異世界転生 作:MSZ-006
「あの〜、つかぬ事をお聞きしますが、先ほど映画監督に呼ばれたって言ってましたよね?その方の、お名前は?」
俺がビクビクしながら、マスクド・佐渡に声を掛ける。
すると彼は、前を向いて両腕の力こぶを作るポーズ『フロント・ダブル・バイセプス』のポーズを取り、周囲に筋肉を誇示しながら答える。
「それは、安心して観られるアクション映画の監督!『スティーブン・セニョール』監督だ!」
俺は、マスクド・佐渡からその答えを聞いた瞬間、魔導通信機を起動し通話をする。
『リョウ君?どうしたのかな?』
「セニョール監督!?ぼく、映画辞めます!有難う御座いました!」
『おいおい!一体、どうしたって言うんだ?何かあったのかね?』
「セニョール監督、『マスクド・佐渡』って人を呼びましたよね?」
『うむ!彼か?彼は、素晴らしい存在だよ?ルチャ・リブレのスターでね?本来は善玉なんだが、私が撮影する際は悪役で出演して貰う予定だよ?ひょっとして、彼にもう会ったのかな?』
「会った所か、握手してぼくの手を『サワサワ』されたんだよ?うわぁ~ん!」
『り、リョウ君?君は今、酔っているのかな?いつもと喋り方が、違う様だね?』
「ぼくは、酔ってません!そりゃ、確かに呑みましたよ?でも、呑んじゃ駄目なんて監督、言ってなかったでしょう!?」
『確かに、酒を呑むなんとは、言ってないが一体、何があったのかな?詳しく話をして貰わないと、私も困るのだが・・・』
「だから!お酒呑んで、コンサート始めたらマスクド・佐渡が乱入して来て、捕まらない様に合気道の技を使って逃げてたの!そしたら、セクハラされたの!」
『ふむ?やはり、君は居合道以外にも合気道をやっていたんだね・・・。それは置いておいて、話がサッパリ伝わらないのだが?君は今、何処に居るのかな?』
「え〜と、此処の宿の名前ってなんて言うの?」
俺は、近くを行き来している調理ロボに話し掛ける。
「オキャクサマ トウヤドハ『シセツオンセン ジゴクゴクラク マセンカクテイ』デ ゴサイマス」
「え〜と?施設温泉 地獄極楽 魔泉閣亭だって〜!」
『分かった。『地獄極楽 魔泉閣亭』だな?すぐに行くから、ちょっと待っててくれ?」
そう言って、セニョール監督は魔導通信機を切ってしまった。
「おや?君は、セニョール監督と知り合いなのかね?」
マスクド・佐渡が今度は、リングマスク『マスカラ』を被り、ポーズを取り始めた。
朱鷺や佐渡おけさを踊る人、前世では世界遺産に登録された金山。
そして盥船や地酒、おけさ柿に鬼の仮面をつけて太鼓を叩く鬼太鼓が、カラフルに描かれた派手なカラーリングの『マスカラ』だった。
「フゥオ〜!やはり、『マスカラ』を装着すると気合が入るな!我が名は、誇り高き正義の戦士!マスクド・佐渡!ルード(悪役)共、正義の地元愛で返り討ちにしてくれる!さぁ、掛かって来い!・・・。所で君は、この世の理不尽な差別に対して、どう思うかね?」
『マスカラ』を装着したマスクド・佐渡は名乗りを上げた後、俺にそんな質問をしてくる。
「『理不尽』な差別は、無くすべきだと思うよ?でも現実は、なかなか上手くいかないけどね?」
この異世界は、前世に比べれば差別的な行為や思想はマシな方であるし、前世と違って同性婚に対する偏見も、だいぶマシな方だ。
とは言え、一部の人間からは疎まれているのも事実。
俺が『理不尽な』と限定したのは、時と場合によって必要な『区別』はある、という意味から敢えてそう発言したに過ぎない。
例えば、力の弱い者に重たい荷物を持ち運べと言っても難しいだろう。
人にはそれぞれ、適性や限界がある。
そういった違いを無視して、何でもかんでも一律に扱うのが正解とは限らないし、逆にそれを考慮した扱いを『差別』と呼ぶのは理不尽だと思う。
マスクド・佐渡は真剣な瞳で、ジッと此方を見ながら問い掛けてくる。
「なる程?『理不尽な』か・・・。では、君は、LGBTについてどう思う?」
「ぼくは、『たまたま好きになった人が、男か女かの違いでしか無い』って、そういう風にしか思わないけど?でも、ぼくの恋愛対象は女性だけどね?」
俺は、マスクド・佐渡の質問に真剣に答える。
彼はなぜか、スクワットをしながら俺の回答を聞いている。
「素晴らしい!実に素晴らしい回答だ!君は顔がイケメンなだけで無く、心もイケメンなんだな!?さぁ、俺と一緒にLET’Sスクワットだ!」
マスクド・佐渡は『マスカラ』の隙間から覗く口元をニヒルに歪めて、俺にそう言いながらスクワットをしている。
「お兄ちゃん?歌謡ショー、出来そう?大丈夫?」
めぐりちゃんが、心配そうに俺に声を掛けて来た。
先ほどの女性客が、此方を眺めている。
「うん。大丈夫だよ!取り敢えず、スクワットしてる内に距離を取るよ」
俺は、マスクド・佐渡から逃げる様にそそくさと、二人組の女性客の所まで向かう。
「え〜と、何かリクエストある?とは言っても、ぼくが知ってる歌しか歌えないけど・・・」
「じゃ、切なくなるラブソングを歌いながら抱きしめて、写真撮影して欲しい!」
「私は、さっきの投げ技?してもらいたい!」
二人組の女性客のうち一人は、合気道の技で投げて欲しいと言ってる?!
