異世界転生 作:MSZ-006
めぐりちゃん作の簡易更衣室から出た瞬間、周りで騒いでいた温泉宿のお客さんたちが、時間が止まったかのように一瞬で静まり返る。
そして、ゴモリーさんに手を引かれ出て来た俺たちを見つめて、呆然としている。
いや、正確には俺がだな。
「皆さん、はじめまして!リョウコです。うふっ!」
俺は片目を瞑りながら、目の横でキュートにピースをキメて、裏声で挨拶する。
『ふぅおぉぉぉ〜!』と、盛り上がる温泉宿の男性客と『きゃ〜!?可愛い〜!』と、言う温泉宿の女性客の声。
中には『なに?アイドル!?』なんて、声も聞こえるな。
俺はゴモリーさんに手を引かれ、何故か設置されている50センチ程の高さの円台に上がらされる。
そして、オオカミ耳を着けたアイリスがスタッフ宜しく俺にマイクを差し出し、猫耳カチューシャの沙羅から聞き覚えのある音楽が流れ出す。
哀愁を帯びた弦楽器のストリングスが、切なくもドラマチックなメロディを奏で、重厚なイントロが部屋に響き渡る。
俺が前世で大好きだった小説家の先生が書き上げて、そして前世で伝説的な名女優が演じたセーラー服でマシンガンをぶっ放す、あの伝説の映画の主題歌を俺に歌えと!?
因みに俺的には、この名曲を主役の三人が歌っているバージョン違いを全て聞いたが、最初に歌った女優さんが一番のお気に入りだ。
勿論、他の人たちの歌も凄く良い!
でも、やはり最初に演じた女優さんの歌声が、一番ピッタリと俺には馴染むんだよな。
そして、歌の終わりに近付き俺が乗った台の下からフワッと風が吹いて、セーラー服のプリーツスカートがフワリと持ち上がり、俺の生脚が露わになる。
その瞬間『おぉぉぉ!?』と、男性客から地響きみたいな声が上がる。
しかし、俺の絶対領域は、絶妙な風力により安心安全だ!
まさか、あのラストシーンを再現するだと!
なかなか、理解っているじゃないか!?
俺は、歌い終わる直前に人差し指と親指を伸ばし、拳銃に見立てて『バ~ン!』と、やってみる。
すると、男性客の数人が胸を押さえて悶えている姿が目に入る。
フッ!
此れで、イチコロだな!
俺は硝煙を払うかのように、人差し指を口元に持って行きフッと、妖艶に息を吹きかける。
俺は満足しながら、観客を見渡す。
此処で、小話を一つ。
映画で主人公の女優さんがマシンガンを撃った時の台詞、アレは原作の小説には全く出て来ない、映画オリジナルの台詞なんだよ!
実は俺、前世で大好きだった小説家の先生の作品を100冊以上読んだけど、映画を見終わって原作の小説が気になりその話を読んだ。
しかし最後まで読んでも、例のあの有名な台詞が何処にも出て来ない!
だから『あれっ!?あの、台詞は?』と、読み終わった直後に再度、最初から読み直したって事があった。
それから、よく『彼女のアドリブだった』って都市伝説があるけど、実は最初から台本に書いてあったんだってさ。
でも、これが彼女の歌手デビュー作だったんだから、あの雰囲気を完璧にモノにしちゃうのは、やっぱり天才的な女優さんだよね!
うん?
