異世界転生   作:MSZ-006

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「わ、分かりました。取り敢えず、お掛け下さい」

 

俺は藍さんを見ない様に、静かにタロットカードに意識を集中してシャッフルする。

 

そして、ヘキサグラムスプレッドで旦那さんの無事を確認した結果・・・。

 

過去、〈恋人〉の正位置。

 

現在、〈力〉の正位置。

 

近い未来、〈死神〉の正位置。

 

問題に対する対策、〈節制〉の正位置。

 

周囲の状況、〈女帝〉の正位置。

 

本人の状況、〈恋人〉の正位置。

 

最終結果、〈塔〉の逆位置。

 

「・・・ッ!」

 

最後の一枚を開いた瞬間、俺の喉から裏声が消えそうになった。

 

あまりにも残酷で、逃げ道のない神託がそこには並んでいる。

 

「リョウさん?そんなに悪いカードが出たの?」

 

不安そうに顔を曇らせる藍さんに、俺は覚悟を決めて、オブラートをすべて剥ぎ取った事実を告げる。

 

「藍さん。嘘偽りなく、出たままを伝えます。先ず、藍さんの現在の心境を示す位置、そして過去の位置にも〈恋人〉や〈力〉の正位置が出ています。これは、藍さんと旦那さんがお互いを心の底から深く、激しく愛し合っている証拠です。普段はどれだけ尻に敷いていようと、貴女にとって旦那さんは唯一無二の、命に代えてもいい大切な存在。旦那さんの方も同じです。お二人の絆は本物です」

 

「ふふ、まあね。頼りない旦那だけど、私の本心を見透かされたみたいで少し恥ずかしいわね」

 

藍さんは少し照れたように笑うが、俺の真剣な目を見て、すぐに表情を引き締めた。

 

「ですが、最終結果の位置を見て下さい。・・・〈塔〉の逆位置です。正位置が『予期せぬ突然の崩壊』なら、逆位置は『じわじわと迫り来る、避けられない破滅』です。これは近い将来、お二人に訪れる『望まぬ再会』を意味しています。何か不穏な事件や、危険な影が少しずつお二人の日常を蝕み、分かっていながらも破滅へと向かっていく、そんな過酷な運命が待っています」

 

「望まぬ再会?」

 

藍さんの顔から血の気が引き、その身体がガタガタと震え始める。

 

「それから、近い未来の位置に出ているのは〈死神〉の正位置。これこそが『絶望と救済』のカードです。旦那さんとの望まぬ再会によって、貴女の日常世界は、一度完全に崩壊します。行き場のない悲しみと激しい絶望に襲われ、貴女は危険を知りながらも止められなかった俺を、激しく責め立てるでしょう。『なぜ止めなかった、危険だと知っていて、なぜ止めなかったのか!』とね。そのしんみりとした暗闇の期間は、確実に訪れます」

 

「私が、リョウさんを責める・・・?」

 

「はい。ですが、周囲の状況には、母性的な優しさと援助を意味する〈女帝〉の正位置が出ています。貴女が絶望の底に突き落とされた時、周囲の仲間たち、そして責められた俺自身が、貴女を絶対に一人にはしません。黙って寄り添い、貴女の傷を癒す為の心からの手助けと、温かい慰めの援助を送り続けます。その救済の光があるからこそ、あなたは絶望の夜を乗り越え、新しい絆(再生)へと歩き出すことができる。このカードの並びは、お二人の愛の深さと、避けることのできない過酷な運命、そしてそれを乗り越えるための確かな救いを、すべて示しています」

 

俺が語り終えると、小屋の中にはピーンと張り詰めた、緊張した静寂が満ちていた。

 

「リョウさん?いい加減、話して欲しいの」

 

藍さんは、俺をジッと見つめながら問い詰める。

 

「あの人は、シュウ総督の依頼を受けた、そうね?」

 

「・・・はい。夜中に呼ばれて、その話を聞きました」

 

