異世界転生 作:MSZ-006
そう言えば、『猪八戒型の魔導鎧』の黒子豚にも、名前を考えてやらんとならんな?
俺は神楽坂さんを警戒しつつ、そんな事を考える。
「お二人共、おいたは其処まで!ですわよ?」
美星さんが、俺たちに向って『魔導扇』を開いた状態で警告する。
『魔導扇』の扇面は、般若と地獄絵図が映し出されている。
「ご、ごめんね?美星ママ!ぼく、良い子にしてる!」
「う、うむ!そうだな?俺もアミーゴと仲良くしたくて、少々燥いでしまった。申し訳ない」
俺と神楽坂さんは、美星さんの『魔導扇』を見て、即座に謝る。
「うふふ。分かって下されば、それで結構ですのよ!」
美星さんは『魔導扇』で、口元を隠しながら笑顔で答える。
その扇面は、とても綺麗な夜桜が映し出されている。
「お兄ちゃん!監督も来てるし、さっき撮影したショートドラマ観て貰おうよ?」
めぐりちゃんが、そう言って地面に魔導カプセルを放り投げる。
すると其処には、大きな洗面器をひっくり返した様な黒い装置が出現し、その装置に魔力を流すと街頭ビジョンサイズの光学ディスプレイが現れる。
周りのお客さんから「おおおっ・・・!」と、地鳴りの様な歓声が沸き起こる。
めぐりちゃんは、黒い装置に撮影に使用していたハンディカメラ的な魔導具を接続する。
俺は皆の居る場所まで、光学ディスプレイを見上げながら歩いて行く。
この光学ディスプレイの凄い所は、360度どの角度から観ても、必ず同じ画面が観える事だ。
普通のテレビ画面で考えると、観る角度によっては全く画面が観えなくなるが、そんな事が一切無い。
・・・テ〜レ〜レ〜〜
光学ディスプレイから、しっとりしたアコースティックギターの音が流れてくる。
『し、仕方なかったんだ・・・っ!俺が殺らなきゃ、アイツは俺の大切な存在をその手で殺すと脅した!だから俺は・・・!』
俺が四つん這いになり、何度も拳をハンマーの様にトスンと落とすシーンだな。
何度も地面を小突いた後、次第にその速度は落ち、最後は力なく泥まみれの手を地面に押し当てたまま項垂れる俺。
アイリスが静かに俺に近寄り、優しく俺の肩を叩き、立ち上がらせる。
立ち上がった俺は、俯いたまま両手を差し出す。
アイリスは、己の身体の一部である細い鎖の武器『スルジン』を取外して、俺の手に巻く。
そして、宿の調理ロボから拝借した綺麗なナプキンを俺の腕に掛ける。
『パパ!私、パパの帰りをずっと待ってる!だから必ず、帰って来て!』
珊瑚がアップで映され、綺麗な顔を涙で濡らしながら台詞を言う。
画面が切り替わり、俺を見つめながら悲しむ珊瑚と、その隣で瑞がジッと悲哀と絶望が複雑に入り混じった瞳で俺を見つめる。
俺がアイリスに連行される瞬間、瑞が飛び付いて抱きしめる。
『ずっと、主を待ってるから』
そう一言、耳元で囁いて俺から離れる。
画面が切り替わり、瑞の美しい顔がアップになる。
その表情は、涙を浮かべた儚くも優しい笑顔だった。
しっとりしたアコースティックギターの音から、哀愁を帯びたメロディに切り替わる。
その音楽は、胸の奥の一番柔らかい場所を締め付けるような、哀愁に満ちたメロディだ。
『お父さん!私を置いて、行かないで!?』
俺が全体的にアップされ、其処にポポが走って俺に抱きつく。
『お父さんが、悪いんじゃない!アイツが、アイツが私たちを・・・!何で、お父さんが連れて行かれなきゃいけないの!?』
ポポが、号泣しながら俺に縋り付く。
それを見たセレネは、ポポに近寄り優しく肩に手を置いて、諭す様に言葉を掛ける。
『ポポさん?アニャタのお父さんは、愛するアニャタたちを守る為に人をアニャめてしまった・・・。しかし、そうニャる前に、我々に相談してくれニャら・・・』
切なそうに、優しく声を掛けるセレネ。
それに対して『相談?相談したら、アイツを止めてくれたの?相談したら、本当に解決してくれたの?!相談したら、お父さんは、あんなヤツを・・・。あんなヤツの為に、お父さんが・・・』
