異世界転生   作:MSZ-006

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俺は宿に帰るなり、ヴェルダンディを探す。

 

そんな俺をすれ違いざまに、チラチラ見ていく女性客。

 

ヒソヒソ声で『ねぇ、あの人よね?』『うん、さっきの痴話喧嘩の人よね?でも、結構イケメンじゃない?』等の発言が聞こえるが、そんな事はどうでも良い。

 

俺は怒り心頭で、イライラしながらヴェルダンディを探し回る。

 

夜も遅い時間だが、此処の宿は二十四時間営業で常に様々なサービスが稼働している。

 

だから、時間関係なく酒場は空いてるし、二十四時間好きな時にお土産が買えるし、宿の中にレストランもあるから、いつでも食事可能だ。

 

素晴らしいとは思うが、それどころじゃない!

 

キョロキョロ辺りを探していると、宿の赤提灯的な店から、酔っ払ってくだを巻くテア博士の声が聞こえてきた。

 

「ヴェルダンディ師匠!リョウは、どうしたら私をもっと激しく愛してくれるんだ!」

 

「テアさん?大丈夫よ、リョウは絶対に貴女を好きになるから」

 

「本当か!?それは、信じて良いんだな?」

 

暖簾を潜ると、其処にはヴェルダンディとテア博士が二人で焼き鳥と酒で宴会中だった。

 

さっき、ご飯食べたよね?

 

いや、そんな事より・・・。

 

おい、ヴェルダンディ!と、声を掛けようとしたら、二人の所にオッサンたちが近付いて行く。

 

「姉ちゃんたち、カワイイね〜?」

 

体格が良く威張った感じのオッサンが言えば、「よ、良かったら一緒に飲まないかい?」と、細長いメガネを掛けたオッサンが続く。

 

「そうそう、確か君はドMなんだろう?」

 

スキンヘッドのオッサンが下品に笑い、「おぢさんたちが、可愛がってあげるよ?」と、太って鼻息が荒いオッサンがにじり寄った。

 

「ごめんなさい。私たちは、もう一人の人に心を奪われているの」

 

ヴェルダンディは、優しい笑顔を浮かべてオッサンたちを相手する。

 

「おい!今のは、聞き捨てならんな?確かに、私はドMだ!だが、誰でもいい訳じゃない!リョウだから、私のこの隠された本性を曝け出せるんだ!分かったか?分かったなら、どっかに行け!」

 

テア博士は、大分酔っ払っているようで、ナンパしたオッサンたちに喧嘩を売り始める。

 

どうやら、さき程のゲームコーナーのやり取りを見ていた客らしい。

 

「おいおい、ツレナイな!?さっき見た時は、あの男に激しくイジメて欲しいとか叫んでいたのに?」

 

スキンヘッドのオッサンが、そう言う。

 

確かに、ヴェルダンディに説教中、テア博士はテア博士なりに、俺に対して説教?をしていたな。

 

その時、そんな事を叫んでいた様な気がする。

 

「全くですな?此処は一つ、我々が教育する必要がありますな!?デュフフ!」

 

太った鼻息の荒いオッサンがそう言う。

 

「なぁ、姉ちゃんたち?俺は軍のお偉いさんに知り合いがいるんだぜ?だから、素直に此方に来いよ?」と、威張ったオッサンがテア博士に言う。

 

「ハァハァ、早く此方に来るんだな?」

 

細長いメガネを掛けたオッサンが、ヴェルダンディの肩に手を掛けようとした。

 

おい、バカ野郎よせ!

 

死ぬぞ?

 

お前ら・・・。

 

「ふぐぅ!?」

 

メガネのオッサンがヴェルダンディに触れようとした瞬間、オッサンが細い銀糸にクルクル巻きにされてドサッと転がる。

 

「なっ!?何しやがった?!」

 

「こ、此れは、マズいんですな!」

 

「おい!さっきも言ったが俺は、軍のお偉いさんに知り合いがいるんだぞ!!」

 

「ふぐぅ!むぐぅ〜!」

 

オッサンたちが、それぞれ文句や感想を漏らす。

 

・・・縛られたオッサンだけは、恍惚とした表情してるけどな。

 

「・・・そうか?では、そのお偉いさんとやらの所属と、階級を教えて貰おうか?」

 

いつの間にか、俺の横に立っている瞳ちゃん。

 

「な、なんだ?お嬢ちゃん?軍のお偉いさんの話を聞いて、どうするつもりだ?」

 

ニヤニヤ笑いながら、そう言うオッサン。

 

「そうだ、そうだ!」

 

「そ、そんな事より、僕もご褒美欲しい」

 

縛られたオッサンを見おろしながら、不穏な事を言う太ったオッサン。

 

おい?

 

一人、おかしな事を言ってる奴がいるぞ?

 

「・・・言えないのか?早く、所属と階級を教えろ」

 

冷めた目線で、オッサンを眺める瞳ちゃん。

 

「あぁ、良いぜ?施設警備課のホライゾン曹長だ!」

 

「そうか、ちょっと待ってろ?」

 

瞳ちゃんが、魔導通信機のディスプレイを起動させて、何処かに連絡をし始める。

 

「私だ。夜分遅くに、すまないな?ところで貴様の知り合いに、こんな男は居るか?」

 

瞳ちゃんが、ディスプレイをオッサンの方へ向ける。

 

ディスプレイには、厳つい軍人の顔が映っている。

 

あれコイツ、エントを助けた時と、珊瑚を保護して通報した時に来た班長と呼ばれていた兵士じゃん?

