異世界転生 作:MSZ-006
「まぁまぁ、そう怒るなグリーン博士。コーヒーでも飲んで落ち着くのじゃ」と、宇治茶博士がなだめる。
「大体、此処のコーヒーは美味しくないんですよ!所詮、安物のコーヒーで、僕が愛飲している豆から引いたコーヒーと全然違う!」
そう文句を言いながら、コーヒーをポットから注いで飲むグリーン博士。
そんな事をしていると、さき程のTS軍人が此方にやって来た。
「テア博士、お願いします」
そう言って、ジッとヴェルダンディを見つめる美少女TS軍人。
「じゃ、行ってくる。何かあれば、大声で叫ぶ」
「そんな必要ないと思いますよ?」
「あぅ~!だ、ダメぇ〜!そんな冷たい言い方されたら、歩けなくなるぅ!」
俺の言葉を聞いて、内股でよろよろと部屋に歩いていくテア博士を眺めつつ、俺は未だにヴェルダンディを見つめ続けるTS軍人に目をやった。
「あの、どうしたのかしら?」
ヴェルダンディが、戸惑いながら軍人に声を掛ける。
「はっ!し、失礼しました!自分は、男山 瞳大尉であります!」と、帽子を被っていないのに、挙手の敬礼で自己紹介が始まった。
「おやまさん?」
ヴェルダンディが、名前を確認して可愛らしく小首を傾げて、自己紹介したTS軍人を眺める。
「はい!是非、美しい貴女のお名前を、お聞かせ願います!」
「うふふ。美しいなんて、いやねぇ!でも、有難う?私は、ヴェルダンディよ」
「自分、元は男でありましたが、貴女の前ではただの乙女になってしまいますであります!」
顔を真っ赤にしながら敬礼を崩さず、おかしな事を言う男山君?
いや、瞳ちゃんか?
「も、もし宜しければ、自分と魔導通信機の登録をして頂きたく・・・」
「ごめんなさい。私は、まだ魔導通信機を持ってないの」
「そ、そうでありましたか!いえ、全然、大丈夫であります!では今度、暇な時に、一緒に出掛けて頂けませんか?」
「それって、デートって事?」
「そ、そんな不埒な考えではなく、そ、その純粋に・・・その、なんと言いますか・・・。一目見たときから、す、好きです!結婚して下さい!」
いきなりの一目惚れ宣言からの求婚に、俺はコーヒーを吹き出しそうになった。
「・・・有難う。でも、私の心はもう既に、とある人に盗まれちゃってるの。ごめんね?」
そう言って、ヴェルダンディは俺を見つめる。
そんなヴェルダンディを見たTS軍人は、俺を鋭い目付きで睨みながら声を上げる。
「お、お前みたいな顔だけのフニャ◯ン野郎、もげてしまえ!うわぁ~ん」
そう言って泣きながら、何処かへ走って行ってしまった。
「そうだ!そうだ!」と、グリーン博士がすかさず合の手を入れる。
そんな光景を、ただ黙って眺めながらコーヒーを啜る宇治茶博士。
また、言われたよ?
アレか?
・・・呪いのフレーズなの?
電話が掛かって来ると化け物に殺される系か、あるいはビデオを見ると一週間後に化け物がやって来て、殺される系の前世のホラー映画を思い出したよ。
俺は、そんな事を思い出しプルプルと恐怖に震えていると、ヴェルダンディが優しく声を掛けて来た。
「リョウ?大丈夫よ?リリーさんが怪談話の時に、猿夢の話をしてたけど、その猿を捕らえて手懐けたんでしょう?私を含め、そんな人たちが周りにいるから、何も心配しなくて大丈夫よ?」
「何じゃ、リョウ?お主、怖い話が苦手なのか?」
「フッ、僕は怖い話なんて全く平気さ!」
宇治茶博士とグリーン博士が、ヴェルダンディの声掛けと、俺の態度を見てそんな事を言ってくる。
・・・面白い!
ならば此処で一つ、俺の知っている怖い話をしてやろうじゃないか!?
俺は、怖い話が大好きな臆病者なんだぞ!?
思い知らせてやる!
