異世界転生   作:MSZ-006

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「ちょっと?!リョウ!ヴェルダンディが抱きついたなら、私も抱きつく権利があるわよね?」

 

カオリが、俺にそんな事を言ってくる。

 

「どうしたの?カオリ〜?呑みすぎ〜?」

 

俺がヘラヘラ笑いながら、そんな事を言うと「お前が言うな!」と、カオリにツッコまれる。

 

「カオリ?ぼくは、酔ってないよ?」

 

俺が上目遣いでカオリを見ると、カオリは真っ赤になって言葉に詰まる。

 

「クッ!そ、そんな可愛い顔で誤魔化そうとしたって・・・。そもそも、私が魔導通信機を買ってもらった時は、抱きつきなんてしなか・・・」

 

「もう〜!しょうがないな〜?」

 

俺はカオリに近付き、ギュッと抱きしめる。

 

「ふぇ?!り、リョウ!?」

 

「うんうん、カオリいい子だね〜!」

 

俺は、抱きしめながら頭を優しく撫でつつ、耳元で優しく言葉を囁く波状攻撃を繰り出す。

 

そんな光景を見た女性陣たちが、騒ぎ始める。

 

「・・・リョウ?次は、私」

 

「お姉ちゃん〜?ズルい〜!私も〜」

 

リリーさん、マリーさん姉妹が参戦決定。

 

「わ、私も後ろに並びます!」

 

「ちょっと、ゴモリー!?私が先よ?!」

 

ゴモリーさん、ネアさんペアが後ろに列を成す。

 

そして、何を考えたのか沙羅が『夢の中で、お芝居』しちゃう、あの『艶やかな大人の演歌』を流し出す。

 

『カチン! チャ〜、チャラララ〜、チャチャチャラ〜ラ〜・・・』

 

拍子木の音が、屋外に重厚かつ色気のあるイントロを響かせる。

 

その音を聞いた、少し離れた場所に居る他のお客さんが『今度は、何を始めやがった?!』と、怪訝そうな顔をして見ている。

 

そして、なぜかアイリスがマイクを俺に手渡し、沙羅は音楽を流しながら目から七色のミラーボール光線を発光させて俺に当てる。

 

・・・何?

 

俺に、歌えと?

 

そんな姿を見ていた美星さんが「まぁまぁ!素敵な音楽ですわね!お目汚しとは存じますが、一差し舞わせて仕ります」と、帯の左側に差していた『魔道扇』を開いて舞はじめる。

 

アイリスは、何処から持ってきたのか竹で編まれた雪笊から、真っ白な紙吹雪がハラハラと流し始める。

 

俺は、カオリを横に抱き寄せながらノリノリで歌い出す。

 

めぐりちゃんは、魔道サイリウムを並んで居る女性陣に手渡す。

 

そして、サイリウムが振られる度に空中に文字が描かれる。

 

『こっち、向いて!』

 

『リョウ!愛してる〜!』

 

『パパ、素敵!』

 

『・・・抱いて!』

 

『課金させて!』

 

『人妻だけど、一生ついていく!』

 

『リョウ!次、私が隣に行くからね!』

 

『女装して、流し目で見て〜!』

 

『リョウ様、素敵〜!』

 

『リョウ〜!カッコいいよ〜!』

 

そして、歓声が飛び交う。

 

「リョウさん、素敵〜!」

 

「リョウ!こっちに笑顔で、手を振りなさい!」

 

「パパ!私にも、手を振って!」

 

「リョウさん、抱いて!?」

 

「・・・リョウ、こっち向く」

 

「リョウ、君はどこまで私を惑わせるんだ?!早く私を束縛して、拘束して!」

 

俺は『抱いて』と『束縛して拘束』、『女装して』以外のリクエストに応じる。

 

「・・・夢、芝居」

 

最後の一節を、吐息に混ぜるようにして歌い切る。

 

その瞬間、俺は右手をスッと顔の前に掲げた。

 

一曲、歌い終わった。

 

「アンコール!」

 

「キュキュン!」[女装して!]

 

「もっと、聴きたい!」

 

「リョウ〜、素敵〜!」

 

「ちょっと、アレって昨日のイケメンじゃない?」

 

「そうね?!何、今度は歌謡ショーなの?」

 

昨日、俺とすれ違う時にひそひそと話をしていた女性客が、女性陣の居る所に来て俺たちを眺め始める。

 

段々と、周りにお客さんが集まりだし、めぐりちゃんが「はい!一本、1000円!今なら、二本セットで1500円ですよ〜!」と、魔道サイリウムをお客さんに売り出す。

 

美星さんは歌と同時に舞を終えて、美しいポーズを決めている。

 

沙羅が、新たに音楽を流し始めた。

 

カオリは真っ赤になりながら、俺から急いで離れて即席の観客席に戻る。

 

そして、代わりにネアさんが意気揚々とやって来た。

 

「さ、今度は私の番よ!カオリみたいに、抱きしめなさい!」

 

ネアさんは、上気した顔で俺に催促する。

 

