異世界転生 作:MSZ-006
リリーさんは、そそくさと魔導バイクに跨り、エンジンを始動する。
『キュゥィィィン!』
空気を切り裂くような甲高いエンジン音を響かせ、リリーさんがアクセルを軽く吹かす。
『フォォンッ!』
短く鋭いエンジン音が響いた。
「・・・リョウ、ちょっと行って来る」
「いってらっしゃい!気を付けてね?因みに、バイクの最高速度はマッハ2、最低速度は子供が三輪車を漕ぐぐらいだよ!風圧は、常に魔導バリアで守られるから、飛び石や虫アタックも全く気にしなくて大丈夫!」
俺は、笑顔で説明する。
前世で、バイクに乗ってた人間が走行中に、クワガタが飛んできて酷い目にあったという話を聞いた事があった。
だからこそ、バリアは必須アイテムだよね!
説明を聞いたリリーさんは、頷き返事する。
『シュゥゥゥン・・・!』
そして、ドップラー音を残し瞬間的に目の前から消える。
「リョウ〜、お姉ちゃんのバイクって〜、他の物にも変形してたけど〜、それぞれどれ位のスピードが出るの〜?」
マリーさんが片手で軽々と魔導バズーカを持ち上げながら、俺を見て質問する。
「さっきの魔導バイクが、最高速度マッハ2。魔導戦車がマッハ1、魔導ヘリコプターがマッハ3、潜水艇が水上なら150ノット、水中へ潜航すると120ノットでね?武装が魔導バイクに、前方魔導バルカン2門と両サイドに超小型魔導多連装ミサイルランチャー1基ずつ、魔導戦車が前方の魔導ドリル、狭いトンネル内で使える魔導反射レーザー光線、後方から攻められた時の為に追尾式魔導カッター、魔導ヘリコプターは超振動でプロペラ自体を超巨大回転鋸(ファン・ブレード)にして、後は魔導バルカンと、追尾式超小型魔導多連装ミサイルランチャー、魔導潜水艇は、水上モードで魔導魚雷、魔導機雷、魔導バルカン、超小型魔導多連装ミサイルランチャー。水中モードで、魔導魚雷、魔導機雷、戦車時に使用している魔導ドリル。此れがあるから、水中から船底を突き破ったりとかも可能なんだよ!エンジンは、魔導エンジンを搭載していて、自動魔力充填機能付きなんだ」
「リョウ〜、よく分からないけど〜、凄いんだね〜!」
マリーさんは、ニコニコしながら俺の話を聞きつつ酒を煽りながらツマミを口に運ぶ。
「お兄ちゃん、リリーさんの魔導バイク・・・。アレって、単機で世界の戦力バランスを完全に崩壊させる『世界滅亡級チートメカ』だよ?そもそも全てにおいて、この世界の兵器より格上過ぎるスピードと威力だよ?」
めぐりちゃんが、ジト目で俺を見る。
「そうなの?でも、世界の常識に負けたく無いじゃん!でも、めぐりちゃんの『魔導キャンピングカー』とか、それから変形した『盥船』、『ガオキッチン』には敵わないよ!」
「お兄ちゃん?それ、本気で言ってる?」
「だって、ぼくの作った物には、ワイヤークロー無いし変形はするけど、合体しないもん・・・」
俺は、めぐりちゃんを見ながらしょげ返る。
「お兄ちゃん?現世のバイクで大体、時速300キロ、世界記録になってる実験機ですら時速605キロ。それから、戦車に関しては世界記録で一番速くて、時速82.2キロ。ヘリコプターは、世界記録で時速472キロ。戦艦に関しては約47ノット、潜水艦で44.7ノットが最速なの!それで、この世界でも其処に時速+100キロ前後、水上と水中ですら+30ノット程度なんだよ?それが、ワイヤークローと合体しないから負けたって・・・」
そんな会話をしていると卵型の超超小型魔導ヘリコプターが、一瞬で着地して、リリーさんが機内から降りてくる。
「・・・リョウ、お土産」
リリーさんが手に持っているのは、スーパーで買った、ホカホカのスルメイカの天麩羅。
「リリーさん?此れ、何処のスーパーで買って来たんですか?此処らへんじゃ、全く聞かないお店なんですけど・・・」
