異世界転生 作:MSZ-006
「感動したぜ、アミーゴ!やっぱり、アミーゴに相談して正解だったな!」
神楽坂さんは、腕を組んで満足気に頷いている。
「そうですか。そんな風に思って頂けたなら幸いです。では、次の方どうぞ?」
「おいおい!アミーゴ、そりゃ無いだろう?もうちょっと、詳しく話をしてくれよ」
「既に充分で、飽和状態。過不足なく潤沢で豊富な余りある説明で、もう手一杯かと思いますが?」
俺は、ニコニコしながら返答する。
「その協力者って所を、詳しく頼むよ?」
「分かりました。協力者については、既に会っている存在、または此れから出会う存在ですね。そして、貴方の考えに対して、非常に好意的な存在と言えます」
俺はカードから受けるインスピレーションを、そのまま言葉に出す。
「なる程?じゃ、アミーゴって事だよな?」
「いえ!違います!次の方どうぞ?」
「いや、アミーゴはさっき『理不尽』な差別は、無くすべきだと思うよ?でも現実は、なかなか上手くいかないけどね?』って言ってたし、何よりLGBTに対する偏見も無いだろう?」
「・・・確かに、そうですね?だから?」
「だからだよ!君は、俺に協力する気がある。だから、映画出演拒否も撤回した。そうだろう?」
神楽坂さんは、俺をジッと見つめて真剣な目で俺を見る。
「まぁ、そうですね・・・。貴方のあんなに切ない初恋の話を聞かされれば、拒否する事なんて出来ないですよ」
俺は、ため息混じりに返答する。
「やっぱり、そうか!俺が見込んだだけある!最後のアミーゴだぜ!」
そう言って神楽坂さんは、とても嬉しそうに笑う。
「言っておきますが、私の恋愛対象は同性では無いですからね?瞳ちゃんは、例外なだけですよ?」
「そうか・・・。でも、友人としてなら全く問題ないく、付き合って行けるって事で良いのか?」
「はぁ、そうですね。セクハラ等の行為が無ければですが?」
「おいおい!アミーゴ、さっきも言ったが、アレはセクハラなんかじゃ無くて、単なるコミニュケーションだよ!握手して、ちょっと手を親指でサワサワしただけだろう?」
「だから、それがセクハラって言ってんだよ!はい、もうお終い!う、うぅん!次の方、どうぞ〜?」
俺は、また地声でツッコミを入れてしまったが、裏声を作り直して次のお客さんを呼ぶ。
神楽坂さんがお金を置いて退席し、次に現れたのは歌謡ショー時の女性客二人組だった。
「こんばんは〜?さっきの不思議な投げ技の人だよね?声がさっきと、全然違う!」と、歌いながら合気道の技で、優しく投げたショートカットの女性客。
「凄く可愛い!アイドルみたい!ラブソングの時と大違いね?」と、ラブソングを歌いながら、抱きしめたセミロングの女性客。
「うふふ!有難う御座います!お二人は、何を相談に来られたんですか?」
俺は、裏声で二人に対応する。
「うん、あのね?私たちの今後を占って欲しいの!」
ショートカットの女性客が、答える。
「私たち、凄く仲良くしてるけど、今後もずっと仲良くしていられるか、心配になって・・・」
セミロングの女性客が、不安そうに答える。
「なる程?分かりました!では、スリーオラクルで如何ですか?」
俺は、二人にスリーオラクルで占う事を提案してみる。
「うん!カードを3枚選ぶやつね?」
ショートカットの女性客が、手を合わせて答える。
「確かそれって、過去、現在、未来が分かるのよね?」
セミロングの女性客が、思い出す様に答える。
「はい!その通りです。博識ですね?」
俺は、ニコニコしながら答える。
「「じゃ、それで!」」
「畏まりました!では、お互いの仲の良さが、どうなるか占ってみますね?」
俺は精神を集中させ、タロットカードをテーブルの上でクルクルと回すようにシャッフルする。
一纏めにした後、三つの山に分けてまた一纏めにする。
そして、扇状に広げたカードの中から、二人に合計3枚のカードを選んで貰う。
「では、左から順番に開いていきますね?」
