異世界転生   作:魔導科学

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「此れから話す事は、もし途中で『これ以上はまずい』と思ったら、すぐに俺の話を遮って下さい。いいですね?」

 

俺はできるだけ低く、感情を押し殺した声を出した。

 

これはハッタリじゃない。

 

これから話すのは、前世のネット掲示板で数多の読者を震え上がらせた、あの『禍々しい箱』の話だ。

 

「あら、急に真剣な顔しちゃって。いいわよ、聞かせてちょうだい?」

 

哀さんは、余裕の笑みを崩さない。

 

だが、珊瑚たちは俺の変貌ぶりに、少しだけ身を縮めた。

 

俺はゆっくりと、口を開く。

 

「・・・ある村に、古くから伝わる『箱』があった。

それは、ある特定の層に向けられた、最悪の呪い。

子供や、これから母になる女性を標的にした・・・『コトリバコ』っていうんだけどね?」

 

俺がその名前を口にした瞬間、部屋の空気がわずかに重くなった気がした。

 

「その箱を作るには、おぞましい犠牲が必要なんだ。

中に入れるのは、動物の血・・・じゃない。

もっと、救いのないものだ」

 

俺は前世で読んだあの胸糞の悪い工程を、この世界の語彙に置き換えて語り始める。

 

一つ、また一つと手順を説明するたびに、哀さんの顔から少しずつ余裕が消えていく。

 

「・・・完成した箱は、相手の家に置かれる。

ただそこにあるだけでいい。

それだけで、その家の女子供は、内側から『壊れて』いくんだ。

逃げる術はない。

箱を解体することもできない。

触れたら、その瞬間に終わりだ」

 

俺はそこで言葉を切り、じっと全員の目を見回した。

 

「みんな、これ怪談話のつもりで言ってるけど。

もし今、この部屋のどこかに・・・身に覚えのない『古い木箱』が置いてあったら、どうする?」

 

俺がそう言った直後、パシッ!と、部屋の隅でラップ音が響いた。

 

「ひっ・・・!」

 

短い悲鳴を上げたのは、ミリィさんだった。

 

一瞬の静寂。

 

「ーー?!」

 

何者かの気配、そして自分に向けられる殺気。

 

それを感じ取った刹那、俺はパニックになりながら次元収納から胴田貫を取り出していた。

 

抜き放つ暇なんてない。

 

焦る手で掴んだのは、通常の抜き付けとは真逆の握り。

 

刃を四指の方へ、峰を親指側へと向けたそれは、斬るためではなく、鞘ごと相手の骨を砕くための、『鈍器』としての選択だ。

 

左手を支点に右手で柄を握り込み、いつでも振り抜けるよう低く腰を落として身構える。

 

「おんどれ!このガキィ!なめ腐りくさって!せっかく、ワシがフォローしたったのに、恩を仇で返しやがって!許さへんぞ!このボケカス!ゴラァ!!」

 

叫び声と共に現れたのは、血塗れのお父さんだった。

 

そして、お父さんが俺の背後に回り込もうとして、哀さんに捻じ伏せられ、一瞬にして意識を刈り取られる。

 

「アナタ? まだ起きる時間じゃないでしょう。・・・もう一度、寝てなさい?」

 

「ガオキッチン!お父さん、ベッドに運んどいて?」

 

めぐりちゃんが、ガオキッチンを呼ぶと『ガ・オ・キッ・チ・ン!』と返事しながら、部屋からお父さんを運んで行く。

 

嵐のような一瞬が過ぎ去り、静寂が戻った部屋。

 

・・・俺の怪談話、どこに行った?

 

逆手に握った胴田貫の重みだけが、俺の手に虚しく残っていた。

 

俺は、黙って次元収納に胴田貫を仕舞い、パチンとランタンのスイッチを切る。

 

「・・・最後は私ね?」

 

何事もなかったかのように、カオリが気を取り直して話を始める

 

「コレは、リョウの前世の記憶から引っ張ってきた話だから、車とかは此方の世界と全く違う、ローテクな物よ?それを踏まえて、聞いてね?」

 

カオリが説明した後、一呼吸置いて低く落ち着いた声で話し始めた。

 

「ある雨の夜、男が峠道を車で走っていました。

視界は悪く、連日の疲れもあって、男は一瞬ウトウトと居眠りをしてしまいます。

ハッと気づいた時には、目の前に急カーブが迫っていました。

『しまっ・・・!』

ブレーキを踏む間もなく、車はガードレールを突き破り、崖下へ投げ出されそうになります。

その瞬間でした。

助手席に、いつの間にか全身ずぶ濡れの女が座っていました。

女は無表情のまま、ものすごい力でハンドルをグイッと切り戻しました。

そのおかげで、車はガードレールに激突する寸前で停車。

奇跡的にかすり傷一つなく、男は助かったのです。

男は激しく動悸する胸を押さえながら、震える声で隣の女に言いました。

『あ、ありがとうございます・・・! あなたが助けてくれたんですね』

命の恩人である女に精一杯の感謝を伝えようと、男は女の顔を覗き込みました。

すると女は、男の目をじっと見つめ、地を這うような低い声でこう吐き捨てたのです。

『・・・死ねばよかったのに』」

 

アレか!

 

次の瞬間、女の姿はかき消えるように消えてしまい、女は男を助けたかったのではなく、男が死ぬ瞬間を『特等席』で見たくて、勝手に乗り込んでいたって話だよな?