お土産のパックを見たユカさんが、リリーさんに聞いている。
「・・・ちょっと、雪国のスーパーまで行って来た」
「わ〜い!有難う、リリーお姉ちゃん!ぼく、雪国は嫌いだけどスルメイカの天麩羅は大好きだよ!」
俺は、スルメイカの天麩羅を一つ取り口に入れる。
スルメイカの凝縮された旨味が、口内に広がる。
そんな俺の姿をカオリとヴェルダンディは、優しい笑顔で見つめている。
二人には、俺の記憶があるからかな・・・。
前世の俺が、何処で産まれ、何処で育ち、何処で生きてきたか、それを二人は、全て知っている。
だから、雪国が嫌いだと言った俺の言葉も、何も言わずに居てくれる。
「リョウ?なんで、雪国が嫌いなの?」
ネアさんが、不思議そうに俺に聞いて来た。
「そうじゃぞ、リョウ?雪国は、美味い日本酒が多いぞ?」
話を聞いていた宇治茶博士が、そんな事を言う。
他の面々も、何故かと気になっている様で、俺の話を待っている。
カオリとヴェルダンディは、他の面々に、どう説明しようかと悩んでいるみたいだ。
けど、何も心配要らないよ。
「ぼくの前世は、都会で産まれたんだって。・・・って言っても、あのろくでもない母親がそう言ってただけだから、本当かどうかも怪しいんだけどさ。それで、産まれてすぐに都会のボロアパートに、ろくでもない両親と来て其処で暫く過ごす事になる。で、ろくでもない父親が借金取りから逃げる為に、ぼくの病気を理由に父親の実家がある雪深い田舎街に行く事になる。因みに、その病気って『1型糖尿病』っていう子どもだけじゃなく大人でも突然なる、インスリンが作れなくなる難病なんだ。毎日、自分で注射を打たないと死んじゃう病気でさ。小学校の尿検査で引っ掛かって、学校から連絡を受けた母親が、面倒臭そうに渋々病院に連れて行ったら、即入院」
俺は、其処で呑みかけの酒を呑んで喉を潤す。
「入院して先生や看護師さんから注射のやり方を覚えさせられた。本当に、覚えるのに必死だったよ。親も祖父母もは何もしてくれないから、生きるために必要なインスリンの注射は子どもの頃から全部、ぼくが自分で管理してたんだよ。打たないと、死んじゃうからね。で、その街に来てからは、其処で両親だけじゃ無く祖父母からも虐待される羽目になった。母親は、ネグレクトが酷くて、最終的にはぼくを置いて夜逃げして、その結果が祖父母、父親からの虐待って人生だったんだよ!」
「リョウさん?そんな酷い、人生だったんですね・・・」
ユカさんが、悲しそうな顔で俺を見る。
「でね?車の免許取ってから独り立ちしたけど、ぼくの住んでた街って車の運転マナーが凄く悪くてね?煽り運転の罰則が厳しくなる前は、煽るのとか普通にしてくるし、ウインカー出すのが遅い!曲がる直前でウインカー出すとか、何の為のウインカーだと思ってんだ!って、感じだよね?信号の無い横断歩道で歩行者が待ってても、止まる車の方が少ないし、更に青信号で歩道を渡ってたら、右左折する車がクラクション鳴らして歩行者を急かすんだよ!そんな阿呆が存在するんだから、本当に嫌になるよね。後は、馬鹿みたいに雪が多いから、本当に冬場は地獄だったしね」
俺の言葉は、他の人間が聞いたら『そんな奴は、何処にでも存在するよ』と、言われかねない事だと思う。
分かっている。
マナーの悪い奴なんて全国どこにでもいるし、雪が降るのもその土地の気候に過ぎない。
だけど、あの家と地域で地獄のような日々を過ごした俺にとって、その思い出は過去のトラウマと結びついて耐えられないんだ。
「アハハ!ごめんね?嫌な話しちゃって!」
俺は、ケラケラと笑いながら酒を一気に煽る。
そんな姿を見た美星さんが「リョウさん?そろそろ、お酒は切り上げられた方が宜しいのではなくて?」と、止めてくれる。
