異世界転生 作:魔導科学
現在、俺は地獄(?)の包囲網から命からがら脱出し、哀さんの手料理を堪能中である。
「美味しいです! 特に、この玉子焼き!」
俺は、黄金色に美しく焼き上げられた一切れを口に運ぶ。
俺にとって玉子焼きとは、前世から『砂糖入りの甘いもの』が至高と決まっている。
まぁ、前世じゃカロリー計算だのなんだので、可能な限り砂糖を使用しないで料理してたけどね。
今の俺は、断言する。
俺は、狂おしいほどの甘党なのだ!
どれほどかと言えば、蜂蜜入りのオレンジジュースで黒糖パンを流し込めるほどに。
そんな事をしたら、高血糖で大変な事になるからしなかったけどね?
俺のくだらない前世の話はさておき、哀さんの玉子焼きは素晴らしい。
味付けは、おそらく醤油と砂糖のみ。
しかし、それゆえに、この純朴かつ暴力的なまでの『甘美』が成立しているのだ。
食べた瞬間、口の中に小宇宙が広がる。
伝説的な陶芸家であり、美食の求道者でもあるあの男・・・。
実の息子が提案したメニューを鼻で笑い、『浅はかだな。食の真髄も知らぬ者が、よくぞ至高を語れたものだ』と言い放ち、『料理とは単なる食事ではない。器、空間、そして精神が調和して初めて完成する芸術なのだ』とか抜かしそうな、あの傲岸不遜な美食の巨匠。
彼がここにいたとしても、この玉子焼きを一食すれば、無言で箸を置いて自身の非礼を詫び、その場で『食の聖域』の会員証を差し出すに違いない。
それほどまでに、この甘みは『至高』を超え、『真理』にまで到達している。
伝わるかな、この感動?
「いやねぇ! リョウさんたら。ただの砂糖と醤油で作った玉子焼きよ?でも、そんな風に言ってもらえると、本当に作り甲斐があるわ!」
哀さんは、頬をほんのりと桃色に染め、お玉を手にニコニコと顔をほころばせた。
その笑顔は、朝の陽光よりも眩しく、毒気の一切を浄化してしまいそうなほど慈愛に満ちている。
さき程までの『至高』だの『究極』だのといった殺伐とした脳内美食談義が、彼女の朗らかな一言で一気に『温かな家庭の食卓』へと引き戻された。
だが、これこそが俺の求めていた真理だ。
どれほど高価な食材を並べるよりも、自分の好みを理解し、心を込めて焼いてくれた玉子焼きに勝るものなど、この世に存在するはずがない。
「リョウさん、おかわりもたくさんあるから、遠慮しないで食べてね?」
そう言って、哀さんがさらに皿へ一切れ、黄金色の塊を添えてくれる。
その献身的な優しさに甘えながら、俺はふと、昨夜の『お父さん』との死闘を思い出した。
この穏やかな食卓を、あの強面な旦那さんは守ろうとしている。
たとえ、家族に内緒で危ない橋を渡ることになったとしても。
喉を通る玉子焼きの甘みが、少しだけ切なく、そして一層深く感じられた。
「ところで、リョウさん? 夜中、どこに行っていたのかしら?」
哀さんが、湯気の立ち上る味噌汁を俺の前に置きながら、さらりと聞いてきた。
心臓が跳ねた。
彼女の声音は穏やかだが、すべてを見透かされているような妙な圧がある。
「えっ・・・あ、すみません!夜中にトイレに行きたくなって・・・。起こしてしまいましたか?」
俺は、咄嗟に嘘をついた。
昨夜、お父さんと死闘を繰り広げた手前、正直に話すわけにはいかない。
哀さんは、俺の目をじっと、射抜くような深淵な瞳で見つめてきた。
数秒の沈黙。
その間、俺の背中には嫌な汗が流れる。
「そう? なら、いいの」
哀さんは満面の笑みでそう答え、いつもの慈愛に満ちた表情に戻った。
・・・怖い。
今の『間』は何だ?
