異世界転生 作:魔導科学
リョウです。
いきてるって〜、なんだろ〜?
いきてるって〜、なぁに〜?
俺は、心の内で叫び声を上げた。
「リョウ、みんなに理解して貰えて、良かったわね?」
カオリが、満面の笑みで俺に言う。
「ウン、ソウダネ」
「リョウ様、大丈夫ですか?目が死んでますが・・・」
ミリィさんが、心配そうにメガネをクイッと上げながら聞いてくる。
「ダイジョブ、ダイジョブ」
「リョウ?なんで、カタコトなの?」
ネアさんが、俺に問い掛ける。
「ボクハ、チャント、セイジョウニ、シャベッテルヨ?」
「リョウ〜、大丈夫〜?オヤツ、あげるから〜、元気出して〜?」
マリーさんが、次元収納からエクレアを出してくれる。
「アリガトウ!オネエチャン、ボク、エクレア、ダイスキ!」
俺は、大好物のエクレアを貰い喜んだ。
喜んではいるが、心が死んでいる。
「・・・リョウ、今の台詞、正気の時にもう一度、お願い」
リリーさんは寂しげな声音とは裏腹に、決して俺を逃さない鋭い視線を向けていた。
「ウン〜!ワカッタヨ〜?オネエチャン!」
「パパ?本当に、大丈夫?」
珊瑚が、心配そうに聞いてくる。
「ヤダナァ〜?サンゴチャン、ボクはイタッテ、セイジョウダヨ〜?」
「あ、主?壊れちゃった?」
「お父さん?ポポだよ?分かる?」
「リョウさん、おいで?私が癒してあげます!」
「ミズキチャン?ボクハ、コワレテナンカ、イナイヨ?ポポチャン、キョウモ、カワイイネ!ゴモリーサン、ボクミタイナ、ロクデナシノクズデモ、ヤサシク、シテクレルノ?」
あれ?
何だか、目から汗が流れてるくるよ?
「お、お兄ちゃん?大丈夫だよ?私たちは、お兄ちゃんが大好きなんだよ?だから、戻って来て?」
めぐりちゃんが、悲しげに俺の目を覗き込む。
「メグリチャン?ドウシタノ?ソンナ、カナシソウナ、カオヲシテ?」
「リョウさん、ごめんなさい!リョウさんの事が知りたくて、つい質問攻めしてしまって・・・」
ユカさんが、申し訳なさそうに謝罪する。
「ユカ、オネエチャン?ボクハ、ダメナニンゲンナンダ、ダカラコレハ、ムクイナンダヨ?」
「リョウさん?!・・・一体、誰がこんな風にさせたの?」
「・・・いや、お前等だろう?!」
哀さんが放った白々しい一言で、俺はハッと正気に戻った。
俺は、先ほど開催された『第一回、リョウ様のアブノーマルな性癖、徹底糾問会』という、拷問もとい糾問会という名の地獄から、見事に精神を舞い戻らせた。
その姿は、正にフェニックスの如き復活劇!