俺がカードをひっくり返していく。
1枚目、過去〈恋人〉の正位置。
2枚目、現在〈力〉の正位置。
3枚目、未来〈戦車〉の逆位置。
「なる程?お二人のこれまでの歩みと、これからの姿がハッキリと映し出されていますね」
俺は、カードに描かれた絵柄を指差しながら、極上の裏声で解説を始める。
「先ず過去のカード、〈恋人〉の正位置です。これは、お二人が出会った当初から、言葉にしなくてもお互いの考えている事が分かるような、最高の『良き理解者』であったことを示しています。最初から波長がピッタリ合う、運命的な友人関係だったようですね」
「当たってる!初めて会った時から、ずっと一緒にいる気がしてたんだよね!」
ショートカットの女性客が、嬉しそうに隣のセミロングの女性客と顔を見合わせる。
「次に現在の状態。〈力〉の正位置が出ています。このカードに描かれているのは、狂暴なライオンを優しく手懐けている女性の姿。これは、お二人が、ただ仲が良いだけでなく、お互いの欠点や弱い部分も全て受け入れ合っている『必要不可欠な存在』である事を意味しています。精神的に深く結ばれている。とても強い絆を感じますね」
「うん・・・。私が落ち込んでいる時、いつもこの子が黙って隣にいてくれる」
セミロングの女性客が、愛おしそうに目を細めて頷いた。
「そして、最後に未来のカード。〈戦車〉の逆位置が出ています」
俺はあえて、少しトーンを落として告げる。
「えっ、逆位置!?それって悪い意味だよね?」
ショートカットの女性客が不安そうな表情になり、セミロングの女性客が身を乗り出して問いかける。
「正直に言いますね。〈戦車〉の逆位置は、コントロールを失った暴走や、意見の衝突を意味します。つまりお二人は近い将来、大きな『喧嘩』をする事になります。今まで言えなかった不満が爆発したり、感情的になってぶつかり合ってしまう瞬間が、どうしても訪れるようですね」
「えぇっ!私たち、喧嘩しちゃうの?」
ショートカットの女性客が、ショックで声を詰まらせる。
「でも、安心して下さい。このスリーオラクルの面白いところは、過去と現在の強い絆がベースにあるということです。お二人の未来の喧嘩は、関係が壊れる為の破滅ではありません。お互いが本音を隠さず、より深く向き合う為に必要な、通過儀礼の様なものです。激しくぶつかり合って、一時的に気まずくなるかもしれない。でも、それを乗り越えた先、今よりもさらに深い絆で結ばれた『喧嘩するほど仲が良い大親友』に戻る事ができますよ。だから恐れずに、ぶつかった時は素直な気持ちを相手に伝えて下さいね?」
俺がニコッと完璧な営業スマイルを向けると、張り詰めていた小屋の空気が、ふっと温かいものに変わる。
「そっか・・・。本音でぶつかっても、私たちなら大丈夫ってことだね」
「うん!もし喧嘩しちゃっても、私は絶対に離れたりしないからね」
二人はお互いの手をぎゅっと握り締め、すっかり安心した笑顔を浮かべている。
「有難う御座いました!リョウコちゃんに占ってもらえて本当に良かった!」
「有難う!これ、占いの代金ね!」
二人は机の上にお金を置くと、とても晴れやかな顔で小屋を出て行った。
「ふぅ・・・」
俺は裏声を少し休ませながら、机の上のお金を回収する。
さっきの男子の分は無かったが、神楽坂さんと今の女性客二人で、合わせて三千円だな。
野良モンスター保護の寄付金になるから、俺としては喜ばしい事なんだがね?
「よし、次の方〜?どうぞ〜!」
俺は再度、裏声を出してお客さんを招き入れる。
カーテンが開き、次に小屋へ入ってきたのは・・・。
「キュン!」[占って!]
魔導アナグマだった。
「・・・お前、お金持ってるの?」
「キュ、キュキュキュン!、キュキュン?」[其処は、知り合いの好で頼むよ!後払いでさ?]
「まぁ、良いよ。で、何を占って欲しい?」
「キュキュン、キュンキュキュンキュン!」[ちゃんと、女の子の声で対応してよ!]
