異世界転生 作:MSZ-006
「む?!そうか!ならば、此れでどうだ!」
神楽坂さんは再度、次元収納から『マスクド・佐渡』の覆面(マスカラ)を取り出し顔に装着。
更に、先ほど着直したシャツを脱ぎ捨て名乗りを上げる。
「フゥオ〜!我が名は、誇り高き正義の戦士!マスクド・佐渡!ルード(悪役)共、正義の地元愛で返り討ちにしてくれる!さぁ、掛かっ・・・ゴホゴホ!すまん、咽てしまった!さぁ、最初からやり直しだ!フゥオ・・・」
「すまない。マスクを着けて、やっと分かった!確かに私が、撮影の為にメキシコで君をスカウトして、日本に呼んだな」
朱鷺や佐渡おけさを踊る人、前世では世界遺産に登録された金山、盥船や地酒、おけさ柿に、鬼の仮面をつけて太鼓を叩く鬼太鼓が、カラフルに描かれた派手なカラーリングの『マスカラ』(マスク)
セニョール監督は、それを装着した神楽坂さん・・・もとい『マスクド・佐渡』を見て、やっと理解ったらしい。
「そうだったな!監督と話している時、俺は『マスカラ』を取らずに話していたからな!因みに、先ほどの顔が素顔で本名は、神楽坂 怜央だ!」
そう言ってマスクド・佐渡は、セニョール監督に手を差し出す。
「素顔と本名を、確認するべきだったな。申し訳ない」と、謝罪しながら握手をする監督。
俺は黙って、二人を眺める。
フッ!・・・、思い知るが良い!
監督、貴方も俺と同じ様に『マスクド・佐渡』から『親指で自分の手を『サワサワ』されれば良い!
そうすれば、俺が映画撮影を辞めると言った言葉の意味を、理解する筈だ!
しかし、お互いに握手してスッと手を離す。
アレ?
俺の時は、なかなか手を離さず更に『サワサワ』されて、背筋に悪寒が走ったんだよ!?
な゛ん゛て゛た゛よ゛〜!
「ち、ちょっと?!ぼくと握手した時に、ぼくの手を親指で『サワサワ』と、セクハラしたよね?」
握手し終わったマスクド・佐渡に、俺は問い詰める。
「むっ!それは、セクハラでは無くスキンシップと言って貰いたいな?そもそも、君のような俺好みのピチピチした若い男子と握手すれば、そうなってしまうのも致し方あるまい、ハハハ!」
そう言って笑いながら、マスクド・佐渡は背中を向けて、両手を腰に当てて、背中を『団扇』のように大きく横に広げるポーズを見せる。
所謂、バック・ラット・スプレッドって奴か・・・。
「セニョール監督、今の発言聞きましたか?なので、ぼくは映画撮影を辞めて、実家に帰らせて頂きます!」
俺は監督にプンスカしながら、夫婦喧嘩した嫁さん的な台詞で、映画出演辞退を告げる。
すると、それを聞いたカオリが『リョウが出ないなら、私も出ない!』と、ハッキリ宣言する。
そして、それを聞いた珊瑚が『パパと一緒に演技するなら出るけど、出ないなら辞める』と、カオリに同調。
ポポに至っては『お父さんが出ないなら、僕も辞めるよ!監督、有難う御座いました!』と、爽やかな笑顔でお礼を言い『リョウさんとの恋人役を、他の方と演じる気は一切ありませんので、私も辞退します』と、ユカさんまでもが言い放つ。
「ま、待ってくれ!そんな事をされたら、私が練った最高のプランが台無しになる!リョウ君、どうか考え直しては貰えないかね?」
監督が慌てて、俺に縋ってくる。
「別に、ぼくは神楽坂さんを悪く言いたくないけど、セクハラ行為は嫌なの!怖いもん!」
「なん、だと?!バカな!俺の超セクシーで、ナイスガイで、アミーゴ!なコミニュケーションが不快だと!?」
神楽坂さん・・・、マスクド・佐渡は、ションボリしながら両腕を体の前方に回し、手首を交差させるように胸の前でグッと絞り込み、握り拳を地面の方向へと強く押し込む。
所謂、モスト・マスキュラーって奴か・・・。
笑顔じゃないモスト・マスキュラーって、初めてみたけど怖いよ!?
