異世界転生 作:MSZ-006
「で、一体どうしたってんだよ?」
俺たちは今、温泉街の喫茶店に居る。
俺は、三人と同じテーブルに着き話を聞く事にした。
さっきまで、ガチで三人の若者が行方不明にされそうになっていたが、俺の一言で一瞬にして落ち着いた。
『もう〜!いやねぇ〜!リョウさんの知り合いなら、早く言ってよ〜!』
『リョウ!知り合いなら、早く言いなさいよ!べ、別に私は、リョウの為に、武器を出した訳じゃ無くて、そう、アレよ!ちょっと、運動しようかなって、思っただけなんだからね?』
『お父さん。僕、お饅頭食べたい!早く行こう?』
『キュッ!、キュ、キュンキュ、キュキュンュキュン!?ブフゥ〜?』[えっ!ぼく、そんな事、言ってないよ!?やだなぁ〜?]
等の勝手な供述をしておりますが、俺は全く気にしてません!
えぇ、全く!
コレっぽっちも、全然、気にしてません!
・・・今夜の宿の料理は、高級ジビエの焼肉とか鍋とか、そんな事は微塵も考えてないよ?
うふふ・・・。
俺は目の前のクリームソーダのアイスを掬いながら、三人の言葉を待つ。
「アニキ、俺たち会社クビになったッス」
「そうなんです!昨日、リョウアニキに説教されて、今朝はいつもより早く会社に行って仕事をしようとしたんです!」
「でもその前に、今まで疑問に思ってた事を社長に聞いたら、『お前等は明日から、もう来なくて良い!クビだ!』って、いきなり言われたッス」
トロワ、アル、ハジメの順で話す。
「ちょっと待て!何でクビなんだよ?」
俺は、アイスクリームを掬うスプーンを止めて三人に聞き返した。
「今まで俺たち、一生懸命仕事してたんだけど、残業代が払われて無かったり、理不尽に休日出勤させられたりしてたから、それを社長に問いただしたんだ」
「そしたら、『今まで雇ってやっていたのに、何だその言い草は!?』って怒鳴られて・・・」
「更に、『お前等の様な児童養護施設育ちの屑共は、雇うんじゃ無かった!』って言われて、さっきの言葉になるッス」
三人は、下を俯いて震えながら俺に言う。
「アニキ! 昨日、俺たちに言ってくれたじゃないですか!『することを当たり前と思え、してもらうことを当たり前と思うな』って」
「後、その言葉の意味として『決して、己を犠牲にするな』って、言ってくれた!」
「だから俺たち、社長に聞いたッス!『今まで俺たちは、一生懸命やってきたけど、ちょっとおかしくないですか!?』って、言ったッス!」
三人は、泣きながら俺に言う。
「・・・すまない。俺が余計な説教したばかりに、お前等を苦しめてしまって」
俺は、自分がした説教のせいで傷ついた彼らに、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。
それと同時に、俺の内に黒い靄が掛かる。
その靄は、殺意と怒りでドス黒く染まっている。
「お前等、何処で働いてたんだ?」
そう言えば俺は、コイツらが何処でどんな仕事をしているのか、全く聞いていなかった事を思い出す。
「俺たち三人共、N施設警備保障って会社で、働いてたんだ」
「仕事の内容は、警報対応とか警報装置の修理や交換」
「後は、警備職なのに、営業もやらされてたッス」
「分かった。お前等は、此処で待ってろ」
俺は話を聞いて、席を立つ。
「リョウアニキ!何処に行くんです?」
「そうだよ、アニキ?ひょっとして、会社に行く気じゃ・・・」
「アニキ、駄目ッス!そんな事をしたら、アニキが軍に捕まるッスよ!」
「だからって、黙ってられるか!お前等は、幸せになる権利があるんだ!それを屑みたいな連中に、いいように搾取されて、それを俺が聞いて黙っていると思うか?」
俺は、怒りのあまり三人に怒鳴り散らしてしまった。
「リョウ様、落ち着いて下さい!」
「そうよ?リョウ、貴方が怒ってみたって、何も解決しないわよ?」
ミリィさんと、カオリに宥められた。
