異世界転生 作:MSZ-006
セニョール監督が、ポポに演技指導している。
どうやら、ポポの役は敵幹部でファム・ファタルを狙う刺客と言う設定らしい。
ポポが、小道具で仮面が縦に半分に割れたピエロのマスクを渡される。
おぉ!?
何だか、敵幹部っぽくなったぞ!?
そして、リハーサル。
まず立ち位置の確認から入り、それから台詞と動き。
基本的にセニョール監督は、アドリブやその場の雰囲気で、台詞あったり無かったりする。
だから、俺の様な演技素人は簡単な台詞で済むし逆に演技のプロ、ユカさんみたいなファム・ファタル的な役だと、覚える台詞やアドリブが強く求められたりする。
で、ポポはどうかと思っていたら・・・。
おいおい!!
マジで、素人か?
普段のふわふわして元気いっぱいな感じじゃ無く、一気に不気味で無感情な気配と台詞で、普段を知っている俺からしたら凄く驚く。
「ポポちゃん、凄い!」
ユカさんが、ポポの演技を見て大絶賛している。
その後、俺とユカさんが入り一緒に動いてみる。
そして本番が終わり、監督と一緒に映像チェック。
俺とファムが、気持ちよく歌い終わり、二人で見つめ合って笑い合う。
其処に、酷く無感情な不気味な少女の声が響く。
「ファム・ファタル、随分と呑気なものだな」
声と共に現れたのは、宇宙犯罪組織アクラツー敵幹部、ブラック・モルダバイト。
「ッ!?」
その姿を見たファムは、青褪めつつ身構えて、臨戦態勢を整える。
「お前が居なくなって、此方は随分とお前の尻拭いをさせられたぞ?この責任、どう取るつもりだ?」
「わ、私は、もう戻らない!私には、愛する存在が出来てしまったから!」
「フッ、フッハハハ!愛?なんだ、それは?お前の様なモノに、愛なんて感情があったとは片腹痛い!下らない戯言はいい。今戻れば、私からキョアク様に恩赦を願ってやる」
「私は、もう悪の組織と縁を切った!だから、もうお前たちの所には二度と戻らない!」
「やれやれ、困ったものだな。・・・そうか?其処のお前、お前がファム・ファタルを唆した存在だな?ならば、貴様が消えればファム・ファタルは戻る。貴様は、此処で朽ちろ!!」
「!?」
ブラック・モルダバイトが、俺に向って手を掲げる。
俺は奴の殺気を感じ取り、瞬時に動く。
その刹那、掌から黒い光線が放たれる。
「リョウ!!」
ファムが、俺を護る様に俺に抱きつく。
俺は回避する為に、己の身体で庇って抱きしめながら遠くに飛ぶ。
漆黒の光線は、俺の背中を掠め通り過ぎてゆく。
「ぐっ!?」
「り、リョウ?!」
俺は背中の傷で意識を失い、ファムはそんな俺を庇うべくブラック・モルダバイトの方を見る。
しかし、ブラック・モルダバイトの姿は何処にも居ない。
「落ちぶれたモノだな?以前のお前なら、この程度動き簡単に察知していたぞ?」
そう言って、後ろに廻り込んでいたブラック・モルダバイトが、ファムの首筋に手刀を落とす。
「ッ!?」
気を失って脱力するファムをお姫様抱っこするブラック・モルダバイト。
「愛などと、下らない幻想に囚われた結果だな・・・。お前には、私がいるだろう?ファム・ファタル、お前は私だけを愛せばいい」
ブラック・モルダバイトが、お姫様抱っこしたファムを見つめて呟いた。
カッート!
此処で、映像は終わった。
「素晴らしい!凄いよ!ポポ君!?君は、女優になる為に生まれた存在だよ!どうだろ?ユカ君と一緒に、私の事務所と専属契約しないかね?」
セニョール監督が、ポポとユカさんにそんな事を言っている。
「え〜!?でも、ヌードはちょっと・・・」と、仮面を着けたままのポポが答える。
「・・・リョウ君、君はこの娘にまで、なにを吹き込んだのかね?」
「いや、俺は本当に何も言ってませんよ!?」
「そもそも、昨日もネア君やゴモリー君、それからめぐりちゃんや、そのご両親にまで、今みたいな事を言われたが?」
険しい目で、俺を見つめる監督。
本当に、俺は何も言ってないよ?
冤罪だ!
そんなこんなで、今日の撮影修了。
俺たちは、部屋の外に出た。
「リョウ、終わったの?」
「リョウ、この後はどうするんだ?此処は、ゲームセンターだ!だから、人が多い場所で私を・・・ハァハァ」
「リョウ、昼ごはんはどうするんだ?この子にも、何か食べさせたいんだが」
「キユ〜ン、キユ〜ン!」
「え〜と、テア博士?ちょっと、黙ってて下さい!ヴェルダンディ、終わったよ。瞳さん、ご飯ですか?此処は、フードコートもありますけど・・・」
「リョウさん、そちらは?」
「お父さん?この人たち、誰?」
あれ?
ユカさんの声が、ちょっと低くなってる様な?
ポポ、もう演技は終わったよ?
なんでまだ、ブラック・モルダバイトをやってるのかな?