 

「『え〜?そんな事、言わないでよ〜?君ってよく見ると、凄くカワゥイ〜イよね?』

男は、ずぶ濡れの女に手を伸ばし、女の肩を抱き寄せます。

『ち、ちょっと?!』

ずぶ濡れの女が戸惑いながら、抵抗します。

『ほら、そんなに濡れてたら、風邪引くだろう?此れで、頭を拭きな?』

そう言って男が渡したのは、前世で大流行したアニメの女性キャラクターの写ったバスタオル。

『・・・』

『あぁ、ごめんね?でも、そのキャラクターって、君みたいに可憐で美しくて、カワゥイ〜イよね?』

『いや、あの・・・』

女は戸惑いながら、男にタオルを返そうとします。

『ダメだよ?君が風邪引いたら俺、君の家まで看病しに行くよ?所で、君って何処に住んでるの?あっ!俺はね、この先のタワマンの最上階なんだけど、其処からの眺めが良くて、週末なんかは海外のお客を呼んでホームパーリィーとかしちゃうんだよ?』」

 

カオリ?

 

所々、男の言葉がおかしいよ?

 

「『それでね?君さえ、よければ連絡先をレッツ、チェンジング!トゥギャザー?』

『えっ?あの、ちょっ・・・』

ずぶ濡れの女は、男の勢いに押されて言葉が出てきません。

『ほら、俺が頭を拭いてやるから、無駄な抵抗はすんな?』

『ちょっ!?やめ!』

『ほら、やっぱり君は、カワゥイ〜イね!』

男がふと何かを思い付いた様に、虚空を眺め空中からパッと、一輪の薔薇を出しました。

『これ、君にプレゼントするよ!こんな日が来ると思って、手品を練習してたんだ!』

『いえ、結構で・・・』

女が薔薇を男に返そうとしますが、男が急に黙り込み女を抱きしめます。

『俺じゃダメか?』

『は、離して!いやぁ~!助けて〜!?お巡りさん!コイツです〜!』

女は叫び声を上げながら、雨の降る外へ逃げるように消えていきました。

『やれやれ、困った子ぬこ(子猫)ちゃんだぜ!』」

 

カオリの一人二役を周りの人たちと眺めつつ、俺はこんな阿呆な男いないだろう?と、思った。

 

「・・・で、結局その幽霊、ドン引きして消えちゃったんだって。これ、怖くない?」

 

満面の笑みで語り終えたカオリに対し、俺はランタンの明かりの下で頭を抱えた。

 

確かに、ある意味では『死ねばよかったのに』と言いたくなるほどの恐怖(苦痛)だったかもしれない。

 

パチン。

 

全ての魔導ランタンの明かりが消え、完全な暗闇になる。

 

「カオリママ?・・・その男、超ウザいね?火炎放射で、燃やしていい?」

 

珊瑚が、かなりウザそうに声を出す。

 

「そうね。ピィちゃん!生ゴミは、何曜日だったかしら?でも、ピィちゃんが焼却処分してくれるなら、灰も残らないかしら?」

 

カオリが、ゴミを見るような冷めた声で返答する。

 

「そうねぇ、私ならそんな男、即瞬殺するレベルかしら?」

 

哀さんが、呆れながら言葉を発する。

 

「その男は、何者なんですか? あえて相手を呆れさせて除霊する、高度な技を操るエクソシストですか?」

 

ミリィさんの声が、暗闇から聞こえる。

 

「ミリィさん!?そんなエクソシストがいたらボク、嫌だよ?」

 

めぐりちゃんが、ゲンナリした声を出す。

 

「一方的に喋って〜、凄くウザいね〜?そんなヤツは、タバスコ・スコーピオンソースでも、口に入れればいいのに〜」

 

マリーさんが、のんびりと過激な発言をする。

 

「そうですね!そんなバカな男の口は縫ってしまえば良いと思います!」

 

更に、ゴモリーさんが過激な発言を上乗せする。

 

「ゴモリー、そんなじゃ駄目よ?存在自体、抹消しないと世の中の迷惑だわ!」

 

ネアさんが、ウザいチャラ男の存在を否定する。

 

「私なら、目潰しで視界を閉ざして、即黙らせますけどね?」

 

ユカさんが、かなり殺気立っておられる。

 

「うん!話を聞かないで勘違いして、更に身体に触れられるとか、気持ち悪いよね?」

 

ポポが、ユカさんの言葉に同意して、殺気立ってる。

 

「カオリさん、主のいた世界は、そんな人間が存在したの?」

 

瑞が、呆れた声で問い掛ける。

 

「全く、いなかった訳じゃないけどね?でも、極少数よ?」

 

カオリが、質問に答える。

 

「・・・でも、リョウなら許す」

 

リリーさん?

 

なんでそこで、俺を引き合いに出すんですか?

 

そもそも俺は、そんなおかしな事を言ったりしませんよ?

 

「・・・リョウ?ちょっと、カワゥイ〜イって、言ってみて?」

 

「む、無理です!」

 

俺は精一杯の抵抗を試みた。

 

だが、暗闇の中で感じる気配は、先ほどの血塗れのお父さんよりもずっと逃げ場のない、圧倒的な圧力を孕んでいる。

 

「ほら、リョウ。早く言わないと、ユカさんたちが本当に目潰しの準備を始めちゃうわよ?」

 

楽しげなカオリの声が追い打ちをかける。

 

俺は観念して、熱くなった顔を両手で覆い(暗闇でよかったと心底思う)、消え入りそうな声で口を開いた。

 

「・・・カ、カワゥイ〜イ・・・」

 

静寂。

 

次の瞬間、暗闇の中で誰かの鼻血が噴き出す音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

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