ポポはセレネを睨みつけて、涙で言葉を詰まらせるシーンに切り替わる。
『・・・すまニャい。吾輩は、神じないニャ。ニャから、かニャらず解決できたかは、分からないニャ』
セレネは申し訳なさそうに、帽子を深く被り直して下を俯く。
『ア〜ナ〜タ〜からのメッセージを〜、いつも待っている〜。アナタからの〜メッセージを見ると、嬉しくなる〜。そして〜悲しくな〜る〜。決して〜、交わらない心〜。アナタの笑顔が見たいから〜、嘘を〜つく。嘘をついて〜、切なくなる〜。アナタに〜伝えられな〜い、この想いを〜胸に〜、私は〜アナタの幸せを願っている〜』
哀愁に満ちたエンディングの歌が流れる中、赤い魔導軍服を着た瞳ちゃんの手によって、俺は赤色灯のついた軍用車へと乗せられるシーンが映される。
ガチャン、と重々しいドアが閉まる音が響いて、車窓の向こうでは号泣するポポを、セレネたちが必死に宥めている。
そのまま、ゆっくりと走り出す軍用車と遠ざかって行く、みんなの姿。
『アナタが〜太陽なら〜、私は月〜。決〜して〜、交わる事は〜出来ない。やがて〜夜から〜朝になり〜、私は〜アナタの前から〜姿を消す。ねぇ〜、どうしたら〜ア〜ナ〜タ〜の〜傍に〜行けるの〜?お願いだから〜、嫌いに〜なって〜。そうじゃ〜ないと〜、ア〜ナ〜タ〜を〜傷つけて〜し〜まう〜。だから〜、アナタの〜前から〜姿を〜消す〜』
画面の下から上に〈撮影:めぐり〉〈音響:龍ロボ(沙羅)〉〈衣装協力:調理ロボ(ふきん)〉のスタッフロールが、静かに下から上へと流れ始めていた。
そして、皆で楽しくBBQをしたり、椅子に座って寝ている宇治茶博士の姿が映し出され最後に、〜Fin〜〈ずっと、アナタを待っている・・・〉と、光学ディスプレイの右下に表示される。
この映像を観た監督は「素晴らしい!特に、最後の事件後の日常風景が映し出されるシーンは、まるで2時間物のサスペンスドラマみたいじゃないか!あの『〜Fin〜〈ずっと、アナタを待っている・・・〉』の言葉も良い!囚われたリョウ君の帰りを、待ち続ける切なさがとても伝わって来るよ!みんなの迫真の演技が、映画界に新たな風を巻き起こす!やはり、私の目に狂いは無かった!」と、大絶賛している。
「マラビジョーソ!( 素晴らしい!)リョウ君、素晴らしいよ!ハラショーで、ブラボー!、マーベラス!だよ・・・グスっ。特に、君の娘さん?たちの迫真の涙を誘う演技、アレは本物の役者にしか出来ない演技だよ!」
神楽坂さんが、泣きながら俺に感想を述べる。
それを聞いた、ポポ、珊瑚、瑞が満更でもない表情で、お互いに顔を合わせて笑っている。
「リョウ君、先ほどの探偵かな?それとも私服憲兵の猫のモンスター、アレは何処から引っ張ってきたんだ?」
セニョール監督が、俺にセレネの事を聞いてくる。
「吾輩の事ですかニャ?」
セレネが、魔梶木のガーリックバターソテーを片手に、スノーミルク・バイソンの牛乳で口の周りを白くしながら返答する。
「そうだ!君だ!私は、スティーブン・セニョール、映画俳優兼監督をしている。君の名前を教えて貰えないか?」
「はじめまして、セニョール監督。吾輩の名前は、セレーネだニャ。長いのでセレネと、お呼び下さいニャ?」
セレネは料理をテーブルに置き、左手を腰のスモールソードに添え、右手で赤い羽根のついた帽子を優雅に脱ぐ。
それを前方へ大きく回し、そのまま片足をスッと後ろに引いて上体を深く傾ける。
シャランとチェインメイルが擦れる小気味いい音を奏でながら、セニョール監督に対して完璧な貴族風の礼を捧げた。
監督は無言でセレネに近寄り、顔を上げて帽子を被り直したセレネの手をガシッと握る。
「君、私の映画に出ないかね?いや、ポポ君や他のお嬢さん方も、専属契約して貰えれば今後、私の作品に優先的に配役できる!だから頼む、専属契約して貰えないか?」
監督が、真剣な表情でセレネを見つめる。
「有難う御座いますニャ、しかし吾輩としては、ヌードはちょっと・・・」
セレネは黒猫なのに、顔を赤くしながら返答する。
セレネ?
口の周りを拭きなさい?
