異世界転生 作:MSZ-006
前世の昭和時代の名曲みたいに、下駄でも鳴らして小粋に歩きたいけど、残念ながら靴なんだよね。
「リョウ!温泉街って言ったら、木刀と饅頭よね!」
カオリが、そんな事を言う。
「リョウ様?温泉街に饅頭は分かりますが、なぜ木刀なんですか?」
ミリィさんが、メガネをクイッと上げながら聞いてくる。
「ミリィさん、お兄ちゃんとボク、それからリリーさんは転生者だから分かるけど、前世の温泉街には大体、木刀がお土産屋さんに売ってたんだよ!」
めぐりちゃんが、代わりに答えてくれる。
「リョウ、土産屋に木刀なんて、何を狩りに行くの?」
ネアさんが、疑問を口にする。
「・・・ネア、別に狩りに行く為や戦闘行為の為じゃ無い、言わば様式美」
リリーさんが、眠そうな眼をネアさんに向けて答える。
「リョウさん?前世の温泉街はどんな物が、お土産屋さんにあったんですか?」
ゴモリーさんが、俺に問い掛ける。
「そうですね、代表的な物と言えば飾り物の提灯やペナント、後はキーホルダーとかですかね」
俺は、前世を思い出しながら答える。
「リョウ、後は鮭を咥えた熊の木彫りとか、こけしもそうよ!」
ヴェルダンディが、ニコニコしながら俺に言う。
確かに、そう言われてみればそうだよな。
「リョウさん?『温泉街と人妻』って、どう思う?」
「哀さん!お願いしますから『人妻』というキラーワードで、俺を攻めないで下さい。後、娘さんの目の前です。俺は旦那さんに、抹殺されたくありません!」
「主、饅頭食べたい」
「お父さん、僕も〜!」
「パパ、私も!お饅頭、食べたい!」
瑞、ポポ、珊瑚が声を揃えて言う。
「うんうん!ちょっと待ってろ!美味しい温泉饅頭、全土産屋から買い占めてくるからな!」
「リョウさん?そんな事したら、他のお客さんが困りますよ?」
ユカさんが、苦笑いしながら冷静に俺を諌める。
だって娘の様に思ってる存在に、お強請りされたら仕方無いですよ!?
「リョウ、君の前世の世界の温泉街って、どんな雰囲気だったんだ?」
テア博士が、俺に聞いてくる。
「そうですね。俺の勝手なイメージですけど、長閑な寂れた感じ?もしくは、観光地化された賑やかな温泉街ですかね?」
「リョウ? 君は今、真反対の事を言った気がするんだが?それは、アレか?私をわざと困惑させて、その困った顔を見てニヤニヤ笑う・・・そんな、ドSな責めなのかい?ハァハァ」
テア博士は、俺が何か反応すると更に悪化するから、取り敢えず放置しよう。
「リョウ〜!私は、温泉饅頭と温泉卵が食べたい〜!でも、半熟は嫌〜!」
「マリーさん、それは非常によく分かります!温泉卵って、何で半熟なんですかね?許せませんよね!後、目玉焼きは黄身が半熟じゃ無いと、駄目です!」
「・・・リョウ、その意見は大賛成」
「私もお姉ちゃんも〜、ゆで卵の黄身が半熟なのは〜、嫌いなの〜!でも〜、目玉焼きは、半熟が好き〜!」
俺の言葉に、リリーさんとマリーさんも賛同する。
「キュキュン、キュキュン。キュキュン?キュ、キュキュンキュ?」[リョウコちゃん、じゃなかった。リョウさん?前世にも、ぼくと同じ種族が居たの?]
俺の足元で体長1メートルの魔導アナグマが、さっき瞳ちゃんに肉食ウツボカズラとの連戦を告げられて、気絶していたとは思えない軽快さで、俺を見上げて鳴いた。
「前世にも、アナグマは居たぞ!でも、お前より小さくて、爪は仕舞えなかったけどな?」
「リョウ!一緒に温泉街なんて、新婚旅行みたいだな!」
瞳ちゃんが、頬を染めてニコニコしながら言う。
「そうですね。確かに、カップルで温泉に行くなんて言うは聞いた事がありましたね」
アベックじゃ無くて、カップルな?
取り敢えず、俺は瞳ちゃんの新婚旅行って言葉を聞かず返事した。
一応、宿を出る時に宇治茶博士とグリーン博士にも声を掛けてみた。
しかし、宇治茶博士は『儂は、此処で酒を飲んどる!』
グリーン博士は『君と居ると、僕は切なくなるんだよ!放って置いてくれ!』と投げ遣りに、酒を飲みながら言われた。
昨日、夜にフラフラと温泉街を散策して、一〈ハジメ〉、アル、トロワと出会った訳だが、やはり改めて見ると前世の温泉街と変わりないな。
この温泉街は、観光地化された賑やかな温泉街だ。
しかも、全ての店が24時間営業!