昨日、お父さんが物理的に意識を刈り取られて沈黙させられていたが、それよりも哀さんの場合、精神の奥底をスキャンされているような、別の次元の恐怖がある。
「さあ、冷めないうちに召し上がれ?」
促されるままに味噌汁を啜るが、出汁の深みとともに『絶対に隠し通せるのだろうか?』という不安が、喉の奥に苦く残った。
そうだ!
話を変えよう。
今、俺たちは魔導キャンピングカーの食堂で、哀さんが腕を振るった料理を囲んでいる。
ふと、昨日から気になっていたことを切り出してみた。
「皆さん、昨日使っていたのが皆さんのメイン武装なんですか?」
「私は父から贈られた高位魔導武器『エピオン』です。ギリシャ語で『未来を切り拓く』と聞いています。他にもいくつか所持していますが、やはりこれが一番馴染みますね」
ミリィさんが愛用の細剣について教えてくれた。
エピオンか、格好いいな!
突然、爆発とかしないよね?
ミリィさんの剣に限って、そんな物騒な機能はないと思うけどね?
「私はリョウがくれた魔導光学ソードに魔導ヒートガン、あとは・・・私が生まれる前の『牛ロボット』の武装ね」
カオリが、たくあんをポリポリと噛みながら答える。
うん、それはよく知ってる。
前に全武装を見せてもらった時は、その重火力に度肝を抜かれたものだ。
「・・・パパ?私、武器持ってない」
珊瑚が悲しそうに空の茶碗を哀さんに差し出し、お代わりをよそってもらう。
「さ、珊瑚?大丈夫だぞ!ちゃんとプレゼントするから、どんなのがいいか考えておいてくれ」
「主、珊瑚ちゃんだけズルい。私も武器が欲しい」
瑞が口を尖らせながら、ビッグチキンの唐揚げに齧り付く。
「そうだな、瑞にも必要だな。どんな武器がいい?」
「主みたいに、刀と銃がいい!」
「リョウさん、そうなるとポポちゃんも武器がないですよ?」
ユカさんの指摘にハッとする。
確かに、ポポの分も考えないとな。
「ご主人、僕は徒手空拳で大丈夫だよ?」
「ダメよ、ポポちゃん!外には凶悪なモンスターも、犯罪者紛いの冒険者もいるんだから。装備はしっかり整えないと」
たしなめるユカさんに、ポポがたじたじになっている。
「でも瑞ちゃん、武器には相性があるのよ?」
話を聞いていたゴモリーさんが、瑞にアドバイスをくれる。
「私は昨日トンファーを使ったけれど、戦況に合わせて獲物を変えるの。私は、使える武器は多種多多様よ?良かったら後で、いろいろ試してみる?」
「はい!お願いします」
ゴモリーさんは武器のスペシャリストなのか。
昨日の華麗なトンファー捌きも納得だ。
「私は腰の『高位魔導ウルミ』がメインだけど、他にも高位の魔導武器をいくつかストックしているわ」
哀さん特製の大盛りサラダを、ネアさんが小皿に取り分けながら言う。
「ネアさん、なぜ複数の武器を?」
「簡単なことよ。冒険者なんて危険な仕事をしていれば、予備は必須でしょう?弾き飛ばされたり、壊れたりした時に丸腰だったら死ぬわよ?」
「なるほど、勉強になります!ありがとうございます、ネアさん」
ネアさんは、サラダが山盛りになった小皿を「ほら」と、俺の前に差し出してくれる。
「ま、まぁ・・・私はリョウの先輩だし?可愛い後輩に教えるのは当然よ」
ネアさんが顔を赤くしてサラダを頬張る。
ツンデレなところは、相変わらずだ。
「私はね〜、バトルアクスと防護盾だよ〜。どっちも高位の魔導武器〜!あとは予備の魔導サーベルと、『魔導バースト・シールド』かな〜」
マリーさんが、スノーミルク・バイソンの牛乳ラーメンと白米を交互に口に運びながら答える。
そういえば、マリーさんの斧って前世の某ロボットアニメで、量産型ロボットが熱を帯びた斧みたいだよね。
・・・あ、あれは片刃だけど、マリーさんのは両刃だな。
「マリーさん、その『魔導バースト・シールド』って、どんな盾なんですか?」