異世界転生   作:魔導科学

172 / 172
172

 

「楽しそうにしているところを邪魔してすまんが、そろそろ遺跡に戻らんか?」

 

宇治茶博士が、俺たちのやり取りを呆れたように眺めながら言う。

 

「そう言えば、すっかり忘れてました」

 

俺は、我に返って返事をする。

 

「とは言っても、もう夕方だね。リョウは家に帰るといい」

 

グリーン博士が、気を利かせて言ってくれる。

 

「そうだな!なら私の家に行こう!」

 

そこで、テア博士が勢いよく乱入してきた。

 

「いや、遠慮しときます」

 

「それは、君の好きな言葉責・・・」

 

「おい!それ以上は言うな!」

 

「はうぅ〜!もっと、もっと激しく命令してぇ・・・!」

 

テア博士が、クネクネと身悶えながら俺に言う。

 

「本当に、人間って面白いわね!」

 

鋼鉄エントことヴェルダンディが、俺とテア博士のやり取りを見て、楽しそうに笑う。

 

「面白がってないで、誰かこの変態博士を止めてくれ・・・」

 

俺は天を仰いで呟いた。

 

とは言え俺的には、ぶっちゃけ帰りたくないんだよね。

 

そもそも、なんでこんなことになったのかと言えば、全部カオリが俺のトラウマを引っ掻き回したせいだ。

 

あいつが俺の性癖を面白半分に暴露したせいで、拠点の女性陣からはデリカシーのない質問攻めに遭い、挙句の果てには同じ転生者の弘崎君に勘違いされて、殴られそうになる始末。

 

精神的にも物理的にも、あそこはもう俺の居場所じゃない。

 

そう考えると、しばらく誰とも会いたくないのが本音だった。

 

「宇治茶博士、遺跡の調査に俺が必要なんですよね?なら、現場のテントに俺を泊めてくれませんか?」

 

「ふむ?それは別に構わんぞ?テントなら幾らでもあるからの」

 

「しかし、君は施設の居住区に家族がいるんだろう?良いのかい?」

 

宇治茶博士とグリーン博士が、心配そうに俺の顔を覗き込んできた。

 

「ちょっと、しばらく誰にも会いたくないんですよね・・・」

 

「まぁ、良かろう!しかし、連絡だけは入れておくんじゃぞ?」

 

「はい。分かりました」

 

俺は魔導通信機を起動し、カオリにメッセージを送信する。

 

(しばらく帰らない)

 

これでいいだろう。

 

すると、カオリから即座に返信が来た。

 

(リョウ!?今どこにいるの?みんな心配してるのよ!)

 

(しばらく帰るつもりはない。何も心配しなくていい。映画の撮影には、きちんと出るから問題ない)

 

一方的にメッセージを打ち切って送信し、俺は宇治茶博士に向き直る。

 

「実は映画の撮影とかの予定があるんですけど、それ以外なら遺跡で協力できると思いますので、お願いします」

 

「映画の撮影?一体どんな映画なのかな?やっぱりロマンスぽ・・・」

 

「おい!それ以上喋るな、ポンコツエルフ!」

 

「ハァハァ・・・!君はどれだけ私を虜にするんだね!?」

 

さて、ここから遺跡まで歩くとなると、相当な時間が掛かるな。

 

俺を軍に連れて行った時は研究所の車だったけど、迎えとかは来ないんだろうか。

 

「じゃ、とりあえず僕の自慢の自家用車を出しますかね」

 

グリーン博士は不敵に笑うと、手のひらサイズのカプセルを道へと放り投げた。

 

そこに現れたのは、複数の魔導車両が合体した『魔導連結バギー』だった。

 

中央の大型魔導バイクを中核に、その左右にはサイドカー型のユニットがドッキングされている。

 

さらに後部には、前二輪・後一輪の『リバーストライク』と呼ばれる大型ユニットがガシャコンと連結され、最終的に一つの重厚な四輪バギーとしての姿を完成させていた。

 

唖然とする俺の前で、グリーン博士は自慢げに胸を張った。

 

「因みに、これは僕が開発した『魔導連結バギー』でね。それぞれが分離して独立走行や戦闘ができる上に、無人運用も可能なんだ。・・・おまけに分離後は『魔導アーマー』に変形して、身体に装着できる優れモノだよ?」

 

「か、カッコいい・・・!!それぞれ分離して走行可能で、しかも魔導アーマーになるって、完全に男のロマンの塊じゃん!」

 

「だろう?しかし、困ったな〜!ここには、僕を含めて5人いる。だが、魔導連結バギーは、それぞれが1台ずつ乗ったとしても、どうしても一人余ってしまうんだ。そうなると、真ん中の大型バイクに、僕と誰かが二人乗りするしか無いね?いや〜、本当に困ったなぁ〜!」

 

ヴェルダンディの方をチラチラと見つめながら、わざとらしくため息をつくグリーン博士。

 

