異世界転生 作:MSZ-006
皆さん、アナグマという生物をご存知でしょうか?
前世のアナグマの爪は、頑丈で長いシャベル型。
爪の出し入れは、絶対に出来ません。
硬い地面をガリガリ掘る為に、前足が発達しているんですね。
更に、恐怖や驚きで気絶する!
これは強いショックを受けると、演技ではなく脳がシャットダウンして、本当に気絶するんです。
擬死状態になって、危険をやり過ごす為なんですね。
見た目は、ずんぐりむっくりしていてタヌキに似ています。
とても、可愛いです!
鼻先が少し尖っており、顔の真ん中に縦の白い縞模様があります。
生態は、イタチやクマに近いそうです。
食性はミミズや昆虫、果物やドングリが主食ですが、実は小動物の肉まで何でも食べる雑食性。
性格は、温厚で臆病。
でも、追い詰められると狂暴!
基本はマイペースですが、敵に追い詰められると、鋭い爪と強い力で猛反撃してくる!!
そんな、恐ろしい一面もあります。
肉の味は、脂が甘くて非常に美味しくクセがない。
ジビエ肉の中では最高峰に美味いと言われてますが、勝手に獲ったりすると法律違反になります。
前世の日本には『鳥獣保護管理法』という法律があって、狩猟免許を持っている人でも、事前の登録やルールを破れば『1年以下の懲役または100万円以下の罰金』を科される恐れがあるんです。
完全な違法行為(密猟)になるので、無許可での捕獲は絶対にダメ、ゼッタイ。
・・・と、ここまでが俺の知る『前世の普通のアナグマ』の話。
で、目の前にいる魔導アナグマはと言うと・・・。
さっきまで、出てた爪は?
あれ?
爪、仕舞えるの?
あ、そうなの?
猫みたいに?
へ〜!
そっかぁ・・・。
今、魔導アナグマは、魔導通信機を使って俺と意思表示している。
温泉宿の売店で、魔導通信機を売ってるなんて流石、魔導科学の発展した異世界!
瞳ちゃんが、今のままだと不便だろうと魔導通信機を、魔導アナグマに買い与えた訳だ。
「キュキュン!」[ぼくは野生を捨てて、シティーガールとして生きていく!]
「うん。まぁ、お前はメスだしな?確かに、シティーガール?ってのは、間違いじゃないと思うよ?」
「キュン、キュキュン、ブフゥ!」[それで、街ゆく可愛い女の子を、ナンバするの!]
「そっか、頑張れよ?でも、温泉宿を出たら即、軍に入隊だと思うけど?」
「・・・キュン?!」[・・・忘れてた?!]
「そうだぞ!お前は、私と共に歩むと、己の意思で決めたんだ!だから、私が直々に少佐に報告して、私の直属の部下として鍛えてやるからな!」
瞳ちゃんが張り切って、魔導アナグマに言う。
「キ、キュン!キュキュキュン?!キュキュ?キュンキュ?キュキュンキュキュン、ブフゥ!」
[た、助けて!え〜と、お前?!名前は何だっけ?そう言えば名前、聞いてない?女装した時の可愛いイメージが先行しすぎて、名前聞くの忘れてた!]
撮影現場の事を、言ってるのは良く分かった。
でも命を助けてやって、更に瞳ちゃんに恩赦まで、お願いしたのにそんなノリなのか!?
「・・・まぁなんだ。ちゃんと、お前に自己紹介してなかったもんな?俺は、リョウだ!覚えたか?」
「キュン。キュ、キュキュン!」[リョウ。いや、リョウコちゃん!]
「おい!勝手に人の名前を、改変してんじゃないよ!俺はリョウだ!」
「・・・」[・・・チッ!]
「お前、鍋が良いか、それとも焼肉が良いか、選べゴラァ!」
「キュキュン!キュンキュン!」[ごめんなさい!本当に、すみません!]
・・・なんで、コントみたいなノリなんだよ。
因みに現在、場所は温泉宿のとても広い牧場の様な一角。
其処は狩りや釣り、食事の出来るスペースで、他のお客が広大な土地に点々と散っており、その中を調理専用の魔導ロボが忙しなく行きしている。
グリムリーパーアリゲーターのステーキや唐揚げは、俺たち及び暴食ドワーフ姉妹によって、綺麗に片付けられた。
とは言っても、俺が食べたのは全体から見たら、ほんの少しなんだけどね?
そもそも一人で、あんな量の肉を食えるか!
