異世界転生 作:魔導科学
「なんだ!?一体、何が起こった?」
俺は、一瞬の出来事に完全に啞然としてしまう。
「どう?凄いでしょう?」
振り向き、優しい笑みを浮かべる美魔女こと、ヴェルダンディ。
だが、戦闘はまだ終わっていない。
仲間を殺されて激昂したエグゼキューター・プライヤー・マンティスの一匹が、背後から彼女に向かって鋭い鎌を振り下ろした。
ーーパァンッ!
鋭い破裂音と共に、またしても『見えない一閃』が走り、巨大螳螂の片腕が綺麗に宙を舞う。
「ヴェルダンディ?一体、何をして・・・?」
「コレよ!」
彼女が軽く手を掲げると、そこには手の平サイズの『黒い棒』が握られていた。
棒?
いや、違う。
エグゼキューターが残されたもう片方の鎌を死に物狂いで振り下ろすが、ヴェルダンディがその手元を軽く翻した瞬間、残る鎌と首が同時に地面へと転がった。
「これは、私がただのエントから『鋼鉄エント』に変化した時に、手に入れた能力よ」
彼女が腕を軽く振るうと、手の平サイズの黒い棒の先が生き物のように急激に伸びてしなり、地面を激しく弾いて火花を散らした。
「私の身体の一部を編み込んで作ったーー鞭よ!」
鞭!?
確かに、一本鞭の先端速度は音速を超え、直撃すれば人間など一撃でショック死すると聞いたことがある。
それを、人間と変わらぬ柔らかい肉体に、鋼鉄エントの破壊力を秘めた彼女が振るうのだ。
恐ろしすぎる・・・!
「リョウ、大丈夫よ?これでリョウを叩いたりしないから!因みに、コレはリョウの記憶から作ったのよ?昔のSFアニメで、『私たちが犯人じゃないわよ、被害者よ!』って言いながら周囲を焼け野原にする、水着のような衣装を着た伝説の二人のうち、黒髪ロングの女の子が使ってたレーザーの鞭。あれ、凄く格好良かったから真似しちゃった」
妖艶に微笑むヴェルダンディ。
いや、そんなことされたら、俺の身体も一瞬で真っ二つになっちゃうよ!
後、あの二人が居たからこそ、あの程度の被害で済んでいるのであって、もしあの二人が居なかったら多分、銀河系が壊滅的な被害を被っているからね?
因みに俺は、赤髪短髪の娘が大好きです!
『ヴェルダンディ師匠!凄いな!』
彼女の超絶無比な動きを見て、通信越しにテア博士が興奮した声を漏らす。
『うむ!まさか、あのエグゼキューターを一撃必殺とはな!』
宇治茶博士も驚きを隠せないようだ。
すると、通信に別の声が割り込んできた。
『ふふ、此処らで僕の取っておきも見せないとね。各機、アーマーフォーメーション、起動!』
グリーン博士がそう告げた瞬間、俺の乗っている大型バイクの各パーツが、ガシャガシャと生き物のようにスライドを始めた。
「うおっ!?シートが変形していく!?」
バイクとしての形状が瞬時に変形を始め、青い魔導光を放ちながら俺の身体を包み込むように滑り込んでくる。
次の瞬間、それぞれの金属パーツが俺の肌に吸い付くように次々と噛み合い、強固な装甲として衣服の上に組み上がっていった。
ガシャ、ガシャコンッ!