いや、笑顔でも怖いけどね?!
「リョウ君?君は今、幸せかな?」
ションボリ・モスト・マスキュラー・・・じゃなかった。
マスクド・佐渡が、俺に聞いてくる。
「ぼくは、幸せだよ?」
「そうか、それは良かった!人間は生きていれば、悩みは尽きないものだ。俺が今まで生きて来た人生も、苦労と挫折ばかりだったよ」
マスクド・佐渡は、明るい声で俺に語り掛けてくる。
何だ?
苦労話か?
それなら、俺も負けてないぞ?
なにせ俺の前世は、碌でもないクソみたいな人生だったからな!
「君は、今いる大切な人を失ったら悲しいかな?」
「そりゃ、悲しいに決まってるよ!」
もし俺の目の前から、俺の大切な人が一人でも欠けてしまったら、俺は立ち直れないだろう。
「俺には、約束があるんだ。その為にも、映画に出演して俺の名を広めたい。だから頼む!映画出演を続行してくれ!」
マスクド・佐渡は、地に伏せて頭を下げる。
「止めてよ!そんな事をして欲しい訳じゃないよ?!」
俺は慌てて、彼を立ち上がらせようとする。
「・・・話を、聞いて貰えないか?」
マスクド・佐渡は、手で俺を制止しながら言う。
俺は無言で、彼の目を見て話を促す。
「俺には、大切な人との約束があるんだ」
『俺、このキャラ好きだな!』
少年が、1枚のカードを手に取り眺めている。
其処には、マスクを被った如何にも強そうな男が描かれている。
『え〜?僕は、コッチの魔獣ちゃんの方が好きだけどな?』
もう一人の少年は、可愛くデフォルメされた魔獣のキャラが写ったカードを手にして、ニコニコしながら言う。
『ふふ、お前は可愛いのが、好きだもんな!』
『そうだね!僕は可愛いのが好きだけど、君は強そうなキャラとか好きだよね?』
『おう!俺は、いつかこのキャラみたいに強くなって、世界を旅したいんだ!』
『うん!そうだね、元気になればきっと行けるよ!』
二人の少年が居るのは、病院の中にあるプレイルーム。
其処で二人は、カードゲームに熱中していた。
『もしさ、俺が死んじゃったら、このカードお前にやるよ!』
『えっ?!なんで、そんな事を言うの!止めてよ!?』
『う〜ん?だって此処で、このカードゲームやってるの俺と、お前しか居ないじゃん?だから、貰って欲しいんだよ!』
『僕は、カードなんて要らない!僕は君に、生きていて欲しい!そして、僕も一緒に旅がしたい!だから、死んだらなんて言わないで?!』
カードを譲ると、形見分けの様に言う勝ち気そうな少年に向かって、グスグスと泣きながら首を振る気弱そうな少年。
『そうだな!俺もお前と一緒に、旅がしたい!それでさ、こ、恋人同士みたいに、ふ、二人で手を繋いで・・・』
『グス・・・。え〜!でも僕たち、まだ子供だよ〜?お手々繋いでなんて凄く、はちゃかしいよ〜』
二人の少年は、お互いに顔を真っ赤にしながら話す。
勝ち気な彼が、手術を受ける事になった。
僕は、ベッドの上で静かに微笑む彼の手を解けない様に固く繋いで、手術室の扉が開く直前まで離さなかった。
「ねえ、離したくないよ。・・・すっごく、はちゃかしいのに僕、君の手をずっと離したくないんだ・・・!」
僕の涙で濡れた手を、彼は頼りない力で、それでもきゅっと握り返してくれた。
そして、手術室の前で別れる時に最後に交わした約束は、『元気になったら、必ず一緒に旅に行く!』だった。
それから暫くして、僕の目の前から大好きな彼が居なくなってしまった。
僕の手元に残ったのは、彼の家族が泣きながら渡した、彼の大好きなキャラクターが写ったカードだった。
「そして、そのカードが此れさ!カッコいいだろう?俺はね、今でも彼が好きなんだよ。だけど、世の中は今だに偏見が蔓延っている!だから俺は、身体を鍛えて、彼と一緒に徒歩と泳ぎでメキシコまで行って、ルチャドールとしてデビューしたのさ!そして俺は、世界にLGBTや偏見、差別を無くすべく、セニョール監督の映画に出演して俺と言う存在を世に知らしめる必要があるんだ!だから、頼む。映画の撮影を続けて欲しい」
