異世界転生 作:魔導科学
「『魔導バースト・シールド』はね~、攻撃の衝撃を吸収して、爆破に変換して放てるシールドなんだよ~!」
なる程!
まさに攻防一体、とんでもない盾だ。
「じゃあ、昨日はなぜ使用しなかったんですか?」
俺の問いに、リリーさんがマリーさんをフォローするように答える。
「・・・リョウ、あれは殺し合いじゃない。単なる手合わせ、組手みたいなもの。だから、本気の『一撃必殺』は、必要ない」
「そうですね。私も愛用のエピオンを使用しましたが、あれでも本気ではありませんでしたよ?」
ちょっと、待って?
あれが、本気じゃなかったのか?
「そうよ、リョウさん。母娘で本気の殺し合いなんてするはずないじゃない?」
「そうだよ、お兄ちゃん! 家では日常的に、あんな感じだよ?」
め、めぐりちゃん・・・。
なんだか彼女たちが、とても遠い存在になってしまった気がする。
「リョウさんは?」
哀さんが、じっと俺を見つめて問いかけてきた。
その瞳は、まるでこちらの隠し事を見透かしているかのようだ。
「お、俺ですか? 俺は前世で居合をやってたんで、胴田貫を持ち歩いてますし、あとは愛銃のルシファーですね」
「・・・リョウさん? それだけじゃないでしょう?」
哀さんが、さらに一歩踏み込んでくる。
「リョウ、合気道を忘れてるわよ?」
カオリがスノーミルク・バイソンの牛乳を一口飲み、さらりと俺に言った。
「そ、そうだった! 俺は前世で、合気道をやってたんですよ。・・・まあ、級も段も取ってないんですけどね」
哀さん、もしかしてお父さんとの真夜中の死闘に、やっぱり気づいているのか?
「あら? やっぱり!普段の動き方がそうじゃないかと思ったのよ!」
哀さんは満足そうにニコニコしながら席に座り、ご飯を食べ始めた。
「・・・私は普段、いつもの魔導アーマーを使っている。でも、無いときは昨日みたいに変身する」
リリーさんが、いつもの眠そうな目を細めながら答える。
普段の魔導アーマーって、あのガスマスクを装着した、ゴツくて巨大な重装甲の・・・一見すると大男にしか見えないアレだよな?
「リリーさん、あの某宇宙刑事っぽい銀色の魔導アーマー、めちゃくちゃ格好いいですよね!」
「・・・リョウなら、そう言うと思った。やっぱり、銀色が原点にして至高」
リリーさんが『えっへん!』と、誇らしげに胸を張る。
見た目は可憐な美少女なのに、その力を想像すると、色んな意味でヤバいな。
「リョウ、鼻の下が伸びてるわよ?」と、カオリにジト目で見られる。
「・・・私のウルミだって、カッコいいのに」と、ネアさんが少し対抗意識を燃やしている。
「ボクはね~、忍だから内緒!」
めぐりちゃんが、茶目っ気たっぷりに言う。
「・・・そうか、それは残念だな?」
俺は、シュウさんならぬ、サングラスで赤い袖無しノースリーブの某大尉を真似して言ってみた。
「お、お兄ちゃん? その言い方、ズルいよ!私は、忍刀と手裏剣、苦無、後は鉤縄とかだよ?」
めぐりちゃんは頬を染めてモジモジしながら、指を折って数え始めた。
「あとはね、遠くから狙う吹き矢に、相手の足を止める撒菱! 隙を見て投げる煙幕も持ってるし・・・。あ、隠し武器に万力鎖と鉄扇もあるよ!これで満足? 因みに全部、高位の魔導武器で、ボクのお手製なんだ!」
「う、うん・・・。流石に、本格的だね」
出るわ出るわ、物騒な道具のオンパレード。
流石、魔導クリエイティブ・マイスターの資格を持つだけあって、すべて手作りの逸品らしい。
