異世界転生 作:MSZ-006
俺はめぐりちゃんが作業を始めた為、黙って見ている。
普通、モノ作りってのは、切ったり貼ったり、繋げたりなんて事をすると思うけど、めぐりちゃんの作業は違った。
確かに、素材であるエルダーエントの丸太を俺が切断したし、めぐりちゃんにより、適度な大きさに切り分けられたよ?
問題は、その後だ!
適度な大きさのエルダーエントの木を、手で持って魔力を流す。
すると、木が姿を変えて扇状になる。
其処に、クリムゾン・キラー・ビーの翅や牙、鉤爪を追加する。
そして、出来上がったのは艶のある黒い扇骨に、まるで虚空を切り取ったかのような、無色透明の翅の扇。
要の部分には、鉤爪が加工されて使用されている。
「お兄ちゃん、出来たよ!」
「無色透明の扇子なんて、現世の100均とかで売ってたプラスチックの団扇くらいしか知らないけど、凄いね!」
「うふふ!この扇、魔力を流すとこんな風になるんだよ?」
めぐりちゃんは、開いた扇を手に持って魔力を流す。
すると、無色透明だった扇面が色鮮やかに変化する。
時に濃紺色、時に若草色、水色などの鮮やかな地色に、上から下へのグラデーションが施され、その上に金色が散りばめられる。
最後は、背景に富士山の絵が映し出され、今度は真っ白な扇に切り替わり、真ん中に日の丸と『日本一!』の文字まで浮かび上がってきた。
アレだね。
『日本一!』って、前世で観たアニメに出て来た、天才科学者の少女(中身は超年長者なんだけどね?)が、持ってた扇子みたいだよね。
「そして、更に!」
めぐりちゃんがそう言って、手に持った扇に魔力を流すと、扇の先から無数のクリムゾン・キラー・ビーの漆黒の牙が現れる。
まるで、扇に刃が付けられたかのような凶悪な見た目だ。
「どう?凄いでしょう?」
めぐりちゃんが、得意満面な笑顔で俺に聞いてくる。
「うん!必殺シリーズの武器みたいたね!」
俺は、前世で観た時代劇を思い出しながら、感想を述べる。
「めぐりちゃん、ついでと言ってはなんだけど、お願いしても良いかな?」
「何?!お兄ちゃんの言う事なら、何でも聞くよ?取り敢えず、脱ぐ?」
「違う!そうじゃ無い!!」
「なんだ〜、違うのか〜」
めぐりちゃん?
何でそんなに、残念そうなの?
「実は、皆にプレゼントをしたくてね?それで、今ある素材で何か作って貰えないかな?勿論、ちゃんとお代は支払うからね?」
「皆にって、ボクにも?」
「うん、勿論そうだけど?とは言っても、めぐりちゃん自身が作ったら意味ないか・・・」
「なら、お兄ちゃんが作ってみる?」
めぐりちゃんは、名案を思い付いたといわんばかりに俺に言う。
前世の俺は、確かに工作とか好きだったけど、不器用なんだよね・・・。
「お兄ちゃん、魔導具作りは、手先の器用さじゃ無くて、イメージだよ?」
めぐりちゃんは、ニコニコしながら俺に説明してくれる。
イメージねぇ、まぁ妄想だけなら暴走モード突入で、大得意なんだけどね?
「お兄ちゃん、先ず誰にプレゼントをするの?イメージは、それからだよ?」
めぐりちゃんに、そう言われて先ず思い付いたのは、ミリィさんだ。
何故か?
明日、デートだからなんだよ。
デート中に、プレゼントを渡せば喜んで貰えるかなって、思ったんだよね。
因みに、ちゃんと全員分、製作する気はありますよ?