「すまん、お前等に怒鳴り散らしてしまった。本当に、申し訳ない」
俺は席に着いて、三人に頭を下げる。
「あ、アニキ!良いんです!謝らないで下さい!」
「そうです!アニキは、俺たちの為に怒ってくれたんです!だから、謝らないで下さい!」
「そうッス!アニキは、何も悪くないッスよ!」
「お前等・・・」
俺は自分の稚拙さに、恥ずかしくなってしまった。
「リョウ、貴方は他人のことをまるで自分のことのように真剣に考えて、怒ったり悲しんだりできる人。私は貴方の記憶を引き継いでいるから、それがよく分かるの。以前、エントだった私を助けてくれた時も、レッドドラゴンの子供の珊瑚ちゃんを助けた時も、すべて貴方の優しさからくる行動だった。だから私は、そんな貴方が大好きなの!」
ヴェルダンディがそう言って優しく微笑みながら、俺を撫でてくれる。
ヴェルダンディのその言葉を聞いた女性陣は無言で、うんうんと頷いている。
「ちょっと、リョウ!私だって、ヴェルダンディと同じなのよ?」
カオリがヴェルダンディに張り合って、そんな事を言う。
「確かに、カオリも俺の記憶を引き継いでいるな」
俺は、微笑みながら二人を眺める。
「パパ?パパが優しいのは、私もよく分かってる。カオリママやヴェルダンディさんと違って、私はパパの記憶を引き継いで無いけど、私もパパが大好きよ!」
「珊瑚、有難う!」
でも、いつかは本当の母親の所に返さないとならないんだよな。
・・・いや、待てよ?
人間年齢で30歳ってのは、ドラゴンじゃまだお子様で、年端も行かない少女って扱いだもんな!?
と言う事は、嫁に行くのはまだまだ先か?
いやいや、油断は禁物だ。
今のうちに、悪い虫は退治しないと・・・。
「ちょっと、リョウ?また、おかしな想像してない?」
「パパ、また遠い世界に旅立ったの?」
カオリと珊瑚が、俺を見て呆れている。
「所で、お前等?昨日、話した俺の知り合いの話は覚えてるよな?」
俺は、アイスの溶けたクリームソーダをストローで吸いながら、三人に言う。
「覚えてますよ!」
「はい。糖尿病で、インスリンの注射をしてる人ですよね?」
「覚えてるッス!俺、アニキの話を聞きながら、泣きそうになったッス!」
「うん、それでな?その知り合いの話の続きなんだが、ソイツは社会に出て暫くして、会社を理不尽無な理由で、クビにされたんだよ」
前世の俺は若い頃に、理不尽な理由でクビにされた事がある。
当時の俺は、学校を卒業後、就職氷河期で何処に面接に行っても、雇ってくれない状態だった。
まぁ、単に頭が悪いって話なんだけどね?
それは置いといて、自動車学校の金を貯める為、学生時代にバイトしてたガソリンスタンドに俺は、そのまま就職する事になる。
其処で三年程働いたが、会社が倒産。
で、また職探しをしたんだが、丁度よくガソリンスタンドの求人を見付ける。
面接に行って、即採用されたのは良いが、其処はとんでもない糞みたいな職場だった。
まず、お客の車を取りに行って、給油して洗車して返す。
その際に、実際に入った燃料の量をかさ増しして請求する。
他には、プロパンガスの配達もやっていて、メーターの数字より多く伝票を書いて請求する。
更に、灯油の配達に行った際も必ずかさ増しして、伝票を書けと言われたりした。
俺は、そんな詐欺行為が許せなかった。
だから、社長に此れは詐欺行為じゃないのか?と、問い詰めた。
手間賃って言うなら、確かにそうかもしれない。
だったら、通常よりも少し値段を高くしておけば良いのに、値段を高くした上で更にかさ増し請求する。
それを言ったら、クビにされた。
そんな話を、三人に聞かせてやった。
三人は、怒りに顔を歪めながら、俺の話を聞いている。
それどころか、話を聞いていたカオリとヴェルダンディ以外の女性陣が、かなり殺気立っている。