「うん!美星ママがそう言うなら、もう止める!今度は、ジュース飲む!」
そう言って、俺は炭酸ジュースを注文し飲み始める。
「うふふ。リョウさんは、本当にお利口さんですわね? ちゃんと、言う事を聞けるお方なのですから。・・・貴方も見習ってくださいまし?」
美星さんは、宇治茶博士を見てそう言う。
「はい!気を付けます」
宇治茶博士は、また縮こまってコーヒーを飲み始める。
「そうだ!遅くなったけど、ネアちゃんとゴモリーちゃん、ユカちゃんとポポも、此れ貰って?」
俺は次元収納から、皆へのプレゼントを取り出した。
ネアさんに渡したのは、黒と緑の市松模様で作られた『がま口財布型のバッグ』だ。
一番大きい部分で30センチちょっとあり、両端には長い紐が付いていて、肩から掛けられるようになっているオシャレなショルダーバッグである。
ゴモリーさんには長さ20センチほどの『安全ピン型のアクセサリー』、ポポには『シューレースチャーム』を一個ずつ。そしてユカさんには、頑丈な柄から美しい親骨にいたるまで、すべてその極上材で作られた『和傘』を手渡す。
これらはどれも、俺がエルダーエントの木材を加工して作った特別な品々だ。
「リョウ?市松模様なんて古風な柄で、がま口財布って面白いわね!」
ネアさんは、早速その紐を肩に掛けバッグを腰のあたりに当てて、嬉しそうにその場でくるりと回って見せた。
「うふふ!凄く似合ってるよ、ネアちゃん!」
俺は、ニコニコしながらネアさんを眺める。
「因みに、ぼくの前世とこの世界でも同じみたいだけど、1500年以上前の古墳時代からある伝統的な縁起の良い柄なんだよ。柄が途切れず続くから『繁栄』の意味があるんだって!」
「あら、そうなの?リョウの前世でも市松模様って、同じ歴史なのね」
ネアさんは、感心したようにバッグを手に持って眺めている。
「お父さん、コレって僕?」
ポポは、黒い子豚が付いた可愛い『シューレースチャーム』を手に持って、眺めながら俺に聞いて来た。
「うん、そうだよ!ポポが、今の姿になる前の可愛い子豚ちゃんの時の姿を『シューレースチャーム』にしたんだけど、ダメだった?」
俺は不安そうに、ポポを見つめながら答える。
「ううん!お父さんが、僕の事をよく見てたんだって、凄くよく分かる!有難う!凄く、嬉しいよ!」
そう言って、ポポは自分のスニーカーに『シューレースチャーム』を、取り付ける。
「リョウさん?私の此れは?」
ゴモリーさんが、エルダーエント製『安全ピン型のアクセサリー』を、手に持って困惑している。
「ゴモリーちゃん、それ駄目だった?」
俺は、泣きそうになりながらゴモリーさんを見つめる、
「ち、違います!凄く可愛いけど、どう使うのかが分からないから、聞いてるんですよ?」
ゴモリーさんが、アワアワしながら返答する。
「良かった〜、それはね、エルダーエント製の『安全ピン型のアクセサリー』で、服とかカバンとかに付けるアクセサリーだよ!因みに、針の真ん中の部分が分割できるようになっていて、服やカバンに挟んで固定すると、まるで布をプスッと本当に刺し貫いているように見える加工をしたんだよ?」
「あら?本当!凄く面白くて、可愛いです!リョウさん、有難う御座います!」
ゴモリーさんは、服の胸元に『安全ピン型のアクセサリー』を取り付けて、魔導通信機で自撮りした姿を眺めている。
「あの、リョウさん?私の和傘は・・・」
「ユカちゃん美人だから、和傘って凄く似合うと思ったんだけど、ダメ?」
「いえ!そうじゃなくて、この和傘にはどんな仕掛けがあるんですか?」
ユカさんは和傘を手に持って、俺の答えを待っている。
「うふふ!それ、知りたい?本当に、知りたいの〜?」
俺は、悪い笑顔を浮かべながら勿体ぶる。