「はじめまして。ユカさん?私は、ヴェルダンディ。昨日、遺跡から生まれた元エントよ?エントの事は、カオリから聞いてね?」
「ハァハァ、リョウ?そんなに冷たくされたら、私はおかしくなってしまうぅ!は、はじめまして、私は遺跡発掘調査員の学者の一人で、テア・シルヴェスターだ。専門は、生物学だ。そして昨日、リョウにМとして目覚めさせられた!」
「私は、作戦司令本部アンダーソン少佐殿の直属副官、男山 瞳(おやま ひとみ)大尉だ。本来の性別は男だが、リョウとは昨日、婚約した!そして、私の相棒の魔導アナグマ!名前はまだ無い」
「キユ〜ン!ブフゥ!」
魔導アナグマが、ユカさんとポポに頭を下げる。
「・・・リョウさん?」
「お父さん?」
「えっ?な、何かな?」
「ちょっと、詳しく話を聞かせて貰えますか?」
「お父さん、僕はちゃんと話してくれれば、大丈夫だよ?ただ、嘘は赦さないよ?」
こ、怖えぇ!!
ユカさんから、物凄いプレッシャーがビシビシ伝わって来るし、ポポがブラック・モルダバイト状態で話してるんだけど?!
「え〜と、取り敢えず何処か落ち着いた場所で話を・・・」
「リョウ、ならボア揚げ屋にしましょう!」
「ヴェルダンディ?!」
「リョウ?仲直りは、早めにした方が良いわよ?」
リョウです。
本日は、お日柄もよ・・・くねぇよ!
今、俺はボア揚げ屋に来ている。
そして、なぜか全員が集まり査問会の様な雰囲気で、店が貸切状態にされている。
「では此れより『リョウ様は、なぜ一人歩きすると女が増えるのか?』問題について、話し合いたいと思います」
ミリィさんが、メガネをクイッと上げながら全員を見渡す。
「まず初めに、ヴェルダンディさんですか?お願いします」
「はじめまして、私はヴェルダンディ。以前リョウとカオリに助けられたエントよ。そして昨日、遺跡で転生した存在。だから、カオリと同じね?皆さん、宜しくね?」
「ちょっと、リョウ?エントってあの時の?」
「・・・そうだよ」
俺はカオリの質問に、素っ気なく答える。
「次に、テア博士、お願いします」
ミリィさんが、テア博士を指名する。
「私は、テア・シルヴェスター。遺跡調査員の一人で、生物学者兼テイマーだ。そして昨日、リョウに目覚めさせられた女だ!」
「ちょっと、目覚めさせられたって、何?どう言う事?」
ネアさんが、声を上げる。
「そうです!そもそも、私と言う存在がありながら、リョウさんは他の女に手を出したんですか?」
ゴモリーさんが、興奮気味に突っ込む。
「まぁまぁ、落ち着きなさい?他の人の紹介が終わってないんだから、質問はその後でもできるでしょう?ね?リョウさん」と、哀さんが此方を見る。
「・・・」
俺は黙って、横を向く。
「では次に男山大尉、お願いします」
ミリィさんが、瞳ちゃんを指名する。
「私は、作戦司令本部アンダーソン少佐殿の直属副官、男山 瞳(おやま ひとみ)大尉だ。本来の性別は男だが、リョウとは昨日、婚約した!そして、私の相棒の魔導アナグマ!名前はまだ無い」と、さき程と同じ自己紹介をする。
「お、お兄ちゃん?男って、どう言う事?まさか、本当にそっちに目覚めたの?」
「めぐりちゃん?俺は、そんな趣味はないよ?」
「?!リョウ、貴様!昨日、言った事は嘘なのか!?『瞳ちゃん、優しい〜ね!おねぇちゃんみたい!大人になったら、ぼくと結婚して!』と言う言葉は、嘘だったのか!?」
瞳ちゃんが、泣きそうになりながらプルプル震えている。
「キシャー!」
そんな瞳ちゃんを見て、魔導アナグマが俺を威嚇する。
「その言葉は、嘘じゃ無く酔って言いました。本当に申し訳ありませんでした!ですが、キチンと責任は取らせて頂きます」
取り敢えず、損害賠償とかね?
「ほ、本当か?なら、式はいつにする!明日か?」
「瞳さん、ちょっと待って下さい!その話は、後でじっくりとしますから」
「後で、じっくり!そ、それは・・・まだ早いと言うか、でもリョウなら・・・」
顔を真っ赤にした瞳ちゃん。
「パパ?どうして、こうなったか説明してくれるんだよね?」
「勿論だ!珊瑚、俺はちゃんと説明するぞ?何もやましい事なんて無いからな!」
「主、大丈夫?」
「何の問題もないよ、瑞」
「そう言えば、リョウ?さっきからお父さんとかパパとか主とか君は、結婚して更にご主人様だったのかね?ハァハァ」
「テア博士?俺は、まだ未婚ですし誰かの主人を名乗ったりしてませんよ」
「・・・リョウ、ボア揚げ丼、お代わり」
「お姉ちゃん〜、私も〜!」
リリーさんと、マリーさんがボア揚げ丼の追加注文をする。
「すみませ〜ん!ボア揚げ丼、二人前追加でお願いします!」
「はいよ〜!」
眼帯の渋い中年店主が、忙しそうに手を動かし調理しながら返事する。
「お待たせしました〜!ボア揚げカレーです」
看板娘の瑠璃さんが、俺の前にボア揚げカレーを置いてくれる。
「リョウさん、このボア肉はキョウが一生懸命殴って、柔らかくしたんですよ!」
「・・・そうですか。いただきます」
柱の影から、此方をジッと見つめる不審人物。
隣のミラージュスパイダーのレオパルドの店主、弘崎君。
因みに、昨日俺を殴りそうになった犯人だ。
流石に、ジッと見られててると食い辛いな。
「・・・弘崎君、非常に美味しいボア肉ですよ!だから、そんなにジッと見つめないで下さい」
「リョウさん、昨日は本当に、申し訳ありませんでした!」
弘崎君が、深く腰を折って頭を下げる。
「まぁ、言いたい事は色々ありますが、その話は後でします」
・・・そう、今はこの査問会を切り抜けないと。
ポポと、ユカさんの視線が痛い。