異世界転生 作:MSZ-006
「リョウ、その歌はズルいわよ!」
「お兄ちゃん?『あんちゃ〜ん!』って言って欲しくなるよ!」
「す、凄い!リョウさん、その歌を魔導通信機に移して下さい!」
「リョウ様、そんな情熱的な歌を歌われたら、私もうダメです!」
「主、凄く素敵!」
「お父さん!もう一曲!」
「り、リョウ!?わ、私もう・・・」
「そうですね!ネアさん、私も・・・」
「パパ!素敵!私も、その歌移してね?」
「・・・リョウ、鼻血が止まらない。後、ドラマの台詞も希望」
「リョウ〜?すごく、色っぽい歌だね〜?リョウの声に聞き惚れちゃったよ〜!?」
「リョウさん?抱いて?」
「「「「「「「「「「「「!?それは、駄目!!」」」」」」」」」」」」
さ〜て、問題です!
上から順に、誰の台詞でしょう?
今回で何回目になるか分からない、自問自答のクイズを俺は脳内で勝手に再生する。
当たった方には、豪華サイン色紙プレゼント!って、誰も貰ってくれない物を引き合いに出しても、面白くないね。
正解は?
カオリ、めぐりちゃん、ユカさん、ミリィさん、瑞、ポポ、ネアさん、ゴモリーさん、珊瑚、リリーさん、マリーさん、そして藍さんの危険発言と、全員のツッコミでした!
藍さん、アンタ人妻だろう?
俺を、失楽園に誘惑しないで下さい。
後、めぐりちゃん?
俺と同じ転生者だけど、『前世で大ヒットした兄弟愛を描いた、あの涙なしには見られない国民的ドラマ』は、俺とカオリ、リリーさんくらいにしか伝わらないからね?
・・・敢えて言おう!
前世の俺は、ドラマなんて殆ど見ていなかったと!
じゃあ、なぜそんなシーンを知っているのか?
それは、たまたま点いていたテレビで『懐かしのドラマ特集』的なのが流れていたのを、横目で見ていただけなんだが・・・。
まあ、そんな余計な事はどうでもいい。
「みんな〜、これ配るよ!」
めぐりちゃんが暗闇の中で、何やらみんなに配り始めた。
すると、真っ暗だった部屋に次々と光が灯り、七色に輝く棒が幻想的な明るさを取り戻していく。
「サイリウムね?」
「そう!ボクが作った『魔導サイリウム』これで、お兄ちゃんの歌を盛り上げるよ!」
カオリとめぐりちゃんのやり取りを聞きながら、俺は確信した。
どうやら俺のワンマンショーは、まだ当分終わらせてもらえないらしい。
「ホッホッホ・・・私の歌を聴きたいとは、いい度胸ですね?良いでしょう!この私が、じっくりと歌って差し上げます!」
もうね、自分というキャラを統一できなくなっているよ。
だが、今の俺の精神状態と現場の状況に、これほどピッタリな曲はない。
俺が選んだのは、某・眼鏡の少年探偵アニメのオープニング。
前世では知らない者はいない超有名ユニットによる、疾走感溢れる『瀬戸際な手刀』だ!
イントロの激しいギターが、魔導通信機から鳴り響く。
めぐりちゃんの出したサイリウムは、ただのサイリウムでは無かったらしい。
サイリウムが振られる度に、文字を描く。
『こっち向いて!』
『愛してる〜!』
『抱いて〜!』
『課金させて!』
『一生、推します!』
『・・・添い寝券希望!』
そして、歓声が飛び交う。
「きゃー!リョウ、素敵〜!」
「お兄ちゃん、カッコいい〜!?」
「主、カッコいい!」
「パパ、手を振って!」
「リョウさん、抱いて!?」
俺は、抱いて以外のリクエストに応じる。
一曲、歌い終わった。
「アンコール!」
「もっと、聴きたい!」
「リョウ〜、素敵〜!」
「もっと、感じさせて〜!?」
最後の方、表現が危ないですよ!?
だが、ここまで来たら毒を食らわば皿までだ。
俺はヤケクソなテンションのまま、次の曲をセットした。
今度は、夢の中でお芝居しちゃう、あの『艶やかな大人の演歌』だ!