顔を上げたマスクド・佐渡は、『デフォルメされた魔獣のキャラ』と『マスクを被った強そうな男』のカード二枚を愛おしそうに見つめた後、それを俺の正面に掲げ、再び土下座する。
彼と、一緒にか・・・。
話の内容を考えると、おそらく大好きな彼は亡くなってしまったんだな。
だから、形見のカードを持って一緒にメキシコに行ったって事なんだろう。
そんな話を聞かされたら、断れる訳ないじゃん。
「卑怯だよ?そんな話・・・。分かった。監督、ごめんね?さっきの言葉を撤回させて。映画の撮影を続けさせて下さい!」
「有難う!リョウ君、そう言って貰えると、私は嬉しいよ!」
俺の言葉を聞いたセニョール監督は、笑顔で答える。
そして、土下座していたマスクド・佐渡はガバッと顔を上げて俺を見る。
その瞳を濡らし、滂沱の如く涙を流している。
「さ、立ってよ!」
俺はマスクド・佐渡のそばに寄り、片膝をついて手を伸ばす。
「り゛、リ゛ョ゛ウ゛君゛!!」
感極まったマスクド・佐渡が、抱き着こうと両手を上げて俺に迫る。
すかさず俺は、その前進してくる勢いと崩れた重心をそのまま捉え、座った状態からの綺麗な合気道の『隅落とし』で、見事に彼を地面へと投げ飛ばした。
「素晴らしい、隅落としだな!」
セニョール監督は、俺の技を見て感嘆の声を上げる。
投げられたマスクド・佐渡は、クルンと前回り受け身を取って立ち上がる。
「リョウ君、今の所は感動的なシーンだよ?!だから、アミーゴ同士で、熱く堅く抱き合って、お互いのパッションをファッションしてだね・・・」
「おい!其処の変態マスク?!さっき話に出て来た亡くなった彼を、今でも愛してるんじゃないのかよ!?」
「勿論、愛しているさ!だが、目の前に俺好みの男がいたら我慢できないのが、ルチャドールの・・・いや、男のロマンだろう・・・?」と、口元に爽やかな笑顔を浮かべながら、そう宣うマスクド・佐渡。
俺は、幽鬼のごとき面容で「監督、やっぱり、映画の撮影、辞める」と、一言ずつ、区切りながら言う。
その言葉を聞いた監督は、再びオロオロしながら問い質す。
「な、何故だ!さっきは快諾してくれたのに!?」
「・・・監督、今の一連のやり取り見てましたよね?」
「う、うむ!なかなか、感動的なシーンだと思ったぞ?」
「感動的なシーンじゃないよ!ぼく、今また抱き着かれそうになったんだよ!?もうちょっと、遅かったら危なかったよ?!色々な意味で!」
そう言って、監督に抗議しているとマスクド・佐渡は『マスカラ』を脱ぎ去り、神楽坂さんに戻って何事も無かったかの様に講釈を垂れる。
「リョウ君?君は、とてもお腹が空いていて、目の前に美味しそうなご馳走を『さぁ、お食べ!』と言われて出されたら、どうする?」
「そりゃ、食べるよ!だって、お腹空いてるんでしょう?」
「だろう?それと、同じさ!君の様な俺好みのアミーゴが居たら、それは我慢なんて出来る訳が無いさ!」
そう言って、親指を立てる危険人物。
「ぼ、ぼくの感動を返せ〜!バカぁ〜!うわぁ~ん?!」
俺は泣きながら走って、神楽坂さんから距離を取る。
「リョウ、可愛い!」
そんな姿を見たヴェルダンディが頬を染めつつ、鼻と口元を押さえて俺を見つめながら呟く。
「か、感動したのに・・・!?私の感動も返せ!後、リョウが凄く可愛いから、それはグッジョブ」
ネアさんが、怒りながら頬を染めて言う。
「・・・リョウ、此方に来る。お姉ちゃんが、慰めてあげる」
リリーさんが、顔を赤くして興奮しながら俺に言う。
「さっきまで良い話だったのに、何でオチを入れるのよ!でも、リョウさんが可愛いから、別に構わないけどね?」
