異世界転生 作:MSZ-006
二人組の女性客が去った後、今度は女性陣たちの対応を開始する。
まぁ、色々と大変だったよ?
ラブソングを歌った時、お姉さんが目を閉じて、顔を上げたけど誰も居なかったら、どうしてたのか?
とか、もしあの二人が俺に『好きだ!』と、言って来たらどうするのか?等の質問に答えながら、女性陣のリクエストに応えていく。
因みに質問の答えは、誰も居なかったら『逃げる』、好きだと言われたら『有難う御座います』と、返事をして『でも、お互いによく知りません。だから、お互いを知る為に、もっと話をしましょう?』と、返答すると答えた。
そして、マスクド・佐渡はスクワットから腕立て伏せに、セカンド・フェーズしている。
しかも、俺をジッと見つめたまま!?
怖いんだけど?!
さっきの握手して『親指でサワサワ』された感触が思い出されて背筋がゾッとする。
それから、暫く女性陣たちの対応が終わり、周りのお客さんから拍手喝采の声援を貰いながら、歌謡ショーは終わりになった。
「なかなか、素晴らしい歌謡ショーだったよ!俺は、感動のあまり筋トレしてしまった!君の名前はなんと言うのかね?先ほど名乗った『マスクド・佐渡』此れは、俺のノンブレ(リングネーム)だな。本名は、神楽坂 怜央だ!宜しくな?」
そう言って、マスクド・佐渡・・・。
神楽坂さんが、此方に近付いて来た。
俺は、反射的に近付いた分だけ遠ざかる。
「おいおい!何故、そんなに恥ずかしがっているんだい?人は誰でも初めて会えば、何も分からない同士じゃないか!だから、こうして話をして男同士の結束を深める訳だ!」
そう言って、爽やかに笑いながら近付いてくる上半身裸のマスクを着用した不審者。
「ふむ?そうか!俺は、とてもフレンドリーな人間なんだ!其処で、こんな面白い話を知っているかな?カップル同士で行くと『ゴースト』が出るという危険地帯に、二組のカップル同士のパーティーが討伐任務の為に出掛けた。暗い夜道を、カップル同士でイチャコラしながら討伐に行く。モンスターが出現する危険地帯に近付くと、仲間の男が『おい!静かにしろ?何か聞こえないか・・・?』と、言ってお喋りを中断させる。そして『ワッ!』と、盛大に声を上げた。『もう〜!やだ〜?!今、凄くビックリしたんだよ〜?』と、声を上げた男の恋人が笑いながら言う。そんなやり取りをしながらイチャコラと更に奥に進んで、夜間しか現れない討伐依頼のあったモンスターを討伐する。しかし、『ゴースト』の遭遇情報もある。一行は緊張しながらも、警戒しながら道を歩く。しかし、一向に『ゴースト』は、現れない。『やっぱり、噂話でしか無かったんだよ!帰ろうぜ?』そう言って、俺が来た道を引き返す。『そうだね?でも、確かその噂話って、「男女のカップルで行くと」って話じゃ無かった?』と、俺の恋人が言う。『あぁ!なる程?道理で出ない訳だ!だって僕たち、みんな「男」じゃん!』そう言って、友達のカップルがイチャコラしながら言った」
「怖えよ!怖い話じゃ無くて、アンタが言うと意味が怖すぎるんだよ?!」
俺は背中に走る悪寒に耐えながら、更に一歩距離を取る。
「君は先ほど、俺が質問がしたLGBTについてどう思うかに対して、『たまたま好きになった人が、男か女かの違いでしか無い』と言っていたが、君の行動は明らかかな差別行為だと思うが?」
マスク姿の神楽坂さんが、呆れた様な声で俺に言う。
「確かに言ったよ?でも、その後に恋愛対象は女性だって言うのも言ったし、そもそも握手した時にぼくの手を『サワサワ』しやがったじゃないか!?たがらだよ!」
俺はジリジリ近付いてくる、神楽坂さんから距離を取りつつ返答する。
「おいおい!君は、そんなにシャイなのか?仕方無いなぁ?ならば、もう少し俺の話をしよう!そうすれば、俺がどんな人間か理解って貰えるだろう?」
そう言って彼は、調理ロボに酒を注文して呑みながら話を始める。
「俺は、ルチャリブレの正当なテクニコルチャドールだ!だが、本場のルチャリブレは、とても規則が厳しい。例えば『私生活でも、絶対にマスクを取らない(正体を明かさない)』と、いうルールがある。マスクはレスラーの命であり、本名や素顔以上に大切な『神聖なもの』だ。それはよく理解る。しかし、この世界には労働基準法という物がある。だから俺は、政府が管轄する公的なコミッションに、抗議を行った。最初は、何を馬鹿な事をと言われたよ?しかし、私の情熱のある肉体と熱いジャベ(関節技)で、会話したのさ!すると、最後の方で感動のあまり泣きながら『わ、分かった!君の意見を認めよう!もし、他にも同じ事を言う者がいるなら、その者の意思を尊重しよう!だから、ごめんなさい!あ〜!!』と、感動していたよ!」
確か前世のルチャリブレでは、メキシコのボクシング・ルチャリブレ・コミッションという統括団体が厳しく管理しており、故意に素顔を晒すとライセンス剥奪や出場停止などの厳しい処分が下されるって話だよな?