アイリスが、スケッチブックにマジックペンで『創造主!セリフ言って!』と、書いて俺に見せてくる。
それを見た俺は、潤んだ瞳で観客をじっと見つめながら、吐息が漏れるような声で、あの伝説の台詞を口にした。
『うおおおおおおおおおッッ!!!』
『リョウコちゃん! こっち向いてー!!』
俺の即席ステージを観ていたお客さんたちが、一斉に騒ぎ出す。
「リョウさん?素晴らしい、歌でしたわ!」
美星さんが、今度は怪獣では無くピシッとしたタイトスカートスーツで、更にミリィさんと同じ様な赤縁のメガネを掛けて俺に言う。
「み、ミホシママ!?なんで、スーツでメガネ?!凄く似合ってて綺麗だけど!」
俺は美星さんの姿にドギマギしながら、上から下まで眺める。
「うふふ、そんなに見つめられると、恥ずかしいですわ?リョウさんはメガネが、お好きなんでしょう?」
美星さんは指先で、そっとフレームの端を押し上げる。
「メガネが好きなんじゃなくて、ぼくが好きなのは『メガネの似合う女性』だからね!?メガネが、本体じゃ無いよ!」
「あら、そうでしたの?先ほどミリィさんから、お伺いした時には・・・」
「違うからね!それは、非常に間違った知識だよ?ぼくは、メガネを見ても何とも思わないからね?あくまでも、『メガネを掛けた、素敵な女性』に反応してるだけだし、美星ママみたいな美人がメガネでスーツは、容姿端麗で、才色兼備で、眉目秀麗で神采奕奕な一目惚れだよ!」
「うふふふ!リョウさんは、面白い方ですわね!」
美星さんは嬉しそうに『魔導扇』を開いて、微笑んでいる。
その扇面は、綺麗な満月に枝垂れ桜が映っている。
「なる程!?では、このメガネでも良いんだな?」
テア博士が、声を掛けて来たのでそちらを向く。
すると、ひげメガネを掛けてブタ耳カチューシャの耳を、ピコピコ動かしながら俺を見るテア博士が居る。
「・・・いや、それはちょっと」
「くふぅ!?そんな塩対応されたら!君は何処まで、私を虜にすれば気が済むんだね!ハァハァ」
テア博士が、身悶えていらっしゃる。
取り敢えず、無視しておこう。
「リョウ〜、素敵な歌だったよ〜!歌も凄いけど〜、お姉ちゃんの占いも大盛況だよ〜?」
マリーさんが、ニコニコしながら俺を見る。
因みに現在のマリーさんは、前世の女性警察官のコスプレだ。
「マリーお姉ちゃんも、凄く似合ってて可愛いよ!」
「リョウ〜、有難う〜!この世界には、警察はもう無いけど〜、めぐりちゃんから〜、前世の警察官の制服だって聞いたから〜、着てみたの〜!」
めぐりちゃん、グッジョブ!
「あらあら?此方が、リョウさんの前世で使用されていた警察官の制服ですのね。この世界では、もう警察は無くなって久しいですわ」
「あの、美星ママ?なんで警察は無くなっちゃったの?」
俺は、この世界で軍が警察機構を兼ねている事を疑問に思っていたので、美星さんに聞いてみた。
「そうですわね。此れは随分と昔の話になりますが、この世界には元々、警察、軍隊、司法と別れて存在していましたのよ?」
美星さんが、丁寧に説明してくれた。
大昔、警察組織のトップや幹部たちの汚職と腐敗が極まり、それに怒った民衆と一部の警察官による大規模な暴動が起こったそうだ。
その結果、警察組織は完全に解体され、代わりに軍が警察機構を担うようになった。
・・・とは、言ってもね?
この世界は基本的に、一般市民でも武器の所持が認められている。
何故なら、施設の外にはモンスターが跋扈している世界だからね?
そんな武装した民衆と、内部の戦術を知り尽くした一部の警察官がタッグを組んで本気で暴動を起こしたんだ。
そりゃあ警察組織の一つや二つ、跡形もなく消し飛ぶのも納得だよね。
という歴史らしいのだが、美星さんの話を聞いているうちに、俺の中でちょっと引っ掛かる部分が出てきた。
どうやら、腐敗した警察内部にいた、転生者の警察官が仲間を率いて暴動を起こしたらしいのだ。
何故そう思ったのかと言うと、美星さんの口から、前世の某有名刑事映画で主人公の刑事が叫んでいたあの伝説的な台詞が、その暴動の時に言われた合言葉だと聞いたからだ。
何でも、腐敗した警察機構に嫌気が差したその転生者の警察官が、警察トップを懲らしめ『こんな警察組織なら要らない、軍に任せてしまおう!』という事になったらしい。
だけど、警察を無くして軍に治安維持を丸投げしたら、今度は軍に権力が傾いてしまう。
そこで、その暴動を起こした転生者は、軍に対して異議申し立てや不穏な状態になった時のストッパーとして、ギルドが警察機構の代わりを担うという仕組みを作ったのだという。
普段は軍が動き、不穏な事態や異議申し立てがある場合にギルドが動く。
そんな状態が、長く続いてきたらしい。
しかし、そんな歴史の中でも、やはり同じような腐敗は繰り返される。
それを美星さんがギルド本部を叩き直して、現在のクリーンなギルドへと再生させた。
流石、現役ギルド長!
俺は美星さんの話を聞いて、改めて美星さんの偉大さに畏怖と畏敬の念を抱いた。
「有難う!美星ママ、凄く勉強になったよ!」
「そう言って頂けると、嬉しいですわ!」
美星さんは、嬉しいそうに俺を見る。
しかし、ギルドに登録しているが、警察機構の肩代わりしているなんて、知らなかったな。
「お、お兄ちゃん!助けて!」
めぐりちゃんが、大慌てで俺の所に来た。