「でな?ソイツの若い頃は、ネットもなけりゃ、頼れる大人もいなかった。だから屑社長の『お前の世間体が悪いから、自主退職にしてやる』なんて大嘘に騙されて、職安の事務作業に流されて終わりだ。・・・お前等、これを可哀想だと思うか?違う、無知は罪なんだよ。知らないって事は、悪い奴らに『どうぞ、俺を騙して搾取してください』って、白旗振ってるのと同じなんだ。だが、お前等は学べる環境がある。お前等が知ろうとしないなら、それは怠慢であり罪だ。二度と理不尽に負けたくないなら、知識という武器を備えろ!」
俺が言い放つと、俺たち周辺の空気だけが凍りついた。
話を聞いていた面々のうち、カオリとヴェルダンディを除く女性陣からは、隠しきれない鋭い殺気が立ち昇っている。
かつて俺をハメた屑社長や、冷淡な社会のシステムに対する、剥き出しの怒りだ。
だが、カオリとヴェルダンディの二人だけは違った。
二人は騒がず、殺気立つこともなく、ただ静かに俺を見つめている。
・・・当然だよな。
この二人は、俺の記憶を引き継いでいるんだから。
あの就職氷河期の絶望も、ガソリンスタンドでの不正に対する憤りも、そしてクビにされた後に味わった『無知の代償』の生々しい悔しさも、彼女たちはすでに俺と等しく、その身に刻んでいるのだ。
今さら、怒りに身を任せる必要はない。
二人の瞳にあるのは、ただ俺の言葉の重みを静かに受け止める、絶対的な理解だけだった。
そんな二人の沈黙が逆に、この場の空気をいっそう引き締め、三人の若者たちに強烈なプレッシャーを与えていた。
「あ、アニキ?俺たちの小さい頃から、もう既にネット環境は今の状態だったけど?」
「アニキって、幾つなんですか?」
「アニキ、実は実体験とかッス?」
・・・ヤベェ!
熱くなりすぎて、前世の基準で喋っちまった!?
「ば、バカ野郎!お前、こう見えて俺は、生まれてまだ間も無いんだぞ!」
「確かに、リョウ様はクローンなので、生まれて間も無いと言うのは、間違っていませんね」
ミリィさんが、メガネをクイッと上げながら解説してくれる。
「そんな事より、クソ警備会社で更に何か出て来そうな感じなんだが、お前等、会社で何か変だなって思った事は無いか?例えば、教育時間の偽装とか」
「教育時間?それは、ちゃん先輩から、色々と教わって・・・」
ハジメが、首を傾げながら答える。
「おい?まさかとは思うが、入社してまず座学とかあったよな?」
「アニキ、そんなの無かったですよ?俺たちが言われたのは、現場に入った初日に、先輩から『取り敢えず、ココに立ってろ!』でしたよ?」
アルが、俺を見ながら首を振る。
「いや、おかしいだろう!?まず、警備会社に入社したら、必ず現場に出る前に『新任教育』って言う教育をしないと、駄目なんだよ!」
「アニキ?それをしないと、どうなるんッス?」
トロワが、呑気に聞いてきた。
「それは、会社が確実に潰れますね」
話を聞いていたミリィさんが、メガネをクイッと上げながら、説明してくれる。
・・・だよね。
この世界の警備業法でも、新任教育や現任教育時間の偽装は、重大な違反になる。
前世で一番長く勤めた、ブラック企業な警備会社の経験が役に立ったな。
更に、この異世界の法律は、前世の法律と全く同じってのが非常に多い。
だから、前世の基準で考えると大体、問題ないのは非常に楽だな。
たまに、前世と全く違ってて、混乱する時もあるけどね・・・。
ロボット保護法とか、一夫多妻制や多夫一妻制に関する法律とか。
「教育時間の虚偽の報告は、一発で営業停止、および認定取り消し案件ですね」
ミリィさんが、三人を眺めながら言う。
それに対して三人は「俺たち、会社に入って先輩から教わった位しか教育されてないよ!」
「だよな?『適当に、やっとけ!』とか、『見て覚えろ!』って言うのが当たり前だし」
「ッス!先輩たちも、入社してからマトモに教育して貰った事なんて、全く無いって言ってたッス!」
三人の話を聞いて、俺は悪い笑顔を浮かべた。