異世界転生 作:魔導科学
「あの、大丈夫ですか?」
あまりの取り乱しようを見て、俺は思わず声をかけた。
店員さんは、しばらく呆然としていたが、やがてゆっくりと深呼吸をして顔を上げた。
「すみません、落ち着きました」
深く頭を下げる彼は、さっきまでの激しい動揺が嘘のように静かだ。
素で話すと、普通の人だな。
その物腰からは、この世界で地道に生活してきた誠実さが伝わってくる。
「転生者に会えるとは、思って無かったです」
「神様に転生者に会うかもと、言われませんでしたか?」
「言われたと思うけど、今まで転生者には会わなかったので、俺以外に転生者は居ないのかと思ってました」
そう答える彼に対し、俺は自分の境遇を振り返る。
俺自身は既にリリーさんという転生者に出会っているが、彼にとっては俺が初めての同郷の人間なのだろう。
その孤独感は、想像に難くない。
詳しく話を聞くと店員さん改め店主、弘崎君が転生した時の年齢は俺より若く、転生した時期は俺と同じ位だが、この世界では先輩だった。
彼は俺よりもずっと早くこの異世界の空気に馴染み、自らの居場所を必死に築いていたらしい。
「俺、この世界に転生して新しい両親の元で生活して20年、やっと転生者に会えました。本当に、嬉しいです」
20年という月日の重みが、彼の真っ直ぐな瞳から伝わってくる。
ミラージュスパイダーの糸を加工して貰っている間、色々と話を聞いてみた。
弘崎君は、前世で特撮ヒーロー物やアニメが好きで、此方の世界に来てからは、此方の世界のアニメや特撮を子供の頃から観ていたそうだ。
彼にとっては、それが唯一の前世との繋がりであり、心の拠り所だったのだろう。
しかし、前世のアニメや特撮の話が出来ない。
『あの必殺技が格好いい』とか『あの伝説の最終回』といった、オタクなら当たり前にできるはずの共有が、この世界では誰とも叶わない。
それがずっと、ストレスだったらしい。
其処で、彼は考えた。
自分が店を開けば、他の転生者に会えるのでは?
看板を出し、自らの趣味を反映させた技術を磨き、いつか来るかもしれない『誰か』を待ち続ける。
そして彼は4年前に、ミラージュスパイダーの糸を加工する店を開いた。
話を聞く中で、共通点がある事に気付いた。
前世では、親が碌でも無い屑である事や、人と関わるのが嫌になっていたこと。
境遇が似ているからこそ、彼はこの転生というチャンスを必死に肯定しようとしたのかもしれない。
リリーさんには、詳しく話を聞いていないが、ひょっとすると彼女の前世もそうなのか?
ふと、リリーさんの顔が頭をよぎる。
彼女もまた、言葉にできない過去を抱えているのだろうか。
「今の御両親は、良い人ですか?」
俺の問いに、彼は迷いなく、最高の笑顔で答えた。
「はい!凄く、いい人達ですよ!」
そっか、それは良かった。
この世界でも、酷い目に合っていたら救われないからね。
彼の幸せそうな顔を見て、俺の胸の仕えも少し降りた気がした。
ふと、店の飾り棚を見ると、モンスターガチャのフィギュアが飾ってある。
精巧な造形と、どこか前世のセンスを感じさせるデザインに、思わず目が釘付けになった。
「弘崎さんも、此のフィギュア好きなんですか?俺は、つい最近見付けて・・・」
「それ、俺が作ったキャラクターです」
制作者は、転生者で中二病だと思ってたけど、やっぱりそうだったか。
あの独特のネーミングセンスやデザインの尖り方、すべてに納得がいった。
「そうだったんですか、俺はフルコンプするまで、回しましたよ」
「そうな風に言って貰えると、嬉しいです。有難う御座います。出来上がりました!」
彼が差し出した手元に目を落とす。
加工して貰った糸を見てみると、キラキラした綺麗な石や認識票を入れるケースが、お洒落に彩られた可愛いネックレスになっている。
「此れは、素晴らしい!」
想像以上の出来栄えに、感嘆の声が漏れる。
「有難う御座います。ちょっと、お安くしておきます」
職人としての彼の腕に感銘を受けた俺は、自然と次の言葉を口にしていた。
「そうだ!安くして貰ったお礼に、一緒にお昼ご飯、食べませんか?とは言っても、この辺りのお店を全く知らなので、お店を選んで貰わないといけませんが、御馳走様しますよ?」
弘崎君は一瞬驚いたように目を見開き、それから今日一番の明るい声を出した。
「はい!行きます!」