれる。
そう言えば、ポポを誕生させるきっかけは、魔導通信機にメッセージが来たからだったよな?
ずっと忘れて、確認して無かった。
確認してみると、木人の検査結果だった。
「ミリィさん、有難う御座います。早速、木人の検査をして下さったんですね?」
「はい。リョウ様、私は出来る女なので、重要事項は早急に済ませます」と、メガネをクイッと上げながら答える。
「なになに・・・?」
受信したメッセージを読み進める。
『こんにちは、リョウ君。元気かしら? 実はウチの人からあなたの連絡先を貰ったから、検査結果を送ってみるわね。どうかしら、私からの連絡、嬉しい?』
・・・送り主はミッシェルさんだ。
『ウチの人』って、シュウさんかよ!
さっき会った時に、一言も言ってなかったぞ。
この世界の個人情報保護法は、どうなってんだ?
不信感を募らせつつ続きを読んで、俺は絶句した。
『それで検査結果だけど、機体は異常なし。ただ、面白いことがわかったわ。あの木人、ミリィのところのメイドロイドに、恋をしてる可能性があるの。とっても素敵な発見だわ!』
「・・・恋してる!?」
いや、確かに心当たりはある。
初めて木人が彼女を見た時、ガタガタ震える手でコーヒーを持ち上げ、派手にダバダバこぼしながら、視線だけはメイドロイドを一点に凝視していた。
「ロボットが、一目惚れか・・・」
思わず独り言が漏れる。
「リョウ様? また、新たな性癖の開拓ですか?」
すかさず横から入る冷ややかなツッコミ。
「違います! ミッシェルさんからの検査結果ですよ。木人のやつ、ミリィさんのメイドロイドに、一目惚れしたらしいんです」
すると、背後に気配がした。
「ちょっと、リョウ君? なに面白そうな話をしてるの? 私もまぜて?」
「お、お母さん!?」
哀お母さんが俺の隣に滑り込んできて、ぐいっと腕を抱き締めてくる。
柔らかい感触と甘い香りが一気に至近距離まで迫り、思考がショートしそうになる。
「もう!さっきも、言ったでしょう?名前で呼んでって」
そう言って、更に密着する哀お母さん。
「許せへんぞ、このボケェ!」
「お父さんは、ガオキッチンと遊んでて?ちょっと、お母さん?ズルいよ!ボクも!!」
そう言って、俺の反対の腕に抱き着くめぐりちゃん。
『ガッ! オッ! キッ! チン!!』という、雄叫びと共にガオキッチンが、お父さんに突進して行く。
「なんやねん自分!邪魔しとんちゃうぞ!こら!」
お父さんと、ガオキッチンの壮絶なバトルが繰り広げられる。
「リョウ?随分と、鼻の下が伸びてるわね?」
「か、カオリ?ち、違うぞ?」
「リョウさん?そんな事ばかりしてると、後ろから刺されますよ?」と、冷たい声で言ったのはユカさん。
CQCの華麗なナイフ捌きを間近で見ている分、その台詞は洒落になリませんよ!?
「ご主人?お父さんに抱き着いちゃえば?そしたら、僕は空いてる所に抱き着くから!後ろ?前?どっちにする?」
ポポが、非常に危険な煽り文句でユカさんを焚き付ける。
「ポポちゃん?そ、そうね!なら、正面から・・・」
「ちょっと、待ちなさい!世界があなたを許しても、私はあなたを赦さない。・・・あなたがこの状況を許しても、私はあなたを赦さない!」
ゴモリーさん?
その台詞は、『にぱ〜』とか言って、何回も人生を繰り返しちゃう幼女の台詞の逆パターンですか?
「主、またイチャイチャしてる。羨ましい。私も」
「瑞ちゃん!それは、駄目かな?かな?」
珊瑚よ、お前までちょっと前のカオリみたいに、オヤ◯ロ様レベルが高くなってないか?
ナタとか振り回しそうで、怖いんだけど?
「やれやれ、困ったお子様たちね。やっぱり此処は、年上の余裕を見せないとね!じゃリョウ、行くわよ?」
そう言って、此方に走り寄って来るのはネアさん。
「・・・させない」
リリーさんが、走り寄って来るネアさんをブロックする。
「お姉ちゃん〜、有難う〜、後はお願いね〜」
「・・・マリー?」
「ちょ、ちょっと、マリーさん?」
リリーさんと、ネアさんが呆気に取られている。
「マリーさん?残念ながら、させません!」
ミリィさんが、メガネをクイッと上げながら、マリーさんの正面に立ち塞がる。
「む〜、ミリィ〜、邪魔するの〜?」
「はい、邪魔します。リョウ様の正面と背後、およびその周辺の独占権は、私が受理いたしました」
「ちょっと、ミリィさん!? リョウを独り占めするのは、ずるいわよ!」と、カオリが参戦。
え〜と?
テントは、どうなったのかな?