異世界転生   作:魔導科学

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「リョウ?『だ、ダメだよ!?カオリ君?!』って、言って!」

 

闇の向こうから、熱を帯びた吐息混じりの声で、カオリが台詞を要求する。

 

それは、あの白銀の髪を持つ使徒の少年が、巨大な手に握りつぶされる直前のシーンだよね?

 

でも俺の記憶が確かなら、あの弱気な主人公、そんなセリフは一言も言ってなかったはずですけど!?

 

なんで俺の記憶より解像度の高い『幻の台詞』を要求してくるんだよ、カオリ!

 

それから、一体どんなシーンを妄想してんだ?

 

「だ、ダメだよ!? カオリ君?!」

 

恥ずかしさで、死にそうになりながら絞り出した上擦った俺の声は、暗闇に虚しく響いた。

 

「り、リョウ、駄目! 威力が天元突破しちゃう・・・っ!!」

 

バタバタと、何かがのたうち回る音。

 

さっきの怪談話より、此方の方が怖いんだけど?

 

「ハァハァ、お、お兄ちゃん?次は、『めぐりが居ないと、困るな?』って、ちょっと、シュウさんっぽく言ってみて?」

 

シュウさんでって、完全に赤い人のモノマネじゃんかよ!

 

こうなったら、ヤケクソだ!

 

俺は腹を括り、脳内の『赤い某大佐』のアーカイブを全力で検索する。

 

「めぐりが居ないと、困るな?」

 

可能な限りシュウさんの・・・いや、あの『大佐』を意識して、低く艶のある声を絞り出した。

 

「ふぎゅっ!? ・・・だ、駄目ぇ! 鼻血が、止まらない・・・ッ!」

 

闇の向こうで、めぐりちゃんが派手に崩れ落ちる音がした。

 

大丈夫か?

 

衛生兵〜!衛生・・・、は居ないな。

 

誰か、今すぐ彼女に治療魔法を!

 

「あらあら。・・・ねぇ、面白くなって来たわね? じゃあ、今度はみんなでリョウさんに、リクエストするのはどうかしら?」

 

静寂を切り裂いて放たれた哀さんの提案に、俺は戦慄した。

 

お父さんを一瞬で制圧した時よりも冷たく、そして楽しげな響き。

 

なんだか、どんどん俺のアイデンティティが削られていく。

 

暗闇の中から感じる気配は、いまや『次に何を言わせてやろうか』という、底なしの欲望に塗りつぶされていた。

 

俺の、俺としての尊厳が、音を立てて崩れていく予感がした。

 

「では、リョウ様。お願いがあります」

 

暗闇の向こうで、ミリィさんが居住まいを正した気配がした。

 

よし、来い!

 

もう何が来ても動じないぞ!

 

使徒でも大佐でも、なんだって演じてやる!

 

「あの・・・『愛してるよ、ミリィ』って、言って欲しいです」

 

「・・・はい?」

 

予想だにしない、あまりに直球な、純度百パーセントの愛の告白(の強要)。

 

某大佐のダンディな余韻が、一瞬で霧散した。

 

「ちょっ・・・! ずるいわよミリィ! なによその不意打ち、私だってそんなの言われたいに決まってるじゃない!」

 

ネアさんが、我慢しきれないといった様子で地団駄を踏むような勢いで反対意見を述べる。

 

「そうです! ミリィさんだけなんて、ズルいです! 言うなら私にも・・・いいえ、私にこそ言うべきです!」と、ユカさんまで殺気混じりの熱量で参戦。

 

「いいえ! その台詞はベッドの上まで取っておくべきです! リョウさん、今はダメ、絶対にダメです!」

 

ゴモリーさんは、相変わらず安定のゴモリーさんだな。

 

闇の中、各所から上がる抗議の声。

 

もはや、誰がどこにいて、どんな顔をしているのかも分からない。

 

ただ分かっているのは、この部屋の女性陣が、俺という一個人の人格を無視して『理想の音声素材』として俺を奪い合っているという、恐ろしい事実だけだ。

 

「・・・あ、あの、皆さん?俺のアイデンティティ、まだ残ってます?」

 

虚空に投げかけた俺の問いかけは、激しさを増す乙女たちの議論にかき消された。

 

これ、さっきのお父さんみたいに、俺も『意識を刈り取られた』方が幸せなんじゃないだろうか。

 

しかし、俺は決して『退かぬ、媚びぬ、省みぬ』の精神で、やり遂げてやる!