一連のやり取りを見ていた哀さんが、そんな事を言って呆れつつ、優雅にワインを愉しんでいる。
「り、リョウ?私が慰めてやるぞ?そして、明日は結婚式だ!」
瞳ちゃんがそう言って両手を広げながら、俺を抱きしめようとする。
「瞳さん?明日は、私がリョウさんとデートの約束をしていますが?」
ミリィさんが、メガネをクイッと上げながら瞳ちゃんに文句を言う。
「リョウさん、可愛いです!でも、神楽坂さんって、ルチャ・リブレの方ですよね?なのに、何で『パッションをファッション』なんて、英語なんでしょう?」
ゴモリーさんが俺を優しい笑顔で眺めつつ、そんな疑問を漏らす。
「リョウ〜、私が、抱きしめてあげる〜!ゴモリーちゃん〜、それは多分〜、関東人が喋る〜、エセ関西的な物だと思うよ〜?」
マリーさんが、いつもの様にニコニコしながら答える。
「お父さん?やっぱり、この変態マスクは、始末する?」
ポポが、ブラック・モルダバイト状態で神楽坂さんを見据える。
「主?大丈夫?この変質者を始末するから、安心する」
瑞がアイリスを傍に呼んで、手渡されたヌンチャクを構える。
「でも、本当に創造主って、弄りがいがあるわよね〜?」と、アイリスが俺を見ながら、身体をクネクネさせている。
「パパ、私が抱きしめてあげるから、落ち着いて?沙羅ちゃん、お願い!パパに弱い雷撃を落として、動けなくして?」
「珊瑚ちゃん?弱い雷撃でも、創造主は痛いと思うよ?」
珊瑚の言葉に、沙羅が真っ当な返答をする。
よし!
沙羅よ、さっきまでの俺に対する塩対応は忘れてやる!
後、珊瑚さん?
俺は、皆より弱い存在ですよ?
沙羅(龍ロボ)の一番弱い雷撃でも多分、感電死しかねないよ?
「こ、此処は一つ、私を虐げてストレスを発散するんだ、リョウ!」
テア博士が、とても危険な発言をする。
でも俺は、それ処じゃない。
何故なら、後ろから楽しそうに俺のあとを追い掛けてくる神楽坂さんが居るからだ!?
「ニャンというか、『アハハ!待てよ〜!』『うふふ!捕まえて、ご覧?』って、感じの雰囲気に見えるニャ」
「キュ?キュ〜ン『キュキュ!クックッ、キュ〜ン!』『ジェジェ!キーキー!キュ、キュ〜ン!キュキュン、ブフゥ』キュ、キュキュ〜ン?」[そう?ぼくには『バカ〜!アンタなんて、もう知らない!』『ちょっと待てよ!俺にはお前しか居ないんだ!だから俺の傍から離れるな!』って、感じに見えるよ?]
セレネと魔導アナグマが、俺たちを見ながらそんな事を吐かしやがる。
クソ、お前ら覚えてろよ!?
俺は、命懸けで変態から逃げてんだぞ?!
「まあまあ、騒々しいですわよ?リョウさん、落ち着きなさい?それから、貴方もですよ?神楽坂さん?」
そう言って、美星さんは『魔導扇』を開いて、フワリと軽く扇ぐ。
すると、とんでもない突風が吹いて俺と神楽坂さんを、纏めて空に舞い上げる。
そして先ほど敷かれた、めぐりちゃん特製の『魔導シート』の上に墜落する。
結構な高度から落ちた割に、ポスンと軽い音が響く。
俺は真上からの落下に対して、咄嗟に柔道の受け身の要領でシートを『バァン!』と叩きつつ、即身体を反転して臨戦体制を整える。
・・・が、体に衝撃が微塵も無い。
めぐりちゃんの魔導シート、優秀すぎるだろ!
そんな事を考えていたら神楽坂さんも、俺と同じ様に受け身を取り、キップアップで立ち上がる。
チクショウ!?
無駄にカッコいいな、変質者の癖に!
そんな騒ぎの中、椅子に寝かされた黒子豚に変身している『猪八戒型の魔導鎧』が、鯖の味噌煮に入っていた料理酒のアルコール分に当てられて「ピィピィ」と、静かな寝息を立てている。
幸せそうな寝息を立てて『無知は至福』を、地で行っている。
そんな姿が、とても可愛らしく感じる。