異世界転生 作:MSZ-006
「・・・朝か」
俺は、宿の自室で目を覚ます。
因みに、寝室は全員個室でグリーン博士と宇治茶博士が浴びるように酒を飲んだのは、アンダーソン少佐が用意してくれた俺たち専用の小型宴会場。
それから魔導温泉に浸かり、卓球台のあるレトロゲームコーナーを経て、昨日の三馬鹿もとい三人(一〈ハジメ〉アル、トロワ)に説教し、温泉宿内の赤提灯で酒を飲んだ。
俺は前世からそうだったが、どんなに酒を飲んでも絶対に記憶を無くさない。
後、酒を飲んで記憶を無くすって奴が多々いたけど、羨ましいね。
だって、どんなに人を傷つけても、酒が入っていたから覚えて無いって言うんだからね。
言われた此方は覚えてるし、暴力を振るわれれば、その痛みは残るんだよ!
と、そんな事は置いておいて、転生した今世でも、それは受け継がれている。
昨日の事は、しっかり、はっきり、完璧に、一部始終、徹頭徹尾、一字一句、終始一貫、すべて克明に、我ながらしつこい位に覚えている。
「・・・恥ずかしい」
もうね、なにやってんの俺!?
ヴェルダンディをママとかって呼んだり、瞳ちゃんに抱きついたり、テア博士をテアちゃん呼ばわりして、更に全員にアイスクリームを食べさせるって、どんだけ阿呆な事してんだよ俺!?
後、テア博士に大好きとか、瞳ちゃんに結婚してとか、三人に対して『「はい、あ〜ん!」って、してあげる!』とかって、宣言したり・・・。
もうね、本当に馬鹿なの?阿呆なの?死ぬの?って感じだよ!
・・・もちつけ、もちつけ俺。
まだ、慌てる時間じゃない。
此処は一つ、作戦をたてよう!
昨日、ヴェルダンディに性癖暴露(更に、マザコンまで追加)された時に、引き篭もるって考えたよな?
いっその事、引き篭もってしまえば問題ないんじゃないか?
そうだ!
ソレが良い!
しかし、神様は残酷だ。
ピンポ〜ン!
『リョウ、朝だぞ!起きてないのかい?』
『そうじゃぞ?若いもんが、いつまで寝ておる!早く起きて、朝メシを食いに行くぞい!』
ピンポ〜ン!
ピンポ〜ン!
ピポ、ピポ、ピンポ〜ン!
グリーン博士と宇治茶博士が、扉をノックしながら何回もチャイムを鳴らす。
しかも最後の方は、妙なリズムで押しやがった!?
「うるさいですよ!?起きてますよ!チャイム壊す気ですか?バカなんですか!?」
俺は、あまりのうるささに扉を開いてしまった。
もし俺の性別が女だったら、茶髪で赤いピッチリしたスーツを着込んだ女の子みたいに『アンタ、バカァ〜?』的な事を言ってたと思う。
「なんじゃ!起きとったのか?おはよう!」
「バカ?リョウ、君は今、僕にバカと言ったね!?親にも、バカと言われた事がないのに!」
・・・なんだか前世で大好きだった、白い悪魔の機体に乗った主人公が、初めて殴られたシーンを思い出したよ。
「クソ〜!こうなったら、1秒間に16回のペースでピンポン押してやる!」
グリーン博士が、阿呆な事を抜かす。
「アンタ、アホか?いい加減、迷惑だから止めて下さい!」
「そうじゃぞ!グリーン博士、リョウも起きとる。サッサと朝メシを食いに行くぞい!儂は、今朝は日本酒じゃな」
おい爺さん、朝から飲むのかよ・・・。
「いいですか?支度して来ますから、静かに待ってて下さいね?」
「早くしないと、16連射だぞ!」
「うむ!早く支度せい!儂は、白米に日本酒を掛けて、朝メシを食いたいんじゃ!」
俺は無言で、扉を閉める。
なんか、考えるのが馬鹿らしくなって来た。
取り敢えず、行こう。
そして、何事も無かったかの様に振る舞おう!
