異世界転生 作:MSZ-006
「もげろ!君みたいな奴は、本当にもげてしまえ!チキショー!」
グリーン博士が雄叫びを上げながら、酒をかっ食らう。
「まぁ、なんじゃ!リョウは、絶倫なんじゃな!儂は、カミさんだけで手一杯じゃよ!」
宇治茶博士が、徳利から酒をお猪口に注ぎながら感想を漏らす。
なぜ、こんな事を言われているのか?
時間を、少し前に遡る。
「リョウ?来ちゃった!」
「カオリ!?なんで?!」
「それは、簡単な事です。私が親の権力で、宿を取ったからです」
メガネをクイッと上げながら、ミリィさんが当たり前の様に言う。
俺は、宿に戻り朝からずっと呑み続けている宇治茶博士とグリーン博士を見付け、三人で談笑していた。
「パパ、温泉行こう?」
珊瑚が、俺を温泉に誘っている。
そうだね〜、家族で温泉とか良いよね〜。
「パパ!私、お嫁に行ってもパパの娘だからね?」
なんて、夕日をバックに少し大人びた笑顔で微笑む、未来の珊瑚の姿が脳裏を過ぎる。
・・・駄目だ!
想像しただけで、目から汗が流れる。
それで嫁入り前の思い出で『あの頃は、一緒に温泉宿に行ったな』なんて、思い出しながら俺はきっと泣くんだろうな・・・。
やっぱり、早々に珊瑚を誑かす輩を始末しないと。
フフッ、いつでも胴田貫とルシファーは使えるよ?
「カオリママ、パパがまたおかしな事になってる」
「ピィちゃん、大丈夫よ?いつもの事だから」
カオリが呆れ顔で、俺を見る。
「お父さん、僕もご主人と一緒に温泉に行きたい!勿論、お父さんも一緒だよ?」
ポポが、いつもの口調で話している。
うん、本当に良かった。
ボア揚げ屋では、本当に怖かったからね。
「ポポちゃん!そ、そんな混浴だなんて・・・」
ユカさんが頬を赤らめながら、此方をチラチラ眺める。
「お兄ちゃん!私が、身体洗ってあげる!・・・私の身体で!」
ちょっと、めぐりちゃん?
発言が、非常に危険なんですが?
「リョウ?この宿って、部屋は大部屋なの?それとも個室?個室なら、わ、私の部屋に来ても良いわよ?別に、私から行ってあげても、良いんだからね!」
「大部屋なら〜、また、皆で一緒に寝られるね〜!」
ネアさんとマリーさんが、そんな事を言う。
ネアさん?
個室だし、お互いの部屋の行き来は、一切無いですよ!?
マリーさん、お願いですから一人で寝かせて下さい。
「リョウさん、私はリョウさんと一緒に温泉宿に来て、二人でのんびり温泉に浸かりながら『ゴモリー、君の肌はとても美しいな』『リョウさん、駄目よ!こんな所で・・・人が来ちゃう!』『そんな事を言っても、駄目だよ?』『・・・もう、リョウさんったら』的な会話をするのが、夢だったんです!さぁ、LET’S混浴!」
ゴモリーさん、いつも通りテンション高いですね。
「・・・リョウ、此処のオススメ料理は?後、呑んで無いけど酔っちゃった」
リリーさんが、流し目でオススメの料理を聞いてくる。
後で、魔梶木のフルコースを出して貰いますからね?
後、酒を飲んでないのに、なんで酔うんですか?
「主、また一緒に寝ても良い?」
瑞が上目遣いで、俺を見る。
こんな所で、そんな事を言っちゃ駄目だよ!?
通報されかねん!
「リョウさん?人妻と温泉宿って、どう思う?」
哀さん?
俺が旦那さんに殺されてしまいますから、本当に勘弁して下さい。
「やあ、はじめまして!僕の名は、グリーン・ティー!歯牙ない魔導科学者で、年収は一億ちょっとさ!美しいおぜうせんたちのお名前を、お聞かせ願いたい!」
「はじめまして、グリーン博士。私は、ミリィと申します。貴方の言葉は、本来であれば『しがない』と言いたいのでしょうが、貴方の言葉のニュアンスだと『他者を無視する。歯牙にも掛けない』という意味になります。言葉の定義すら曖昧な割に、大物ぶってニヤニヤしながら声をかけてくる、その態度は非常に滑稽だと思いますが?」
と、ミリィさんがメガネをクイッと上げながら、冷たく返答する。
「リョウ・・・。このグリーン博士って人、大丈夫?」
カオリが怪訝な顔をして俺に尋ねてくる。
「パパ、この人気持ち悪い!」
珊瑚は、カオリの腕に抱きつきながら絶対拒否の姿勢をとる。
当のグリーン博士は、ミリィさんの言葉、カオリの心配、珊瑚の拒絶で固まっている。
「・・・リョウ以外の男に、興味は無い」
「そうだね〜!ごめんね〜?お姉ちゃんも私も、リョウ以外〜、無理〜!」
リリーさんとマリーさんが冷めた目で、グリーン博士を見て言い放つ。
「あら?宿の方ですか?すみませんが、飲み物を頂けますか?私は、ジンジャーエールをウォッカで割って頂けます?」
ゴモリーさんが、グリーン博士にモスコミュールを注文する。
グリーン博士はプルプル震えながら、宿のペッ◯ー君を見付けて律儀に注文する。
「店員さん!私の部屋、リョウの隣にして欲しいんだけど?何なら真正面でも良いわよ?でも、部屋が無いって言うなら、リョウと同室でも構わないんだからね!?」
ネアさんが、グリーン博士にそう話し掛ける。
なんで最後の方が、ツンデレっぽい言い方なんだろう?
