異世界転生 作:魔導科学
「逃げましょう!リョウさん」
「は、はい」
ユカさんに手を引かれ、俺達は教会の外に飛び出す。
外は、現実社会と変わらない作りになっており、昼間で明るいが俺達以外の人が見当たらない。
「誰も居ませんね?」
「そうですね。説明では他のプレイヤーと、共闘とかってなってましたけど、見当たりませんね?」
俺の問い掛けに、ユカさんは周りを見渡しながら答える。
「まぁ、始まったばかりだし、取り敢えず行きましょう」そう言って、俺はユカさんの方へ向く。
・・・そういえば、ずっと手を繋いでる。
そう意識して、慌てて手を離し「ご、ごめんなさい!」と、謝る俺。
「い、いいえ!そもそも、私が逃げる時にリョウさんの手を掴んだんですから、何処に行きますか?」と、ユカさんは頬を赤くしながら答えて、周りを見回す。
「クアー!ピィ!」と、一緒に行動している白い烏と、黒い子豚の鳴き声につられ目線を上げる。
道路の真上に半透明のディスプレイがあり、エアポート→と表示されている。
「ユカさん、見て下さい。エアポートって表示があります。そっちに行ってみましょう」
「はい」
矢印の方向に向かって歩き出すと、道端に工事中の建物があり、鉄パイプがゴロゴロ転がっている。
俺は、落ちている鉄パイプを一本拾い上げ、軽く振る。
「うん。悪くない。ユカさんも、一本持ちますか?」
「そうですね。武器が無いのは、不安ですね」
ユカさんに、鉄パイプを渡し歩き始める。
道沿いに様々な店があり、店のショーウインドの前を通り過ぎた直後、ガシャーンと硝子が割れる音がして、ナイフを持ったゾンビが襲って来た。
俺は咄嗟に、鉄パイプで小手を狙う。
グシャっとした感触が鉄パイプから伝わり、ゾンビの手からナイフが落ちる。
「キャッ!」
ユカさんの方へ視線を向けると、目が真っ赤に染まったドーベルマンが、ユカさんの持っている鉄パイプに、噛みついている。
俺はゾンビに前蹴りを入れて、ユカさんに襲い掛かるドーベルマンに、鉄パイプを振り下ろす。
「ギャン!」
上手くドーベルマンの頭に鉄パイプが当たり、ドーベルマンが動かなくなる。
「危ない!」
ユカさんが、俺の後ろから噛み付こうとするゾンビに、鉄パイプを投げつける。
鉄パイプは、ゾンビの胴体に当たり遠くに転がって行く。
振り返った俺は、鉄パイプをゾンビの頭に振り下ろす。
頭が爆ぜたゾンビが、腰砕けになって崩れる。
周りを見渡すと、近寄って来ていたゾンビの一体が、鉄パイプを踏んで足を滑らせ、建物の角に頭をぶつけ動かなくなった。
運が良いな。
しかしマズイな、だんだん敵の数が増えて来ている。
烏が鋭い爪で、ゾンビの顔面を抉り、子豚は突進して犬ゾンビを吹き飛ばす。
烏と子豚も、必死に応戦している。
ユカさんは、ナイフを拾い上げ「リョウさん、エアポートの方に行きましょう!そして、一緒に生きて戻りましょう!」と、俺の手を握って走り出した。
何度か、ゾンビやゾンビ犬の襲撃に遭い、現在。
「ひぃ~!」
「大丈夫ですか?リョウさん!しっかり!」
「ユカさん、俺はもう駄目です」
「一緒に生きて戻りましょうって、約束したじゃないですか」
「そ、そうですね。で、でも、ウギャー!?」
建物の曲がり角から、急にゾンビが襲って来た。
しかし、ユカさんが華麗なナイフ捌きで、ゾンビを圧倒する。
「ユカさん、強いんですね」
「はい。私、CQCをやってるんですよ」
這い寄る混沌の邪神さんがやってるヤツと違って、本格的なヤツなんだろうな。
「なるほど。だから、あんなに強いんですね」
道理で、普段の動き方に隙が無い訳だ。
そんな事を考えていると、ゾンビの頭に矢が刺さり倒れ込んだ。
「こっちだ!走れ!」
声のする方に視線を向けると、手作り感溢れるバリケードの中から、数人の男女が此方を伺っており、その内の一人がボウガンを構えながら、早く走れと叫んでいる。
どうやら、他のプレイヤー達らしい。
バリケードの方に向かうと、バリケードの一部が開いて中に滑り込む。
「早く、閉めろ!」
背後でガシャン!と重い扉が閉まる音が響き、外の唸り声が遠のいた・・・。
俺は肩で息をしながら、リストバンドを確認する。
説明にあった『精神状態メーター』は真っ赤に点滅しており、心臓の鼓動がうるさいほど耳に響いていた。