胸部、腕部、そして脚部。
厚みのある強固な装甲が、吸い付くように俺の身体へと次々に密着していく。
最後は頭部を包み込むようにヘルメットがガッチリとロックされ、クリアなシステム起動音が脳内に響き渡った。
『魔導アーマー、装着完了』
大型バイクが俺の身体のラインに完璧に適合し、一体化する。
凄まじい魔導エネルギーが、全身に満ちていくのが分かった。
バイクから、身に纏う『鎧』へ。
完全なる男のロマンを体現した姿で、俺は地面に着地を決め、残りのエグゼキューターの群れを見据えた。
周囲を見れば、他の博士たちも同様に魔導アーマーを装着し、巨大螳螂と対峙している。
『リョウ?武器は、魔導バイクの武装も自分の武器もそのまま使えるから、カマキリ如きに負けるとは思わんが気を付けてくれよ?』
グリーン博士からの頼もしい通信を聞き、俺は即座に次元収納から胴田貫を取り出した。
高位の魔導武器であるこの刀は、帯がなくても俺の思考に応じて、腰にぴたりと帯刀状態へと移行する。
これで、いつでも抜ける。
『因みにその魔導アーマー、アビス・エレファントの攻撃すら通さないから安心して良いよ?』
さらに誇らしげな解説を加える博士の声を耳にしながら、俺は一瞬、そのモンスターの姿を思い浮かべていた。
アビス・エレファント。
主にアフリカに生息する、巨躯を持つ象のモンスターだ。
極めて気性が荒く、一度怒ると手が付けられない。
人間を激しく嫌悪しており、こちらが何もしなくても見かけるだけで襲いかかってくる非常に凶暴な存在だ。
その長い鼻や牙、あるいは巨体から繰り出される突進や踏みつけは、一撃で民家を跡形もなく倒壊させる威力を誇る。
あの破壊力を、全く受け付けないって・・・どんだけ頑丈んだよ、この鎧!?
因みに、前世と同じくアビス・エレファントも保護対象のモンスターである。
前世の世界と変わらず、彼らが持つ魔力を宿した象牙は、装飾品や装備、武器の素材として非常に人気が高い。
それゆえに、一攫千金を狙う密猟者が後を絶たないのが現状だからだ。
そんな回想は置いておいて、俺は目の前の巨大螳螂に意識を集中させる。
巨大螳螂はジッと動かず、此方の様子を伺っている。
その姿は、相変わらず祈りを捧げているかのようだ。
ーーフッ。
気配が消え、奴の手が動いた瞬間、俺は反射的に左手を上げてガードする。
ビシィッ!!
エグゼキューター・プライヤー・マンティスの不可視の一撃を、左手から出現した魔導エネルギーシールドが完全に防ぎ止めていた。
まるで、前世のアニメに出てきた『母親から英才教育を受けた少年が乗る、光の翼の巨大ロボットが展開する、光条のシールド』みたいだな!
エグゼキューター・プライヤー・マンティス・・・もう長くて面倒だから、カマキリでいいや!
俺は左腕のシールドをグッと突き出し、アーマーの凄まじい腕力に任せて、防いだカマキリの鎌を力強く押し返した。
ーーバチィィンッ!!
強固な装甲の力とエネルギーの火花が裂し、奴の最初の一撃を完全に弾き返す。
大きく体勢を崩すカマキリ。
なんか、このハイテク鎧の姿で日本刀を構えるって、傍から見ると昔のアニメに出てきた『和風の鎧を纏って戦う伝説の戦士たち』みたいだよな。
異世界に転生して、前世の平成初期のレトロヒーロー気分を味わえるとは思わなかった。
しかし、カマキリもただでは下がらない。
弾かれた腕とは反対の腕を、即座に俺の脳天めがけて縦に振り下ろしてくる。
だが、俺は瞬時に胴田貫を抜き放ち、一歩踏み込んだ。
真っ直ぐに落ちてくる凶刃の軌道。
そこへ向かって、俺は刀を大きく振り回すことはしなかった。
ただ、前世で散々稽古した夢想神伝流の初伝『勢中刀』の教え通りに、刀をその軌道上の『正しい角度』へとピタリと置く。
横に激しく振り抜く必要などない。
上段からの打ち下ろしを受け流し、刃線をただそこに据える実戦の剣理。
それが、魔導アーマーの超稼働システムによる、寸分の狂いもない絶対的な不動性と静かに同調する。
ーーキィィィンッ!!