「おじさん、其処どいて!ボクは、お兄ちゃんの横に行きたいの!」
邪魔そうに、めぐりちゃんが声を掛ける。
「待って、主の横は私、邪魔」
瑞がグリーン博士に、追撃を掛ける。
「瑞ちゃん?師匠である私を差し置いて、それは駄目よ?リョウさんの横は、私に譲りなさい?あと貴方、早くどいて下さる?」
更に追加攻撃で、哀さんが追い討ちする。
もう、やめてあげて!
グリーン博士のライフは、ゼロどころかマイナスよ!?
「あの、大丈夫ですか?」
ユカさんが、優しくグリーン博士に声を掛ける。
「!?有難う!君の様な美しく優しい女性も居るんだね!」
「美しいだなんて、有難う御座います!」
「どうだろう?僕と一緒に、向こうでワインでも飲まないか?僕は、コーヒーが好きだけど、ワインにもうるさくてね!」
「ごめんなさい。私は、此れからリョウさんと温泉なんで」
「うん!お父さん、早く行こう!」
ユカさんは丁寧にお断りしたけど、ポポはグリーン博士すら見ていない。
まるで、其処に人が存在していないかの様な態度だ。
下を俯き、プルプル震えるグリーン博士。
そして、小声で何やら呟いている。
「あ、あの、グリーン博士?」
俺が声を掛けるとグリーン博士はゆっくりと、本当にゆっくりとした動きで顔を上げて、俺の方を凝視する。
その瞳に宿るのは、憎しみと悲しみと妬ましさと・・・。
某格闘ゲームがアニメ化された際の主題歌のような言い方だが、まさにそんな昏く濁った感情が、そこには含まれていた。
そして、冒頭のグリーン博士の魂の叫びと酒瓶を直で煽る状態になる。
急性アルコール中毒とかに、ならなきゃ良いんだけど・・・。
そんな心配をしていると、ヴェルダンディとテア博士、そして瞳ちゃんと魔導アナグマが此方にやって来た。
「リョウ、私と卓球しない?私、テアさんと二人でプレーして、更に上手くなったのよ?」
「リョウ、ヴェルダンディ師匠は凄いぞ!ちょっと教えただけで、直ぐに覚えてしまう!」
・・・いや、無理だよ。
だって昨日みた時、卓球のオリンピック選手みたいな動きとスピードだったもん。
「リョウ!私と一緒にトレーニングしないか!この子は、なかなか根性があるぞ!」
「ブフゥ、ブフゥ・・・」
瞳ちゃんの足元で、息も絶え絶えな状態の魔導アナグマ。
どう見ても、疲れ果てている様にしか見えないんですが?
魔導アナグマが、ガクガクしながら俺に助けを求めている。
「あの瞳さん?今日はもう、終わりにしませんか?初日から根を詰めても、長続きしませんよ?」
「ふむ?確かに、リョウの言う通りか・・・。とは言え、軍の訓練に比べれば楽な方だと思うんだが?」
瞳ちゃんの言葉に、魔導アナグマが涙目になりながら首を左右に振っている。
「因みに、今日はどんな訓練を?」
「ちょっと釣り堀で、水中戦闘訓練をしただけだぞ?」
確かアナグマって、泳ぐ事は出来る動物だと聞いた事はある。
あるけど、水中戦闘訓練って何させてるの!?
あの釣り堀、魔梶木とか居るヤバい釣り堀だよね?
そんな中に入れたの?
「因みに、初戦の相手は、グリムリーパーアリゲーターだ!ちゃんと、この子だけで勝ったぞ!」
グリムリーパーアリゲーター。
体長は小さくても、5メートル。
現在確認されている最大サイズは、10メートル程にもなる。
死神の名を冠するワニのモンスター。
前世でもワニの噛む力は途轍もない威力だったが、このグリムリーパーアリゲーターの噛む力は、厚み10センチ程度の鋼鉄なら簡単に噛み砕く。
更に、コイツは魔法まで使いやがる。
だから、討伐するのはかなり苦労する。
とは言え、本来日本には生息しない筈なんだが、なぜ釣り堀に居るの?!