「なら、リョウが真ん中の大型バイクに乗れば良いんじゃない?その後ろに私が乗るわ!」

 

「師匠!ちょっと待ってくれ!リョウは私の後ろだ!リョウに後ろからガッチリとホールドされて、そのまま背後から激しく攻め立て・・・」

 

「おい!それ以上は色んな意味でアウトだから止めろ!」

 

俺は、テア博士の危険な発言を食い止めた。

 

もうこれ以上付き合っていたら、こちらの精神が崩壊してしまう。

 

「もういいです!俺が真ん中の大型バイクに乗ります。グリーン博士は適当に乗って下さい!」

 

「ええっ!?僕のロマンス計画が・・・!チキショー、やっぱりもげてしまえ!」

 

ガチ凹みするグリーン博士を無視して、俺は真ん中のマシンに跨がった。

 

そう言えば俺は、前世でバイクの免許持ってないんだよね。

 

「グリーン博士、やっぱり此処は譲ります。俺、バイクは運転した事なかったんで」

 

「そうか!なら、僕の後ろはヴェルダンディさん・・・」

 

「私はリョウじゃなきゃ、乗らないわよ?」

 

「いや、そうは言っても操縦方法を知らないと・・・」

 

「なんじゃ?操縦方法なら、ハンドルの右グリップがアクセル、左側のレバーがブレーキじゃよ?因みに、この魔導バイクは魔力伝達が自動だから、ギアチェンジが必要ない。だから左手は、ブレーキ操作だけで済むんじゃよ!」と、宇治茶博士が我がことの様に答える。

 

「ちょっと!?宇治茶博士、なんで教えるんですか?!上手くいけば、僕の後ろにヴェルダンディさんが乗ってくれたかもしれないのに・・・。あと!その仕様、僕が徹夜してプログラミングした機能ですからね!? なんで宇治茶博士が、我が物顔で解説してるんですか!?」

 

グリーン博士が、地団駄を踏みながら文句を言う。

 

右のグリップがアクセル、左のレバーかブレーキだな?

 

よし、出発だ!

 

全員が乗り込んだのを確認して俺は、ハンドルを握る。

 

初心者が、やりがちないきなりアクセル全開なんて事はせず、ゆっくり右グリップのアクセルを回す。

 

キィィィン・・・と、耳心地のいい魔導機関の駆動音が響き、『魔導連結バギー』の巨体が滑らかに前へと進み出した。

 

「おお、動いた・・・!」

 

感動する俺の背中に、柔らかい幸せな感触がそっと寄り添う。

 

「ふふ、上手な運転ね、リョウ。これなら安心して身を任せられるわ」

 

後ろに乗ったヴェルダンディが、俺の腰にそっと手を回しながら微笑んだ。

 

密着する心地よい体温と、風に乗って香る彼女の匂いに、俺の心臓が急にうるさくなる。

 

「うわあああ!チキショー!ラブラブじゃないか〜!!もげろ!やっぱり重力魔法か何かでもげてしまえー!!」

 

後方の『リバーストライク』に乗ったグリーン博士が、血の涙を流すような絶叫を上げる。

 

そんな事は全く気にせず、順調に遺跡へ向かう。

 

風を切る感覚が、さっきまでの鬱屈とした気分を吹き飛ばしてくれた。

 

しかし、ハプニングは突然訪れる。

 

「リョウ、前方から魔獣の群れだ!避けるスペースがない!」

 

左側のサイドカーに乗ったテア博士が鋭く叫んだ。

 

スピードが出すぎていて、 今からレバーを強く握り込んでも間に合わない。

 

『フフ、慌てる必要はないよリョウ!僕の最高傑作の機能を見せる時が来たようだね!』

 

魔導連結バギーの通信機から、グリーン博士の不敵な声が響く。

 

『各機、セパレート(分離)!』

 

グリーン博士が声を掛けると、俺の乗っている大型バイクや各パーツが、走行中の速度を維持したままガシャガシャと分離して行く。

 

左右のサイドカーが、超小型の車になり、後ろのリバーストライクが、完全に独立したバギーになる。

 

分離したそれぞれが、独自に敵を攻撃する。

 

迫る群れの正体は、狂暴な魔獣キラーハウンド!