それを、肉体言語(脅迫?)で、説得したって、どんだけ危険人物なんだよ!
しかも、最後の叫び声は何かに目覚めさせてる可能性が高い気がするのは、俺だけか?!
「その後、話し合いをしたお偉いさん方に、『LGBTを真剣に考える会』を発足し、『世界のLGBT差別を根絶する!誇り高きルチャ・リブレのテクニコルチャドール!マスクド・佐渡!』と、名乗る事を許可して貰ったのさ!どうだ?」
「なる程?それは、凄い偉業ですね?俺としては、大きな問題に対して例え一人でも立ち向かう、勇気ある人間だと思いますよ」
俺は、彼の話を聞きながら頷く。
俺も前世じゃ、世の中の理不尽な事象に対して腹を立てて生きていた人間だからね?
しかし、警戒は怠らない。
決して、相手の一足一刀の間合いには入られない様に警戒する。
「そうだろう?顔も心もイケメンな君なら、そう言ってくれると思ったよ!しかし現実は、まだまだ闘わねばならん事がある!俺は、少しでも偏見や差別を無くす為に、今後も己の力を使って地元愛と差別や偏見、世界平和の為に活動するつもりだ!今回の映画出演も、それが一つの狙いでもあるしね?それで、君の名前は?」
「・・・リョウです」
「リョウか!名前まで、イケメンじゃないか!では改めて、宜しくたのむ!リョウ君」
俺は、少し離れたカオリたちの所に非難しつつ、セニョール監督が早く来ないかなと考える。
「お兄ちゃん、セニョール監督来るんだよね?それじゃ、さっきボクが撮った映像も観て貰おう!」と、めぐりちゃんがニコニコしながら言う。
「そうだね。監督が観たら、きっと凄い褒めてくれると思うよ?」
俺は、めぐりちゃんに笑顔で答える。
「そうそう!さっきの歌謡ショーのお金なんだけどね?『野良モンスター』の保護団体に、寄付する事にしたんだ!」
「めぐりちゃん、優しいね!ぼく、感動したよ?」
俺は、めぐりちゃんを優しく撫でながら言う。
前世でも、野良犬や野良猫の保護団体が存在していたが、異世界では『野良モンスター』の保護団体が存在する。
因みに、『野良モンスター』とは何か?
この世界では、テイマーが捕獲したモンスターは人間と共存する事が可能だ。
しかし、無責任な人間というのは、必ず一定数存在する。
モンスターテイマーから引き取った、または己が捕獲したモンスターを飼い出したは良いが、飽きたり手に負えなくなってモンスターに付ける認識票を取り外して、野生に放置する無責任な行いをする人間がいる。
そんなモンスターは、どうなるのか?
一度、人間と仲良くしてしまったモンスターは野生に帰るのは難しい。
例えば、キラーハウンド。
彼らは、集団で狩りをする知能の高いモンスターだから一度、人間と暮らしたキラーハウンドは、その輪に戻る事が許されない。
輪に近付いた時点で、攻撃され殺してしまうか、追放されるからだ。
それは、他のモンスターも同じで人間と暮らした経験のあるモンスターは、仲間内で殺されるか野垂れ死にする事になる。
そんな、厳しい野生の理屈が存在している。
其処で、先ほどの『野良モンスター保護団体』が出てくる。
彼等は、そんな無責任な人間が放した『野良モンスター』を再度捕獲して、他の人間に譲渡したり自分たちが面倒をみる活動をしている。
施設としても、活動資金を提供してはいるが、如何せん金が掛かる。
其処で、資金を寄付してくれる人を常に募集しているのが現状な訳だ。
そんな話をしていると、話を聞いた神楽坂さんが、めぐりちゃんに話し掛ける。
ちょっと?!
あのビッグチキン、かなりの大物だったらしく人が両手で抱える位の大きさなんだけど?!
人間の大人数人がかりで両手で抱え込まないと持ち上がらない、数百キロは優に超える巨大な骨付き脚肉だぞ?!
ビッグチキンは、成体になると全長3メートルが標準サイズになる鶏のモンスターで、美味しい食材モンスターだ。
今回は、その標準すら遥かに上回る特大の大物肉って訳だ。
養殖されてる位、ありふれた食材だけど、そんな規格外のフライドチキンを、超人パワーで軽々と持ち上げてガツガツと齧りつきながら、大ジョッキの酒を片手に神楽坂さんは言う。
「おぜうさん?なかなか素晴らしい活動をしているね!どうかな?その活動、俺も協力できないかな?」
「有難う御座います!でも、その前に服着て?」
めぐりちゃんは、ニコニコと笑顔で神楽坂さんに言う。
そうだよ!
