異世界転生 作:魔導科学
「取り敢えず、弘崎くんに連絡してみるよ」
俺は魔導通信機を起動し、弘崎くんを呼び出す。
着信相手が分かっているはずの通信機から、低く、どこか芝居がかった声が響いた。
『・・・ふっ。このタイミングでの通信・・・「機関」の連中も動き出したか』
あまりに『らしい』第一声に俺は、相変わらずいつもの弘崎くんだな・・・と苦笑しながら答えた。
「すみません、弘崎くん。機関の連中はまだ大丈夫だと思いますが、新たな転生者に出会いまして・・・」
『リョウさんですか!? ・・・っ、すみません!また奴らが動き出したのかと思って、うっかり仲間と会話している時の言葉が出てしまって・・・。って、また新しい転生者ですか!?』
俺だと分かっていて格好つけたのをマジレスされ、弘崎くんは一瞬で素のトーンに戻って焦りながら言い訳を並べた。
しかし、『転生者』という単語を聞いた途端、その声には隠しきれない興奮が混じる。
「そうなんです!しかも、弘崎君も知ってる人でした!」
『えっ、俺の知り合い!? ・・・ヤツか?いや、それともアイツか!? 聖痕もなしに境界を越えてきたというのか・・・。リョウさん、一体誰なんですか!?』
「それでですね、これからその人と一緒に、弘崎君のお店に行こうかと思いまして。大丈夫ですか?」
『はい! こちらは全く問題ありません! 奴等に気付かれないよう、気を付けて来てください。あと、そいつの背中に「聖痕(スティグマ)」はありませんでしたか!?』
「背中ですか?それは確認できないので、見てないですね」
『・・・分かりました。背中に「聖痕」があったら、俺から離れてください!リョウさんまで巻き込んでしまう!』
「分かりました。多分、大丈夫だと思いますよ。では準備が終わったら、また連絡しますね」
『分かりました!お気を付けて!』
魔導通信機を切り、めぐりちゃんを見る。
「お、お兄ちゃん?お兄ちゃんになら、良いよ?」
そう言って、めぐりちゃんが服を脱ごうとする。
「ちょ!ちょっと待って!何でこんな所で、脱ごうとするの!?」
「だ、だって、私の背中を見たいんでしょう?ここなら、みんなから見えないから大丈夫!・・・恥ずかしいけど、でもお兄ちゃん、こういうの好きでしょう?」
「違う!違うからね!めぐりちゃん、頼むから脱がないで!?」
「でも、お兄ちゃん!カオリさんの話では、緊縛とか露出とか・・・」
「カオリぃ〜〜〜!!」
また、昨日のトラウマが甦る!
「・・・リョウさん、めぐりに一体、何してるのかしら?」
「お母さん、違うの!決してアブノーマルな事を強要されてた訳じゃないの!ただ、転生者に会うために私の身体を・・・」
「リョウさん?ちょっと、向こうでお話しましょうか?」
それから、みんなの前で公開処刑ならぬ公開尋問が行われた。
俺は昨日と同じく正座の姿勢で、身振り手振り、ボディーランゲージ、この世界の法律、更に片言の英語や中二病的な台詞、果ては前世のアニメの台詞のモノマネまで交えて、みんなの前で一生懸命に説明した。
「そう。分かったわ、リョウさん。でも、弘崎さんの店には私も同行するからね?」
哀さんの途轍もないプレッシャーを浴びながら、俺は「はい」と小さく返事をする。
「それから『将を射んと欲すれば、まず馬を射よ』って言うことわざは、知ってるかしら?」
「はい、存じております」
「リョウさん?なら、母親である私から攻めるべきじゃないかしら?」
「あの、仰ってる意味が・・・」
「もう!鈍いわね!何で娘を差し置いて、私を放っておくのよ!」
「いや!そもそも、哀さんは旦那さんが居られますよね!?」
「そうね。でも、リョウさんは人妻も好きでしょう?」
いや、嫌いじゃ無いよ?
嫌いじゃ無いけど、そういうことじゃないんだよ!
「哀さん、申し訳ありませんが、俺は人の道を踏み外すようなことは出来ません。それに、お父さんを裏切るようなことも出来ません!」
「裏切れないか・・・。私の気も知らないで、いい気なものね・・・」
どこか寂しそうな顔で、哀さんが儚げに笑う。
やっぱり、夜中の死闘のことを言った方が良いのか?
いや、駄目だ!
それだけは、しちゃ駄目だ。
退かぬ!媚びぬ!省みぬ!
この精神で、今はただ耐え忍ぼう。
「リョウさん。カオリさんの話で分かってましたけど、やっぱり人妻が好きなんですね」
えっ?
ちょっと、ユカさん?
何でそんなに、冷たい瞳で俺を眺めるの?
「主は、すとらいくぞーんが広いから」
瑞?
また話がおかしな方向に流れて行くから、お願いだから止めて!?
「確かに、めぐりちゃんみたいな娘にも・・・」
ネアさん、そうじゃないですよ?
それは俺の人生が本当に終わりかねない話なんで、その辺で勘弁してください。
「リョウさん?私は、リョウさんが望むなら、どんな事でも受け入れますよ?」
ゴモリーさん、非常に有難いお言葉ですが、御自分を大切になさって下さい。
「リョウ様が『人妻好きのロリコンで、緊縛や露出が好きなとんでもない変態』ということは、昨日すでに判明しました」
ミリィさんがメガネをクイッと上げながら、場を仕切り出す。
「そこで考えました!それならいっそのこと、みんなでリョウ様と結婚してしまえば、全員リョウ様好みの『人妻』になれます!」
『おお~っ!』パチパチパチ、と拍手と歓声が鳴り響く。
「ちょっと、待ってもらえるかしら、ミリィさん?」
そこで、哀さんが反論を始めた。
「人妻って言葉、その意味をよく考えてご覧なさい?『人の妻』と書いて、人妻よね?」
哀さんが、勝ち誇ったように微笑む。
「リョウさんが好きなのは『人妻』!しかし、あなたたちがリョウさんと結婚したら、他人から見れば人妻になっても、リョウさんから見れば単なる『自分の奥さん』よ!」
「た、確かに・・・!」
いやカオリ、お前がそこで納得するな!
昨日、俺のすべてを暴露して泣きながら逃走させた張本人が、何ドヤ顔で相槌打ってんだ!!
「でも私は、パパと結婚したい!」
珊瑚・・・純粋で可愛いなぁ。
でも、いつか嫁に行く日が来るんだよな・・・。
よし、今のうちに『胴田貫』と『ルシファー』の手入れをして、将来現れるであろう男をいつでもブッタ斬って、撃ち抜けるように備えておかないとな・・・。
「・・・高度な言葉の応酬。やはり、本物の人妻は一味違う」
リリーさん、本物の云々って・・・あ、もういいや。
突っ込むの疲れた。
「ご主人? お父さん以外の人と結婚して、それからお父さんのところに来る? 僕は、嫌だな!」
ポポの純粋な疑問に、ユカさんが優しく微笑みながら答える。
「ポポちゃん、私もリョウさん以外との結婚なんて考えられないわよ?ポポちゃんも、そうでしょう?」
「うん!僕は女の子だし、大きくなったら絶対にお父さんと結婚する!」
ユカさんの言葉に、ポポは元気よく笑顔で頷いた。
「リョウ〜、また大変だね〜!」
マリーさんが、とても優しい笑顔で俺にそう言う。