異世界転生 作:魔導科学
読みにくくて、すみません。
評価やブックワークして頂き、本当に有難う御座います。
長々と、ミリィさんと喋っていた為、周りを見てなかった。
そう思い周りを見渡すと、あれ?なんで、部屋が出来てるの?
テントじゃ、無かったの?
「お兄ちゃん、ごめんね~?お話が長かったから、ボクが色々と用意しちゃった」
めぐりちゃんが、気を利かせて全て用意してくれたらしい。
此処は、テントも張れる様な広大な部屋の中で、ベッドや机に椅子すらも全て出せる様な空間だ。
だったら、テントは最初から必要なかった?
いや、そんな事を言ったら折角、ミリィさんが豪邸テント(戦艦?)をだしてくれたのに、失礼だよな。
「おや、テントは必要ないですね?」
「ミリィさん、すみません。俺が色々と質問攻めにしたばかりに、時間を取らせてしまって」
「いえ、リョウ様が悪い訳ではありません。そもそも、此処は、魔導キャンピングカー内、ただ此れだけの広さがあったので、つい私も製作に加わったテントの自慢をしてしまって、申し訳ありません」
メガネをクイッと上げたミリィさんが、夢中で自慢話をしていた自分を恥じるように、ほんのりと頬を赤くしながら、ぺこりと頭を下げた。
「今度、みんなで一緒にキャンプとかしたいですね!その時は、ぜひお願いします」
「はい!では、いつにします?」
いや、ちょっと早急すぎやしないか?
「そうですね・・・。色々な事が落ち着いてからというのは、どうでしょう?」
「確かに、少々早急に過ぎましたね。失礼いたしました。話が弾み、つい気が急いてしまいました」
そう言って、ミリィさんはどこか照れくさそうに、はにかんだ笑顔で答えるのだった。
「もう、みんな中に入ってるよ?お兄ちゃん達も早く入ってみて!」
「有難う!じゃ、お邪魔します」
お邪魔しますって言ったけど、ここは既に魔導キャンピングカーの中なんだよね?
すっかり、忘れてた。
ミリィさんと、めぐりちゃんと一緒に部屋に入ると、お父さんと哀お母さん以外のみんなが集まって、お茶会をしている。
「めぐりちゃん?お父さんと、哀お母さんは?」
「お母さんは、お父さんを折檻しに行ってる!」と、笑顔で答えるめぐりちゃん。
折檻!?
まぁ、確かに危険で、危うくて、危殆としか言いようのない目に、遭わされたけどね?
「あ、お母さん!お父さんは?」
「お父さんなら、寝てるわよ?多分、はしゃぎ過ぎて、疲れたのね?ふふッ」
「そっか〜!じゃ、そっとしておこう!」
哀お母さんと、めぐりちゃんの会話を聞いてたけど、大丈夫なのか?
さっき、折檻って聞いたよ!?
「リョウさん?どうしたの?」
「い、いえ!なんでもありません!マム!」
「まむ?・・・もう、名前で呼んでって言ったでしょ?」
哀さんは、先ほど見せたのと同じように、両頬をプクッと膨らませて抗議してくる。
大人の女性とは思えないほど子供じみた、けれど破壊力抜群の怒り顔だ。
少しだけ上目遣い気味に俺を見つめるその瞳には、先ほどの冷徹な鋭さは微塵もない。
あまりの可愛さに俺が一瞬だけ言葉に詰まってしまうと、彼女はさらに距離を詰めるようにじーっと覗き込んできた。
「イエス!マ・・・じゃなかった、哀さん」
「よろしい。それでいいのよ!」
途端に機嫌を直した彼女は、満開の花のような笑みを俺に向けた。
「取り敢えず、みんなのところに行きましょう」
彼女に促されて、お茶会をしているみんなの輪へ向かい、哀さんが席に着くと同時にこう言った。
「じゃあ、全員集まったところで、これから怪談でも始めましょうか」
「いいね!ボク怖い話、大好きだよ?」
「怪談ですか? それは、ちょっとエッ・・・」
「ゴモリーさん?! それ、確実に違います! 一文字目から致命的に間違ってます!」
俺は、エッチな話をぶち込もうとしたゴモリーさんを、全力かつ必死の形相で止めた。
「確かに猥談も捨てがたいけど、今はリョウさんも居るからね?だから、怪談にしましょう?」
哀さんが、おしとやかに微笑みながら話を続ける。
「みんな、これ持って!」
めぐりちゃんが、手際よく小型のランタンを配っていく。
「怖い話をした後、ボクが作ったこの『魔導ランタン』を消すんだ。部屋を真っ暗にしたら、きっと盛り上がると思うんだけど・・・どうかな?」
「面白そうですね」
ミリィさんが、メガネをクイッと上げながら真っ先に賛成した。
「私はいいわよ」
カオリも不敵に微笑む。
「ちょっと怖いですけど・・・楽しそうですね!」
ユカさんも、期待に目を輝かせた。
「主が良いなら、ボクも賛成!・・・でも、ボクは怖い話なんて知らないよ?」
「ポポ、私も知らない・・・」
ポポの言葉に、瑞が不安げに同調する。
「じゃあ、こうしましょう。怖い話を知らない人は、知っている人とペアを組むの。話が終わったら、二人で一緒にランタンを消す・・・っていうのはどうかしら?」
ネアさんの提案に、みんなの顔がぱっと明るくなった。
「それは名案ですね。では、話を知らない方はどなたかの隣へ移動してください」
ミリィさんが、テキパキと仕切る。
ポポは、そのままユカさんの隣にぴたりと寄り添い、瑞は所在なさげに周囲を見渡した。
「瑞さん。よろしければ、私の隣へ来ませんか?」
声をかけたのは、ミリィさんだった。
「ミリィさん、有難う。・・・お邪魔する」
さて、かくいう俺は怖い話が大好きなのだが・・・実は、とんでもなく怖がりだ。
さっきのゾンビゲームでも、一番情けない悲鳴を上げていたのは間違いなく俺だった。
今回だって、正直に言えば一人でランタンを消す勇気なんて一ミリもない。
・・・よし、俺も誰かの隣に避難させてもらおう!