まぁ、本気で投げるんじゃ無く、ゆっくりと動いて優しく投げれば大丈夫か?
「投げて欲しいお姉さんは、歌のリクエストはある?」
「そうねぇ・・・。私は、面白い歌が良いかな?そんな歌ある?」と、そのお姉さんが俺に言う。
フッ、俺を甘く見て貰っては、困るな!!
「そうだねぇ〜?じゃ、こんな歌はどうかな?」
そう言って、俺は沙羅に目でサインを送る。
すると、沙羅は「創造主?アレなの?あの、伝説の『オリジナルソング』流しちゃう?!」と、聞いてくる。
フッ、流石だな!
俺の前世の思考を、持つだけの事はある。
「じゃ、ゆっくり優しく投げるからね?」
そう言って、俺は沙羅から流れるイントロを聞きながら、お姉さんの手首を優しく掴む。
『影の薄い男が〜、深夜のコンビニへ〜、自動ドアの前だけど開かな〜い!』
歌いながら、お姉さんの手首を掴み、自分の空いている方の手を、お姉さんの肘の内側に軽く添えるようにしてスッと乗せる。
そして、掴んでいる手首を引き下げつつ、肘に乗せた腕を前方へスッと突き出しながら足を一歩前に出して、お姉さんを優しく寝かせる。
「きゃっ!えっ!?なに、なんで?!」
お姉さんは、笑いながら驚いている。
俺は優しく手を引いて立たせると、今度は光学パネルで文章を表示する。
[ゆっくり、ナイフで刺すように手を出して?]
それを見たお姉さんは、頷いてゆっくりと拳を前に出してくる。
『男は、イラ立ち「使えないドアだ!」と、吐き捨てた瞬間〜、扉が激しく閉まり〜、設置された光学パネルに〜文字が浮かび上がる〜!』
ゆっくりと出された拳を、俺は半身で躱してお姉さんの背中にピッタリと回り込む。
俺はお姉さんの腕をゆっくり下に流して、空いた片手でお姉さんの顎を後ろに優しくクイッと引くように捻る。
すると、お姉さんはバランスを崩し、俺に身を預けるように後ろに倒れ込む。
「ウソ!なにしたの?」
お姉さんは、不思議そうに笑っている。
『「お前の影が薄い!出たいなら、見せろ〜!圧倒的な〜存在感を!!」男は生き残るため〜、必死にサンバを踊る〜、ドアは満足してウィーンと開いた〜』
歌い終わりの際に、お姉さんから要望のあった握手からの四方投げで、歌と合気道ショーを終わらせる。
「凄〜い!最後に、私がさっき言った投げ方で、投げてくれたんだね!有難う!歌も面白かった!」
その後、お姉さんとツーショットで記念撮影を終える。
今度はラブソングを所望する、お姉さんと交代だ。
「じゃ次は、ラブソングだね!いくよ〜?」
沙羅から、切ないラブソングのイントロが流れ出す。
『アナタから〜貰った〜素敵なプレゼント〜、今でも〜全て大事にして!アナタが話す言葉〜、アナタの声〜、ア〜ナ〜タ〜の笑顔、全てがキラキラ輝いている〜』
俺は、お姉さんのジッと見つめてからゆっくり優しく肩に手を掛ける。
お姉さんは、「へっ?!なに!?」的な顔で俺を見るが無視して、歌を歌い続ける。
『そんなアナタを〜、自分だけのモノにし〜た〜い〜。他の誰にも〜、渡〜したくな〜い。アナタと会えない時間は、とても切ない時間。会えた時、とても嬉しくなる。でも、その時間はあっという間に流れて〜、また〜サ・ヨ・ナ・ラ〜。次に〜会〜え〜る〜までの時間が〜、も〜ど〜か〜し〜い〜』
此処まで歌って俺は、お姉さんを優しくギュッと抱きしめる。
お姉さんは顔を赤くしながら、なすがままで俺に身を任せる。
『アナタの笑顔が〜好き〜!アナタが〜悲〜し〜そうな〜顔を〜しない様に〜、必ず〜護るからね〜?だから〜離れず〜、ずっと〜一緒にいて〜欲しい〜』
最後の歌詞を歌い切り、俺はお姉さんに微笑みかける。
すると何故かお姉さんが、目を閉じて上を向いている。
そんな姿を見た独身組の女性陣が、一気に殺気立つ。
「あらあら、まぁまぁ、うふふ」
そんなお姉さんの姿を見た美星さんは、『魔導扇』を広げて口元を隠しつつ呟く。
その白い地紙には、無数の小さなハートマークが集まることで、扇面の中心にひとつの大きなハートマークが形作られている。
哀さんは、殺気立つ女性陣を眺めつつ「次は、私が・・・」と呟く。
それを聞いためぐりちゃんは、俺がプレゼントしたエルダーエント製の『栗のキーホルダー』で、哀さん再拘束する。
俺は、何とも言えない空気を脱出するべく「お姉さん、なすがままだけど『ナスがママなら、キュウリはパパ』って知ってる?」と、下らない冗談を言ってみる。
すると、上を向いて目を閉じていた、お姉さんは、一瞬にして真顔に戻り俺をジッと見つめた。
「ちょっと、信じられない?!・・・でも、そんな所が可愛いって思えるから、不思議よね。歌は好きな人に言われたら、凄く嬉しい言葉だったわ!好きじゃないと、気色悪いけどね?」と、感想を洩らして俺から離れる。
え〜?!
俺のオリジナルソングは、そんなに駄目だった?