『カチン!』と、響く拍子木の音が静まり返った部屋に染み渡り、妖艶な和楽器と重厚なストリングスによる、色気たっぷりのイントロが流れ出す。
俺は、歌いながら流し目でみんなを眺める。
「その瞳、だ、ダメ〜!」
『でも、こっち見て!』
「はうぅ〜!」
『いよ!千両役者!』
様々な反応だ。
曲が終わりに近づくにつれ、俺の纏う空気はさらに熱を帯び、そして湿り気を帯びて、最後の一節を吐息に混ぜる様にして歌い切る。
その瞬間、俺は右手をスッと顔の前に掲げた。
そのすらりと伸びた五本の指が、まるで一流の役者が操る小道具のように美しく舞う。
人差し指から順に、流れるような動きで指を折り曲げ、自身の顔の半分を覆い隠す。
指の隙間から覗くのは鋭く、それでいて潤んだ様な『流し目』
そのまま視線をゆっくりと彼女たちへ向けると、隠していない方の唇をわずかに吊り上げ、ニヒルな微笑を浮かべる。
最後に、顔を覆っていた手を喉元へと滑らせ、喉仏のラインを指先でなぞりながら、ふっと力を抜いて静止した。
静寂。
七色のサイリウムが描く『千両役者!』の光の中に、一人の『男』が完成していた。
「り、リョウさん・・・今のポーズ、もう一度・・・。今度は、もっと近くで・・・っ!」
藍さん?
呼吸が荒いですが、大丈夫ですか?
「めぐりちゃん!今のちゃんと、撮ってた?」
「カオリさん、大丈夫!全方位から記録してあるよ、任せて!」
カオリとめぐりちゃんが、何やら不穏な事を言っている。
お客さん、撮影禁止ですよ?
「パパ、凄いね!演歌まで歌えるんだ!」
「そうですね。本当に、リョウ様は幅が広いですよね?」
珊瑚とミリィさんが、感想を述べる。
そんな褒めても、何も出ないよ?
でも、そんな事を言われたら、リクエストには応じるけどね?
「・・・次は、少し古い・・・。俺のいた場所の、古い歌だよ」
魔導通信機から、どこか哀愁を帯びたバイオリンの切ない旋律が、静かに流れ出す。
リョウが優しく爪弾くように歌い出すと、さっきまで騒いでいた藍さんやカオリたちも、思わず静まり返る。
「・・・貧しい恋人たちが、お互いを思いやりながらもすれ違う、物悲しいフォークソングですか」
リリーさんが、なぜか遠い目をして呟く。
「リョウさん、その歌・・・なんだか、胸が締め付けられます。銭湯から上がった後に、凍えそうな冬の寒さの中で、恋人を待ち続けている女性の気持ちを想像すると、胸が苦しくなります。この女性って、誰の事なんですか?」
ゴモリーさんが、捨てられた子犬のような不安な瞳で俺の横顔を見つめてくる。
・・・いや、ゴモリーさん?
これ、前世の有名な歌の歌詞ですからね?
俺の実体験じゃないですよ?
一方、ポポは。
「銭湯の外で待たされて、冷えた体を温めて欲しい!」
「ポポちゃん!?それ、良いわね!」
ネアさんが、ポポの言葉に同意する。
この世界にも、銭湯やスパ的な場所は存在する。
だが、前世と決定的に違うのは巨大な『プール』が、併設されていることだ。
そこでは泳ぐ事は勿論、水中戦闘の訓練まで行われる。
のんびり湯に浸かっている横を、巨大なスクリュー音を響かせて戦闘ロボが通り過ぎ、水中機動テストを繰り返している・・・なんて光景も珍しくない。
設備自体は前世と同じく、食事処やサウナ、シャワーも完備されているが、そのスケールは規格外だ。
ここにはペットやモンスター、さらには魔導ゴーレムまでもが一緒に入浴できる浴槽がある。
それゆえに、広さも深さも『超巨大プール』と呼ぶのが相応しい場所になっているのだ。
巨大な魔導ゴーレムが『専用の防錆・オイル配合の湯』にドボンと浸かれば、その横では『高圧洗浄』レベルのシャワーが、モンスターの頑固な鱗汚れやロボの油汚れを吹き飛ばしている。
因みに人間がそのシャワーを浴びれば、勢い余って肉まで削れる『ウォーターカッター』と化す為、使用は厳禁だ。
更に『食事処』に至っては、もはや宴会場と補給基地、あるいは牧場が混ざり合ったような様相を呈している。
人間がカツ丼を食べているすぐ隣で、戦闘用魔導ゴーレムが『高級魔導オイル』をジョッキで煽り、モンスターが『特大魔獣肉』に食らいつく。
そんな場所なのだ。