まぁ、食える人も居るけどね・・・。
「ユカさん、お兄ちゃん、出来た!どう?」
そう言ってめぐりちゃんは、新たな高位魔導武器を持って此方にやって来た。
ユカさんには、サバイバルナイフとコンパクトに縮められた特殊警棒。
後は、黒をベースにしたタロットカードが入った薄い箱を俺に渡す。
「ユカさん、そのサバイバルナイフと特殊警棒に魔力を流してみて?」
めぐりちゃんが、得意気にメガネを上げながらユカさんに言う。
「めぐりちゃん、有難う!じゃ、ちょっと、試してみるわね?」
ユカさんは左手の特殊警棒をカシャンと振り出し、右手にサバイバルナイフを持って魔力を流す。
すると、どうでしょう!?
ジャキーン!
特殊警棒が長さ約1メートル程に伸び、サバイバルナイフが長いマチェットナイフの様な長さにまで、伸びたではありませんか?!
「因みに、ナイフは魔梶木の角製で、鞘はグリムリーパーアリゲーターの鱗製。特殊警棒はその骨で作られていて、グリップには革を使用してるんだよ!両方とも長さの調整は出来るから、戦況に応じて使い分けてね?」
めぐりちゃんの言葉を聞いたユカさんは、魔力を調整して特殊警棒とナイフを短くする。
特殊警棒は、一般的な警棒を伸ばしたサイズである約40センチ程に、ナイフは最初のサバイバルナイフの状態に戻っている。
どうやら、魔力を流さない通常状態が、このサイズらしい。
ユカさんは特殊警棒を、コンパクトに縮めナイフを鞘に仕舞い次元収納に仕舞う。
匠の手によって生み出された高位魔導武器は、とんでもない能力を秘めた物だったのです!
・・・さっきの長い状態の特殊警棒は、前世で俺が大好きだった漫画家の先生が描いた美人霊能力者の女性が使ってた、長い特殊警棒みたいだったな。
ユカさん、黒髪で長いし容姿も綺麗だから、ついつい前世の漫画を思い出して、俺が抱きついてシバカれる。
そんなイメージが、浮かび上がったよ。
まぁユカさんは、金髪じゃないけどね?
「それで、お兄ちゃんはコレ!」
めぐりちゃんが渡したのは、俺の高位魔導武器『No.13・DEATH』のタロットカードが入った黒く薄い箱。
さき程、グリムリーパーアリゲーターの素材を魔導アナグマから貰い受けた後に、俺のタロットカードを貸してくれと言われて渡したな。
「この箱はね、お兄ちゃんの魔導金属製のタロットカードを入れて、バネ式で掌に飛ばす装置なんだよ!素材はさっきのグリムリーパーアリゲーターの皮!そのままでも防弾防刃、魔力耐性も高いから、本当に良い素材だよ!ちょっと前までは、弘崎さんにミラージュスパイダーの糸を加工して貰おうと思ってたんだけど・・・昨日の一件があったでしょう?だから、紐で引っ張るんじゃなくて、バネ式でシュンって飛ばす方式にしたの!後、この手袋も使って!」
「有難う!めぐりちゃん」
俺は嬉々としてタロットカードの入った薄い箱と黒い手袋を受け取り、箱に付属するベルトを使って、手首に巻いてみる。
しかし、めぐりちゃんは、本当にいい仕事をする。
この手袋だって、一流の殺し屋が使ってる様なイメージの黒い革製の手袋だよ!?
もうね、永遠に中二病な俺の少年の心は、喜色満面で狂喜乱舞し手舞足踏しちゃいそうだよ!
それこそ前世で大好きだった漫画の主人公で、一応売れてはいるけど書いてる話が終わって、次の仕事がなかなか無いプロの漫画家。
その裏では、自分の仕事道具の丸ペンやステンレス製の定規を使ってターゲットを葬る。
あの必殺系のダークヒーローみたいじゃないか!
しかも、メガネの女子高生が漫画家の弟子で、殺しの弟子でもあるっていう最高の設定なんだよ!
メガネっ娘、最高!
そんな事を考えつつ、手首の感触を確かめる。
違和感も無く、日常生活に支障はきたさないな。
「それで、中指をクイッと内側に曲げて見て?」
めぐりちゃんに言われ、俺は肘をL字に曲げて腕を立て、中指をクイッと内側に曲げる。
カシュッ!
手首の箱から、タロットカードが飛び出して、そのまま回転しながら地面に突き刺さる。
ありゃ!?