俺がセレネの口元を拭ってやろうと近付くと、監督が俺の肩をガシッと掴み「リョウ君?君はセレネ君にまで、何を吹き込んだんだい?!他のお嬢さん方をスカウトした時も、同じ事を言われたが?」
セニョール監督は、額に青筋を浮かべながら俺を見据える。
「ご、誤解だよ〜!監督、ぼくはセレネに何も言ってないよ!そもそも、セレネと西洋甲冑のアイリス、それから龍ロボの沙羅は、さっき生まれたばかりなんだよ?!」
「監督、俺なら別に脱いでも構わないんだが?」
神楽坂さんが、セニョール監督にそんな事を言うが「神楽坂君、ちょっと待ってくれ?今は、リョウ君と『非常に大切な』話の最中だ!それからヌードシーンは無いから、安心してくれ」
セニョール監督は、据わった目で俺を見つめながら神楽坂さんに返答する。
「か、監督?さっきも言ったけど、本当にセレネたちは生まれたばかりだよ?ぼくの創った魔導具たちだから、本当の事だよ?でも、物扱いは許さないけどね?ぼくにとっては、家族同然の存在だから!」
その発言を聞いた、アイリスと沙羅が同時に俺に突っ込んでくる。
「そ、創造主!抱いて〜!」
「そんな事、言われたら身体を蝶結びどころか固結びで縛って、解けない様に創造主に抱きつく!」
俺はヒョイっと二体を躱して、セニョール監督を見つめる。
「ちょ、ちょっと?なんで避けるのよ!」
「そうよ、そうよ!創造主がドSなのは知ってるけど、其処は私たちを抱きしめる感動的なシーンでしょう?」
アイリスと沙羅が、文句を言ってくる。
「いや!君たち、自分の身体が何で出来ているか分かってる?さっきのスピードで突っ込んで来られたら、ぼく死んじゃうけど?!」
「わ、吾輩の身体は人間と同じで柔らかいニャ・・・」
セレネが、モジモジしながらそんな事を言う。
「ちょっと、アンタばっかり卑怯よ!」
「そうよ!私たちみたいに堅牢な身体でも、創造主ならきっと愛してくれるわよ?!」
「フッ、分かってないニャ!創造主様は、『猫耳、犬耳萌え』ニャ!」
セレネ?
余計な事を、言わなくて良いからね?
犬耳のカオリや猫耳のネアさんは、喜んでいるけど、他の女性陣たちが微妙な顔で俺を見てるから!
更に『なる程?それなら、猫耳カチューシャや犬耳カチューシャで・・・』とか、始まっちゃうから!
横目で、ユカさんやミリィさん、テア博士やゴモリーさん等の女性陣が何処から持って来たのか、ウサギ耳のカチューシャやクマ、パンダ、コアラ、鹿、ハムスター等のカチューシャを眺めながら頭に着けたりしてる。
何故か、鬼の角が着いたカチューシャまであるよ?
着けると、電撃とか出せるの?
リリーさんが、鬼娘のカチューシャを着けてる。
マリーさんは、ウサ耳なんだ・・・。
可愛いなぁ〜!
あっ!
藍さんは、ハムスター耳で美星さんはクマ耳だ〜!
うふふ、みんな凄く似合ってて可愛いよ〜!
「それでリョウ君、先ほどの話がまだ終わって無いが?」
セニョール監督が、腕を組んで俺を見据えている。
その姿は、後ろに巨大な鬼の仮面が可視化して見える様なオーラを纏っている。
「か、監督?!ぼくは、無罪だよ!ぼくは、何も言ってないし本当に、誤解だよ?無実で冤罪で、エンジョイしてるよ!だから、映画の撮影もちゃんと出るし、信じてよ?!後、ポポに俳優業の事を、詳しく教えて上げて下さい。あの娘には、素人のぼくから見ても役者の才能があると思うんだ!」
「・・・分かった。後で、ポポ君に詳しく話をしよう」
セニョール監督は、ふっと息をついて優しく微笑みながら俺を見る。
よ、良かった〜!
誤解が解けて、本当に良かった。
俺が他の女性陣たちの方を見ると、なぜか温泉宿のお客さんが、行列を成している。
そして、行列の端で出店を開いて看板が置かれており、めぐりちゃんとリリーさんの二人が何やらやっている。
めぐりちゃんは、シートの上に様々な着ぐるみや動物のカチューシャ、それから手に付ける動物や怪獣のアニマルハンド、アニマルスリッパ等を陳列し、リリーさんは商売道具である水晶玉を出して、占いをやっている。
看板には『野良モンスター』の保護の為に寄付を、お願いします!と、書いてある。
そして、何故か『魔導唐傘おばけ』が頭にパンダ耳、足には下駄の代わりに怪獣スリッパを着けて円な瞳で俺を見上げている。