「リョウさん、戻ったんですね?」
「お兄ちゃん、良かった〜!」
「もうダメかと、思いました!」
「良かったね〜!リョウ〜、今度は、シュークリームあげる〜!」
「リョウ、戻って来たのね?良かった!」
「リョウ様、戻られましたか。もし駄目なら、私のメガネで意識を取り戻そうと思っていました」
「主、良かった」
「お父さん、元気になった?!良かった〜!」
「良かった。いつものパパに戻った!」
「べ、別に心配してないわよ!・・・どうしてもって言うなら、一生側に居てあげる」
「・・・リョウ、さっきの台詞、もう一回」
「リョウさん、良かった!私の愛の力で戻ったのね?」
「いや、哀さん?貴女、人妻ですよね?そらから散々、人を追い詰めておいて、止めて下さい!」
俺は、ユカさん、めぐりちゃん、ゴモリーさん、マリーさん、カオリ、ミリィさん、瑞、ポポ、珊瑚、ネアさん、リリーさん、そして哀さんを今、声をかけてきた順番通りに一瞥し、マリーさんから、シュークリームを一個貰って言い放った。
「酷い!私も凄く心配したのに、そんな言い方するの?人妻だからなの?でも、リョウさん人妻好きでしょう?なんでそんなに、冷たくするの!」
「だから、言いましたよね?どんだけ、人の精神を追い詰めれば気が済むんですか!?」
「だって、面白・・・じゃ無くて、好きな人の事は、知りたくなるでしょう?」
「おい?今、面白いって言ったよな?」
「リョウさんの言葉遣いが、怖い〜!お姉さん、悲しい〜!リョウさん、ごめんね?また、玉子焼き作ってあげるから・・・」
「玉子焼きで、どうにかなると思ってるんですか!有り難く頂戴しますけどね?」
俺たちは今、アクセサリーショップ・レオパルドの一室にて繰り広げられた、あの地獄のような時間をどうにか終わらせた。
「リョウさん、大丈夫ですか?」
部屋を出たところで、弘崎君が恐る恐る声を掛けてきた。
「はい、大丈夫です」
「あの、さっきは本当に、申し訳ありませんでした」
「・・・良いんです。大丈夫ですから。部屋を貸していただき、有難う御座いました」
「あの、リョウさん?良かったら、ウチの店でご飯でも・・・」
「瑠璃さん、大丈夫です。有難う御座います」
・・・今はただ、一刻も早くこの場を去りたい。
胸の奥が引き裂かれるように痛んで、せっかくの誘いにも、刺のある返事しかできなかった。
「リョウさん!本当に、ごめんなさい!俺の勘違いで、リョウさんを悪人呼ばわりして、更に殴り付けるような真似まで・・・」
「弘崎君、もう良いんです。だから、気にしないで下さい」
「いえ、これじゃ俺の気が済みません!それにリョウさん、本当はまだ怒ってますよね!?」
気が済まない?
怒っているか?
・・・ふざけるな!
怒っていないわけがないだろう。
信じていた。
信用していたんだ。
それなのに、あんな罵詈雑言を浴びせられ、暴力まで振るわれそうになった。
その傷が、そんな謝罪の一言で癒えるはずがない。
「・・・今は少し、一人にして下さい」
感情が爆発してしまいそうな自分を必死に抑え、冷え切った声を絞り出した俺は、一人で店を出た。
暫く一人で歩いていると、雨が降って来た。
「・・・雨か」
俺は、天を見上げて呟いた。
この世界に来て、初めての雨だな。
雨具を買っていなかった事を思い出したが、今は良い。
雨が、全てを流してくれる様な気がして・・・。
このまま、施設の外に行こうかな?
施設のバリアを抜け、宛てもなく外をフラフラと歩き続ける。
次第に、雨脚が強くなってきた。
肌を刺すような冷たさだが、一向に構わない。
俺の心はすでに、この雨よりもずっと冷え切っていた。
重い足取りで歩いていると、前方の木々がざわめき、一体のエントが近づいてきた。
そのエントは俺の目の前で止まると、デカい身体をクネクネと波打たせ、何かを必死に伝えようとしてくる。
「すまないが、今は一人にしてくれないか」
「・・・」
俺の言葉にエントは静かになり、後を着いてくる。
ふと、雨の音が遠ざかり、肌に雫が当たらなくなったことに気づいた。
不思議に思って見上げると、エントが俺の頭上に青々とした大枝を広げ、即席の傘として雨を防いでくれていた。
「有難う。すまない」
俺が短く礼を言うと、エントは嬉しそうに葉を揺らした。
俺は相棒となったエントと共に、再び歩き出す。
暫く歩いた所で、俺はふと気づく。
そう言えば、この先にカオリと出会った遺跡が有ったな。
あの遺跡は、どうなったんだろう?
