異世界転生   作:MSZ-006

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複数台の軍用車両のヘッドライトが、激しい光を放ちながら俺たちを照らし出す。

 

あまりの眩しさに腕で目を覆い、不快感に眉をひそめながら軍人が降りてくるのを待った。

 

「責任者は、誰だ?状況の説明をしろ!」

 

車両から降りてきた軍人は、開口一番にそう言い放った。

 

この惨状を目にしながら、救助ではなく『尋問』に近い高圧的な命令口調を、こちらに叩きつけてくる。

 

大切な仲間を失い、手が震えるほどショックを受けているグリーン博士たちの前で、その尊大な態度は俺の逆鱗に触れるのに十分だった。

 

「おい、なに偉そうに物を言ってんだよ!そもそも、通報してどれだけ経ってるか分かってんのか?」

 

「何だと!?貴様、誰に向かって口を利いている?軍に逆らう気か?」

 

軍人は信じられないといった風に、目を剥いて凄んできた。

 

「逆らうも何も、何か間違った事を言ったか?」

 

俺が冷たく言い返すと、一触即発の空気が流れる。

 

「・・・やめろ!すまない、リョウ君。部下の責任は、私の責任だ」

 

そう言って、光の届かない影から近付いて来たのは、アンダーソン少佐だった。

 

さっきまで俺に高圧的な態度だった軍人は、アンダーソン少佐の姿を見ると、一瞬で顔を引き締め直立不動で敬礼する。

 

「随分とお早いご到着ですね、少佐?それに、非常に『ご丁寧』な態度の部下を、お持ちのようだ。さぞかし素晴らしい教育をされているのでしょうね?」

 

俺は表情を消し、冷徹なトーンのまま徹底的な嫌味を並べ立ててやった。

 

「本当に、申し訳ない」

 

直属の部下の前であるにもかかわらず、アンダーソン少佐が俺に頭を下げる。

 

それを見ていた軍人が、上官にそこまでさせた屈辱からか、顔を真っ赤にしながら俺を睨む。

 

「もうちょっと、教育をしっかりして貰わないと、俺たち市民が安心して暮らせないと思いますがね?」

 

俺は、睨みつける軍人を冷ややかに眺めながら更に嫌味を言う。

 

「怪我人はいないか?生存者はどうか?」

 

アンダーソン少佐が、俺に鋭い視線を向けながら問い掛ける。

 

「怪我人はいません。それと、生存者もいないようです」

 

「生存者の確認は、私がしました」

 

俺の言葉に続くように、ヴェルダンディが俺の隣に一歩進み出て、アンダーソン少佐にまっすぐ告げる。

 

「・・・君は?」

 

見慣れない美魔女の登場に、少佐が不審そうに眉をひそめた。

 

「さき程の鋼鉄エントが、人型になったんです」

 

俺が端的に事実を告げると、少佐は一瞬だけ目を見開いたものの、深く追究する時間はないと判断したのか、「そうか・・・」と短く答えた。

 

「では、此方で避難所を設置する。其処で詳しく話を頼む」

 

少佐は俺たちにそう指示を出した後、くるりと身体を反転させた。

 

その先には、まだこちらを激しく睨みつけていたあの軍人が立っている。

 

「ーー後、君は今回の件で降格処分とする。この後は、周囲の探索を命じる」

 

有無を言わせぬ冷徹な口調でそう言い放ち、アンダーソン少佐は、呆然と立ち尽くすその軍人を置き去りにして、他の軍人の所へ去っていった。

 

俺が、未だに直立不動で敬礼したままの軍人の横を通り過ぎようとした、その時だった。

 

「チキショー!俺に、恥をかかせやがって!?」

 

男は突然狂ったように声を上げ、肩に担いでいた小銃を乱暴に引き抜き、俺の胸元へと向けた。

 

だが、引き金に指がかかるより早く、俺の身体は動いていた。

 

身体を鋭く半身に開いて銃口の射線から自身の軸をずらし、頭と上半身を滑り込ませる。

 

直後、突き出された小銃の銃身を右手で内側から鋭く掴み取ると、俺はあえてそれを男の胸元へと一瞬だけ強く押し込んだ。

 

男が反射的に押し返そうと力んだ、その反動の瞬間を逃さない。

 