「ふふ、リョウさん。めぐりは、自作の簪も暗器にしているのよ?」
哀さんが、楽しそうに付け加える。
「あ! お母さん、それは本当に内緒だったのに~!」
めぐりちゃんが、顔を赤くして抗議する。
そういえば双六の時代劇編で、めぐりちゃんは簪を使っていたっけ。
「それなら、めぐりちゃんに珊瑚とポポ、瑞の武装をお願いしようかな。俺のも、お願いするかもしれない。・・・もちろん、ちゃんと料金は支払うからね」
「お兄ちゃんのお願いなら、いいよ! お金なんていらないよ~」
「めぐりちゃん、それは駄目だよ。自分の作品に対する対価をきちんと受け取らないのは、めぐりちゃんの芸術作品そのものを、汚すことになっちゃうからね」
「・・・! うん、ありがとう、お兄ちゃん!」
まっすぐな俺の言葉に、めぐりちゃんは嬉しそうに大きく頷いた。
「私は、量販店で投げ売りされているナイフに、特殊警棒・・・。あとは、CQCだけです」
ユカさんが、食後のデザートを優雅に楽しみながらさらりと告げる。
その物腰からは想像もつかないほど、実戦的な『獲物』の選択だ。
「じゃあ、ユカさんの武器もボクが新しく作るよ!」
その言葉を聞いた瞬間、めぐりちゃんが待ってましたと言わんばかりに身を乗り出した。
マイスターとして、投げ売りの武器を使わせている現状が我慢ならなかったらしい。
「めぐりちゃん、ありがとう!」
ユカさんは、本当に嬉しそうに微笑んで返事をする。
出会ったばかりの頃、めぐりちゃんがユカさんを『オバさん』呼ばわりして、それはもうギスギスした火花を散らしていた。
あの険悪だった二人が、今ではこうして笑い合い、互いの武器について語り合えるようになっている。
本当に、仲良くなれて良かったな。
俺は二人のやり取りを見守りながら、密かに胸をなでおろした。
ふと、俺は美味しそうにご飯を食べる哀さんを見る。
「なぁに、リョウさん? 私のことが気になるの? でも、駄目よ? 私は人妻なんだから。そんな情熱的な目で見つめられても、私には旦那が居るんですもの」
「い、いえ! 哀さんは、どんな武器を使われるのかと思いまして・・・」
「リョウさん?人妻の秘密を知りたいの?それは、私を口説いているのかしら?」
哀さんは悪戯っぽく微笑みながら、小首を傾げて俺をからかってくる。
この人は一体、どこまでが本気でどこからが冗談なのか、さっぱり分からない。
「・・そ、そういえば、お父さんはどちらに?」
冷や汗を誤魔化すように話題を逸らすと、哀さんは箸を止め、ゆっくりと俺の目を見つめてきた。
「あの人なら、今朝早くに仕事に行くって出ていったわよ? ・・・リョウさんなら、てっきり『一番よく』知っていると思ったのに」
その一言に、背筋が凍るような感覚を覚えた。
『知っている』という言葉に込められた重み。
哀さんは、俺の目をじっと覗き込んだまま、意味深に口角を上げる。
・・・やっぱり、気づいてる。
いや、確信してるな、これ。
昨夜、真夜中に繰り広げたお父さんとの、あの死闘。
隠しておきたい俺の動揺を見透かすように、彼女は一歩、また一歩と優雅に踏み込んでくる。
「どうしたの? リョウさん。そんなに汗をかいちゃって」
逃げ場のない問い詰めが、静かに、そして確実に俺を追い詰めていく。
「いえ! なんでもありません」
俺は、逃げるようにそっと目を逸らし、思考を巡らせる。
ここまでバレているなら、いっそ正直に打ち明けるべきだろうか?
