異世界転生 作:MSZ-006
さて、賑やかな朝食が終わり、此れから俺はデートの準備だな。
そんな事を考えていると、ヴェルダンディが此方に来て「・・・リョウ、ちょっと良いかしら?」と、話し掛けてくる。
「分かった。場所を変えようか」
そう言って、俺はヴェルダンディと二人で移動する。
「で、どうした?ヴェルダンディ」
俺たちは今、温泉宿に設置されている小型の魔導カラオケボックスに二人で居る。
此処なら、誰にも邪魔されず話が出来るからな。
「昨日話した事だけど、藍さんに何を言ったの?旦那さんと、死闘した以外に何か話したの?」
「昨日、俺がタロット占いやっただろう?その時に、旦那は無事に帰って来るか?と、聞かれたんだ。だが、その結果は『望まぬ再会』だった」
「『望まぬ再会』って・・・。まさか!」
ヴェルダンディは口に手を当て、驚愕しながら俺を見つめる。
「ヴェルダンディ?占いなんて、当たるも八卦、当たらぬも八卦だろう?・・・だから、俺としては外れて欲しい結果なんだよ。旦那さんが俺を見て『ボケナス!』って、怒鳴り散らす。そんな光景を、俺は望んでいるんだよ」
苦しくて切ない、そんな感情を胸に抱きながら、俺は淡々と言葉を発する。
藍さんの旦那さんが、ひょっこり戻ってきて、俺に怒鳴り散らしてバタバタ騒いだり、藍さんに怒られたり、めぐりちゃんに言い包められたりする。
そんな姿を、また目の前で見られる。
俺は、そんな楽しい日常を望んでいるんだ。
だから、俺の占いの結果が外れて欲しい。
そんな儚い想いを胸に、ヴェルダンディに背を向ける。
「すまん、ヴェルダンディ。俺は、此れからデートなんだ。薄情な人間だと思うだろう?俺は所詮、そんな人間なんだよ」
俺はヴェルダンディに向って、軽薄な態度で笑って言う。
「バカ!どうして、そうやって無理するのよ!私は、貴方の前世の記憶も思考も、全て理解ってる存在だって言ったでしょう!?だから、そんな強がりよしてよ!昨日も言ったでしょう?独りで、抱え込まないでって・・・。少しは、私たちを頼ってよ・・・」
「・・・もう、約束の時間だ。俺は、行くよ」
「リョウ!」
「ヴェルダンディ?人は常に、変化する生き物だ。だから、昨日までの俺は、今日の俺と違う。そんな風に言ったら、笑うか?」
「そんな戯言を言って、誤魔化さないで!人は確かに、常に変化する生き物だって事は百も承知よ!でも、その根幹にあるモノは、そう簡単に変わりはしない!貴方が悩んで、苦しんでいる事が分からないとでも思ってるの?」
俺は、ヴェルダンディの悲痛な叫びを聞きながら、だからこそ巻き込めないんだよと、言いかけて言葉を噤む。
「有難う」
一言だけ呟いて、俺はそっと部屋を後にした。
ミリィさんと、待ち合わせの場所である宿の門に来た。
約束した待ち合わせの時間より、まだ早い。
でも、デートってのは男が女を待ってるってのが、俺の勝手なイメージなんだよな。
で、『ごめんなさい!待たせちゃって!』って、女が言うと男が『いや、ついさっき来た所だよ?』って、1時間前に来ておいて、そんな事を言う!
まぁ俺はたかだか、十分前だけどな?
とは言え、さっきヴェルダンディと話した事を思い出す。
ヴェルダンディは、俺の心中を見透かしていたな。
藍さんの旦那さんを止められなかったのは、俺に責任があるのは分かっている。
だから、もし占いの結果が当たってしまったら、どうすれば良いのか?
