異世界転生 作:魔導科学
俺は、這々の体で部屋に戻った。
お父さん、哀さんの旦那様であり、めぐりちゃんの父親であるあの人との深夜の死闘。
その後、一方的な言い分を浴びせられ、心身ともに削り取られたという表現が正しいか。
お父さんは結局、シュウさんの仕事を受けると言っていた。
哀さんやめぐりちゃんには、話すつもりがあるのだろうか。
・・・いや、あの様子じゃあ、黙って押し通す気満々だろうな。
哀さんに、伝えた方がいいのか?
けれど、せっかく男同士で腹を割って話したのだ。
それを即座に密告するのは、同じ男として気が引ける。
一体、どうするべきか。
だが、そんな葛藤も限界を迎えた疲労には勝てなかった。
答えの出ない思考を巡らせているうちに、いつの間にか俺は泥のような眠りに落ちていた。
そして・・・。
翌朝、目が覚めた俺は、自分の置かれた状況に驚天動地する。
「・・・っ!? み、身動きが取れない!」
なんということでしょう?
昨夜、孤独な死闘でボロボロになったあの心身は、匠の大胆な空間活用術によって、一分の隙間もない『愛の要塞』に閉じ込められてしまったではありませんか。
俺の体には、これでもかというほど『誰か』がびっしりと張り付いている。
右にも左にも、そして上にも。
えっ? 何、この状況!?
器用に上に乗ってるなんて、正に匠の技!?
「あら? 起きたの?」
左側にいた哀さんが、事も無げに問いかけてくる。
「うふふ、お兄ちゃん、エッチィ〜・・・」
右側では、めぐりちゃんが幸せそうな寝言を漏らしていた。
・・・ねぇ、それ絶対起きてるよね?
さらに上で、珊瑚がモゾモゾと動く。
「哀お母様、そろそろ交代の時間ですけど・・・あら? リョウさん、起きちゃいましたか?」
入ってきたゴモリーさんが、哀さんにそんな報告を告げた。
交代時間?
一体、何の話だ?
「リョウさん、もう暫く寝てて? 寝れないなら、強制的に・・・」
「わ、分かりました! ね、寝ます!」
俺は、必死に目を瞑る。
昨夜、怪談話に乱入してきたお父さんのように、物理的に意識を刈り取られるのは御免だ。
「ゴモリーさん、リョウさんはまだ寝てるから大丈夫よ」
哀さんが笑顔で応じ、耳元で「リョウさん、また後でね?」と囁いて離れていった。
俺の精神が、崩壊寸前なんだけど!?
一体全体、どうなっているんだ。
哀さんと入れ替わりでやってきたのは、ミリィさんだった。
薄目を開けて様子を伺うと、彼女は顔を真っ赤にしながら俺の隣に滑り込んできた。
そして、ギュッと俺の体に抱きついてくる。
「・・・リョウ様、温かいです」
耳元に届く、吐息混じりの囁き。
これは一体、何の拷問だ?
しばらくすると、上に乗っていた珊瑚が目を覚まし、名残惜しそうに俺の上からどいた。
「パパの上で、寝ちゃった!」
嬉しそうに、はしゃぐ珊瑚。
・・・あぁ、うちの娘は今日も可愛い。
だが、余韻に浸る暇もなくミリィさんがそっと俺の胸に手を置いた。
「・・・リョウ様、起きてますか?」
優しい声が、耳元を擽る。
しかし、俺は鉄の意志で無言を貫く。
今、ここで『起きてます』なんて白状したら最後。
きっと、取り返しのつかない大変なことになる予感しかしないからだ。
「めぐりちゃん?交代よ!」
「え〜?もう、そんな時間?」
めぐりちゃんに声をかけたのは、ネアさんだった。
入れ替わりでやってきたネアさんが、俺の傍らに滑り込む。
「り、リョウ? 寝てるのよね……?」
「ネアさん、大丈夫です。私が確認しました」
ミリィさんの小声の報告が聞こえる。
ごめん、二人とも。
本当は、バッチリ起きてるんだ・・・!
俺は鋼の意志で、ひたすら無反応を貫く。
「リョウ・・・っ」
ギュッと、俺の腕を抱きしめるネアさん。
もはや俺の心臓は、限界を超えたスピードで早鐘を鳴らしていた。
さらに、追い打ちをかけるように扉が開く。
次に現れたのは、マリーさんだった。
「リョウ〜、上に乗っちゃうよ〜!」
宣言通り、マリーさんが俺の腹の上にダイブしてくる。
ドワーフ族の彼女は、見た目だけならどこからどう見ても可憐な少女にしか見えない。
犯罪臭が、プンプン漂っている。
今この瞬間、知らない人間に『兵隊さん、こいつです!』と指を差されたら、俺の余生は牢屋の中で終わるだろう。
「うふふ〜。リョウ、すごく顔が赤いよ? 本当に寝てるの〜?」
マリーさんが俺の胸板に頬を寄せ、悪戯っぽく笑う。
その振動がダイレクトに伝わり、俺の『オリハルコンの意志』という名のダムは決壊寸前だ。
「マリーさん、あまりリョウ様をいじめてはいけません。・・・と言いつつ、私も離れる気はありませんが」
反対側でミリィさんが抱きしめる力をさらに強めた。
左に可憐な美女、右に猫耳、尻尾の若い獣人族の可愛い女の子、そして上には、美少女にしか見えないドワーフ娘(二十歳)。
さらには、どこかで様子を窺っているであろう哀さん。
まさに逃げ場なし。四面楚歌ならぬ、四面楚『愛』
・・・いや、これ全員『起きてる』の知っててやってるだろ!?
「あれ〜? なんかプルプルしてる〜? リョウ、起きた〜!?」
「待ってくださいマリーさん、まだ確認が必要です。心音を・・・」
「リョウ、覚悟を決めなさい・・・?」
三者三様の追撃がくる。
もはや、眠ったふりも限界だ。
俺は年貢の納め時と悟り、薄らと、本当に薄らと目を開けた。
「おはよう、ございます・・・皆様」
その瞬間、部屋中に歓声と、一部の怪しい溜息が沸き上がった。
俺の一日が、かつてない騒がしさとともに幕を開ける。
昨夜の秘密を胸に抱えたまま、俺は『これからどう生き延びるか』を、真剣に考え始めたのだった。