「魔道サイリウムは、一本1000円!二本セットで1500円!更に、『お兄ちゃんの隣で抱きしめられる権利』は、一回5000円だよ〜!」

 

めぐりちゃんが、集まったお客さんたちに声を掛けている。

 

「えっ?!どうする?写真とか、撮ってもらえるの?」

 

「わ、私『抱きしめられる権利』買おうかな〜?」

 

昨日の女性客がめぐりちゃんの説明を聞いて、そんな事を相談している。

 

「はい!写真撮影は『抱きしめられる権利』の人なら無料です!因みに、写真撮影だけなら一回1000円ですよ〜!」

 

めぐりちゃんが、更に商売を拡大する。

 

「お、俺も良いかな?」

 

昨日、宿の赤提灯で俺を熱い目で見つめていた筋肉質な男。

 

その男がハァハァと息を荒くしながら、めぐりちゃんに質問している。

 

以前、俺はめぐりちゃんに珊瑚と瑞、ポポの魔導武器を作成依頼した際に、お金なんて要らないと言われた事があった。

 

それに対して俺は『めぐりちゃん、それは駄目だよ。自分の作品に対する対価をきちんと受け取らないのは、めぐりちゃんの芸術作品そのものを、汚すことになっちゃうからね』と、教えた事があった。

 

魔導サイリウムは、売り出すのは良いよ?

 

でも、俺の隣で『抱きしめられる権利』って、俺の存在は?

 

俺の版権問題や著作権的に、どうなの?

 

別に、ぼくは、酔ってないからね?

 

だから、版権とか著作権って言葉が正しいんだ!

 

あれ?

 

版権、著作権、人権?

 

まぁ、良いや。

 

「ごめんなさい!男の人は、『抱きしめられる権利』じゃ無くて『抱きつけるなら、抱きついても良いよ?』なんです!但し、お兄ちゃんは必死に抵抗しますからね?例え投げられても文句は言わないって事が条件です。因みに、制限時間は三分間!」

 

沙羅が、流しているのは『月の子供たち』って、バンドが歌ってた俺が前世で好きだった曲だ!

 

コレはもう、歌うしかないでしょう!?

 

ハァハァと息を荒くする上腕二頭筋や大胸筋が素晴らしい男を目の前にして、俺の脳裏には一つの単語しか浮かばなかった。

 

『エスケープ(現実逃避)』

 

俺はやってきたネアさんの肩を抱き寄せ、夜を駆け抜けるような焦燥感と切なさが入り混じったメロディに乗せて、ノリノリで歌い出した。

 

ジッと熱視線を送ってくる筋肉質の男の視線を無視して、俺はマイクを握りしめ鳴り響く激しいビートに合わせて、心からの叫びをハイトーンボイスで歌い上げる。

 

美星さんは、そんなハイテンポな曲でも、一切乱れる事なく綺麗に舞い踊る。

 

曲が終わり、頬を染めながらネアさんが潤んだ瞳で俺を見ている。

 

美星さんは曲の終わりと共に、美しい決めポーズで佇んでいる。

 

「さぁ〜!やって参りました!此処で、リョウに挑戦する筋肉質の男性!彼は、愛しのリョウを抱きしめられるのか!?」と、哀さんがおかしな実況を始めると、少し離れた場所に宿のロボットが、なぜか6〜7メートル位の薄いレジャーシートの様な物を敷いて四隅にコーナポストを置いて行く。

 

ネアさんが、俺から名残惜しそうに離れて行き、今度は上着を脱いで上半身裸になった男が俺の目の前に現れる。

 

「お、押し倒しても良いんだよね!?俺、寝技とか得意だけど良いんだよね!?」

 

男はハァハァと鼻息荒く、着ていたシャツを脱ぎ捨て俺に聞いてくる。

 

めぐりちゃんが、近寄って来て俺のマイクを受け取ると今度は、俺の身体に『魔導骨伝導マイク』を取り付ける。

 

「お兄ちゃん、歌いながら頑張って!?ボク特製の魔導シートだから、投げても叩きつけても衝撃が吸収されるからね!」

 

めぐりちゃんが、そう言ってニッコリ微笑んで去っていく。

 

俺たちが、コーナポストのある場所に来ると、沙羅から戦闘開始の新たな曲が流される。

 

『ジャ〜〜ン!ジャジャジャジャン!!』と、前世の昭和時代にやっていた熱血ロボットアニメ。

 

トランペットの激しい爆音が、炸裂するイントロ。

 

理不尽な悪に対する正義の怒りを、空手の技で破壊するロボットアニメの曲だ!

 

「お、お手柔らかに・・・」

 

俺は引き攣った笑顔で男に言葉を発し、レジャーシートの中に入ると熱血アニソンを歌い出す。

 

男はハァハァと荒い鼻息を響かせ、期待に満ちた目で俺を見つめてくる。

 

寝技が得意とか、そっちの意味にしか聞こえなくて恐怖しかない!