「はいはい、分かりました?此れで良いですか?」
俺は、地声から裏声にして話す。
「キュ!キュ、キュンキュンキュン、キュキュンキュ、キュキュン?」[うん!ぼくは、シティーガールを目指して、可愛い人間の彼女を作りたいと思っているけど、出来るかな?]
「じゃあ、ワンオラクルで占うわね?」
俺は裏声のまま、手慣れた動作でカードを広げ、魔導アナグマに1枚選ばせる。
魔導アナグマが短い前足で「キュン!」と、指差したカードを俺はひっくり返す。
そこに描かれていたのは、激しい雷撃によって粉々に打ち砕かれ、炎上する巨大な石塔。
そして、そこから真っ逆さまに墜落していく人間たちの姿。
大アルカナ16番目・・・最大最悪の大凶カード、〈塔〉だ。
「・・・キュ?」[・・・え?]
カードの不穏すぎる絵柄を察したのか、魔導アナグマが怯えたように鳴き声を漏らす。
「残念だけど、シティーガール計画も人間の彼女も、今すぐ諦めなさい」
俺は極上の裏声のまま、一切のオブラートに包わず冷徹な事実を告げた。
「キュ、キュン!?キュキュン!?」[な、なんで!?ひどいよリョウコちゃん!?]
「ひどいも何も、出ちゃったものは仕方ない。これは〈塔〉のカード。正位置だろうが逆位置だろうが、タロット界で言い逃れのできない『絶対的な大破滅・強制終了』を意味する大凶カードなの」
俺は身を乗り出し、炎上する塔の絵を人差し指でトントンと叩く。
「アナタが目指すシティーガールへの道には、これから天変地異レベルの価値観の崩壊が待っている。そもそもね、瞳ちゃんについて行って、軍に入隊するんだよね?それから、種族の壁を超えて人間の彼女を作ろうなんて、それ自体が神の逆鱗に触れて雷を落とされるような無茶な暴挙(傲慢)だと思うの。このまま突っ込んだら、理想が粉々に打ち砕かれてメンタルが文字通り大破滅するわよ?」
「キュ、キュゥゥン・・・。キュン、キュキュ・・・」[う、嘘でしょ・・・。ぼくの恋、始まる前に粉砕された・・・]
俺の真剣な解説に、魔導アナグマはショックのあまり、短い前足で頭を抱えて机に突っ伏してしまった。
「でも、タロットの〈塔〉はね、ただ絶望するだけのカードじゃないの」
俺は突っ伏したアナグマの頭を、手で優しく撫でながらトーンを少し和らげる。
「古い塔が完全に崩壊した後は、新しい土台から、もっと頑丈な建物を建て直すことができる。つまり、今のアナタの『チャラチャラした、不純な動機』は、一度コテンパンに打ち砕かれるけれど、それを乗り越えた先で、もっと自分にぴったりな『本当の運命の相手(モンスターかもしれないけどな?)』に出会える再生のチャンスでもあるの。だから、そんなに落ち込まなくても、大丈夫よ?」
ニコッと完璧なリョウコちゃんスマイルを向けると、魔導アナグマは涙目で顔を上げた。
「キュン・・・?キュキュン?」[本当・・?ぼく、生まれ変わったらモテモテになれる?]
「それは今後のアナタの努力次第ね。はい、おしまい!後払いのツケ、ちゃんと後で回収するからね?」
「キューキュ!ンキュンキューン!」[はーい!有難うリョウコちゃん!!]
アナグマは元気を取り戻し、お尻を振りながら小屋を走って出て行った。
「ふぅ・・・。激しいカードが出たな・・・」
俺が地声で呟きながらカードを片付けようとした、その時だった。
再びカーテンが開き、入ってきた『次のお客さん』の姿を見て、俺の心臓がドクンと跳ね上がる。
そこに立っていたのは、静かに俯いた藍さんだった。
「・・・リョウさん。私も、良いかしら?」
「は、はい!いらっしゃいませ!どんなご相談でしょうか?」
「ウチの人、無事に帰って来るかしら?」
藍さんは、儚い笑顔で俺を見つめる。