そう思って腰を浮かせかけた、その時。
「じゃあ、まずは私から行くわね」
部屋から光が消え、魔導ランタンの微かな灯りが静寂を照らし出し、哀さんが不敵な笑みを浮かべ、全員を見渡した。
「さっきも話に出ていたけれど・・・『魔導エステ』ってあるでしょう?」
唐突に始まった物語に、俺は移動するタイミングを完全に失ってしまった。
哀さんの声には、まるでこちらの自由を奪うような、妙な重みがある。
「性別変更を繰り返して、自分を忘れた男の話なんだけどね。
彼は若さと姿を替えすぎて、ついに『元の自分』が何者だったか思い出せなくなっちゃったの」
哀さんは楽しそうに、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「ある日、彼はいつものように注文したわ。
『次は、一番人気の「中性的な女」で頼む』って。
・・・目覚めると、鏡の中には凛々しい女が立っていた。
けれど、そこでふと疑問が過るの。
『・・・俺、元は男だったっけ? それとも、女だったっけ?』」
哀さんの視線が、冷たく俺の首筋をなぞった。
「名前を思い出そうとしても、脳裏に浮かぶのは、過去の施術で継ぎ足された『赤の他人の人生』ばかり。
初恋の記憶は少女のもの。
仕事の苦労は老人のもの。
パッチワークみたいに継ぎ接ぎされた記憶の影で、本物の彼はもう、どこにもいなかったのよ」
「・・・」
喉がひきつり、生唾が冷たく落ちる。
肺が凍りついたように、呼吸の仕方を忘れてしまった。
自分の指先さえ、本当に自分のものなのか疑わしくなる。
そこから這い上がってきた違和感に、足元から存在が溶け出していくような錯覚を覚え、俺はただ、息を詰まらせる。
「『お客様、どうかされました?』
店員に問われて、その人は自分の顔を触ったわ。
でも、指先の感覚も、声の響きも、まるで借り物のパーツみたいに余所余所しい。
身体を修復しすぎたせいで、彼の核だった『真実の記憶』は、もう隙間から零れ落ちて消えていたのね」
哀さんは椅子に深く背を預け、冷たい微笑を浮かべた。
「今、そこに立っているのは、誰でもない『ただの綺麗な器』
彼女は自分の名前も知らぬまま、他人の笑顔を貼り付けて、夜の街へと消えていったわ。
・・・ねえ、今あなたの隣で笑っているその人は、本当に、中身まで『その人』なのかしら?」
沈黙が部屋を支配する。
哀さんが、満足げに目を細めて自分のランタンを消す。
パチン、と小さな音がして、彼女の周りだけが深い闇に包まれる。
・・・だが、まだ部屋が完全に真っ暗になったわけじゃない。
みんなの手に握られた魔導ランタンが、持ち主たちの顔をぼんやりと、けれど怪しく照らし出している。
それでも、一番近くにいた語り手・・・哀さんの姿が闇に消えただけで、心細さは一気に跳ね上がった。
・・・まだだ。
まだ、みんなの明かりがある・・・!
俺は必死に自分を落ち着かせようと、手元のランタンを強く握りしめる。
けれど、哀さんの話の余韻が、残された明かりをかえって『不気味なもの』に変えていた。
このオレンジ色の光に照らされているミリィさんは、本当にミリィさんなのか?
ユカさんの隣にいるポポは?
みんな、中身まで本物なんだろうか・・・?
「リョウさん?安心して下さい。この中で、魔導エステのお世話になった方なんて、一人もいないですよ?」
俺の青ざめた顔をみたゴモリーさんが、心配して声を掛けてくれる。
ゴモリーさん、ナイス!
ちょっとだけ、恐怖心が和らいだよ。
「・・・次は、誰が消すの?」
カオリの声が、静まり返った部屋に響く。
一つ、また一つと明かりが消えていくごとに、この『逃げ場のない恐怖』が完成していくのだと、俺は本能で察していた。