異世界転生 作:MSZ-006
「ガハハ・・・は?」
「更に、『僕は貴女なしじゃ、生きていけない!必ず幸せにするから、結婚して下さい!そうじゃなきゃ、今この場で死んでやる!』と、人が行き交う道の真ん中で、泣きながら大声で私に言ったのは、何処の何方だったかしら?」
「お、お前!」
後ろを振り向いた宇治茶博士が、壊れたロボットの様な動きで、ゆっくり振り向く。
そして、俺の腕に抱きつく奥様を見て、俺に対して盛大に敵意を向けて来た。
「お主、なに儂のカミさんと仲良くいちゃついてるんじゃ!」
「いや、俺は・・・」
「あら?私がリョウさんに、抱きついているんですよ?そもそも貴方、仕事の報告をマトモにせずに、何でこんな所で油を売っているのかしら?貴方は、ギルド専任の遺跡発掘調査員だった筈ですわよね?」
「こ、此れには深い訳があるんじゃ!のう?リョウ?お主からも、何か言ってやってくれ!」
「あの、博士たちは、俺が遺跡に行った際に一生懸命、起動方法を探ってました。でも、その方法が分からず、たまたま俺が到着して運よく起動したんです。その後、ヴェルダンディの件で軍の基地に行って、帰りにモンスターの襲撃と遺跡襲撃爆破事件になって、軍のお偉いさんが用意した、この宿に来たんです」
「えぇ、それはもう其処の呑んだくれから、聞いております。そうでは無く何故、最初に私に報告をしなかったかと、聞いております!軍の方々に報告する前に、先ず冒険者ギルドに報告するのが、筋と言う物ではないですか?」
「あ、あの、はい。すみません」
宇治茶博士が、小さく縮こまって謝る。
「大体、貴方は、いつもそうです!この前は・・・」
俺から離れた美星さんは、旦那である宇治茶博士を正座させて、淡々と説教を始める。
それを横目に、グリーン博士が「ぼかぁ、気ままな独り身さ!大体、結婚なんてしたって、独りの時間が無くなるだけだ!それに、よく言うじゃないか!『結婚は、人生の墓場』だって!だから決してぼかぁ、羨ましくなんてないんだからな!」
呂律の回らない口調で、そんな事を言っている。
「ふん!別に良いんだ!宇治茶博士と一緒に獲ってきたクリムゾン・キラー・ビーの蜂蜜で作った蜜酒を、僕一人で呑んでやる!」
グリーン博士が、傍に数個置いてある容量百リットルの魔導金属製の密閉タンク。
「この密閉タンクは、傑作なんだよ?魔力自動充填機能付きで、常に温度調整がされてる。だから常に、新鮮な蜂蜜が保管されるのさ!」
グリーン博士が、ドヤ顔で自慢する。
「待て!グリーン博士!それは、儂も頑張って退治した蜂蜜じゃぞ!?それを一人で呑むなんて、絶対に赦さんぞ!」
正座中の宇治茶博士が、慌てて立ち上がってグリーン博士の方に詰め寄る。
「あらあら?私の話より、蜂蜜ですの?そうですか、ならもう離婚しかないですわね?」
「いや、違うんじゃ!そうじゃないんじゃ!クリムゾン・キラー・ビーを始末して、手に入った素材でお前にプレゼントを拵えようと思って・・・」
「あら?では、そのプレゼントとは、一体何処にありますの?」
「そ、それは今から最高の腕を持つ、魔導クリエイティブ・マイスターを探して」
「貴方?そんな方が簡単に見つかると、お思いになって?そもそも魔導クリエイティブ・マイスターの資格は世界に一握りの最高峰の魔導工作の資格。それこそ、あの『囃子原家』の御息女でも無ければ・・・」
俺は、宇治茶夫妻の話を聞きながら、めぐりちゃんを見る。
めぐりちゃんは、二人の話を聞いてクスクス笑いながら俺に言う。
「お兄ちゃん?ボクって、結構有名人なんだよ?」
「うん。そうみたいだね」
初めて会った時は、ペットに爆弾とかキョンシーに爆弾とか危険な思想の持ち主だと思い、俺が説教したと思ってたのに、蓋を開けてみれば世界最高峰の魔導資格の保持者だったとは・・・。
「あの、ウチの娘が何か、ご迷惑をお掛けしましたか??」
哀さんが、宇治茶夫妻の話を聞いて二人に話し掛けた。
