異世界転生 作:魔導科学
「よし、入ったな。此れで安心だ」
ボウガンを構えていた男が、此方を見ながら声を掛けてきた。
「有難う御座います。プレイヤーの方ですか?」
「おう!此処の拠点を守ってる、リーダーの閑崎だ。宜しくな」
そう言って閑崎さんは、俺たちを安全な広場の方へと促しながら歩き出した。
「お前さん方、この世界は初めてか?」
改めて声をかけてきた閑崎さんの方を見ると、腕にゲームセンターの名前が入った腕章をしている。
どうやら客じゃなくて、店員さんがプレイヤーとして入ってるらしい。
「ここは色んなプレイヤーが商売したり仲間を募集したりしててな。セーブポイントもここだ。分からないことがあれば教えるし、俺以外にもリーダーは何人かいるから頼ってくれ。ルールは外の世界と一緒で、最低限のマナーを守ってくれればいい。後、此れをやるよ」
そう言って渡されたのは、小さな肩掛けカバン。
「ソイツは、この世界で使える次元収納付きのカバンだ。武器やアイテムをその中に仕舞える。この世界のアイテムなら無限収納だ。手が塞がるなんて事は無いから、安心してくれ」
「分かりました。有難う御座います」
俺は、礼を言いカバンに手持ちの武器を仕舞った後、肩に止まった烏の羽を軽く撫でながら周りを見渡す。
出店を開いている人や、屋台なんかが並んでいたり、ATMまであるな。
うん?
何だか見たことのある様な人が、屋台で働いてる。
「ユカさん、ちょっと其処の屋台に行ってきますね」
「屋台ですか?何のお店ですか?」
『我爱你』と書かれた料理の屋台を指差し「あの店です」と、ユカさんに答える。
「あれ、なんて読むんですか?」と、ユカさんが足元にいる子豚を、胸に抱き上げ聞いてきた。
「・・・多分、うぉー、あい、にー、だと思います」
「いらっしゃいませ〜」
「こんちには、フォンファさん」
「あれ?この間のお客さん。確か、リョウさんでしたっけ?」
「はい。ゲーム内でも店を開いているんですね」
「そうなんです。料理の修行と趣味のゲームも兼ねて、やってるんです」
「料理の修行と、趣味の両立ですか。それは、なかなか素晴らしいですね」
「私の作る料理は、体力の回復だけじゃ無くて、一時的に攻撃力や防御力の上昇、状態異常を防ぐ効果があるんですよ」
「そうなんですか?それは、頼もしい限りですね」
「後、うちの店は料理がメインなんですけど、実はちょっと特殊な武器も売ってるんです」
特殊な武器?
一体、どんな物なんだ?
「ちょっと、見せて貰っても良いですか?」
「はい!ぜひ見て行って下さい。特殊な武器っていうのは、ある地域に出るモンスター専用なんです」
そう言って、フォンファさんが出して来たのは、木で出来た剣と、真ん中に四角い穴の空いた古銭を、赤い紐で編み上げた剣、そして何やら字が書かれたお札だった。
此れって多分、キョンシー用だよね?
前世の記憶から、リアルタイムで観たことがあるキョンシーの事を思い出す。
「木の剣に、お金?の剣ですか?こんなので、ゾンビにダメージを与えられるんですか?」と、ユカさんがフォンファさんに聞いている。
「はい。中華街エリアの奥深くに、隔離されたスラム、九龍エリアにいる動く死体。普通のゾンビみたいに肉体が腐り落ちてなく、死後硬直が限界まで高まって、銃弾すら弾き返す鋼鉄の肌を持っていて・・・此れじゃ無いと駄目なんです」
「・・・九龍エリア、ですか」
俺は、フォンファさんの言葉を反芻する。
かつての香港に実在した、巨大な無法地帯の名を冠するエリア。
ゾンビが蔓延するこの世界において、そこがどれほど地獄のような場所かは想像に難くない。
「あそこの動く死体は、他の連中とは毛色が違うんです。この法具を持たずに踏み込めば、今度はあなた達が跳ねる側になりますよ?」
フォンファさんは真剣な表情で、銭剣を手に取った。
「だから、物理的な破壊じゃなくて法力が込めらた武器で、内側から浄化するしかないんです。どうです? 九龍へ行くなら、この桃木剣と銭剣、それから足止め用の霊符のセット。今なら冒険者応援価格で安くしておきますよ?」
ユカさんはまだ半信半疑といった様子で、お札の束をまじまじと見つめている。
「リョウさん。これ、本当に使うんですか? 額にお札を貼るなんて」
「そうですね。九龍エリアでは、それが一番の正解なんだと思いますよ」
俺は苦笑いしながら、財布を取り出した。
前世の知識がある以上、ここでこの装備をスルーする選択肢はないな。