異世界転生   作:魔導科学

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「傷は、大丈夫なのか?」

 

「・・・」

 

エントが、俺に身体を寄せてくる。

 

その身体には、薄っすらと傷跡が残っていた。

 

「やっぱり、完全には治らなかったか・・・すまん」

 

俺がエントに謝ると、エントはゆっくりと体を揺らしている。

 

その様はまるで、気にしなくて大丈夫と言っているように見えた。

 

「『大丈夫よ!私は、貴方ともう一人の彼女に救って貰った!だからどうしても、恩返しをしたいの!』と、エントは言っているよ?」

 

テア博士が、相変わらずクネクネしながら解説する。

 

「テア博士?そのクネクネしながら解説するのを、止めて頂けませんか?」

 

「リョウ、君は酷い奴だな!私をこんな身体にしたのは、君だよ?責任取りたまえ!」

 

そう言って、両手を広げるエルフ。

 

一体、どうしろと?

 

俺は助けを求めるべく、宇治茶博士とグリーン博士の方を向く。

 

俺が顔を向けた途端、「そう言えば、あの件はどうなったかの?」「あの件ですか?確か、他部署に回されて、そのままお蔵入りに・・・」

 

と、二人は何やらよく分からない事を話し始め、あからさまに目を反らした。

 

「さて、そろそろお暇します。コーヒーご馳走様でした。帰ろう?」

 

俺はエントに声を掛けて、立ち上がった。

 

「待て!まだ、遺跡の確認が終わっておらんぞ!?」

 

「そうだよ?折角、最初に起動した人間が来てくれたんだ!帰すわけにはいかない!」

 

「その通り!どうしても帰りたくば、私を此処から連れ去って?」

 

「じゃ、助けろよ?なんで、助けを求めたら訳の分からん話をし始めるんだよ?後、テア博士?俺の周りには、貴女のような事を言う可愛い女の子が沢山います。中には、人妻もいたな。だから、連れて帰れません!」

 

「お主、そんなにモテるのか?羨ましいのう?儂も若い頃は、モテモテだったんじゃよ?だが、カミさんに上手く騙されて結婚させられてな?今でもカミさんと、仲良く暮らしとるよ!」

 

「僕は、研究一筋だからね?別に羨ましくなんてないさ!チキショー!?」

 

「リョウ、君って奴は何処までも、酷い奴なんだな?それは、私の願望を完全に分かった上で発言しているのかね?もしそうだとしたら、君は最高のドSなご主人様だよ?」

 

単なる愛妻家の爺さんと、仕事一筋と言って悔しがる独身メガネ、最後にドMを自白する変態エルフ。

 

何なんだ、この空間は?

 

「・・・」

 

エントが身体をクネクネしながら、何かを俺に伝えようとする。

 

「あの、申し訳ありません。テア博士、通訳して頂けますか?」

 

「そんな頼み方じゃ、私は靡かんよ?リョウ!もっと上から目線で、激しく罵りながら命令して?」

 

「・・・じゃ、結構です。お邪魔しました」

 

「?!ハァハァ、な、なんてドSな返し?もう本当に、責任取って結婚して!」

 

「嫌ですよ。どうも、お邪魔しました」

 

「待て、帰さんと言っとろう!」

 

「そうだよ!せめて、遺跡をもう一度、見てくれよ!」

 

「む、無視か?無視なのか?君は、何処まで私を弄ぶつもりなんだ!もっと、お願いします!」

 

「分かりました。じゃ、一緒に遺跡に行けば良いんですね?サッサと終わらせましょう」

 

俺は、ウンザリしながら答える。

 

エントが細い枝を俺の頭に伸ばし、優しく撫でてくれる。

 

「『大丈夫?この人たちに、協力するの?私も協力できる事があれば、協力するからね?』と、言っているよ。ハァハァ」

 

身悶えながら、翻訳するテア博士。

 

俺は、エントに「有難う!でも、協力して貰う事は無いと思う」と告げた。

 

「ハァハァ!え、エントにだけ返答!?君は、本当に何処まで私を、もうダメぇ!」

 

「煩いですよ?静かにして下さい?」

 

「あひぃ!ご、ごめんなさい!でも、そこが凄く、刺激的ぃ〜!」

 

誰か、助けて・・・。

 

「では、行くとしようかの」

 

宇治茶博士の一言で、俺たちは遺跡に移動を開始した。

 

外の雨は大分、弱くなった様だ。

 

久しぶりとは、言ってもほんの数日どころか先日?

 

何だろう?俺は、ほんの数日が、もう何年にも感じるよ。

 

例えて言うなら、何十年とやっている全く歳を取らないアニメキャラの話を、逆に数日間を何年も掛けてやっている。

 

そんな気分だな。

 

遺跡は、俺が落ちた時と大きく変わっていた。

 

「エレベーターが設置されてる・・・」

 

「まぁ、結構な高さだからね?落ちたら、危ないだろう?」

 

グリーン博士が、そんな事を言うが俺は此処から落ちたぞ?