そう思い、俺は遺跡のあった場所を目指す。
遺跡に近づくと、周囲には大きなテントが張られ、学者風の人間や作業着の集団が慌ただしく動き回っていた。
「駄目だ!どうしても、分からん!」
「取り敢えず、この遺跡を起動した者に話を聞いた方が・・・」
「そうですね。その方が早いですね」
学者風の人間たちが、そう言っているのが聞こえた為、俺は近付いて話し掛けてみた。
「あの、この遺跡の第一発見者なんですけど・・・」
「なにィ?!君が、第一発見者か?」
「連絡する必要が、無くなりましたね!」
「そうですね!天の助けだ!」
振り返ったのは、絵に描いたような三人の学者たちだった。
一人は、恰幅のいい頑固そうな爺さん。
一人は、ひょろ長い神経質そうなメガネの兄ちゃん。
そしてもう一人は、性別不詳の、どこか神秘的な雰囲気を纏ったエルフだった。
「あの、それで何が駄目なんですか?」
先ほどの言葉が気になり、俺はストレートに尋ねてみた。
「うむ!それがな、どうしても起動できんのじゃ!」
「我々が色々と調べてみたけど、どうにもこうにも・・・」
「だから、第一発見者を呼んで詳しく説明を、と思っていたところだったんだよ」
爺さん、ひょろメガネ、エルフの順に話していく。
「取り敢えず、雨の当たらないところで話そうか」
爺さんの提案で、俺とエントは大きなテントの中へと案内された。
内部には様々な器具や見たこともない道具がひしめき合っており、まるでどこかの研究所に迷い込んだかのような様相だった。
「まあ、座りたまえ!私はここの責任者で、宇治茶じゃ。よろしくな?」
「俺はリョウです。宇治茶・・・博士、ですか?」
「うむ!博士で良いぞ!」
「ボクは、グリーン・ティーだよ。好きな飲み物はコーヒーさ!」
「私はテア・シルヴェスターだよ。よろしくね、リョウ」
そう言って、俺の前に温かいコーヒーを差し出してくれたのはテアさんだ。
「みなさん、科学者なんですか?」
「うむ、その通りじゃ!儂は、古代遺跡専門じゃな」
宇治茶博士が、自分のコーヒーをズズッとすすりながら答える。
「僕たちは遺跡の調査を専門にしていてね。それぞれ専門分野が違うんだ。ちなみに僕の専門は魔導科学さ」
グリーンさんがコーヒーカップを持ち上げ、ふわりと立ち上る香りを楽しみながら言葉を添えた。
「そうですね。私は生物学者兼テイマーですし」
テアさんがテーブルにお茶菓子を置き、しなやかな動作で席に座る。
いつの間にか、俺の隣にいるエントも器に並々と注がれた水を貰い、嬉しそうに体を揺らしていた。
「なんか・・・かなりバラバラな種類の専門家が集まってるんですね?」
「うむ! その通りじゃ!」
「なぜだか分かるかい?」
「制限時間は一分!」
「は?えっ?いや、ちょっと、わからないですけど・・・」
制限時間一分って・・・テアさんというこのエルフの科学者、絶対に俺の反応を面白がっているだろう。
「ブー!時間切れ!では、正解をお願いします」
テア博士がニコニコしながら、他の二人にパッと話を振る。
「では、正解は僕からーー」
グリーン博士が自信満々にコーヒーを一口飲んだ、その瞬間だった。
「簡単なことじゃよ!要は、どんな遺跡か分からんから、とりあえず色んな専門家を集めて、それぞれのやり方で検証するってことじゃな!」
「ちょっと、宇治茶博士!? それ、僕が言おうと思ったのに!」
出し抜かれたグリーン博士が、お茶菓子の煎餅をボリボリと悔しそうにかじりながら文句を言う。
「例えば、遺跡が昔の宗教的な物だったとしよう?因みに、私は唐辛子煎餅が大好物でね」
テア博士が真っ赤な煎餅を涼しい顔でかじりながら、話を軌道修正する。
「だが、我々のような宗教とは無縁の科学者が集まったところで、サッパリ分からんってことになる」
「そこで、他の専門的な知識を有する科学者が集まって、多角的に調査に当たるってわけなんだよ!」
今度はテア博士から、グリーン博士に見事なバトンタッチが決まった。
「まあ、それでも駄目なら、さらに別の科学者なり専門家を再招集して調査になるんじゃがな?」
最後の締め括りに、宇治茶博士がバリバリと豪快に胡麻せんべいを噛み砕きながら、お茶で喉を潤した。