左手で男の袖口を捕らえ、彼の身体の軸を中心に引き込むようにして、俺は自身の身体をその場で鋭く転換させた。

 

合気道の円運動によって推進力を完全に奪われた軍人は、俺の手の平の上で抗う術もなくクルッと綺麗に一回転し、そのまま勢いよく地面へと投げ飛ばされた。

 

激しい音を立てて泥水に背中から叩きつけられた男は、何が起きたのか理解できないといった風に、呆然と天を仰いでいる。

 

手元に残った小銃の銃口を地面へと向けながら、俺は泥にまみれた男を冷ややかに見下ろした。

 

周囲にいた他の軍人たちが、今の騒ぎに気づいて一斉に集まってきた。

 

「おい!どうした?」

 

「取り敢えず、連行しろ!後、報告急げ!」

 

彼らは俺を襲った軍人を迅速に取り押さえ、暴れる男を力ずくで連行していく。

 

「・・・手際だけは良いみたいだな」

 

俺は手元に残った小銃の安全装置をカチリとかけ、近づいてきた別の兵士に無造作に突き返した。

 

身内が起こした暴挙を、他でもない他の軍人たちが素早く処理していく様子を、俺は冷ややかに見送る。

 

降格処分に怒り狂って俺に銃を向けたあの軍人は、一般市民への襲撃という、さらなる取り返しのつかない罪を重ねて雨の中に消えていった。

 

そんなやり取りの中、グリーン博士だけは我関せずといった様子で、遺跡の方を向いて何やら熱心に作業を続けていた。

 

その手には、まるでどこにでもあるハンディカメラのような形をした未知のデバイスが握られている。

 

博士はそれを愛おしそうに構えながら、崩れた遺跡の穴や、周囲の地面の泥をくまなくレンズに映し出していた。

 

「お疲れ様、リョウ。危なかったら手助けしようと思ったけど、やっぱり必要なかったわね?」

 

ヴェルダンディが俺の隣に歩み寄り、そんな言葉を呟いた。

 

その手には、さきほどカマキリと対峙した際に使用した鞭が、今も固く握られている。

 

「リョウ!お主、若いのに凄いのう!しかし、転生者と言っておったが、それが強さの秘密か?」

 

今度は、宇治茶博士から質問が飛ぶ。

 

「まぁ、そんな所です。博士」

 

俺が苦笑交じりに答えると、後ろから慌てた様子でテア博士が駆け寄ってきた。

 

「リョウ!?君は、また危ない事をして!どれだけ私を、心配させるつもりなんだ?アレか?常にドキドキさせて、私を虜にして『もう一生、お前を逃さない。俺が一生、お前を飼い慣らしてやる!』とか言って、私をギュッと抱きしめた後、激しく責め立てるつもりか?!そんなんだな?さぁ、来い!」

 

「・・・テア博士、無理しなくて良いんですよ?」

 

俺はそっと手を伸ばし、優しくテア博士の頭を撫でた。

 

「・・・ふぐぅ、そんなに優しくされたら、もっと惚れてしまうだろう!バカぁ!」

 

テア博士が、ついに堪えきれず涙を溢れさせる。

 

彼女の危険な発言は、兎も角として・・・。

 

気丈に振る舞ってはいるが、宇治茶博士にしろ、グリーン博士にしろ、テア博士にしろ、遺跡にいた大切な仲間たちを失ったことが、本当は辛くて堪らないのだろう。

 

「リョウ、やはりおかしいな」

 

不意に、すぐ近くから声がした。

 

見れば、グリーン博士が例のハンディカメラのレンズを、真っ直ぐこちらに向けている。

 

ちょっと、事務所通して?

 

後、週刊誌に出す時は、ちゃんと目線入れてね?