考えても、答えなんて出やしないよな・・・。
俺は上を向いて、青空を見る。
いい天気だ。
絶好のデート日和だな。
カラン、コロンと下駄の音がする。
音の方を見ると、其処には長い綺麗なプラチナブロンドのロングヘアーを上に纏めて、俺が昨日プレゼントした、エルダーエント製の『ススキの簪』を挿した、浴衣姿のミリィさんが立っていた。
「お待たせしました、リョウ様。私の姿・・・。如何ですか?」
ミリィさんは、赤いメガネをクイッと上げながら、頬を染めて俺に聞いてくる。
「ぜ、全然、ちっとも、全く、少しも待ってませんよ!?ついさっき来たばかりですます!」
「リョウ様?大丈夫ですか?具合が悪いんじゃ・・・」
心配そうに、俺を気遣うミリィさん。
「だ、大丈夫です!俺は、至って正常ですよ!た、ただ普段のミリィさんも美しいですが、浴衣姿のミリィさんがとてもふつくしすぎて、言葉がちょっと混乱してるだけであります!」
「フフッ!そんな事を言われると、恥ずかいです、リョウ様。でも、有難う御座います」
ミリィさんのはにかんだ笑顔が、俺の暗くなっていた気持ちを、明るく照らしてくれる。
「では、行きましょうか?」
ミリィさんが、スッと手を伸ばしてくる。
「そ、そうですね!行きましょう!」
俺は、緊張しながら彼女の手を取る。
「うん!早く、行こう?」
「そうそう、早く行くよ?創造主!」
「創造主様?早くするニャ!時間は、有限ニャ!」
「YOYO〜!創造主YO〜、早く面白い所に、連れて行くんだYO〜!」
「おい!?何でお前等も居るんだよ?」
俺は、アイリス、沙羅、セレネ、『魔導唐傘おばけ』を見ながら問い正す。
「リョウ様、仕方無いのです。コレは、正妻会議で決まった事なんです」
ミリィさんが、クイッとメガネを上げながら言う。
「は?せいさい会議?制裁?精彩?精細?聖裁?正彩?青彩?聖祭?生菜?」
俺は『せいさい』の意味が理解らず様々な『せいさい』を出して考え込む。
「リョウ様、正妻です。正しい妻の事です」
混乱する俺を見たミリィさんは、とんでもない言葉を投げ掛けてくる。
「ちょ、ちょっと待って下さい?何ですか?その、正妻会議って?!」
「リョウ様、今朝ほど私を含め、カオリさん、珊瑚ちゃん、ネアさん、ゴモリーさん、リリーさん、マリーさん、ユカさん、瑞ちゃん、ポポちゃん、めぐりちゃん、瞳さん、テアさん、ヴェルダンディさんを含めた正妻会議で話し合いをした結果、リョウ様が創造された『西洋甲冑のアイリスさん』『龍ロボの沙羅さん』『黒猫のセレネさん』そして『魔導唐傘おばけさん』が、私と一緒にデートに参加する事になりました」
「ミリィさん?正妻って、俺はまだ独身ですよ?!」
「リョウ様、昨日、全員にプロポーズしましたよね?そして、先ほどリリーさんが市役所で婚姻届を貰って来て既に全員、自分の名前を書き終えてあります。後はリョウ様が名前を書いて、市役所に提出すれば婚姻成立です」
ミリィさんは、メガネをクイッと上げながら説明する。
「因みに、正妻会議で決まった事の内容として『リョウ様と何処まで進んで良いか?』ですが、手を繋ぐ、抱きつく、キスまでなら大丈夫と決まりました。宜しく、お願いします」
淡々と、会議の内容を報告するミリィさん。
「YOYO〜創造主YO〜!私も、キスまでなら、OKだからYO〜!チェケラ!」
『魔導唐傘おばけ』が、長い舌をビッタンビッタンさせ、ピョンピョン跳ねながら言う。
そして、アイリスは頬を抑えてクネクネし、沙羅はピンク色の霧に身体をはみ出しながらクネクネと隠れ様とし、セレネは『魔導煙管』を燻らせながら、赤くなり俺を見つめる。
・・・黒猫なのに!
「おい!ちょっと待て!俺に、そんな特殊な性癖は無いぞ?!」
その言葉を聞いた瞬間、アイリス、セレネ、沙羅、『魔導唐傘おばけ』が、刻が止まったかの様にピタッと静止する。
「創造主!また差別発言!?」
身体をバチバチと帯電させながら、文句を言う沙羅。
「創造主?酷い!乙女心を、なんだと思ってんのよ?!」
地団駄を踏んで、地面を凹ますアイリス。
「そ、創造主様!?その発言は幾らドSの創造主様でも、吾輩には受け入れられニャいニャ!?」
『魔導煙管』を手元に下ろし、あんぐり口を開いて、信じられないモノを見る様な眼差しで俺を凝視するセレネ。
「ひ、酷い!何で、そんな事を言うのよ!私は、創造主が大好きだから、本気で心の其処から、愛の告白をしただけなのに!」
え゛ッ!?
『魔導唐傘おばけ』が泣きながら、ラップ調じゃ無い喋り方してるんだけど?!
「・・・リョウ様、今の発言は取り消して下さい。そうでないと、この子たちがあまりにも不憫過ぎます」
ミリィさんが優しく、怜悧に苦言を呈する。
俺を見つめるその瞳は、一切笑っていない。