いや、ダメだ。
昨夜のことは、男同士が命を懸けて交わした秘密のようなもの。
それを自分から白状するなど、俺の矜持が・・・男としてのプライドが断じて許さない。
たとえ、哀さんの目がすべてを語っていても・・・俺の口からは言えない。
俺は必死にポーカーフェイスを保ちながら、手元の箸を動かした。
朝食が終わり、哀さんは「片付けをしておくわね」と言ってキッチンへ消えていった。
嵐の去ったような安堵を感じつつ、俺たちは魔導キャンピングカーの外へと足を踏み出す。
「ウヴァ~・・・」
「ガルルッ!」
うん、相変わらず周囲はゾンビやゾンビ犬が跋扈している。
そんな地獄絵図などお構いなしに、ゴモリーさんが手際よく自身の所持武器を並べ始めた。
「珊瑚ちゃん、瑞ちゃん、ポポちゃん。好きな武器を選んでみて? 実際に手に取って、しっくりくるものを試してみるのが一番よ」
並べられた獲物は、まるで武器の訪問販売かと思うほど多種多様だ。
「ゴモリーさん、コレって何ですか?」
珊瑚が手に取ったのは、三節棍だな。
「それは、三節棍って言う武器なんだけど、ちょっと特殊でね?」
ゴモリーさんが珊瑚から三節棍を受け取り、軽く魔力を流す。
すると、三つに分かれていた節がカチリと噛み合い、一本の頑丈な棒へと変化した。
「こうやって、棍としても使えるのよ!」
ビュンビュンと激しい風切り音を響かせ、ゴモリーさんが鮮やかな演武を披露する。
変幻自在に形を変える棍の動きに、珊瑚の目がキラキラと輝き始めた。
「ゴモリーさん、コレは?」
そう言って、ポポが手に取ったのは、不思議な装飾が施された二つの大きな金属の輪で、真ん中にグリップがある。
前世のゲームで、見たことがあるな。
「それは、陰陽乾坤圏って言って、二つ一組で使うの」
そう言って、ゴモリーさんはポポから陰陽乾坤圏を受け取り、演武を始めた。
踊るような可憐な体術とともに、二つの圏がシュンッと鋭く空を斬る。
「後ね、この陰陽乾坤圏には、こんな使い方もあるの」
ゴモリーさんが、陰陽乾坤圏を誰もいない方向へ投げつけた。
すると、円を描きながら回転し、自らゴモリーさんの手元へと戻ってくる。
「この陰陽乾坤圏は、使用者の魔力を登録しておくと、投げてもこうして戻ってくるのよ」
ポポは、興味深そうにゴモリーさんから手渡された武器を眺める。
「ゴモリーさん、こっちのトゲトゲは?」
今度は瑞が、別の武器を手に取っていた。
トゲトゲって・・・。
「それは『サイ』という武器よ。昨日使ったトンファーと、組み合わせて使うこともできるの」
まず初めに、ゴモリーさんがトンファー演武を見せる。
そして、今度はサイとトンファーを組み合わせた演武を見せてくれる。
凄いな!
「ゴモリーさん、凄くカッコいいです!」
俺は拍手しながらゴモリーさんを褒める。
「そ、そんなリョウさんたら、私はいつでも結婚できますよ?何なら、リョウさにも手取り足取り・・・教えましょうか?」
ゴモリーさんの笑顔が妖艶な雰囲気を含んでいる、
「あ、有難う御座います!ゴモリーさん、でも俺は胴田貫とルシファーがあるので・・・」
「リョウさん? さっきネアさんも言ってましたが、護身用の予備武器は必要ですよ?」
「はい・・・一応、これがあるんですけどね」
俺は、懐から一枚のタロットカード『No.13・DEATH』を取り出して見せる。
「リョウさん、タロットカード・・・ですか?」
「はい、これは高位の魔導武器なんです」
俺が誰もいない空間へカードを放り投げると、それは生き物のように縦横無尽に飛び回り、鋭い軌跡を描いて手元へと戻ってきた。
「こんな風に、俺の思念波を魔力で感知して操れるんですよ」
「リョウさん!? やっぱり、もっと武器を持ちましょう! そして、私が手取り足取り、みっちり教えてあげますっ!」
ゴモリーさんが、指をワキワキさせながら獲物を狙うような目で近付いてくる。
・・・ゾンビより怖いと感じるのは、気のせいだろうか。