俺は歯磨きし、顔を洗い身支度を整え部屋を出る。
「ちょっと、そこのおぜうせん?僕の名は、グリーン・ティー!歯牙ない魔導科学者で、年収は一億ちょっとさ!是非、お名前をお聞かせ願いたい?」
『歯牙にも掛けない』の歯牙ないってのは、前回でやったからもう良いや。
「リョウ!お主、遅いぞ?余りにも遅いから、そこの魔導自販機で酒と肴を買ってきて、ちょっと腹拵えしてたとこじゃ」
グリーン博士は宿の客をナンパし、宇治茶博士は飯前に魔導自販機で購入した酒と肴で酒盛りしている。
「はい、行きますよ!グリーン博士、宿のお客さんに迷惑を掛けない!男山大尉に通報しますよ?それから、宇治茶博士?程々にしないと、身体を壊しますよ?」
「リョウ!今、おぜうせんと魔導通信機を登録して貰う所だったんだぞ?」
「リョウ。お主、儂の心配をしてくれるのか?いいヤツじゃな!」
「グリーン博士?お客さん、怖がってましたよ?宇治茶博士、お年寄りは労るものですよ?」
「チッ!もげてしまえ!」
「なんじゃ!儂を年寄り扱いするのか!」
「ハイハイ、行きますよ?」
俺は文句を言う博士たちを連れて、朝食が用意されているホールへ移動した。
温泉宿の朝食は、様々だと思う。
部屋で朝食なんて言うのもありだし、バイキング形式の朝食も良いね。
でもさ?
なんで牧場みたいな所に、釣り堀とかあるの?
更になんで、お客さんたちがみんな武装して狩りをしたり、釣り竿で魚を釣ったりしてるの?
なに?
それを取ったら、調理してくれるって設定なの?
バイキングに掛けて、自分で獲物を狩る形式なの?
じゃ、捕れなかったらどうするの?
『捕れなければ、宿が最初から用意した食事があります』
なら、最初からそっちで良いよ!
俺は宿の職員から貰ったパンフレットを読みながら、心の中で突っ込んだ。
「リョウ、おはよう!グリーン博士と宇治茶博士も、お早う御座います!」
俺と隣にいた二人の博士に挨拶しながら、ヴェルダンディが優しい微笑みを浮かべながら、釣り堀から此方にやって来る。
「リョウたちの分も確保して、調理して貰ってるからね?」
ヴェルダンディさん?
何を獲ったんですか?
「リョウ!おはよう!き、昨日は、その凄かったな!?」
「おはよう・・・」
元気溌剌にどもるテア博士と不機嫌そうに頬を赤らめた瞳ちゃんが、牧場から歩いて来た。
「リョウ、魔梶木を釣ったのよ!」
ヴェルダンディが、ニコニコしながら俺に言う。
「マカジキ?」
なんだ、それ?
カジキマグロとか、そういうヤツ?
「ほ、本当か!本当に、魔梶木なんじゃな!」
ヴェルダンディの言葉を聞いた宇治茶博士が、興奮しながら問い返す。
「ヴェルダンディさん、魔梶木なんて高級魚、凄いですね!でも、あんな重たくてデカいのどうやって、釣ったんですか?釣るには、魔道アーマーを着込んで釣り上げるか、船のクレーンで釣り上げないと無理な筈ですけど・・・」
「あの、グリーン博士?魔梶木って魚は、そんなに凄いんですか?」
「凄いもなにも、最高級魚じゃぞ!」
グリーン博士が口を開くより早く、興奮した宇治茶博士が割って入って俺に答えてくれる。
「全長は最大で6メートル以上、重さは800キロ以上!そして、最高時速は約300キロ以上で泳ぎ回り、時に船底に穴を空けて、船を沈没させたりするんじゃ!」
えっ?!
ちょっと、待って?
そんな凄いの釣ったの?
呆然とする俺に、宇治茶博士はさらに声を張り上げた。
「それだけじゃないんだぞ!魔梶木は、妖しく発光するんだ!その光は七色に変化し、様々な魔導具や素材として使用されたりしているんだ。後は、魔梶木の最大の特徴である角なんだよ!」
「リョウ、正確には角じゃ無く吻と言うんだ。魔梶木の吻、まぁ角でいいか。角は見た目が槍の様で、斬れ味も素晴らしい。その為、強力な魔導武器になるんだ。後、魔梶木の鱗も様々な物に使用される。魔梶木の素材は、どれも魔力伝導率が非常に高い。それゆえに素材としても重宝される。味も素晴らしいしね。ただ捕獲するには、本当に命懸けだがね」
近くに居たテア博士が、解説してくれる。
流石、生物学者兼テイマーだな。
・・・ドMだけど。
「ヴェルダンディ?どうやって、釣ったんだ?」
俺の質問にヴェルダンディは、はにかみながら答える。
「ただ私が糸を水中に流して、その糸でグルグル巻きにして獲っただけよ?で、調理専用の魔導ロボに渡したら、『魔梶木デス!スバラシイ!』って、褒められたの!」
・・・博士たちが命懸けって言ってた化け物が、調理ロボにあっさり引き渡されてる・・・。
完全にただの『本日の特選食材』扱いじゃねえか!