お艦と人外   作:成鐘 翔

2 / 4
子供

まだ少し薄暗く人の少ない時間。

暗い一室にヒュン!ヒュン!と音が響く。

汗を腕で拭い一心不乱に刀を振るう青年。

その習慣を一度も欠かしたことはない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「白金流....狐!」

 

まるで狐のような身のこなし、それと同時に

かかしの左右の腕が斬れる。

それを見ていた白髪の青年はやれやれと首を振って

刀を握った。

 

「狐は相手を完全に翻弄する速さが必要だ。

 こんな風に.....」

 

腰を低くした瞬間、面倒見の良さそうな笑顔が

一変、まるで射抜くような瞳に変わる。

ゆらゆらとその金色の瞳が揺れているかのような錯覚。

 

「白金流......狐」

 

言葉が聞こえるのと同時。

かかしの腕と頭が空へと飛び、時間差でかかしが

根元から空へと吹き飛んだ。

その全てが更に空中で二つに分かれる。

 

「こんな風に、な。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あの人に届くように、それだけを考える。

少年のころのように黒い髪を振り乱して刀を振るう。

黒狐 鳳初(くろきつね ほうしょ)、彼が今ここにいるのは

その青年のお陰だった。師匠とも呼べる存在の青年は傷だらけに

なりながらも研究所を破壊し、彼等を助けだしたのだ。

その背中に少しでも追いつきたい。彼も少し子供っぽい一面があるのだ。

刀をしまい、腰を落とす。

その眼光には青年がみせた射抜くような鋭さがあった。

 

「白金流.....天狐」

 

目の前のサンドバックが一瞬で消える。

くるりと背中を向けた天井にはサンドバックが形を歪め、突き刺さっていた。

額の汗を拭い、刀を置く。

そして水筒を持ち中身を呷った。

クハァ、と息を漏らして、タオルを首にかける。

彼の思考は一つだった。

 

サンドバックどうしよう.....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳳初が着任して5日。

この鎮守府は今日、騒然としていた。

実は今日別の鎮守府から艦娘が移籍してくるのだ。

鳳翔はそのお陰か二日前からかなり張り切っており、

食堂が豪華に飾り付けされ、二人で張り切って大量の料理を

作ったのだ。そうして待ちわびること数時間。

執務室にノックの音が響いた。

 

「入れ。」

「し、失礼し、します。」

 

一番最初に入ってきた少女をみた瞬間、鳳初と鳳翔は一瞬で

アイコンタクトをとった。

怯えた目をしているのだ。その少女が。

至る所から絆創膏が見え隠れしている。

その次の少女は不安そうに目が泳いでいる。

最後の少女、やはりというべきか、足が少し震えていた。

 

「は、榛名です....よろしくお願いします....」

「響....です。」

「.....き、木曾だ。」

 

話していいのだろうか、と顔を一瞬だけ見合わせてから喋る。

あぁ、宜しく。そうかえすと同時に警報。

それぞれ困惑の表情が現れる。

その反応はまぁ普通だな、と頭の隅で考えながら

刀を腰に差し席を立つ。

 

「すまん鳳翔、また行ってくる。」

「えぇ、いってらっしゃいな。」

 

さぁ、最高に素敵なパーティーしようか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そうして来たのは海。

黒い髪と白いコートを靡かせながら刀を抜き放つ。

右手に刀を持ち、左手はパトリオットが形成された。

海に足をつけ、滑るように移動する。

やはりというべきなのか、艦娘の力を目指して創られた力のお陰で

海を移動できるらしい。

少し遠いところに見える黒い物体。

深海悽艦、しかも人型に近づいているものが四隻である。

速力を高めながらパトリオットを海に乱射する。

魚雷を潰すのはこれが一番だなぁ、とぼやきながら

刀を鞘にしまい、深海悽艦と交差する刹那、呟くように声が聞こえた。

 

「白金流、白狐」

 

水を掻き分けながら手で勢いを殺すように滑る鳳初。

その後ろでは深海悽艦全員の艦装が空に飛んでいた。

鳳初が相手を見極めるように見つめる。

鞘に刀を収めながら体を半身にし、親指で後ろを指す。

すると、深海悽艦も察したのか横を通り過ぎていった。

最後に通った仮面をつけた深海悽艦が一礼をしてから通り過ぎる。

それを見届けてから踵を返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

執務室の窓から提督が見える。

鳳翔さんに言われて海を見てみると、提督が海に降りていた。

その先には四隻の深海悽艦。

このままでは....!と焦るのも束の間、金剛お姉さまに迫る速さで

動きながら左手に持っていた左右に丸いマガジンをつけた銃を

海に連射し始めた。ドパン!ドパン!と水柱がたち、それを提督が

かいくぐる。魚雷を無力化しながら、すれ違う刹那。

雪のように揺れる狐を見ているような錯覚を覚えた。

白銀の狐が白い爪痕を描く。

その軌跡は深海悽艦の艦装を切り取り空へと飛ばした。

深海悽艦は無事、そしてそのまま提督に向かっていく、

提督はどこかを指したようだが方角がよく見えない。

このままでは、と心配するのも束の間。

そのまま深海悽艦は通り過ぎていった。その中で一人が

提督に一礼をする。

提督はそれを見届けていた。

 

「....どうでしょう、提督は。」

「え!?....いや、何で提督はあんなこと出来るのかなって...」

「....どっちの意味でかしら?」

 

鳳翔さんの試すような目に少し恐怖を覚えながらも

話す。鳳翔さんは途中から微笑んで母親のような目をしていた。

 

「敵、憎むべき宿敵なのに、あんなにあっさりと逃がしちゃうのが、です。

 下手すれば私たちから反感をかうのに、それにまた攻めてくることを考えても

 倒した方が良いのでは...?」

「...榛名ちゃんは賢いのね、ちょっと嬉しいかしら。」

「ふぇ?」

 

変な声が出てきて慌てて抑える。

鳳翔さんは録音器具を持ってサムズアップしていた。

顔が赤くなるのがわかる。しかし鳳翔さんは真剣な表情で話し始めた。

録音器具片手に。

 

「提督は、そんなこと考えてすらいないのよ。

 最初の頃は私だって失敗しないように、って、気張りすぎて

 何回もドジ踏んじゃってたの。」

 

そう言う鳳翔さんの顔はとても落ち着いていた。

まるで優しくも凛々しい母親のような表情は綺麗の一言に尽きた。

録音器具以外は。

 

「そんなで私が落ち込んでいた時にね、鳳初は言ったの。」

 

一拍おいて、鳳翔さんは言葉を紡いだ。

その雰囲気はまるで子を守る母狐のようだった。

 

 

「『お前はお前として動け、それが失敗であれ、必ず積み重なって実を結ぶ。』」

 

「私として....」

 

私の心にストンとその言葉が落ちる。

何か、何かが少し見えた気がした。

大事な、目指すべき目標が。




「ところでその録音器具なんですか?」
「提督。」「お?」
ピッ《ふぇ?》
「どうでしょう?」「.....」グッ
「ふにゃああああああ!?」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。