ミリィさん、浴衣姿で云々ってさっき言ってたな。
で、前世の昭和の名曲が頭を過るんだよ。
「めぐりちゃん、最初にミリィさんに簪を作ろうと思う。どうかな?」
「簪かぁ、良いと思う!ミリィさん、髪が長いから、上に上げて簪を差したら、凄く似合うと思う!」
「今ある素材で、ススキの簪って作れそうかな?」
「うん!足らないなら、ボクが持ってる素材もあるから大丈夫!因みに、素材は何にする?」
「そうだね、折角だから、エルダーエントの木材を使おうかな?」
「じゃ、このエルダーエントの木材を手に持って、そして形をイメージして?」
俺は、めぐりちゃんに言われた通り、エルダーエントの木材を手に持ち一本の簪をイメージする。
「イメージ出来たら、魔力を流して形を作り変えるの!」
俺は、言われた通り木材をジッと見つめて掌に魔力を流しながら、簪をイメージする。
すると、木材が少しずつ形を変えて一本の細い棒状に変化していく。
「お兄ちゃん、初めてなのに上手だね!?そのまま、イメージを続けて自分の願う形をそのまま、流し込んで」
俺は目を瞑り、ミリィさんが簪をつけたイメージをする。
出来上がったのは、ススキの穂が無い棒だけの状態だった。
う〜ん?
失敗かぁ。
「お兄ちゃん?凄いね!ススキをイメージしてるんでしょう?なら、穂の部分は他の素材を追加して作るのが良いよ!」
ふむ?
なる程?!
そんな考え方が、あったか!
「めぐりちゃん、有難う!じゃ、穂の部分は何にしようかな・・・」
俺は、目の前に置かれているクリムゾン・キラー・ビーの牙や鉤爪、透明な翅を眺める。
・・・全部使ったら、滅茶苦茶ゴージャスじゃね?
そんな事を考えて、俺は牙と鉤爪、翅をそれぞれ一つずつと簪を手に持ち、再度イメージしながら魔力を流す。
俺がイメージしたのは、風に揺れるススキ。
風に揺られてゆらゆら揺れるススキの穂が、ミリィさんにとっても似合いそうだと思った。
そして、出来上がった完成品が此方!
簪の先が鋭い鉤爪で加工され、黒い牙は鮮やかな銀色に変色し穂の一粒ずつに変化している。
透明な翅は、穂をつなぐ糸の様に変化して、とても綺麗な仕上がりになっている。
「お兄ちゃん!凄いね!?初めてなのに、こんな綺麗に出来るなんて、魔導具職人としてやって行けるレベルだよ?しかも、此れって暗殺武器だよね?ミリィさん、喜ぶだろうなぁ〜」
「暗殺武器?」
俺はめぐりちゃんの言葉を聞いて、身体と思考が停止する。
「えっ!?違うの?だって、簪の先が凄く鋭いよね?此れは、相手を突き殺す為でしょう?更に、穂の部分の牙と翅は、飛び道具化してるよ?」
流石は、世界で一握りの最高峰と言われる魔導工作の資格。
魔導クリエイティブ・マイスターを持つ彼女には、見た瞬間にすべてが理解るらしい。
・・・俺には、サッパリなんだけどね?
「め、めぐり先生!その飛び道具って、どんな感じなんですか?」
「お兄ちゃん、先生って、どうしたの?」
「うん、実は武器を作ろうとした訳じゃ無くてね?ただ単に、ススキの簪がミリィさんに似合うだろうなって思っただけなんだけどね?」
「お兄ちゃん、さっき必殺シリーズとか言ってたよね?」
めぐりちゃんは、俺をジト目で見ながら言う。
「うん、確かに言ったな・・・」
「そのイメージも混ざったと思う。で、飛び道具の話だよね?お兄ちゃん、ちょっと見ててね?」
めぐりちゃんは俺が作った簪を手に持ち、部屋の中央に支柱を出現させて、それに向って簪を振り抜く。
次の瞬間、支柱が小さな穴だらけになって崩れ落ちる。
「この簪の穂が一粒ずつ出来てるでしょう?それが、魔力を流して振り抜くと散弾銃みたいに飛んでいく使用なんだよ。でも、ちゃんと穂の部分は元に戻るから、無くなる事は無いね!」
俺は最初の工作から、とんでもない必殺兵器を作り出してしまった。
「お兄ちゃん!次は、ボクに作って!」
めぐりちゃんが、キラキラした目で俺を見る。
そんな眩しい瞳で、俺を直視しないで!
「うん・・・。でも、変なのが出来たら、申し訳ないって思うんだ」
また、必殺兵器になったらどうしよう?
「そんな事ないよ!お兄ちゃんの作ってくれた物なら、どんな物でも嬉しいよ?」
めぐりちゃんは、必死にそう言ってくれる。
「有難う。そう言って貰えると、凄く嬉しいよ」
俺は、めぐりちゃんの頭を優しく撫でる。
めぐりちゃんは、無言で俺を見上げてニッコリ笑う。
そんなめぐりちゃんを見て、閃いた!
