異世界転生 作:MSZ-006
戦いは、時間にしてほんの数分だったと思います。
キラーハウンドの群れは、あっという間に殲滅。
その中央に、木の枝を身体に纏った人が佇んでいました。
性別は分かりませんが、圧倒的な強者の風格がその身体から溢れていました。
その人は私をチラッと見て、何も言わずに去ろうとします。
『あ、あの!危ない所を助けて頂き、誠に有難う御座います!』
私は、丁寧に頭を下げました。
こんな所で、普段から厳しく躾けられた礼儀作法が活きるなんて、皮肉なものですね。
私のそんな姿を見た木の人は、何処からかともなく、一個の林檎を私に差し出してくれました。
『あ、有難う御座います!』
木の人は、無言で私の頭を撫でてくれます。
『あ、あのお礼に、私の舞をご覧下さい!』
木の人は、相変わらず無言でジッと私を見つめます。
あれ?
目が無い?
普通の人間なら瞳がある筈なのに、この方は瞳が無い?
その方は、目の部分が真っ黒い穴に見えます。
そんな目を私に向け、そして一本の大木を指差して、歩き出しました。
私はその後をついて行くと、木の人は木の根元に胡座をかいて座り、私を見つめます。
私は、その人の隣に頂いた林檎を置いて、普段から稽古している舞を踊ります。
踊り終わり、お辞儀すると木の人は私に拍手して下さいました。
『あの、私は美星と申します!アナタは、何とおっしゃいますの?』
すると、木の人は自身の指で地面に綺麗な字を書きます。
〈俺、長生きしたエント〉
『まぁ、エントなんですの?』
〈うん。君は、何でこんな所に居るの?〉
『私は、家が嫌になって逃げ出して来ましたの!』
それから暫く木の人、エントさんとお喋りしました。
『アナタは、凄くお強いですね?誰から、武術を教わったんですの?』
〈昔、仲良くしてた人間。その人間は、転生者だと言ってた。それで、その人間が教えてくれた技を使って倒した〉
『まぁ、そうでしたの!その方は、他にどんな事をアナタに教えて下さったの?』
〈ロボットに乗って戦う主人公が、手を真っ赤に燃やして繰り出す必殺技がカッコいいとか、好きなアニメで敵のツボを突いて、爆発させる技があるとか言ってた。因みに、さっき使った技は、そのアニメの技で拳を叩き込む時に「あーたたた!」と叫ぶと威力が上がると言っていた。でも俺は声が出ないから、心の中で叫んでる!〉
『あら?では、さき程の掌でキラーハウンドの頭部を砕いた技や高速のパンチは、その方が言ってたアニメの技ですのね?』
〈うん。後は、その人間から空手を教わった。それがベースになって、何年も研究して身につけた俺の必殺技!〉
『うふふ、そうでしたのね!私は、転生者?という方には、逢った事が御座いませんが、面白い事をおっしゃる方なのですわね!』
〈うん!とっても、いいヤツだった〉
私たちは、その後も暫く交流が続きました。
時にエントに踊りを教え、時にエントから格闘術を教わり、お互いに様々な知識を交換したりと、楽しい時間が過ぎていきました。
ある日、私がまた稽古をサボってエントに会いに行くと、エントが地面に文字を書き記しました。
〈俺は、旅に出るよ〉
『そんな!嫌ですわ!ずっと、私と居て下さいまし!』
〈申し訳ないが、そうも言ってられん。かつて俺に空手を教えてくれた人間との約束を、守らねばならん〉
『私より、その方との約束が大事ですの・・・?』
エントは黙って、私の頭を優しく撫でてくれました。
そして、一本の太い枝を私に差し出しました。
〈此れは、俺の身体の一部だ。君から舞を教わったお礼だ。記念に貰って欲しい。この枝は魔力を流せば、そこら辺の鋼鉄なんぞよりも硬くなる。君は舞う時に扇を使うから、その素材にすると良い〉
『本当に、行ってしまうのですね・・・』
〈うん。お別れだ、元気でね?〉
『では、最後に私の舞をご覧下さい!それからでも、遅くはないですわよね?』
私は、涙をこらえながらエントに訴えかけました。
エントは静かに、地面に胡座をかいて座りました。
私は一生懸命、心を込めて舞いました。
今まで嫌で逃げていた舞を、誰かの為に舞う。
舞が終わりに近付くと、私の周りに季節外れの桜吹雪が吹き荒れました。
そして桜吹雪が止むと、其処にはもうエントの姿は無く、手元に残された太い枝と、地面に林檎が一個だけ置いてありました。
私はそれを手に取り、涙を流しながら、エントがいた場所へソッと頭を下げました。
「そんな昔話が、御座いましたの。あれは、私にとって初恋でしたわ」
美星さんは『うふふ』と優しく笑いながら、俺たちに過去の出来事を聞かせてくれた。
とても、感動的な話なんだけど、転生者って言ったよね?