 

俺は覚悟を決め、右グリップのアクセルを全開にして正面の一匹を真っ向から弾き飛ばす。

 

「ギャンッ・・・!」という悲鳴を、ドップラー効果の残響として背後に聞き流しながら、俺はハンドルに配された兵装スイッチを親指で叩いた。

 

大型バイクのフロントカウルが展開し、魔導バルカンと超小型魔導ミサイルランチャーが銃口を剥く。

 

標的をロックした瞬間、火線を吹き荒らし、俺の周りを囲んでいたキラーハウンドの群れを瞬く間に殲滅していった。

 

サイドカーの二人、テア博士と宇治茶博士は、同じく前方の魔導バルカンと後方から迫り出した魔導ロケットランチャーで、キラーハウンドを殲滅している。

 

『チキショー!コイツラで憂さ晴らししてやる!』

 

通信機から響くグリーン博士の声は、さっきまでの未練がましい絶叫から一転、八つ当たり気味な声で叫び声を上げる。

 

独立したリバーストライクが猛烈なエキゾーストノートを轟かせ、キラーハウンドの群れのど真ん中へと突撃していく。

 

車体底面から展開した魔導プラズマカッターが高速回転し、すれ違いざまに魔獣たちを次々と切り裂いていった。

 

更に、テア博士たちのロケットランチャーが撃ち漏らし、俺の死角へと回り込もうとしたキラーハウンドの群れに対し、リバーストライクの後方に搭載されている魔導レーザーキャノンで、正確無比な偏差射撃を叩き込み、完璧なバックアップを展開した。

 

俺は敵を殲滅し終え、ゆっくりと旋回しながらそんな光景を眺めていると、何処からともなくキラーハウンドが俺の側面から飛び掛かって来た。

 

「チッ!」

 

「リョウ!横から!」

 

俺は舌打ちし、ヴェルダンディの焦った声を聞きながら体勢を立て直す。

 

が、キラーハウンドは空中で真っ二つに一刀両断された。

 

どさりと左右に分かれて転がった魔獣の肉塊。

 

その向こう側、ソイツは音もなく姿を現した。

 

人間を遥かに凌ぐ巨体。

 

漆黒の甲殻に包まれたその姿は、巨大なカマキリそのものだった。

 

しかし、普通の魔獣と決定的に違うのは、その前脚(鎌)の形状だ。

 

まるでギロチンの刃そのものが腕に生えているかのような、おぞましい処刑刀。

 

そしてソイツは、血に濡れたその大鎌を胸の前でぴたりと合わせ、まるで神に祈りを捧げるような姿勢をとった。

 

その姿は、これから殺す獲物への葬送か、あるいは生贄を捧げる儀式か。

 

『「エグゼキューター・プライヤー・マンティス」じゃ!リョウ、気をつけろ!』

 

宇治茶博士から通信が入る。

 

エグゼキューター・プライヤー・マンティス。

 

祈りを捧げながら、事務的に、冷酷に獲物を真っ二つにする姿から『処刑人』の異名を持つ巨大なカマキリ。

 

日本に留まらず、東南アジアや南アジア、アフリカ、中南米、オーストラリア、ヨーロッパ、中央アジア、そして北アメリカにいたるまで、世界各地に様々な固有種が生息している。

 

性格は極めて獰猛で執念深い。

 

一度狙った獲物はどこまでも追いかけ回して仕留めようとする。

 

キラーハウンドと同様に高い知能を持つ厄介なモンスターだが、コイツらの鎌は武器としての価値が破格だ。

 

ギルドに納品すれば高値で買い取ってもらえるが、同時に討伐危険度も跳ね上がる。

 

ギチギチギチ・・・と、不気味な咀嚼音のような鳴き声を響かせながら、処刑祈祷蟷螂(エグゼキューター)がその複眼を、俺とヴェルダンディの乗る大型バイクへと向けた。

 

そして、エグゼキューター・プライヤー・マンティスが、真っ二つにしたキラーハウンドを持ち上げ、齧り始める。

 

「キシャー!」

 

「ギチギチギチ・・・」

 

一匹だけかと思ったら奥からさらに何体も、エグゼキューター・プライヤー・マンティスが姿を現し、キラーハウンドの肉を貪り食い始めた。

 

俺は、あまりに悍ましい光景に、吐き気が込み上げる。

 

「リョウ、私は降りるわよ?」

 

背後からの突然の言葉に、俺は驚いた。

 

「ヴェルダンディ!? 危ないぞ!」

 

「大丈夫よ。今の私はもう・・・以前の優しくて、頼りないエントじゃないからね?」

 

彼女は悪戯っぽく優しく笑うと、猛スピードで走行中の大型バイクから、ふわりと飛び降りた。

 

綺麗に着地したヴェルダンディは、そのままキラーハウンドを貪り食う一匹の元へ、まるで散歩でもするかのように無防備に近付いていく。

 

新たな獲物の接近を察知したエグゼキューター・プライヤー・マンティスが、ギチチチッと不気味な音を立てて跳躍し、ヴェルダンディへと襲いかかった。

 

「しまっーー!」

 

俺はバイクのアクセルを全開にし、彼女を助けに向かおうと強引に車体を傾ける。

 

・・・その、瞬間だった。

 

閃光のような一撃。

 

どちらが処刑人か分からないほどの速度で、巨大な螳螂の巨躯が、縦に綺麗に真っ二つとなって左右へ崩れ落ちた。

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。