 

俺が歌い出してから男は、獰猛な笑みを浮かべ俺に両手を伸ばしてきた。

 

俺は左足を引いて右足を軸に、男の伸ばして来た腕の力を利用し、相手の手をスルッと下に流しながら、もう片方の手で相手の脇を後ろへ送り出すようにして身体を反転させ地面に転がす。

 

男は、クルッと上手く身体を丸めて受け身を取りすぐに立ち上がる。

 

「お〜と!リョウ選手、相手の力を上手く利用した合気道の技『隅落とし』で、相手を投げた〜!」

 

この男、何かやってるな!

 

受け身が、綺麗に決まってる。

 

哀さんの実況を聞きながら、俺は冷静に分析する。

 

男が再度、突進して来た。

 

俺は、下に蹲る様に小さくなり男の足元に潜り込む。

 

勢い余った男は、俺に躓き綺麗に前回り受け身で即座に体制を整える。

 

男は警戒したのかすぐには動かず、俺の隙を伺っている。

 

今度は、突き飛ばそうと両手で俺の胸を押す。

 

俺は、それに合わせてグッと体幹を前に踏み出す。

 

ドン、と鈍い音が響いた瞬間、男の巨体は後方へ弾き飛ばされ、背中から地面に叩きつけられた。

 

男は、驚愕の表情を浮かべながら立ち上がり、俺の右手首を掴んで引っ張る。

 

男は、ニヤリと笑いながら自分の方に引き寄せようとする。

 

俺は、その力に逆らわず右手を自分の身体に密着させ上に上げて相手の胸元にストンと降ろす。左足を半歩右足に交差させてから、右足を踏み出し体勢の崩れた相手の水月に、左手の手刀をトンと押す様に落とす。

 

すると、男は力が抜けたように膝から崩れ落ちてしまう。

 

「お〜と!?腕を掴んで引き寄せた筈の相手が、なぜか力なく倒れ込んだぞ!一体、何があったんだ〜?!」

 

哀さんが、ノリノリで実況中継をする。

 

俺は、足元を正三角形に結んで土台を固め、丹田から繋がる『手刀』を前方に据えながら残心を取り、息を乱さず歌い終わる。

 

アイリスが、美星さんの所に行って、簡易式の垂れ幕を設置して幕を降ろす。

 

歌が終わり、男が立ち上がる。

 

男は、俺を見つめスッと右手を差し出して来た。

 

うん?

 

なに、握手を求めてるの?

 

俺は、男の手を握り相手を見る。

 

すると、男はハァハァ言いながら俺に言う。

 

「き、君?イケメンで強いね?!俺は、ルチャ・リブレをやってるけど、全然敵わなかったよ!」

 

ルチャ・リブレって、確かメキシカンプロレスの事だよな?

 

道理で、寝技が得意って訳だ!

 

俺は、そんな事を考えながら答える。

 

「今回は、貴方が空中殺法を一切使わなかった。だから、何とか躱せただけですよ?」

 

俺がそんな事を言うと、相手の男は獰猛な笑みを浮かべ言う。

 

「確かに、俺の得意技である空中殺法は使用しなかった!しかし、君の実力とイケメンは本物だ!それは、俺が保証しよう」

 

そう言って、握手している右手の親指で『サワサワ』しながら、頬を染めて俺を見つめる。

 

「あ、有難う御座います!あの、そろそろ手を・・・」

 

「うふふ!そんなに、恥ずかしがらなくても大丈夫。得意の寝技に持ち込めれば、俺の得意分野で責められたのに」

 

「クッ!?この、離せ!」

 

俺は気色悪さから、ついつい四方投げを食らわしてしまった。

 

だって、仕方無いじゃん!

 

気持ち悪かったんだもん!!

 

俺は投げ終わり、残心どころか速攻で距離を取る。

 

背中がゾワゾワする!?

 

「うわぁ~ん!助けて〜、瞳ちゃん!」

 

「リョウ?どうしたんだ!なぜ、歌が終わって握手したのに投げたんだ!」

 

「だって、寝技で『攻める』じゃなくて、『責める』だよ!?後、握手からの親指で手を『サワサワ』とか怖いよ〜!瞳ちゃん、助けて〜?!」

 

俺は半分パニックになりながら、瞳ちゃんに抱きつく。

 

「リョウさん、この騒ぎは何ですか?」

 

ユカさんが『魔導唐傘おばけ』を連れ帰って来た。

 

「お父さん?この上半身裸の不審者は何?」

 

ポポが黒子豚状態の『猪八戒型の魔導鎧』を胸に抱き、ブラック・モルダバイト状態で声を出す。

 

「主、何で泣いてるの?この男、殺す?」

 

瑞が、アイリスを呼んで武器を受け取ろうとしている。

 

「リョウ?一体、どうしたの?」

 

ヴェルダンディは、状況を把握しようと一生懸命になっている。

 

「創造主様?吾輩が名探偵の如く推理するニャ!」

 

セレネが、帽子をクイッと上げながら魔導煙管を懐から取り出し燻らせる。

 

「なる程!理解ったニャ!全ては、丸っとお見通しニャ!真実は、お爺さんの名に掛けて、いつも一つニャ!」

 

『ズビシッ!』と、魔導煙管を上半身裸で寝転がる男に突きつけて、セレネがそう宣う。

 

 

 

 

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