異世界転生 作:魔導科学
先ほどの衝撃の事実が、今までの怖い話の中で一番怖かった。
なんて事にはならなかったが、その威力は凄まじかった。
その為、先ほどの哀さんと俺の会話以降、誰も口を開かず静寂が辺りを包む。
怪談話には、もってこいのシチュエーションだろうか?
「さ、さて、それじゃ次は、私が話そうかな?」
ネアさんが、真っ先に脱出し話し始める。
「ある吹雪の夜、一人の旅人が山小屋に逃げ込んだ。
冷え切った体で暖炉に火をつけようとしたが、そこには便利な魔道具などなく、古びた暖炉があるだけ。
湿った薪は爆ぜるばかりで一向に火がつかない。
旅人が焦燥に駆られていたその時、窓を叩く音がした。
コツ、コツ、コツ。
見ると、雪のように白い顔の女が立っている。
女は消え入りそうな声で『中に入れて・・・指一本でいいから、中に入れて・・・』と懇願した。
旅人は恐怖し、戸締まりを確かめて震えていたが、女の叫びは次第に狂気を帯びていく。
『指一本でいいの! お願い!』そのあまりの悲壮さに、旅人は魔が差した。
ほんの数センチ、窓を細く開けてしまったのだ。
すると女は、死人のように白い指を一本、隙間から滑り込ませた。
旅人がせめて温めてやろうとその指を握ると、それは石のように硬く、凍てつく冷たさだった。
次の瞬間、冷たい指先が万力のような力で旅人の腕を掴んだ。
女がニタリと笑う。
『・・・一本入れば、全部入れるのよ』ミシミシ、バキバキ。
不吉な音が響き、女の指が節を増やしながら蛇のように伸び始めた。
指は窓の隙間から部屋中をのたうち回り、逃げる旅人の首に、冷たく湿った縄となって幾重にも巻き付いた・・・」
ネアさんは、一度言葉を切り、冷え冷えとした沈黙を置いてから次の話を始めた。
「もう一つ、いくわね?
・・・私の知り合いの魔導師が、主を失った古い塔で一晩過ごした時のことよ。
夜中、ふと刺すような視線を感じて目が覚めた。
部屋には自分一人。
扉には厳重な封印。
おかしいと思って部屋を見渡すと、床板のわずかな継ぎ目に、数ミリの『隙間』があるのに気づいた。
そこに、何かが挟まっている。
埃か、あるいは古紙の破片か。
彼は顔を近づけて、その奥を覗き込んだ。
隙間の暗がりの向こう側。
充血した巨大な目玉が、じっと自分を見上げていた。
魔導師は飛び退いたけれど、すぐに気づいて凍りついたわ。
その隙間は、爪楊枝一本通るかどうかという細さ。
目玉がそこにあるのなら、その下にあるはずの『顔』や『体』は、どれほど異様に引き延ばされているのか。
彼が震える手で杖を掴んだ時、背後で『・・・ヌチャリ』と、濡れた紙が剥がれるような音がした。
振り返ると、その数ミリの隙間から、厚みのない血まみれの手が、音もなく這い出してくるところだったそうよ」
パチン。
ネアさんが、ランタンの明かりを消す。
先ほどよりも、更に闇と静寂が濃くなる。
うん。
ネアさんの話は、純粋なオカルトだね。
・・・超怖えよ!
「でも、私たちなら指如きなんとも無いよね?」と、珊瑚・・・いや、珊瑚さんが口にする。
「そ、そうね?・・・ピィち、じゃなくて、さ、珊瑚さん?」
カオリが、戸惑いながら答える。
「・・・カオリママ?なんで、そんな変な呼び方するの?ひょっとして、さっき歳をいったのが悪かったの?前みたいに、ピィちゃんって呼んでよ。パパは、そんなことしないよね?だって、パパは私のパパだっていってくれたもんね?」
泣きそうな声で、珊瑚が訴えてくる。
「・・・そうだな。ちょっとビックリしたけど、珊瑚は俺たちの娘だよ!」
「ごめんね、ピィちゃん」
怖さよりも、珊瑚を悲しませる方が何倍も辛くて、嫌なことだ。
俺とカオリの言葉に、珊瑚はぱあっと顔を輝かせ、「うん!」と満面の笑みで頷いた。
その無邪気な仕草は、やはり年相応の子供にしか見えない。
「・・・珊瑚の言う通り。そんな長いだけの指、捕まえて縄跳びの紐にでもする。リョウ、ドラゴンは五十を過ぎても、まだ子供。人間とは『成人の基準』が違う」
リリーさんは、寿命が二百年ほどあるこの世界の真理と、あらゆる魔物を従えるテイマーとしての矜持を込めて、不敵な笑みを浮かべた。
「そうですね。そもそも、ペラペラな体なんて、くるくると丸めてポイッ、ですよね?」
ゴモリーさんも、リリーさんの発言に涼しい顔で同意する。
「もう! ゴモリー、そんなこと言ったら怖い話にならないでしょう? 私たちなら大したことがない存在でも、戦闘能力がない人には脅威になるのよ?多分、きっと・・・」
ね、ネアさん?
そこは自信持って、大丈夫です!
俺も太刀打ちできるか、怪しいんですからね!?
「主なら、大丈夫。多分、一瞬にして斬り捨てる」
「あ〜!リョウならそうだね〜!多分、一瞬でバラバラに斬り刻むと思うな〜」
瑞とマリーさんが、さらっと恐ろしいことを言ってくる。
・・・あれ?
誰も否定しないの?
みんなして「ウンウン」って深く頷いているけれど。
俺はこのメンバーの中でも飛び抜けてひ弱で、心優しい男なんだよ?
道端に咲く花を見つけては「綺麗だな」と摘み取って、ひとり「うふふ」と微笑んでしまうような、そんな可憐なキャラの筈なんだけど・・・。
周りからは、そんな風に見えてないの?
・・・あれ、もしかして、全然違うの!?
チキショー!
あったまきた!
俺の『可憐キャラ」』を無視して、物騒な評価で盛り上がる彼女たちに、ついに堪忍袋の緒が切れた。
「・・・それじゃ、今度は俺が話すよ」
俺は低い声で、全員を見回した。
こうなったら、とっておきの話を投下してやる。
丸めてポイだの、縄跳びにするだの言っている余裕を、根こそぎ奪ってやるんだ。
俺の怖い話で、全員ガタガタにビビらせてやる!