異世界転生   作:魔導科学

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蜂の巣を無事に駆除した後、俺たちは周囲を軽く散策してみた。

 

しかし、これといって目ぼしい獲物も居らず、手応えのない時間に飽きて他を散策することにした。

 

林を抜け、湖へと続く穏やかな通り道を歩いていると、岩肌にポッカリと口を開けた『洞窟』を発見した。

 

周囲の空気より心なしかひんやりとした風が、その暗闇から流れ出してくる。

 

「中は誰も居ないようだし、入ってみるか?」

 

一瞬、冒険者らしい好奇心が頭をよぎるが、すぐに別の想像がそれを塗りつぶした。

 

・・・いや、待て。

 

こういうジメジメした暗所は、俺の嫌いな『虫系モンスター』の格好の根城に違いない。

 

蜂も大概好きじゃないが、特に『G』とか百足、そしてあの鱗粉を撒き散らすデカい蛾だけは生理的に無理だ。

 

前世のサイズですら奴らを『モンスター』だと思って忌み嫌っていたというのに、この異世界ではご丁寧に巨大化し、おまけに狂暴度まで増している。

 

想像しただけで肌に粟が立つ。

 

恐ろしい、恐ろしすぎる。

 

「やっぱり、洞窟は止めよう。引き返すべきだ」

 

自分に言い聞かせるように呟いた。

 

しかし、隣から想定外の弾んだ声が響く。

 

「リョウ、この洞窟に入るの? 絶好の探索ポイントじゃない! 虫系のモンスターが、沢山居そうで楽しみね!」

 

見れば、カオリさんが瞳を輝かせ、やる気満々で武器に手をかけている。

 

「か、カオリ・・・? 本気で入るのか?」

 

「どうしたの、リョウ。顔色が悪いわよ? さては怖いんでしょう! 大丈夫よ、何が来ても私が護ってあげるから!」

 

頼もしい言葉だが、俺の不安は拭えない。

 

「いや、カオリ。奴らは種類も多いし、行動範囲が異常に広いんだぞ。神出鬼没で、こっちの想定外の隙間から飛び出してくる。危ないと思うんだよ。特に・・・あの『黒い悪魔G』だけは!」

 

Gに関しては、黒以外にも茶色だの、もっとエグい色だのと本当に種類が多い。

 

おまけに悪食で何でも喰うし、その生命力はもはや呪いの域だ。

 

『一匹居たら百匹居ると思え』という格言は、この世界でも全人類の共通認識として深く刻まれている。

 

奴らが棲息しないのは、空中の高い所と水の中、あとは極寒の雪山くらいじゃないだろうか。

 

噂では、この世界の奴らは灼熱の火山地帯ですら進化して棲息していやがるという。

 

もはや、世界の覇者は奴らなんじゃないかとさえ思う。

 

本当に、恐ろしい。

 

もちろん、この世界を浄化する一端を奴らが担っているという理屈は分かっている。

 

他の動植物やモンスターの死骸を消費し、分解することで、世界の魔力や資源が循環しているのは間違いのない事実だ。

 

理屈では分かっている。

 

だが、感情が拒絶する。やっぱり俺は、奴らが恐ろしい。

 

不安に震える俺の肩を、カオリが優しく、しかし力強く掴んだ。「貴方は、死なないわ。私が護るも・・・」

 

「おっと、そこまでだ! それ以上はダメだ、カオリ!」

 

俺は全力でカオリの台詞を遮った。

 

色々な意味で、人生のフラグがバキバキに折れそうなヤバい台詞だ。

 

この後にGとの戦闘で、精神的にも肉体的にもボロボロになったカオリを救出し、『こういう時、どんな顔をすればいいか、分からないの』『・・・笑えば、良いと思うよ?』なんて、世紀末なやり取りをする羽目になるのだけは、絶対に御免被りたい。

 

「もう、リョウったら。ちょっとだけ、入口付近を覗くだけで奥まで行かないから、良いでしょう? ね?」

 

「先っぽだけ」みたいなことを言って男を誘うような言い草に、俺は自分の心がどれほど穢れているかを再確認し、深く溜息をついた。

 

天を仰ぎ、遠い目をしながら俺は答える。

 

「・・・分かった。少しでも危険を感じたら、その瞬間に即座に引き返すからな?」

 

こうして俺たちは、悪夢が潜むかもしれない暗闇へと一歩を踏み出すことになった。

 

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