かなり前に、俺の居た時代の転生者が現れてるって事だよな?
後、空手を教えるまでは、良いよ?
何で、アニメの必殺技とかまで教えちゃうの!?
しかも、そのエルダーエントは、自分なりに努力して、己自身の必殺技にまで昇華してるじゃん!
凄いんだけど、何とも言えない気分だよ!
俺の感動を返せ!
「お、お前!儂と出会う前に、そんな事があったのか!?クソ!エルダーエントだからって、初恋相手とか赦さんぞ!」
宇治茶博士が、正座しながら嫉妬で怒り狂っている。
「・・・貴方?今のお話は、私がまだ幼い、幼気な少女時代のお話ですわよ?それなのに、そんな風にヤキモチをお焼きになって、みっともないとは思いませんの?ねぇ、リョウさん?」
美星さんが、宇治茶博士に文句を言った後、俺に話を振る。
いや、何で俺なんですか?!
返答に困りますよ!?
「そっか、そんな大切な物なら無闇矢鱈と弄れないなぁ・・・。美星さん、エルダーエントの枝ってまだ残ってるの?」
めぐりちゃんが、少し考え込んで美星さんに尋ねる。
ナイスタイミング、めぐりちゃん!
「えぇ!まだ沢山、御座いますのよ?」
そう言って、美星さんが魔導カプセルからエルダーエントの枝を出してくれた。
あれ?
枝なんだよね?
何で、丸太?
ってか、若芽が伸びてない?
「あらあら!?また、成長なさっていますわ!」
ちょっと!?
成長って?!
「去年見た時から、また大きくなって・・・。本当に、此れからが楽しみですわ!」
「ヴェルダンディ、此れって・・・」
「うん。長老の枝、まだ生きてるわね」
やっぱり!
そうじゃなきゃ、昔話に出て来たイメージと違い過ぎるんだよ!?
「美星さん!?この、エルダーエントの枝?丸太?ちょっと、分けて欲しいの!此れで、新たな魔導武器を製作するよ!」
めぐりちゃんが、目をキラキラさせて美星さんに、お願いする。
「まぁ、此方の方こそお願いする立場ですのに、そんなにお気遣いなさっては、困りますわ?どうぞ、遠慮なくお使いになってくださいまし」
「有難う御座います!じゃ、お兄ちゃん、斬って!」
「うん?斬るって、どれ位?」
「それでしたら、半分ほど持って行ってくださいまし。この枝は成長しておりますので、半分になりましてもまた元に戻りますのよ?」
俺がヴェルダンディにチラッと視線を向けると、彼女は静かに頷いてみせた。
「そうね。長老の枝はまだ生きて成長しているし、半分に斬ったとしても数年後には、また元のサイズに戻るはずよ」
そっか。
なら、良いのか?
俺は、次元収納から胴田貫を取り出す。
さて?
斬るのは良いが、どう斬れば良いのかな?
丸太を縦にするか、横にするかしてもらわないと、綺麗に斬れないんだけど?
「リョウ、どうしたの?難しい顔をして?」
ネアさんが、俺の困った顔を見て声を掛けて来た。
「ネアさん、丸太を綺麗に斬りたいんですが、丸太を立てるか横にする台が無いと、上手く斬れないかなぁと思いまして」
「アレですね?巻き藁斬りとかのイメージですね?リョウさん!」
ゴモリーさんが、話に加わる。
「そうなんです。直立させるか、真横にするか・・・」
う〜んと唸っていると、「リョウ〜!なら、上に投げるから〜、それで斬れば良いよ〜!」と、マリーさんが乱入してきた。
いやいや!
マリーさん!?
上に投げたら、下に落ちてくるじゃないですか!?
それを誰が、受け止めるんですか?
落ちてきたら、危ないですよ!?