 

「で、お主は此処に来て、どう動いたんじゃ?」

 

宇治茶博士が、遺跡の中を歩きながら聞いてくる。

 

「俺が落ちた時は、牛ロボットと幌車が半壊しており、その下にキラーハウンドが潰されている状態でしたね。因みに、此処の魔法陣の中でした」

 

「ふむふむ?では、出来る限り近い条件で再現してみよう?」

 

グリーン博士が、魔法陣の中に壊れかけの機械を置いて、テア博士が魔物の殻を置いた。

 

「その後、俺はどうやって脱出するかと、そんな事を考えながら、この腰程の高さの柱に手を置いたんです」

 

前回は、ブュィンと音がして一気に明るくなったが、今は特に反応しない。

 

「反応が無いね?もう一度、落ちた所から再現しないと駄目かな?」

 

「いや、冗談じゃない!殺す気か!?」

 

俺はグリーン博士の発言に、即座に突っ込む。

 

人を何だと思っているんだよ!

 

「ふむ?その時の魔物は、何だったかな?」

 

マトモになったテア博士が、俺に話し掛けてくる。

 

「キラーハウンドでしたね」

 

「キラーハウンドか・・・。今ここに置いた、ロックシェルでは駄目か?」

 

テア博士が指さしたのは、部屋の隅にある巨大な殻だ。

 

ロックシェルとは、一言で表現するならば『巨大なカタツムリ』だが、その生態は途轍もなく危険である。

 

食性は獰猛な肉食であり、人間を執拗に襲う。

 

移動速度こそ緩慢だが、体内から生成される強力な毒液や、寄生生物がうごめく危険な粘液を吐き出して獲物の自由を奪う。

 

身体そのものだけでなく分泌される粘液にも強い毒性があり、一度でも触れれば寄生生物が皮膚を食い破って体内に侵入するため、素手で触れる行為は自殺行為に等しい。

 

一方で『ロックシェル(岩の殻)』の名が示す通り、その殻は極めて強固である。

 

適切な滅菌消毒処理を施せば安全な素材として加工でき、冒険者の頑丈な防具から、人々の暮らしを支える生活用品にまで幅広く重宝されている。

 

「テア博士、この殻の中身は、入って無いですよね?」

 

「それは、勿論さ!君は、ロックシェルの危険性を知っているだろう?この殻は、処理済みのものさ!」

 

「あと、この機械類、これは何の機械ですか?」

 

「これは、廃棄になった機械の部品だね」

 

グリーン博士が答える。

 

「俺が落ちた時は、牛の戦闘ロボに、次元収納の付いた幌車、それからキラーハウンドの死体でしたね」

 

「となると、やはり新鮮な死体じゃないと駄目と言う事か?」

 

新鮮な死体って、とんでもない表現だが、確かに肉体が必要なんだろう。

 

「なる程な?では早速、材料を用意しようかの?」

 

宇治茶博士がそう言って、作業着の人たちに指示を出す。

 

魔法陣の上にあった品物が片付けられ、代わりに魔導武器の数々が並べられていく。

 

「後は、適当な魔物を仕留めてくれば、準備万端じゃな!」

 

そうだな、と俺は何気なく腰程の高さの柱に手を置いた。

 

ーーその瞬間、ブュィンと音がして周囲が一気に明るくなった。

 

おいおい!?

 

なんで起動した!?

 

慌てて魔法陣を見ると、すぐ傍にいたエントの身体の一部が、不運にも魔法陣の中に踏み込んでしまっている!

 

「しまっ・・・!」

 

俺は焦って柱から手を離した。

 

しかし、無情にも魔法陣はキィンと高い音を立て、一層白く眩く輝き出す。

 

ピン〜ピロリ〜ン。

 

「御利用、有難う御座います。生贄と機械素材を元に、アナタのイメージを具現化しました。またの御利用、お待ちしております」

 

脳天気に、そんなアナウンスが流れ響いた。

 

ポカンとして、魔法陣を見つめる博士たち。

 

光の収まった魔法陣の中に居たのは、鋼鉄製のエントだった。

 

「すまん!無事か?なんとも無い訳ないな・・・どうしよう?」

 

俺は、鋼鉄製のエントに近寄り話し掛ける。

 

するとエントは、細い枝で俺の頭を優しく撫でてくれる。

 

大丈夫・・・、心配してくれて有難う!

 

と、脳内に声が響く。

 

カオリの時と、同じだ!

 

「おい!リョウ?一体、どうしたのじゃ?」

 

「エントが、生贄になったのかい?」

 

「しかし、エントが生贄となると、法的な問題が出て来る事になるな・・・」

 

宇治茶博士、グリーン博士、テア博士が順に話す。

 

確かに、その通りだ。

 

エントは、保護モンスターの一種。

 

その保護モンスターを生贄にして、新たな生物?を誕生させてしまった。

 

この件で、俺はどんな罪に問われるんだろう?

 

 

 

 

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