 

迷声優として、俺の新たな人生の幕開けだな!

 

「・・・リョウ、私は『お姉ちゃん、大好き!』って言って欲しい」

 

「私は〜、『マリー、二人で朝のモーニングボア揚げ丼大盛りを食べながら、チョコパフェで乾杯しよう!』って〜、言って欲しいな〜」

 

リリーさんは、まだ分かるよ?

 

マリーさん?

 

朝からボア揚げ丼の大盛りで、チョコパフェで乾杯って、どんなシュチエーションですか?

 

それ、ただマリーさんが今食べたいだけの『朝ごはんの願望』ですよね!? 迷声優に要求する『迷台詞』のレベルが高すぎませんか!?

 

「主、私は『瑞?俺でいいのか?』って言った後に、『私は、主じゃないと駄目なの!でも、初めてだから・・・』って言うから、『フッ、瑞が可愛すぎて、優しく出来るか分からんな。朝まで、寝かさないよ?』って言って欲しい」

 

瑞?

 

それは、かなりアウトな台詞なんだけど?

 

「僕は、『ポポ、凄く温かいよ?もう、ダメだ!』って、ちょっと切羽詰まった感じで言って欲しい!」

 

ポポ、俺を檻に入れたいのか?

 

そもそも、瑞の台詞より危険度が跳ね上がってるんだけど!?

 

なんていうか、光の翼を広げた機体が天に昇ったり、月明かりのような蝶の鱗粉で文明を滅ぼしたりするくらい、危険な発言だよ?

 

もうね、この部屋の理性が焼き払われるか、全部ナノマシンに分解されるかって状態なんだけど!?

 

「パパ、私は普通に話してる時の声が好きだよ。だから特にリクエストはないんだけど・・・あの時みたいに、またパパの歌が聴けたら嬉しいな!」

 

「私も、リョウさんの歌が聴きたいわね!」

 

珊瑚と哀さんから、歌のリクエストが来た。

 

珊瑚の頼みとあらば喜んで、だけど・・・なんだ?

 

今度は歌謡ショーの始まりか?

 

モノマネしながら、とか言うのは止めて欲しいです。

 

「大丈夫よ?誰かのマネして歌えとか、言わないから?」

 

ホッとしたけど、哀さんにまで心を読まれたのか?

 

まぁ、そんな事を気にしても仕方無い。

 

はじめてですよ?

 

ここまで俺をコケにした、おバカさん達は・・・?

 

俺は、某宇宙の帝王的な台詞を心の中で呟きながら、歌を選んだ。

 

かつて前世で『抱かれたい男』の称号をほしいままにした、あの長崎が生んだスーパースターの代表曲で、コレならリクエストの全てに応えられる!

 

モノマネはしないが、俺はあえて彼の最大の武器である『低音美声』を意識し、色気たっぷりの『吐息混じりの歌唱』を暗闇に響かせる。

 

その声は、日曜のラジオで軽快に下ネタを飛ばしている時のような親しみやすさと、狂おしいほどのセクシーさが同居した、あまりにズルい響きだった。

 

俺の魔導通信機から、音楽が流れる。

 

『ジャ〜ラ〜ン!ジャカジャカジャカジャカ!チャラ〜ラ〜チャララ〜』

 

某・美声低音歌手の、最高にセクシーな代表曲を、いつもの自分の声よりも少し深く、喉の奥を響かせるようにして歌い出した。

 

俺はわざと、本来の情熱的な愛を綴った歌詞をねっとりと狂おしい低音ボイスを響かせてやったのだ。

 

吐息をたっぷり含んだ低い声が、実体を持って暗闇へ溶けていく。

 

歌詞の一つ一つが、見えない指先となって彼女たちの耳元を愛撫していくような、錯覚。

 

「・・・ッ!!」

 

最後の一節を、熱い溜息とともに置き去りにして、俺は歌い終えた。

 

静寂が戻る。聞こえるのは、彼女たちの熱を帯びた吐息だけだ。

 

この暗闇は、確かに一種の『HEAVEN』だったのかもしれない。

 

俺が連れて行ったのが、甘い『楽園』なのか、あるいは二度と戻れぬ『天国』なのかも分からぬままに。

 

俺は、心の中で静かに付け加えた。

 

『・・・私の歌唱力は、53万です』とね。

 

 

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