 

『また、君か?!』とか、言われて物凄くカチンと来たのを思い出した。

 

『はい、存じております!』

 

「ふむ?では、この男は君とどう言った関係かね?」

 

ディスプレイを自分の方に戻し、曹長と話す瞳ちゃん。

 

こうして見てると、凄くキリッとした軍人なんだよな。

 

『その男は、施設警備課に出入りしている業者の社長であります!』

 

「なる程?では、この業者との取引を、今後一切禁ずる。それから君の名を語って、女性に不埒な行いをしていたが、君はそれをどう思うかね?」

 

『イエッサー!大変、申し訳ありません!サー!』

 

「おい?私の本来の性別は男だが、今は女だぞ?言い直せ、馬鹿者!」

 

『い、イエス・マム!申し訳ありません!マム!』

 

画面の向こうで、曹長が全力で謝罪している。

 

その様子と『マム』という最高敬称を聞いて、ようやく目の前の少女が『軍の超大物』だと気付いたのだろう。

 

さっきまで威張っていたオッサン社長の顔から、一気に血の気が引いていく。

 

「す、すみません!どうか、お許し下さい!」

 

さっきまで威張ってたオッサンが、急に謝罪を始めた。

 

それを見た瞳ちゃんは、暫し考え込んでから曹長に新たな指示を出した。

 

「曹長、取引を禁ずると言ったが、撤回する。一週間の取引禁止だ。分かったな?後、君には一週間のトイレ掃除を命ずる」

 

『イエス・マム!』

 

そう言って、通信を切る瞳ちゃん。

 

カタカタと震えながら必死に頭を下げる社長のオッサンに、瞳ちゃんが冷徹ながらも、どこか慈悲深い声で言い放つ。

 

「お前にも、家族や社員がいるのだろう?今後は、よく考えて行動しろ。分かったら、其処で寝ている仲間を連れて早く行け」

 

「はい!申し訳ありませんでした!」

 

そう言って社長のオッサンは、いつの間にか拘束を解かれていたドMオッサンを必死に引きずりながら、脱兎のごとく去っていく。

 

此れにて、一件落着・・・じゃないよ!

 

そもそも、俺はヴェルダンディに文句を言いに来たんだ!

 

「おい!ヴェルダンディ!お前、カオリと同じで俺のトラウマを再発動させる気か?そんな事すると、俺は本気で泣いて引き篭もるぞ!ゴラァ!?」

 

「あら、リョウ?頭は冷えたの?瞳さんは、貴方が去った後、心配して探してくれたのよ?ちゃんと、お礼を言いなさい?」

 

「瞳さん、有難う御座います。頭を冷やせと言われて、己の行動の軽率さに反省はしたが、お前のせいで頭に来てんだよ!」

 

俺は、瞳ちゃんにお礼を言いながら、ヴェルダンディに文句を言う。

 

瞳ちゃんは、頬を染めながら「べ、別に、お前の心配をした訳じゃないんだからな!」と言ってるが、今はそれよりヴェルダンディだ。

 

「リョウ?私は貴方の事が大好きよ。でもね?テアさんだって、瞳さんだって私と同じ位、貴方の事が好きなのよ?それは、ちゃんと理解してる?」

 

「好意を持って貰えるのは、有難いし嬉しいよ。だけど、俺には他にも考えなきゃならん事があるんだよ!」

 

「そうね、カオリや珊瑚ちゃん、ミリィさん、ネアさん、ゴモリーさんにリリーさん、マリーさん、ユカさん、瑞ちゃん、ポポちゃん、めぐりちゃん。本当にいっぱいね?でも、その人たちは、みんな貴方を好きでいてくれてる。貴方が責任を取るつもりがある事も、私はちゃんと分かってる」

 

ヴェルダンディは、立ち上がり俺の前に来る。

 

「でも、だからと言って、新しく好きになってくれた人たちを、無視するのは駄目よ?」

 

そう言って、ヴェルダンディが優しく俺を抱きしめる。

 

「・・・分かってる。キチンと答えは出すさ」

 

「リョウ!師匠から聞いた通り、マザコンなんだな!しかし私は、そんな君が大好きだぞ?だから、こんな私を早くお仕置きしてくれ!ハァハァ」

 

テア博士?

 

今、シリアスなシーンなんですけど?

 

「わ、私も、お前は大切な友人だからな?でも、いつでも友人から恋人になっても構わないけど・・・」

 

瞳ちゃんが、最後の方が消え入りそうな声でそんな事を言う。

 

・・・皆さん、此処は温泉宿の飲み屋ですよ?

 

他のお客さんも、居ますからね?

 

ふと周囲を見渡すと、赤提灯の客たちは実に見事なリアクションをしていた

 

顔を赤くして見入る女性、苦虫を噛み潰したような表情で、此方を睨む男性、はたまた俺に熱視線を送る筋肉質な男、テア博士や瞳ちゃん、更にヴェルダンディを眺めて、ため息をつく女性。

 

俺は、黙ってヴェルダンディから離れて傍の席につく。

 

それに伴って、まだ顔を赤くしたままの瞳ちゃんも、ヴェルダンディとテア博士のテーブル席へと座った。

 

 

 

 

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