「二人とも、こんな話を知ってますか?」
俺は、出来るだけ感情を殺した低い声で語り始める。
『「・・・お母さん、どこにいっちゃったの・・・」
巨大施設の地下道。
夜間、人通りが殆ど無い薄暗い照明の下で、小さな男の子が泣いていた。
お気に入りの魔獣のぬいぐるみを、ぎゅっと抱きしめ、今にも消えそうな声で震えている。
残業帰りの私は、放っておけずに声をかけた。
「どうしたの?迷子になっちゃった?」
男の子はビクッと肩を跳ね上げ、ゆっくりと顔を上げた。
涙で濡れた瞳が、私の顔をじっと見つめる。
そして、おもむろに抱きしめていたぬいぐるみのボタンをカチリと押した。
「ーー対象の音声および外見を記録しました。現在地、西口通路」
ぬいぐるみから、機械的な合成音声が流れた。
私が呆気に取られていると、男の子はすっと涙を拭い無表情な、大人のような冷え切った声で言った。
「捕獲対象、確保。・・・お父さん、次の[お肉]見つけたよ」
直後、背後の暗闇から、巨大な肉切り包丁を手にした大男が静かに現れた。
大男は男の子の頭を優しく撫でながら、酷く嬉しそうな声でこう囁いた。「よくやった、お利口さんだ。・・・さあ、今夜もたくさん[迷子]を作ろうね」』
「は、ハハハ!ぜ、全然、大した事ないな」
グリーン博士が持ち上げたコーヒーカップが、カタカタと揺れている。
「リョウ。・・・その、すまんかった!」
宇治茶博士が、土下座しそうな勢いで謝って来た。
「そんなに遠慮しなくても、イインデスヨ?ダッテ、マダマダ、怖い話はアリマスカラネ?」
俺の暗い微笑みを見て、更に震え上がる二人。
「いや〜、もう良いかな〜?だって、ほらテア博士が帰って来るだろう!?」
「そうじゃな!うん、もう本当に大丈夫じゃよ!?」
「チッ!」
「おい!?今、舌打ちしなかったか?」
「そうじゃぞ!感じ悪いぞ!」
「なら、また怖い話、聞きたいデスカ?」
俺たちのそんなやり取りを、ヴェルダンディはニコニコしながら眺めている。
ギャアギャアと騒いでいると、周りの軍人たちに迷惑そうに睨まれるが、そんな事は気にしない。
だって、俺は国家権力が大嫌いだからね。
そんな風にしばらく騒いでいると、ようやくテア博士が戻ってきた。
「・・・・リョウ、辱められた!」
「・・・そうですか。では、帰りましょう」
「アヒィ!その塩対応!まさにドドS!ハァハァ・・・!」
身悶えしながら妙な色気を振りまいているテア博士を、冷ややかな目で眺めつつ「で、何を聞かれたんですか?」と、質問してみた。
「う、ううん!取り敢えず、超巨大なアースワームに出くわした話をしたよ」
テア博士はわざとらしく咳払いをひとつして、赤く上気させていた表情をピシッと引き締めた。
「それで、向こうはなんと?」
俺が尋ねると、テア博士は少し困ったように眉を下げた。
「それが、調査してみるとだけ言われたよ」
「因みに、僕が戦闘中の記録も残して、渡してあるからね!取り敢えず、問題ない筈だよ!」
すかさず横から口を挟んだのは、グリーン博士だ。
「そうじゃな。後は、軍に任せるしかないのぅ」
宇治茶博士も深く頷きながら、諦めたようにそう呟いた。
俺は、軍のそっけない対応に違和感を覚えながら、グリーン博士と宇治茶博士の言葉を聞いて所詮、国家権力なんてこんなもんかと、諦めを抱きながら席を立った。
「それじゃ、こんな所サッサとお暇しましょう」
そう言って、俺は一緒に席を立ったヴェルダンディと並んで歩きながら、何気なく物陰を見ると、其処には身体を半分だけ隠した男山君ーーいや、瞳ちゃんがいた。
彼女、いや彼は、俺を射殺すような目付きで睨みながら、ブツブツと何やら呟いている。
「!?」
俺はビックリして硬直していると、ヴェルダンディが男山大尉に静かに話し掛けた。
「男山さん?どうしたの?」
「ヴ、ヴェルダンディさん!?いえ、自分は、何もしておりません!決して、ろくでもないクズ男に対して『もげろ!』と、呪いを掛けてなんていないであります!」
「男山さん?リョウは、私の命の恩人なの。だから、そんな風に悪く言わないで?それに、リョウと話せばきっと、男山さんもリョウの優しさに気付くと思うわ?」
「しかし、ヴェルダンディさん!もし話をしていて『君なかなか、カワイイね?実は、前から君の事を狙ってたんだよ?』とか言いながら、イヤらしい笑みを浮かべた、その男に迫られて『今の君は女の子だから、男の俺には腕力じゃ敵わないな!』とか言って、凌辱されたらどうするんですか!?」
「おい!俺は、そんな事・・・」
「黙れ!汚らわしい!お前の魂胆なんて、お見通しだ!私を、いいように言い包めて『ほら?もう俺なしじゃ、生きていけない身体だろう?』とか『女の身体で快楽を味わったら、もう男の身体に戻れないだろう?』更に『お前は俺のモノだから、俺の好きな時に好きな様に抱かせろ!分かったな?』とか言って、私を散々弄んで貶める気なんだろう!」
・・・なんか、酷い言われ様だな。
あと、何で顔を赤くして悶えながら、色っぽい表情で睨むんだよ?