そんな極悪な存在なのだが、実はコイツの肉は、とても美味しいらしい。
らしいと言うのは、俺は食った事が無いから。
尻尾の部分と脚肉は、独特のぷりぷりした弾力で鶏肉よりも繊維がしっかりしており、コラーゲン質を含んだ極上の噛み応えがあるらしい。
尻尾はステーキ、脚肉は唐揚げにして食べると美味しいらしい。
食材として非常に人気があるだけでなく、皮、鱗、牙などは武器や装飾品としての価値も高いため、一攫千金も狙えるモンスターでもある。
魔導アナグマは、必死に首を左右に振りながら「キュン!キュ〜ン!キュキュン!」と何かを訴えている。
それを見たリリーさんが「・・・リョウ、この子は『泳ぐだけなら、まだ耐えられる!でも、この娘、グリムリーパーアリゲーターと戦闘させたり、5分間無呼吸で水中に居ろとか言うの!いくら、ぼくの好みの女の子でも流石に無理!』と、言っている」
通訳してくれたリリーさんに気付いた魔導アナグマは、改めて周囲を見回す。
そして、リリーさんに再度、何かを訴え掛ける。
「キュ!キュキュン!キュキュキュ!?キュンキュキュン、ブフゥ!」
「・・・リョウ以外に、興味は無い。それから、それは他の娘も同じ。だから、諦めなさい」
「あのリリーさん?魔導アナグマは、何と?」
「説明しよう!コイツは『まぁ!凄く可愛い娘がいっぱい!全員、ぼく好みの美女、美少女、更に人妻!?もう瞳ちゃんは、諦めるから他の娘の所に行きたい。だからその旨、通訳して欲しい!』と言ってる」
ドヤ顔で割り込んだテア博士が、解説してくれる。
人妻って・・・。
確かに、めぐりちゃんと哀さんって、瓜二つなんだよね。
めぐりちゃんが大人になったら、哀さんみたいになるんだろうな。
そんな事を思っていたら、魔導アナグマがジッと俺を見て更に何か訴える。
「キュキュン!キュキュ、ジェジェジェ!」
「・・・リョウ、コイツは鍋にする?それとも焼肉?」
「お前、それは許さんぞ!やはりお前は、鍋だな!」
リリーさんとテア博士が、魔導アナグマの発言を聞いて二人同時に怒り出した。
一体、何を言ったんだ!?
「・・・リョウ、女装した?」
リリーさんは、いつもの眠そうな眼を此方に向けて俺に問い掛ける。
「えっ?はい、さっき映画の撮影で・・・」
「それで、コイツは『お前はオスだけど、仕方無いから女装したらお前でも良い!早くぼくを連れて、愛の逃避行しろ!』って言ったんだ!そんなの赦さん!」
テア博士は、地団駄を踏みながら文句を言う。
そんな魔導アナグマの発言を聞いた他の面々が、魔導アナグマを取り囲み「あら?美味しそうな食材ね!」と、哀さんが素敵な笑顔を浮かべる。
「おや?リョウ様、鍋ですか?」と、メガネクイッと上げながらミリィさんが発言する。
「パパ、早く捌こう!」と、珊瑚がノリノリで催促している。
「主、味付けは私に任せる」と、瑞が調味料片手に発言。
「リョウ〜!今日は、凄く豪華だね〜!」と、マリーさんがニコニコしながら魔導アナグマを眺める。
「リョウさん、魔導アナグマなんて、珍しい食材ですね!」と、ユカさんが優しい笑顔で発言。
「リョウ?鍋と焼肉、半々にする?」と、カオリがフライパン片手ににじり寄る。
「リョウさん、包丁は私が出しましたよ?」と、ゴモリーさんがとても優しい笑顔で次元収納から青竜刀を出す。
「お兄ちゃん、魔導アナグマの素材、後で頂戴!新しい魔導武器の材料にするね!」と、めぐりちゃんが無邪気に発言。
「リョウ!早く調理するわよ?」と、ネアさんが張り切って準備し始める。
「お父さん、早くコイツ締めよう」と、ポポがブラック・モルダバイトで魔導アナグマを睨む。
そんな様子を、ヴェルダンディは優しい笑顔を浮かべつつ、困った様に眺めている。
一連の流れを見ていた瞳ちゃんは、魔導アナグマに抱きつき「も、申し訳ない!私がキチンと言い聞かせるから、調理だけは勘弁して下さい!貴様、、後で軍隊式訓練だからな!」と、言い放つ。
「キュ〜ン!」
あっ!
魔導アナグマが地面に伏して、必死に謝罪してる。