「知ってるわ・・・。お互いに、激しくぶつかり合ったものね?」

 

藍さんは、フッと切なそうな笑みを浮かべて俺に言う。

 

「やっぱり、知ってたんですね・・・」

 

俺は、ため息混じりに返答する。

 

「私を、誰だと思ってるの?旦那の事を、一番愛している存在なのよ!?あの人がリョウさんを呼び出した後、コッソリ後をついて行ったのよ・・・。そして、ウチの人が本気でリョウさんを試している所も全て見てたわ!」

 

藍さんは、俺を涙目で見つめながら言葉を噤む。

 

「・・・」

 

俺は、黙って藍さんの言葉を聞く。

 

「止めて欲しかった!行くなと・・・。危険だと分かっていて、なぜ止めなかったの?めぐりもまだ、小さいのよ?」

 

藍さんは泣きながら、俺に言葉をぶつける。

 

「・・・すみません。俺には、謝る事しか出来ません」

 

俺は、静かに頭を下げる。

 

それを見た藍さんは、自嘲気味にフッと笑って言う。

 

「本当に、男って馬鹿よね!?昔の人は良く言ったものだわ!『男のロマン、女の我慢』って!本当に、その通りよ!っ、・・・ごめんなさい」

 

藍さんは、ハッと我に返り謝ってくる。

 

俺は、無言で藍さんを見つめて首を横に振る。

 

「有難う、もう行くわね」

 

掠れた声で涙を拭い、藍さんは背を向けて立ち去る。

 

俺は立ち去る彼女を何の言葉も掛ける事が出来ず、ただただ無言でいる事しか出来なかった。

 

「ふぅ」

 

俺は藍さんが立ち去った後、ため息をつく。

 

さっきまで酔っていたのが嘘の様に、俺の酔いは完全に抜けていた。

 

どうすれば、旦那さんを止められた?

 

俺が危険だからとか、御家族の事を考えてなんて言っても、旦那さんの決意は変わらなかっただろう。

 

そもそも河野さんは、なぜ失踪した?

 

ミリィさんに振られたからと言って、責任ある立場の管理職である河野さんが、全てを手放して消え去るか?

 

多分、そんな事はしないな。

 

すると、何かの事件に巻き込まれたとしか思えない。

 

そもそも、遺跡襲撃事件も何の目的があったのか、全く分からない。

 

その直前にあった、モンスター襲撃。

 

アレは、偶然か?

 

いや、そもそも俺や博士たちを襲った超巨大アースワームは、魔力で暴走させられて苦しんでいるとテア博士が言っていた。

 

・・・全ては、何者かが仕組んだ事だというのか?

 

分からないな・・・。

 

俺は、ふと手元のタロットカードを見る。

 

そうか!

 

タロットカードで、占ってみれば良い!

 

何かしら、道標が出てくるかもしれない。

 

俺は、カードに意識を集中して今回の事件について、それから河野さんの行方をヘキサグラムスプレッドで神託を仰ぐ事にする。

 

過去、〈隠者〉の逆位置。

 

不健全な秘密、隠蔽、隠された陰謀。

 

やはりアースワームの暴走も遺跡襲撃も、誰かが闇の中でずっと進めていた計画だったって事か?

 

現在、〈運命の輪〉の逆位置。

 

一時的な停滞、不穏な歯車、空回りか・・・。

 

事態は、悪循環に陥っている。

 

河野さんが失踪し、藍さんの旦那さんが依頼を受け、日常の歯車が狂い始めているって事だな。

 

近い未来、〈審判〉の正位置。

 

救出、復活、解放、長きにわたる囚われからの目覚め。

 

河野さんは死んでおらず、囚われているって事か!