 

いきなりパパラッチのごとく至近距離でレンズを向けられ、俺は心の中で全力のツッコミを炸裂させていた。

 

「で、何がおかしいんですか?後、無許可での撮影は止めて下さい。・・・著作権で、問題になりますよ?」

 

俺が真面目な顔でそう言うと、隣にいた宇治茶博士がすかさず首を傾げた。

 

「リョウ、お主。・・・それを言うなら『肖像権』じゃろ?」

 

「そうだぞ、リョウ!君は自分が何かの絵画か、著作物だとでも思っているのかい!?確かに、顔はイケメンだしドSな所は、芸術的な素晴らしさだけど・・・」

 

さっきまで泣いていたはずのテア博士までが、涙目を拭いながら全力でツッコミを入れてくる。

 

だが、そんな周囲の賑やかなやり取りを、グリーン博士は一瞥もせずーーただ真剣な目で、ハンディカメラの液晶モニターを睨みつけていた。

 

「・・・リョウ、優しいのね」

 

ヴェルダンディが、ボソッとそんな事を呟き優しく微笑む。

 

やっぱり、俺の記憶を持つ存在だから分かっちゃうか。

 

「リョウ、見てくれ。これは僕の作った最高傑作の一つで、過去の事象を映し出す魔導具なんだが・・・。爆発する少し前から、ノイズで何も映らないんだ」

 

確かに、画面には遺跡の外で活動する人々の姿や天気の移り変わりが克明に映し出されているのに、ある瞬間を境に、急に激しいノイズが入って何も映らなくなってしまう。

 

だが、しばらく時間が進むと、今度は俺たちが軍用車両のライトに照らし出される場面から再生が始まり、俺が軍人を投げ飛ばすシーンや、テア博士の頭を撫でている光景が次々と映し出された。

 

「リョウ? なんだか、青いタヌキっぽいロボットが、事故現場を再現させるシーンで使ってたような道具みたいね?」

 

一緒にカメラの液晶モニターを覗き込んでいたヴェルダンディが、ふとそんな感想を漏らす。

 

うん、俺もそう思った。

 

「因みに、この魔導具はどれくらいまで時間を遡って見られるんですか?」

 

俺は興味本位で聞いてみた。

 

「そうだね。大体、一週間くらいなら遡って出せると思うよ」

 

そう言うと、グリーン博士はカメラの向きを変えて別の場所を映し、その映像を俺に見せてくれた。

 

だが、画面を見つめる博士の表情が、突如として激しく歪む。

 

「あっ!アイツ、ニナちゃんなんて全然興味ないとか言ってたクセに、こんな所で乳繰り合ってる!うらやまけしからん?!」

 

博士は血の涙を流さんばかりの勢いで、泣きながらカメラのモニターを睨みつけていた。

 

「この男、カイルって言うんだけどさ・・・本当におかしな奴でね。僕みたいな変人にも気軽に声を掛けて来て、一緒に飲み食いしてくれるような・・・そんないい奴だったんだ。それでさ、『ニナちゃん、可愛いよな?』って僕が言ったら、『は? お前、あんな奴が好みなの? 俺はもっと胸がデカい娘がいいな!』とか言ってた癖にさ・・・」

 

博士は、大粒の涙をボロボロと零しながらハンディカメラを強く握りしめ、言葉を絞り出した。

 

「僕は、ここで一緒に働いていた仲間の仇を取りたいんだ!でも、僕に出来るのは魔導具作りだけだ。それなのに、こうして命懸けで作った物が肝心な時に役に立たなければ・・・何の意味もないじゃないか!」

 

博士はカメラを抱きしめるようにして、天を仰ぎ、声を枯らして慟哭した。

 

「博士、そんな事はないですよ?そもそも、何でノイズが発生してるんですか?」

 

俺の言葉に、グリーン博士がハッとする。

 

「確かに、そうだ?!調べてみるよ!」

 

博士は涙を拭うのも忘れて、貪り食うようにハンディカメラの側面にある魔導回路のダイヤルを弄り回し始めた。

 

画面に流れるノイズの波形を凝視し、いくつかの数式のような魔力光を空間に走らせる。

 

「・・・分かった、これは所謂『魔力ジャミング』だ!爆発が起きる直前、何者かが意図的にこのエリア一帯の魔力通信や記録を遮断するために、強力な妨害結界を展開していたんだ!」

 

ジャミング?

 

『魔力ジャミング発生装置』なんて、そう簡単に手に入る物じゃない。

 

仮に持っていたとしても、国家の軍隊や一部の関係機関でなければ購入すらできないような法外な金額だ。

 

そうなると、相手は国家予算レベルのバックボーンや、相当な戦力を有しているってことか・・・。

 

 

 

 

 

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