なんで未だに、上半身裸なんだよ!
はよ服着ろ、変質者!
「此れは、申し訳ない!失礼した!興奮のあまり、ついつい脱いでしまったよ!」
そう言ってマスクを脱ぎ、シャツを着る神楽坂さん。
いや、別にマスクを外しても、不審者認定は消えないんだけどね?
宿の執事ロボに連れられ、セニョール監督がやって来た。
「監督〜!」
俺は監督を見つけると、即座に駆け寄る。
「こんばんは、リョウ君?おや?他の女性陣も一緒なのか?此れは、撮影に丁度良いな?」
そんな事を呟いたセニョール監督だったが、美星さんの姿が目に入るや否や直立不動になり、勢いよく頭を下げた。
「お久しぶりです!宇治茶ギルド長!」
「あらあら?誰かと思えば、セニョールさん?お久しぶりですわね!」
「お会いするのは、随分と久しぶりになりますが、相変わらずお美しいですね!ご主人は、お元気ですか?」
「うふふ、セニョールさんたら相変わらずお口が上手ですこと。宅の主人も相変わらずですわ。因みに今は、呑んだくれて、休んでおりますけれど」
美星さんは、『魔導扇』を少しだけ開いて口元を隠しながら、ニッコリ微笑んで答える。
「あれ?セニョール監督、美星ママと知り合いなの?」
俺の発言を聞いたセニョール監督が、ギョッとした顔をして俺と美星さんを交互に見る。
「り、リョウ君!?宇治茶 美星さんをママ呼びとは・・・」
監督は、驚愕と畏怖の籠もった目で俺を見据え、慌ててその不敬を諌めようとする。
「うふふ、宜しいですのよ、セニョールさん。リョウさんは、特別な御方ですから!」
美星さんは、俺と監督のやり取りを見て、楽しそうに微笑みながら声を掛ける。
「まさか美星さんに、そこまで言わせるとは驚いたな!リョウ君、君は一体、何者なんだ!?」
監督は、俺を驚愕の目で見つめる。
「えっ!?ぼくは、生まれたてのクローンだよ?後、異世界転生者で、ちょっとだけ居合道と合気道が出来て、工作が好きなだけだよ?」
俺はコテンと首を傾げ、無垢な笑顔で監督に答える。
その破壊力に、周りの女性陣は顔を真っ赤にして吹き出したり、鼻血を堪えるように口元を押さえて悶絶し始めた。
神楽坂さんに至っては、口をあんぐりと開け、食べ終えたビッグチキンの骨を『ドスゥン!」と地響きを立てて落とし、その事に全く気づかない様子で、頬を染めて俺を見つめている。
「・・・転生者!?なる程、そういうことか!その出自なら、君の規格外な魅力にも納得がいくよ。しかし、この世界に転生者がいるとは噂に聞いていたが、まさか君だったとはね、リョウ君・・・」
セニョール監督は、まじまじと俺を上から下まで眺めた。
「・・・私も、転生者」
リリーさんが、カルアミルクの大ジョッキを片手に、セニョール監督に声を掛けた。
「おいおい!?まさかこの場に二人も転生者がいるなんて、ここは転生者のバーゲンセールか!?と、とりあえず落ち着こう!後、リョウ君とリリーさん、前の世界の話を聞かせてくれないかな!?」
監督は驚きを隠せず、興奮しながら宿の調理ロボに酒を注文する。
「君は、転生者なのかい?リョウ君?」
神楽坂さんは、驚愕の表情で俺の傍に寄ってくる。
しかし、俺は逃げ出した!
「監督!ぼくは、映画撮影止めるからね!」
「ちょっと、待ってくれ!そうだった!なぜ、そんな事になったんだ?後、君は誰かな?」
セニョール監督は、目を白黒させながら、俺と神楽坂さんを交互に見る。
「せ、セニョール監督!?俺を忘れたのか?俺は、貴方に呼ばれてメキシコから、この日本まで徒歩と泳ぎで戻ったというのに!あ、ちゃんとパスポートは出してあるから、密入国じゃないからな?」
そう言って神楽坂さんは、調理ロボに注文していた大ジョッキのビールを受け取り豪快に半分程呑んで話す。
「メキシコ?私が呼んだのは、メキシコのルチャドール『マスクド・佐渡』の筈だが?」
セニョール監督は、不審者を見る様な目で神楽坂さんを見据える。
その瞳は、彼が合気道の師範まで登り詰め、更に他の格闘技をマスターしている武人としての鋭い眼光だった。