「いや、囃子原さんと言う人の娘さんの話じゃよ?」
宇治茶博士が再度、正座しながら答える。
「えぇ、そんなんですの。その囃子原さんのお宅の娘さんが、魔導クリエイティブ・マイスターの資格を、お持ちだと噂話で聞いた事が御座いましてね?」
美星さんは上品に、しかしご近所の奥様と話す様に、ニコニコしながら会話する。
「そうですね。確かに、ウチの娘は魔導クリエイティブ・マイスターの資格を、持ってますけど・・・」
「は?」
宇治茶博士は、顎が外れんばかりに大口を開けて取り乱す。
「あら?」
美星さんはハッと息を呑んで、すっと細い指先を揃えて上品に口元を覆い、隠しきれない驚きの表情で哀さんを見つめる。
「な、なんと!儂はてっきり、リョウと仲の良い妹かと思っとったぞ!?」
宇治茶博士が、驚愕しながら声を出す。
そう言えば、グリーン博士の面白いというか、少しおかしな自己紹介に気を取られて、皆をまともに紹介できていなかったことに今更、気づいた。
「あらあら、まぁまぁ!お宅の娘様が、あの名高い世界最高峰の魔導クリエイターでいらっしゃいましたの?」
「はぁ・・・まぁ、一応そう言う事になってますけど、家では普通の娘ですよ?」
哀さんが、引きつった笑顔を浮かべながら答える。
「あらやだ! ご謙遜を!」
美星さんはオホホと高笑いしながら、そんなことを言う。
「申し訳ないんじゃが、娘さんにお願いしたいことがあってな・・・」
宇治茶博士が、哀さんに申し訳なさそうに切り出した。
「めぐり?ちょっと此方に、いらっしゃい」
哀さんが、めぐりちゃんを手招きして呼ぶ。
「お母さん、な〜に?」
「こちらの宇治茶博士が、めぐりにお願いがあるんですって。聞いてくれる?」
「お願いって何?おじいちゃん」
「うむ。実はお主たちがいない間、牧場内を探索しておったら、クリムゾン・キラー・ビーが大量発生しておってな。それで、そこでへべれけになっとるグリーン博士と一緒に退治したんじゃが・・・素材が大量に手に入ってな?そこで、魔導クリエイティブ・マイスターの資格を持つお嬢ちゃんに、儂のカミさんへのプレゼントを作ってもらいたいと思ってな。お願いできんかの?」
「うん!良いよ、素材見して?」
「それは、助かる!?報酬は、言い値で払うぞい!」
「う〜ん。別に、お金なんて要らないけど・・・。でも、お兄ちゃんが私に『めぐりちゃん、それは駄目だよ。自分の作品に対する対価をきちんと受け取らないのは、めぐりちゃんの芸術作品そのものを、汚すことになっちゃうからね』って、優しく教えてくれたから、ちょっとだけ請求するよ!」
「あら!?リョウさんは、そんな素晴らしい事を言って下さったの?それは、とても価値のある言葉ですわ!」
美星さんは、めぐりちゃんから俺へと優しい視線を移し、ニッコリと微笑んだ。
「めぐりさん?リョウさんは他に、どんなお話を貴女にして下さいましたの?」
興味津々で、美星さんがめぐりちゃんに聞く。
この流れって、ちょっと宜しくない様な・・・。
「うん!お兄ちゃんはね、初めて会った時から、言葉責めが凄かったの!」
めぐりちゃんが顔を赤くして、身振り手振り自身の身体を抱きしめて、クネクネさせながら説明する。
やっぱり!?
めぐりちゃん?
その言葉遣いは、違うよ?!
お願いだから、訂正してぇぇぇ!?
ある程度、話を聞き終わった美星さんと、宇治茶博士が俺を凝視する。
宇治茶博士が、信じられないと言った表情で俺を見て「リョウ!お主、何人も侍らせておったが、まさかこんな幼気な少女まで、毒牙に掛けておったのか!流石に、此れは通報案件じゃぞ!」
そして、美星さんが帯の左側の帯の間に差しこんでいた扇子を引き抜きながら俺に言う。
「リョウさん?ギルド長として、一人の大人として、そして一人の女として、お話が御座います。ちょっと、其処にお直りなさい?」
有無を言わせぬ迫力に、俺は黙って正座した。