コンビニも真っ青な異世界仕様だ。
まぁ、それだけこの温泉街には人が居て、時間を問わず人が彷徨いている場所だからなんだけどね。
そんなに事を考えつつ、店を冷やかしながら歩いていると、昨日の三馬鹿がトボトボと歩いているじゃないか!?
「おい!ハジメ、アル、トロワ!こんな所で、どうしたんだ?今日は、仕事終わりか?」
「・・・リョウアニキ!」
「アニキ!」
「リョウのアニキッス、うわぁ~ん!」
「おい!一体、どうした!?」
俺を見た三人は、道端で泣き出した。
「と、取り敢えず、店に入って話を聞くからな?」
俺はあたふたと焦りながら、周りを見渡す。
「リョウ、カツアゲなんて止めなさいよ!」
カオリが、真顔でそんな事を言い出す。
「リョウ様?お知り合いですか?そして、何故この方たちは、泣いているんですか?」
ミリィさんが、メガネをクイッと上げながら冷たく俺を見る。
「お兄ちゃん?この人たち、お兄ちゃんに何かしたの?」
めぐりちゃんが、俺を遠巻きに眺めつつ声を掛けてくる。
「主、その人たち悪人?何で、泣かしたの?」
瑞は、咎める様に俺を見る。
だから俺は、瑞に対して必死に首を振る。
「パパ?いきなり泣かすなんて、一体どうしたの?」
珊瑚も、ちょっとお怒りで俺を見る。
ち、違う!
俺は、何もしてないよ?
「お父さん、いじめかっこ悪い!」
ポポ?
俺は、何もしてないよ?
「リョウ!弱い者を虐めるなんて、卑怯者のする事よ!冒険者の先輩として、許せないわ!」
ネアさん、違うんです!
声を掛けただけのを、見てましたよね?
「リョウさん?この人たちは、リョウさんのなんなんですか?女性だけで無く、男性にまで・・・」
ゴモリーさんが、冷めた目で俺を見る。
「リョウさん?めぐりの母親として言わせて貰うけど、いきなり泣かせるのは、駄目でしよう?先ずは、何が悪かったか、ちゃんと教えてあげないと!」
哀さんが、俺に説教する。
「・・・リョウ、『お姉ちゃん、意地悪して、ごめんなさい』は?」
リリーさんが、何故か俺に謝罪を要求する。
「リョウ〜?この人たちは〜、何か悪い事をしたの〜?そうじゃ無いなら〜、リョウは何もしてない人たちを、泣かせたの〜?」
マリーさんの笑顔が、怖いんだけど!?
「リョウさん?ちゃんと、説明して下さい!お説教は、その後です!」
ユカさんは腰に手を当てて、フンスと怒ってらっしゃる。
・・・あれ?
俺が、悪いの?
「リョウ!?そんなに、欲求不満だったのか!?だったら、私が居るじゃないか!なぜ、見知らぬ男をイジメて喜んでるんだ?さぁ、早く私をお仕置きしろ!ハァハァ」
テア博士は、病気みたいなもんだから放っておこう。
「リョウ?何か気に食わない事があったの?駄目よ?鋭利な刃物みたいに尖っちゃ!」
ヴェルダンディが、俺を優しく諭す様に言う。
「キュキュン、キュキュブ、フゥ!」[道を歩いてるだけで、人を泣かせるなんて、極悪人だ!]
魔導アナグマが、俺を見てそんな感想を漏らす。
やっぱり、鍋か焼肉か?
「お前たち、昨日の奴等だな?リョウに、復讐しに来たのか?」
瞳ちゃんが、そんな事を言う。
そして、瞳ちゃんの言葉聞いた途端、他の人たちの態度が急変した。
「リョウ?コイツら、何したの?」
カオリが、スッと眼を細めて魔導ヒートガンを次元収納から取り出す。
「リョウ様、ちょっとこの方たちと、お話して来ます」
ミリィさんが、メガネをクイッと上げながら、次元収納から細剣エピオンを取り出す。
確か、ギリシャ語で『次の』や『次世代の』という意味だけど、シュウさんが『未来を切り拓く』という願いを込めて、名付けたって言ってたな。
でも、ミリィさん?
それからカオリも、そんな物騒な物は必要ないですよ?
