異世界転生 作:魔導科学
「ちょっと、みんなで組手してみましょうか?」
ゴモリーさんが、珊瑚とポポ、瑞を促して少し離れた場所へ移動する。
「三人同時に、いらっしゃい?」
三対一。
相手は、身体能力の高い三人だ。
俺の心配を他所に、ゴモリーさんは危なげなく、すべての攻撃をいなしていく。
「あらあら?瑞ちゃん、筋が良いわね」
いつの間にか、哀さんが俺の隣で観戦していた。
暫くして「じゃあ、武器を選びましょうか」と、ゴモリーさんが組手を切り上げる。
「ゴモリーさん、強い!一発も当たらなかった!」
「うん。僕の攻撃、全部避けられたよ」
「私も。すべて流された・・・」
三人が口々に感嘆の声を漏らす。
ゴモリーさんは「本気じゃなかったからよ。本気を出されたら、私だって危なかったわ」と笑うが、俺の目には到底そうは見えない。
あの三人を相手に、三対一で無傷。
ゴモリーさん、どんだけ底知れないんだ。
「それじゃ、どの武器がいいかしら?」
「ゴモリーさん、私はこれにします!」
珊瑚が手にしたのは、先ほどの三節棍。
「僕は、これがいいな」
ポポは円環状の武器、陰陽乾坤圏を選んだ。
「私は・・・まだ決まらない」
瑞だけが、困ったように武器の山を見つめている。
「珊瑚ちゃんとポポちゃんは、それぞれの動きに適した武器を選んだわね。瑞ちゃん、それなら琉球古武術の武器を一通り学んでみる?」
ゴモリーさんのアドバイスに、めぐりちゃんも後押しする。
「瑞ちゃんのスタイルって忍法体術に通じるところがあるから、きっと合ってると思うよ!」
「そうね。瑞ちゃんさえよければ、うちに弟子入りする?」
哀さんの突拍子もない提案が飛び出した。
「あの、よろしいんですか? 弟子入りなんて」
「ええ。私はここの仕事以外に、忍法体術の道場もやってるの。門下生が増えるのは嬉しいことよ」
まさかの道場主。
哀さんの『最強の主婦』オーラに、また一つ裏付けが増えた。
「瑞はどうしたい? 哀さんに弟子入りしたいなら、俺からお願いするけど」
「主・・・私は、主のように強くなりたい。哀さん、お願いします」
いや、瑞さん?
君、すでに俺より何倍も強いよね!?
「瑞もこう言ってますので、お願いします・・・先生!」
俺が頭を下げると、哀さんが人差し指をチッチッと振った。
「先生って、呼ぶのはダメよ。そこは『哀さん』って呼んで?はい、やり直し!」
「・・・瑞もこう言ってますので、お願いします、哀さん」
「うん! 任せて。よろしくね、瑞ちゃん」
「こんにちは〜!さっきの組手、なかなか素晴らしい動きでしたね?」
そこに現れたのは、岡持ちを提げたフォンファさんだった。
「こんにちは、フォンファさん。出前ですか?」
「あら、フォンファちゃん?ちょっと寄っていかない?」
哀さんとフォンファさん。
意外な顔合わせだが、二人も知り合いだったのか・・・?
「こんにちは!リョウさん、囃子原リーダー!私は九龍エリアの出前帰りなんですけど、ちょうど組手をしているのが見えて」
フォンファさんが近くに来て、岡持ちを地面に置いて話し始める。
「フォンファちゃん、リョウさんと知り合いだったの?」
「はい!リリーさんとカオリさんと一緒に、実家の店に来ていただいたんです。昨日も・・・」
フォンファさんと哀さんが世間話を始める。
囃子原リーダー・・・なる程。
哀さんとお父さんはゲームセンターの店員だと言っていたが、哀さんはこのゾンビゲーム内のコミュニティでリーダーをやっているのか。
「ところで、リョウさん。私もちょっと手合わせしたいんですが、良いですか?」
「手合わせですか?」
「はい!そこの色黒の可愛い女の子、もの凄く素質があります!」
ポポのことか。
「本人が良いと言うなら・・・」
「お父さん?僕は良いよ!是非、お願いします」
ポポが、フォンファさんに丁寧に頭を下げる。
「うん、じゃあ、お願いします!」
二人が少し離れた場所に移動し、お互いに礼を交わす。
ポポは黙礼。
対するフォンファさんは、左の拳を右の掌で包むーーカンフー映画でお馴染みの『抱拳礼』だ。
そして、組手が始まった。
ポポの動きには、野生の獣のような鋭い突進力がある。
対してフォンファさんは、本場の中国拳法だ。
地を鳴らすような鋭い踏み込みでポポの突進を真っ向から迎撃し、電光石火の反撃を叩き込む。
しばらくして組手を終えた後、フォンファさんが目を輝かせて言った。
「ポポちゃん、弟子にならない?私なら、あなたの実力をもっと高められるわ!」
「う〜ん、ご主人に聞かないと・・・」
「ポポちゃんは、どうしたい?強くなりたいなら、弟子入りしても良いと思うわ」
隣に来たユカさんが、優しく問いかける。
「僕は、ご主人やお父さんと同じように強くなりたい!」
「なら・・・是非、お願いします!」
ユカさんが深々と頭を下げる。
・・・いや、ポポさんや。
君、確実に俺より強いからね!?
「はい、よろしくお願いします!では早速、一つ技を伝授しますね」
フォンファさんが実演を交えて教え始めたのは、独特の足運びから体を預けるような体当たりだった。
・・・あれって確か、『鉄山靠』だよな?
俺はその独特な動きを見て、前世で読んだ漫画を思い出した。
拳法の達人である祖父に育てられた少年が、不屈の精神で強敵たちに立ち向かっていく熱い物語・・・。
その中で、八極拳の代名詞として描かれていたのが、今の技のはずだ。
「ゴモリーさん、今の・・・『鉄山靠』ですよね?懐に飛び込んで、背中や肩でぶつかるっていう」
「あら、リョウさん。よく知っていますね」
ゴモリーさんが意外そうに目を細め、妖艶な笑みを深めた。
「これは八極拳という武術の基本ですよ。至近距離からでも山を弾き飛ばすほどの衝撃を与えるーー私の大好きな技の一つです」
そして、彼女は俺の耳元に顔を寄せた。
「リョウさん?興味があるなら、今からじっくり・・・それこそ骨の髄まで、教えてあげますよ?」
・・・いや、それは『教わる』というより、普通にボコボコにされる未来しか見えないんですが。
あと、その妖艶な瞳の奥に潜む『狩人の色』が、非常に危険なんですけど!?
「じゃ、ちょっと武器を作っちゃうね〜」
その横で、めぐりちゃんがガオキッチンに作業台を運ばせて作業を開始した。
流れるような職人技に目を奪われているうちに、フォンファさんが岡持ちを持ち直す。
修行の第一段階は終わったようだ。
「じゃあ、私は戻りますね!ユカさん、いつでも連絡してくださいね」
「はい、よろしくお願いします」
「リョウさん、また!」
俺も頭を下げる。
やりたいことが見つかるのは、素晴らしいことだ。
若いんだから、精一杯頑張れ!
・・・って、俺ついこの間生まれたばかりだったわ。
精神年齢に引っ張られすぎだな、俺・・・。