 

後、俺のインスピレーションでは、何かと一緒に救出される未来が視える。

 

問題に対する対策、〈星〉の正位置。

 

希望、ひらめき、直感を信じる事。

 

諦めずに、希望の光を追い続ける事が鍵か。

 

自分の直感を信じて動く事が大事だと、カードは言っているイメージがある。

 

周囲の状況、〈悪魔〉の正位置。

 

監禁、囚われ、逃れられない束縛、組織の罠。

 

河野さんは何者かの手によって、深く暗い場所に監禁、束縛されている。

 

カードからは、そんなイメージを受けるな。

 

本人の状況、〈正義〉の逆位置。

 

焦り、バランスの崩壊、無力感。

 

俺自身は今、焦りや藍さんに対する申し訳なさで、冷静な心のバランスを失いかけている状態だな。

 

冷静になって、しっかりしないと。

 

最終結果、〈月〉の正位置。

 

見えない敵、深い霧、混沌の先の真実。

 

河野さんは、無事に救出はできる。

 

けれど、事件の真の目的や、それを操る『真の黒幕』の正体は、まだ深い霧の向こうか・・・。

 

本当の戦いは、救出した後に待っているって事か?

 

全く、まるでラノベの主人公みたいじゃないか!?

 

俺が、そんな事を考えていると、めぐりちゃんが店の中に入って来た。

 

「お兄ちゃん、有難う!もう大丈夫だよ!リリーさんの方も終わったし、此れでイベント終了!」

 

「そっか。なら、良かった。因みに、寄付金はどれ位になったの?俺は、三千円だけだよ。ごめんね?」

 

「お兄ちゃん、謝らないで!そもそも、金額の多い少ないなんて関係ないんだよ!そうじゃ無いと、寄付の意味がないもん!」

 

「そっか、有難う」

 

「此れで、野良モンスターの保護団体に多額の寄付金を送れるよ!」

 

めぐりちゃんが、胸を張って俺に答える。

 

多額の寄付金?

 

俺は、三千円だけだよ?

 

「め、めぐりちゃん?めぐりちゃんの稼いだ金額って、どれ位だったの?」

 

「えっ?大した額じゃ無いよ!たかが、30万程度・・・」

 

「さ、30万?!」

 

「うん、まぁボクの作ったコスプレ衣装とか獣耳カチューシャが完売して、更に魔導サイリウムとかリリーさんの売り上げを合わせると、それ位だね!」

 

「因みに、お兄ちゃんが着てるセーラー服が大人気だったんだよ?次は、ナース服で・・・」

 

めぐりちゃんが、コスプレ衣装の売れ筋を説明してくれる。

 

俺が、セーラー服を着て女装した効果が高かったらしい。

 

「それでね?男の人が、セーラー服とか買っていくんだけど、彼女に着せるとか言う人も居れば、俺が着るって買って行くオジサンとかも居たんだよ?」

 

めぐりちゃんはクスクス笑いながら、そんな事を言う。

 

・・・うん、まぁ人の趣味は様々だからね?

 

何も言うまいよ・・・。

 

「そう言えば、神楽坂さんだっけ?お兄ちゃんに言い寄ってた上半身裸の筋肉質なマスクの不審者。あの人も、獣耳カチューシャ買って行ったよ?因みに、コアラ。なんか、マスクの上からつけるって言ってたんだ!」

 

マジか?!

 

あの薄い金地の朱鷺や佐渡おけさを踊る人、前世では世界遺産に登録された金山に、盥船や地酒、おけさ柿に鬼の仮面をつけて太鼓を叩く鬼太鼓が、カラフルに描かれた派手なカラーリングのマスクを着けて、それにコアラ耳のカチューシャで、ルチャ・リブレをやるのか!?

 

いや、ルチャ・リブレは派手なマスクを着けて闘うけど・・・なんで、コアラ耳!?

 

まぁ、本人が良いなら構わないか。

 

そんな話をしつつ、めぐりちゃんが占いの店を魔導カプセルに戻す。

 

「そうだ、お兄ちゃん。お母さん、呑み過ぎたから、先に部屋に戻るって言って部屋に帰ったからね?」

 

「・・・そっか。うん、分かったよ」

 

俺は、夜空に輝く満月を見上げながら返事した。

 

 

 

 

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