鋭い金属音が響いた。
強烈な速度と自重を乗せて振り下ろされたカマキリの凶刃は、俺が微動だにせず構えた胴田貫の刃線へと、自ら吸い込まれるように激突したのだ。
奴が込めた凄まじい威力が、そのまま鋭利な刃の理となって奴自身へと跳ね返る。
スパンッ!
力でねじ伏せたわけではない。
カマキリは己の勢いのまま、手首の関節を自ら切り裂いていったのだ。
弾き返されてガラ空きになったカマキリの本体をあとに、主を失った腕が虚空を舞い、地面に突き刺さった。
「ギチギチギチ!」
カマキリは俺の一撃に警戒したのか、後ろへ大きく飛び退いて俺と距離を置く。
良いのかな?
わざわざ距離を取ってくれたけど、こっちには遠距離攻撃の手段だって豊富にあるんだよ。
俺は次元収納からルシファーを素早く引き抜く。
それと呼応するように、魔導アーマーのシステムへと意識をリンクさせた。
俺の視線に合わせて、肩の魔導バルカンがうなりを上げ、両足にマウントされたミサイルランチャーのハッチがガシャリと開く。
「全武装、フルバースト!!」
ルシファーの発砲音と同時に、肩のバルカンが凄まじいマズルフラッシュを放つ。
両脚のランチャーからは、前世の有名ロボットアニメの量産機を彷彿とさせる、超小型ミサイルが白煙を引きながら次々と撃ち出された。
ーードガガガガガガッ!
シュシュシュシュッ、ズドォォォンッ!!
容赦のない弾幕と、脚部から放たれたミサイルの嵐がカマキリの巨体に吸い込まれ、凄まじい爆炎と衝撃波を巻き起こした。
「アチャ〜!これじゃ、素材の回収もできやしないな」
掃射後の地面は、カマキリの残骸どころか塵一つ残さず綺麗になっている。
俺たちの凄まじい戦闘を見ていた残りのカマキリの群れは、完全に戦意を喪失したようで、一斉に撤退を始めた。
「よし、あいつら逃げていくぞ」
そう胸を撫で下ろした、次の瞬間だった。
ゴゴゴゴゴゴゴゴッ・・・!!
突如、カマキリたちが立っていた地面が激しく隆起し、爆発するように弾け飛んだ。
砂煙と共に土中から姿を現したのは、ビルほども巨大な、赤黒くヌルりと光る凶悪なミミズだった。
「ギチィッ!?」
逃げ遅れたカマキリたちが悲鳴を上げる暇もなく、おぞましい大口を開けた巨大ミミズが、数体いたカマキリの巨体を文字通り一呑みにしてしまったのだ。
『リョウ、おかしいぞ?!本来、アースワームはこんなにデカくない!変異種にしても、デカすぎるぞ!?』
生物学者兼テイマーであるテア博士から、悲鳴に近い通信が入る。
アースワーム。
所謂、ミミズのモンスターだ。
性格は極めて大人しく、滅多に人を襲うことはない。
基本的には地中に生息し、土を食べて周囲の土壌を肥やす、生態系には欠かせない重要な『分解者』である。
だがーー目の前で起きた光景は、その常識を完全に破壊するものだった。
この世界で確認されているアースワームの最大種でも、せいぜい数メートル程度。
しかし、いま目の前で蠢いているソイツは、人間はおろか、あの巨大なカマキリさえもゴミのように見せるほどの規格外の巨躯を誇っている。
確かに、テア博士の言う通りだ。
変異種という言葉だけで片付けるには、このサイズはあまりにおかしい。
俺がその異様な巨躯を凝視し、次の出方を伺おうとした、その時だった。
『リョウ!遺跡が何者かに襲撃されておる!!』
宇治茶博士からの、緊迫した怒鳴り声のような通信。
タイミングを合わせるかのように、次の瞬間だった。
ーーズドォォォォンッ!!!
遥か彼方の空が赤く染まり、大地を激しく揺るがす大爆発の轟音が、俺たちの耳へと届いた。