「・・・リョウ、準備オッケー」
「もう片方は〜、私が持つから〜、お姉ちゃんと二人で、同時に上に放るからね〜?」
リリーさんとマリーさんが、丸太の端っこを二人で軽々と持ち上げる。
仕方無い。
やるか・・・。
俺は丸太を見つめて、意識を集中させる。
周りの雑音が一切聞こえなくなり、とても静かな世界になる。
そして、上に放り投げられる丸太。
丸太は水平のまま上空へと跳ね上がり、重力に従って真っ直ぐに落ちてくる。
俺は落ちてくる丸太に向けて、真正面から垂直に胴田貫を振り抜いた。
リリーさんとマリーさんが、上に放り投げられた丸太を、元の形のまま受け止める。
俺は上から振り下ろした胴田貫の刃先を、手首を返すだけの最小限の動きで、淀みのない所作のままスッとサヤに納刀する。
二人がキャッチした丸太はまだ切れていないように見えたが、刀身が完全に収まると同時に、吸い込まれるように綺麗な断面を見せて半分に分かれた。
「お見事ですわ!」
「凄いのぅ!」
美星さんと、宇治茶博士が同時に声を上げる。
「リョウさん、やるわね!」
「お兄ちゃん、カッコいい!」
哀さんと、めぐりちゃんも称賛の言葉を掛けてくれる。
「リョウさん、素敵!」
「お父さん、ご主人と一緒に抱いて!」
ユカさんと、ポポが声を掛けてくれる。
ちょ、ちょっと!?
ポポさん?
発言が、危ないですよ?
「待ちなさい!そんな事を言うなら、私は『リョウ!私はアンタを、別にカッコいいとか思ってないんだからね?でも、ちょっと抱かれても良いかなって思っただけなんだから!』って言うわよ!?」
ネアさんが、対抗心全開で声を上げる。
「ネアさん?お待ち下さい。それなら、私もリョウ様に、『刀で斬れるのは、悪党と腐れ縁だけだな。でも、ミリィとの縁は、どんな事をしても決して切れたりはしないからな?』って、言って欲しいです」
ミリィさんが相変わらず、メガネをクイッと上げながら俺を見て言う。
ミリィさん?
どさくさに紛れて、自分の名前を甘いセリフで呼ばせようとしてますよね?
「え〜と、長くなりそうだから、そろそろ材料を持って、あっちに行こうか?」
俺は『リョウに何を言わせるか選手権』で盛り上がっている女性陣を眺めつつ、めぐりちゃんに声を掛ける。
「お兄ちゃん、私は『めぐり?お前がどんなに拒否しても、俺からは逃れられない!』って言って、抱きしめて欲しい!」
「めぐりちゃん?取り敢えず、エルダーエントの丸太を貰ってこようね?」
俺は、めぐりちゃんの発言を夢想神伝流の奥伝 立業十本目の受流の如く、華麗に受け流す。
その視線の先には、リリーさんとマリーさんにすっかり忘れられ、置いてけぼりを食らっている二本の丸太。
俺はそのうち一本を美星さんに返し、もう一本を肩に担ぐ。
そうして、めぐりちゃんと一緒に少し離れた場所まで移動した。
それにしても、この丸太・・・。
俺の身長と、同じくらいの大きさなんだよね。
「じゃ、創るよ!」
めぐりちゃんが、魔導カプセルを取り出して、ポイッと放り投げる。
すると目の前に、六畳一間サイズの綺麗な半球体の部屋が現れた。
「お兄ちゃん、入って!」
「うん、お邪魔します」
めぐりちゃんが、扉を開き中に招いてくれる。
俺は、丸太を抱えて扉を潜ると其処は、広々とした空間になっている。
「どう?凄いでしょう!このドームもボクが創った作品なんだよ!」
「うん!凄いね!?外から見ると小さいのに、中が凄く広くて天井も高い!」
俺は、周りをグルっと見回して感想を述べる。
「うふふ!空間魔法で拡張した、作業スペースなんだよ!この中なら、大型の物を作ったり、修理したりも出来るからね!」
めぐりちゃんは、『えっへん!』と言わんばかりに、誇らしげに胸を張って答える。
「でも、めぐりちゃん?入り口より大きな物は、出入りできないよね?」
「ふふん!お兄ちゃん、そんな事はノープロブレムだよ!何故なら、美星さんも使ってた魔導カプセルを使えば、大きな物もカプセルサイズに仕舞えちゃうからね!」
流石、魔導科学!
もう、前世の一般的な常識なんて通用しないね?!