色々な意味で、危ないぞ?
そんなやり取りをしていると俺たちが入った部屋の扉が開き、アンダーソン少佐が顔を覗かせた。
キョロキョロしている。
そして男山中尉を見つけると、アンダーソン少佐はゆっくりと近付き頭に拳骨を落とす。
「ふぎゃ!」
「君は私が用件があるのに、なぜ勝手に出歩いているのかね?」
「も、申し訳ありません!サー!」
男山大尉は、直立不動の最敬礼で謝罪している。
「そもそも君は、私の参謀として動いている筈だが?」
「イエッサー!その通りであります!サー!」
「ではなぜ、持ち場を離れて勝手に行動しているのかね?此れは、軍規違反になるぞ?」
「あの〜、ちょっと宜しいですか?」
俺がアンダーソン少佐と、男山大尉の間に割って入った。
「・・・何かな?」
アンダーソン少佐が、割って入った俺を見て目を細める。
「いえね?そこのカワイイ軍人さんを見て、隣のグリーン博士と話しましてね?『おい、あのカワイイ娘に声掛けろよ!』『そうだな!カワイイ娘だから、仲良くなりたいよな?』なんて話してまして、それで俺がちょっかい掛けてしまったんです。申し訳ありませんでした!」
そう言って、俺は頭を下げる。
「・・・そうじゃな!儂は、止めたんじゃよ?だが若い男二人は、年寄りの言う事なんぞ、聞きやしない!全く困ったもんじゃ」
「おい!僕はそんな事、言ってないぞ?!僕が言ったのは『あんなカワイイ娘を逃したら、一生後悔する!どうしても、デートに誘いたい!』と言った筈だ!」
宇治茶博士とグリーン博士が、俺に合わせてくれる。
・・・本当に、有難い。
「それで、私が『ダーリン、なんでウチが居るのに、他の女に声を掛けるんだっちゃ?!お仕置きだっちゃ!』って言って、お仕置きしようとした所に少佐が来られたんですよ」
ヴェルダンディ!?
それは前世で観た、俺が大好きなアニメキャラクターの一人だよね?
「・・・男山大尉、今の話は本当かね?」
アンダーソン少佐が俺たちを眺めながら男山大尉に問う。
「・・・ノー、」
「イエッサー!本当の事であります!少佐殿?俺的には今回の『馬鹿な軍人が、俺を殺しかけた件』の暴言や暴力を、無かった事にしてもいいんですよ?」
俺たちのデタラメな嘘を正そうとした男山大尉の言葉を強引に遮り、ニヤニヤと薄ら笑いを浮かべながら少佐に言う。
「・・・分かった。今回は不問とする。後、君たちには必ず連絡が付くように、魔導通信機を登録してから帰って欲しい。良いね?今回の件で、色々と迷惑を掛けた。だから此方で、宿の手配はしてある。其処で暫く、ゆっくりしていってくれ。男山大尉、データを送ったから案内を頼む」
そう言い残し、アンダーソン少佐は部屋に帰って行く。
ホッと胸をなで下ろしながら、俺はアンダーソン少佐の後ろ姿を見送った。