なる程、射出と同時に掌を内側に曲げて、受け止めないと駄目なんだな?
そんな当たり前の事を考えていると、めぐりちゃんは満足そうに頷きながら言った。
「うん!大丈夫そうだね!後は、お兄ちゃんの頑張り次第で、上手く掌で受け止められる様になるよ!因みに、その手袋も防弾防刃、魔力耐性ありだよ!」
「・・・めぐりちゃん、本当に有難う!」
俺は片膝をついて、めぐりちゃんを抱きしめる。
「お、お兄ちゃん!ぼく、初めてだから優しくしてね?」
めぐりちゃんが、頬を紅く染めて潤んだ瞳で俺を見つめて呟く。
「リョウ!公衆の面前で、なにやってんのよ!?次は、私よ!」
カオリが、俺の行動を見て即突っ込む。
「リョウ様、未成年者に対して淫らな行為は、犯罪ですよ?訴えますよ?訴えを取り下げて欲しくば、私も抱きしめて下さい」
ミリィさんが、メガネをクイッと上げながら俺に言う。
「ちょっと!?リョウ!なんで、少女を抱きしめてるのよ!わ、私が代わりに抱きしめられても、良いんだけど?」
ネアさんが、すかさず言葉を発する。
「リョウさん?母親である私を差し置いて、まためぐりだけ?リョウさん、娘じゃ無く、私から制して行きなさい!」
哀さんが、また見当違いな事を言い出す。
「リョウ〜!私は、抱っこしながらチョコパフェ食べさて〜!」
マリーさん、まだ食べますか?
「お父さんやっぱり、めぐりちゃん位の歳の娘が、好きなんだね?なら、僕も瑞も珊瑚ちゃんも、オッケーだね?」
ポポが、満面の笑みで俺を見て言う。
ポポさん?
何が、オッケーなんでしょう?
「リョウさん!酷いです!早く私を、結婚式場に連れって!」
ゴモリーさん?
なんで、結婚式場なんですか?
そもそも、婚約すらしてませんよ?
「パパ、私はパパがどんな性癖でも、大丈夫!ずっと一緒にいるからね?」
珊瑚・・・。
その優しい瞳が、物凄く俺を苦しめるんだが?
「リョウさん、例え貴方が転生者で、ロリコンで、マザコンで、ドSで、女装趣味があって、露出等のマニアックな性癖があったとしても、私は全て受け入れます。だから、安心して下さい」
ユカさん?
お願いだから、珊瑚と同じ様な瞳で俺をみないで!
後、女装は映画の撮影でやってるだけですからね?
ちゃんと、分かってますよね!?
「・・・リョウ、私は『お姉ちゃん!ぼくは、お姉ちゃんが大好きなんだ!だから、イタズラしちゃうぞ?でも、お菓子くれたら、止める!』って言ってお菓子を、お強請りして」
リリーさん?
今の時期は、ハロウィンじゃ無いですよ?
「主、もう何も言わずに、早く抱きしめる。そして、そのまま・・・」
瑞が、顔を赤らめながら言葉を濁す。
瑞さん?
最後の・・・は、何が続くんですか?
本当に俺が、牢に隔離されかねないんですが?
「リョウ!私は、ただ抱きしてくれるだけで、良いんだぞ?後、結婚式は軍でやってくれるからな!」
瞳ちゃんが、チラチラと此方を眺めながら、そんな事を言う。
「ひ、瞳さん?軍をあげて挙式ですか?」
「そうだぞ?リョウ!私は、誇り高き軍人だからな!だから軍の皆にも、お前を紹介しないとな!」
・・・もうね、何を言って良いか分からん。
「リョウ、私はキツく縛って言葉ぜ・・・」
「テア博士!ちょっと静かに、お願いします!」
「そ、そんな塩対応されたら!ハァハァ」
テア博士が、一人で悶えてる。
まぁ、放っておこう。
「キュンキュ、キュキュン!」[ぼくは女装して、リョウコちゃんで抱っこが良い!]
魔導アナグマが、おかしな事を言い出す。
なんでお前まで、此方に要求する立場になってるのかな?
「リョウ、私は『ヴェルママ、大好き!』って言って、甘えて欲しいな」
ヴェルダンディが、ニコニコしながら俺にそんな事を言う。
俺は心を無にして、地面に刺さったままになっていた『No.13・DEATH』のタロットカードを拾い上げ、黙って手首の箱にセットした。
カシュッ!
周りの騒がしさが嘘の様に、タロットカードをセットした音だけが、俺の鼓膜に響いた。