「お兄ちゃん?コイツら、始末していい?」
めぐりちゃんが、次元収納から万力鎖を出して、三人に見せ付ける様に鎖を引っ張る。
「主、串刺し?」
瑞は、ゴモリーさんから借りているサイを出し、器用にクルンと回して構える。
「パパ、ごめんね?やっぱり、パパは悪くないよね?」
珊瑚が、めぐりちゃんが作ってくれたヘビのロボを次元収納から出して、十文字槍に変形させ三人を見据える。
「お父さん。さっきは、ごめんね?コイツ等を始末して、僕は反省するからね?」
ポポが、ブラック・モルダバイトの時の声音に戻り、めぐりちゃんに作って貰った黒い鳥のロボを、月牙鏟(げつがさん)に変形させる。
ポポ、帰って来い!
もう、撮影は終わったんだぞ!?
後、月牙鏟で埋める気満々じゃねぇか!
「リョウ!違うなら、違うって言いなさいよ!」
ネアさんが、腰に巻いていたウルミを解き放ちながら言う。
「リョウさん、また新たな恋人かと思いましたが、違ったんですね!良かった!」
そう言って、ゴモリーさんが紐の先に刃物が付いた武器を取り出す。
あれ、縄鏢だ!
「リョウさん、ごめんなさい。ちゃんと話も聞かず・・・。お詫びに人妻である私が、優しく頭をナデナデしてあげますからね?」
哀さんは、何処からかともなく苦無を取り出しニッコリ笑う。
「・・・電析!」
リリーさんが声を発すると、身体がまばゆい光に貫かれる。
光が収まると、其処には鈍く輝く銀色のコンバットスーツを着たリリーさんの姿があった。
「・・・」
リリーさんは無言で、頭部全体を覆うヘルメットのゴーグル越しに、三人を睨む。
そして、右手に持った魔導光学ソードから、約1メートル程の光刃を出現させた。
「リョウ〜、お姉さんが〜、守ってあげるから〜、大丈夫〜!」
マリーさんが、巨大な先の尖ったバトルアクスを次元収納から、取り出し片手で軽々持ち上げ三人を眺める。
「リョウさん、ごめんなさい!後で私を、お仕置きして下さい!」
ユカさんが、テア博士みたいな事を言いながら、右手にサバイバルナイフ、左手に警棒を持つ。
そして一気に魔力を流し、警棒を1メートル程の長さに、サバイバルナイフをマチェットナイフの様に変形させる。
「お前ら、覚悟は出来てるんだろうな?」
ユカさんが、ファム・ファタルよろしく、どすの利いた声で三人に言い放つ。
「リョウ?わ、私もお仕置きか?そうなんだな?ハァハァ。だが、その前にやる事があるな」
テア博士は、次元収納から長い一本の棒を取り出し魔力を流す。
すると、棒の先から魔力の刃が出て来た!
それは、前世のロボットアニメに出てきた、『死神』の異名を持つ黒い機体が振り回していた、大鎌にそっくりじゃないか!?
「さて、誰が最初かな?」
テア博士は、ハァハァ悶えていた時と全く違う雰囲気で、巨大な魔力刃の鎌を三人に向け言った。
「私の大切な存在であるリョウに敵対するって事は、私を敵に回す覚悟があるのかしら?」
ヴェルダンディが、そんな事を言いながら手の平サイズの黒い棒を軽く振ると、棒の先が生き物のように急激に伸びてしなり『パシーンッ!』っと、音を立てて地面を激しく弾き、火花を散らす。
「お前等、昨日リョウに言われた事が、そんなに気に入らなかったのか?少なくとも、私はお前たちが反省したと思ったから、見逃したんだ!それなのに、リョウに復讐に来るとは軍人として許せん!纏めて、相手してやる!」
瞳ちゃんは、だらりと手を下げた、無警戒に見える佇まいで、三人を見つめて言い放つ。
システマ特有のリラックスした状態で、相手の動きに合わせるってヤツかな?
そんな瞳ちゃんと俺を、チラチラと見ながら魔導アナグマは無言で立ち上がり、両手に盃を持った様な手で、右半身で構えを取る。
・・・おい?
お前、さっき俺に『道を歩いてるだけで、人を泣かせるなんて、極悪人だ!』とか、魔導通信機の文章を俺に見せたよな?
俺は、忘れてないぞ!?
「り、リョウ、アニキぃ〜!」
「ひいぃ~!た、助けて!」
「あ、アニキ、助けてッス!?」
「あの〜、皆さん?この三人は、俺の知り合いです。そして、瞳さん?この三人は、ちゃんと反省しましたから、大丈夫ですよ?後、お前!さっきの言葉忘れてないぞ?」
殺気立つ女性陣と、魔導アナグマに俺は冷静に告げた。