「めぐりちゃん?キーホルダーなんて、どうかな?」
「キーホルダー?どんな感じの?」
めぐりちゃんは、期待した瞳で俺を見る。
「そうだなぁ。アニメキャラクターのキーホルダーとかでも良いけど、果物を小さくしたキーホルダーとかどうかな?」
「うん、可愛いね!それ、欲しい!」
そうと決まれば早速、製作開始だ。
材料は、またエルダーエントの木材で良いかな?
まだ、いっぱいあるしね・・・。
俺は、適度な大きさの木材を一つ手に持ち、果物をイメージする。
めぐりちゃんって、まだ幼いから苺とか似合いそうだよな。
喜んでくれるかな?
そう言えば、林檎とかも良さげだよね?
俺は、ふと前世の記憶を思い出す。
俺が好きだったロボットアニメで、白い奴がトゲトゲの鉄球を振り回してたっけ?
俺は、そのキーホルダーを作った事があったな。
プラモデルに入ってたトゲトゲ鉄球を加工して、キーホルダーにしてたんだよな。
今となっては、全てが懐かしい。
そんな事を考えていたせいで、出来上がったのは栗の形をしたキーホルダーだった。
しかも、トゲトゲの毬の中に入っている状態じゃなくて、あのトゲからコロンと外に出した状態の、ツヤツヤとした茶色の栗。
剥く前の、中身の方ね?
栗の天辺の尖っている部分には、鎖とかを付けられる小さな輪っかが、これまた綺麗に加工されて取り付けられている。
うん、前世のガチャガチャとかで売ってそうな、なかなかに可愛いミニチュアの仕上がりだ。
よし!
今回はトゲトゲ鉄球の誘惑を完璧にスルーして、安全で可愛いキーホルダーを完成させたぞ!
「お兄ちゃん!凄く可愛い武器だね!」
そんな風に、思っていた事もありました。
「や、やだなぁ!めぐりちゃん、俺はめぐりちゃんに可愛いキーホルダーを作っただけだよ?武器なんて、作った覚えはないんだけどな?」
「お兄ちゃん、ちょっと貸して?」
めぐりちゃんは俺が作った栗のキーホルダーを受け取ると、細く短いキーホルダー用の鎖を取り付ける。
再度、部屋の中央に支柱がそそり立つ。
めぐりちゃんが、無言で栗のキーホルダーを振り回す。
すると、鎖が長く伸びて遠く離れた場所にある支柱にぶつかる。
その瞬間、小さい栗が何倍にも膨れ上がって柱を粉砕した。
そして一瞬にして、めぐりちゃんの手元には、何事もなかったかのように小さくて可愛い栗のキーホルダーが握られていた。
「お兄ちゃん、なかなかエグい武器を作るね!流石、お兄ちゃん!だったら、此れにクリムゾン・キラー・ビーの牙か鉤爪を付けて、完全にトゲトゲ鉄球風にしちゃえば良いと思う!」
めぐりちゃんが、そう言って笑顔で褒めてくれる。
アレ?
おかしいな?
俺は、めぐりちゃんに似合う、可愛い栗のキーホルダーを作った筈なんだけど?
そして更に、前世でロボットが振り回してた棘付きの奴を作れと、頼まれちまったよ?!
まぁ、此処まで来たらやるけどね?
俺は、クリムゾン・キラー・ビーの牙や鉤爪を数個取り、栗のキーホルダーを持ってイメージし直す。
そう!
あの白い奴が、振り回してたアレを!
そして出来上がったのは、さき程と全く変わらない栗の可愛いキーホルダー。
・・・見た目はな?
再度、めぐりちゃんに渡し振り回して支柱を粉砕する。
その瞬間に、さき程は出なかった無数の棘が飛び出し、黒い鉄球の様な見た目に変化する。
そして手元に戻って来る頃には、最初の可愛い見た目のキーホルダーになっている。
その後、暫く時間が掛かったが、全員分のプレゼントが出来上がった。
集中して作業する為、結構疲れる。
大分、魔力も消費したな。
めぐりちゃんと共に外に出ると、外は既に茜色に染まっている。
結構、長い時間籠もっていたんだな。
さき程、皆が居た場所に戻ると、其処は地獄だった。